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魔導機人アルミュナーレ  作者: 凜乃 初
カメントリア奪還戦
93/144

9

「やっと本命のお出ましかい」


 リゼットが、俺の機体へと向き直りながら斧を構えなおす。その少し後ろには、カンザスが魔法の剣を構えてこちらの様子を窺っていた。


「バティス、立てるか?」

「時間を掛ければな。すぐにってのはちょっと厳しい」

「分かった。立てたら安全域まで撤退しろ」


 すぐに動けないのなら、まずはバティスから二機を引きはがすことが先決だ。

 なら俺のやるべきことは一つ――

 バティスを攻撃させる暇を与えないほどに攻め込む!

 機体の出力を全開に、俺は機体を走らせる。

 同時に、ハーモニカピストレの残弾が無くなるまで、カンザスを狙って発砲を繰り返す。


「おっと、それはお見通しだよ!」


 カンザスを狙った弾丸は、リゼットの機体の脇を抜けるはずだったのだが、リゼットが斧をわずかに傾かせて、斧頭で弾丸の軌道を逸らした。

 完全に俺の銃撃ポイントを把握している。かなり俺の動きを研究してきているようだ。

 よく一日でここまで絞り込んだもんだと感心するが、それぐらいは俺も想定済みだ。

 残弾の無くなったハーモニカピストレを投げ捨て、アーティフィゴージュから剣を引き抜く。

 それに反応して、リゼットの機体が駆け出した。


「昨日みたいにはいかないよ!」

「悪いが、今はお前の相手をするつもりは無い」


 リゼットの踏み込みに合わせて、俺は機体にブレーキをかける。

 地面を削りながら、急に速度を落とした俺の機体に、リゼットは間合いを誤り大きく空振りをした。その隙をついて、俺は再びフッドペダルを踏み込み、再度加速。

 一気にリゼットの横を通り抜けようとした。

 しかし――


「それも想定済みだ」


 カンザスのファイアランスが飛来し、俺の足元を抉る。

 とっさにペダルを踏み込み、抉れた地面をジャンプで回避する。しかし、リゼットの横を通り抜ける前に速度を殺されてしまった。

 リゼットが機体を振り向かせつつ、斧を水平に振るう。

 俺は即座にアーティフィゴージュを盾にして、その斧を受け止めた。


「そこ!」


 と、カンザスの気合が籠った声と同時に、再びファイアランスが飛来する。

 俺は即座に機体を傾け回避を試みるが、ファイアランスが右腕の装甲をわずかに削る。


「今のは」


 タイミング自体はギリギリだったが、俺としては完全に回避したつもりだった。

 しかし、実際には装甲を掠っている。マジックシールドの減衰のおかげで掠める程度に収まったが、もしそれが無ければ右腕を持っていかれていた。


「ほう、物理演算器(センスボード)が書き換えられているな。昨日までと右腕の動きが違う」

「誤差の修正は可能かい?」

「無論だ。二分待て」

「あいよ」


 どうやら、今のヒットが偶然ではなく必然らしい。理屈は分からないが、カンザスが何かデータを持っていると見た。

 なら、その書き換えが終わる前にカンザスを仕留める!

 そう思い機体を踏み込ませるが、目の前にリゼットの機体が割り込んできた。


「あんたの相手はあたしだって言ったろ!」

「邪魔だ!」


 俺はアーティフィゴージュを振るい、リゼットを弾き飛ばそうとする。しかし、リゼットは一歩下がって攻撃を躱すと、持っていた斧の一本を投げつけてきた。

 その斧は、再び右腕を掠め火花を散らす。


「また……」

「なるほど、これが違いってやつかい。確かに修正がいるね」

「二人して何かのデータを持ってるってことか」


 どんなデータ持っている――俺の操縦の癖か? けど、カンザスは修正が必要と言っていた。つまり、数値に出せるもののはずだ。

 それに、物理演算器(センスボード)に調整が入っていることもすぐに気づいていた。なら、そこに絡んでくるもののはず。

 新たな斧を取り出したリゼットと、鍔迫り合いをしながら必死に頭を回転させる。

 機体の動きを数値化した? けどそれなら操縦席を狙えばいいし、そんな莫大な量の数字を処理しきれるとは思えない。この場で修正なんてまず無理だ。

 なら一部だけ。やけに狙ってきている右腕を数値化……いや、これでも難しいはずだ。

 俺が直感的に操作しているものを数値化するなんて、脳のデータを数値化するのと同じだ。つまりこれもない。

 ――いや、待てよ。俺の機体には、俺個人が絡まずに物理演算器(センスボード)だけで右腕を動かすタイミングが極僅かだがあるはずだ。

 思い出せ、相手はどのタイミングで攻撃を仕掛けてきた。

 一回目は、アーティフィゴージュで斧を受け止めたタイミング。

 二回目は、アーティフィゴージュを振るった直後。


「そうか」

「あん?」


 俺の口から洩れた言葉に、リゼットから怪訝な声が返ってくる。


「分かったぜ。お前らのからくり」

「チッ、もう気づいたのかい。けど無意味なんだよ!」


 斧から一瞬力が抜け、機体が前に傾く。

 左足で踏ん張りを利かせながら、俺は振り下ろした剣を返して振り上げに変える。

 狙いは敵機の操縦席。コースは脇腹から肩へと抜ける完璧なものだ。

 しかし、相手の右腕が俺の左肩を狙っていた。


「チッ」


 俺は小さく舌打ちしつつ、剣の軌道を変えて斧を弾く。

 アーティフィゴージュを犠牲にすれば、リゼットを落とせたかもしれないが、その後のカンザスとの戦いを考えれば、今アーティフィゴージュを失うのは悪手だ。

 ここは仕切り直してでも、機体の状態を優先する。

 斧を弾きつつ、俺は機体を回転させながら、右足で敵機の脚を払った。


「クッ、足癖の悪い」

「せっかくの人型ロボなんだ。人の動きは利用しないとな」


 倒れたリゼットの機体目がけて剣を突き出す。

 しかし、飛来したアイスランスによって剣は半ばから砕かれてしまった。


「チッ」

「またせた。修正完了だ」

「待ちくたびれたよ!」


 武器を折られたのを好機と見たのか、リゼットは倒れた状態のまま斧を振るう。

 俺は素早くリゼットの機体から離れる。それに合わせて、二本、三本とアイスランスが飛来した。

 そのまま後退して槍を躱していくと、その間にリゼットが態勢を立て直す。


「リゼット、攻撃はこちらが担当する。お主は防御を優先せよ」

「閣下への攻撃は、全部あたしが防いであげるから安心しな」


 俺は新しい剣を引き抜き、構える。


「女に盾になってもらうってのは、男としてどうなのかね?」

「あたしはね、レディーファースト(女が前)じゃないと気が済まない性質(たち)なのさ!」

「そういう事だ。レディーファーストは紳士のたしなみであろう?」

「なるほどね!」


 俺が再び突撃すると、何本ものアイスランスが一斉に放たれる。

 それを左右に移動しながら躱し、距離を詰めていくと、リゼットが正面から突っ込んできた。

 その斧を受け止めつつ、リゼットの機体がカンザスの射線をさえぎるように誘導する。


「これなら撃てねぇだろ」

「閣下、悪い」

「構わん、やりようならある」


 カンザスの機体が、リゼットを射線から外すように移動する。当然俺はそれに合わせて機体の動かすのだが、突如として左側からアイスランスが飛来した。


「なに!?」


 とっさにアーティフィゴージュで受け止めるも、その威力に剣のスロットが三本歪んで動かなくなってしまった。

 俺は即座に魔法の発生地点を調べるが、そこには何もいない。しかしそこは、つい先ほどまでカンザスが立っていた場所だ。

 それに気づき、何をされたのか理解する。


「時限式。誘導されたか」

「魔法において、私の右に出るものはいない!」


 強烈な一撃に足を止めさせられた瞬間、リゼットが俺から距離を取る。

 そして、カンザスによる魔法のラッシュが始まった。

 大量に放たれるランス系の魔法に、俺はアーティフィゴージュを盾にしながら必死に回避していく。しかし、躱しきれなかった魔法が、確実にアーティフィゴージュを破壊していく。

 表面が抉れ、機構が歪み使えなくなる。

 内蔵してあったハーモニカピストレのどれかが被弾したのか、アーティフィゴージュ内で小さな爆発が起きた。おそらく、弾丸が破裂したのだろう。


「このままじゃ」


 アーティフィゴージュが完全に破壊されるのも時間の問題だ。そうなれば、次は本体の番だ。

 何か、何かこの窮地から脱出する方法はないか。そう考え、周囲を見渡す。そこで俺は、地面に小さく光るものを見つけた。


「あれは」


 それは、昨日の戦闘で破壊されたアブノミューレの破片だった。それが、太陽の光を反射して輝いていたのである。

 そして、その輝きは俺に一つの道を示した。


「これなら」


 即座にシステムを立ち上げ、魔法を構築する。

 演算処理にかかる時間は、最小限に絞って十秒。それを耐えれば、ここを抜け出せる光が見える!


「耐えてくれよ」


 ボロボロになり、今にも崩れそうなアーティフィゴージュをモニターでチェックしながら、長い十秒を待つ。

 そして、アーティフィゴージュが半ばから折れた瞬間、演算が終了し魔法が発動する。


「アリュミルーレイ、発動!」


 俺の機体の周りに、いくつものレンズとミラーが生まれ、それはカンザスの魔法で破壊されながらも生き残ったミラーたちが光を集め一つに束ねる。

 そして、カンザスの機体を真っ直ぐに照らした。


「閣下!」

「リゼット、何を!?」


 光に気づいたリゼットが、とっさに俺とカンザスの間に割り込む。

 突然割り込んだため、カンザスの魔法がリゼットの機体の肩装甲を吹き飛ばす。

 そして、アリュミルーレイの光がリゼットの機体の脇腹を照らした。

 ジュッと一瞬装甲が赤く染まり、直後に溶解して内部を溶かしていく。


「チッ、限界か」


 ろくな準備もせずに撃ったアリュミルーレイは、すぐにその威力を無くし消滅してしまった。

 燃料もごっそり減って残り二割。残り稼働時間を表示したところ、通常戦闘で耐えて三十分ってところだ。それまでにケリを付けなきゃ、俺が死ぬ。

 だが、今の一撃。相手にとっても、かなり効いたようだ。俺はモニター越しに、片膝を突いているリゼットの機体を確認する。

 脇腹に開いた穴からは、今も熱が残っているのか煙が登っている。更に、濃縮魔力液(ハイマギアリキッド)独特の光が小さく零れていた。おそらく供給パイプの一部を破壊できたはずだ。


「リゼット、無事か!」

「ああ、あたしは大丈夫だ。けど、機体はちょっとまずいかもね。今の一瞬で色々やられたし、ジェネレーターがオーバーヒートしかけてる」

「あの数秒でオーバーヒートだと!? いったいどれほどの熱を持っていたというのだ」

「分からないよ。けど、あの魔法のカラクリ、学のある閣下なら少しは分かったんじゃないかい?」

「うむ、大方の予想はついた」


 俺は内心で舌打ちをしつつ、機体を起こす。魔法の仕組みがバレたんじゃ、絶対に生きては還せない。

 先ほどのアリュミルーレイで、アーティフィゴージュ内の物理演算器(センスボード)は完全に焼け溶けてしまったらしい。先ほどから、画面にエラーを表示している。

 ここまで来ると、完全にただの鉄柱だな。いや、真ん中からぽっきり折れてるし、鉄柱にもならないか。


「リゼット、お前は下がれ。ここからは私一人でやる」

「閣下、何言ってんだい! 閣下の機体は魔法特化なんだろう!? そんなことしたら」

「魔法特化とはいえ、近接ができない訳ではない。むしろ、私の本領は――」


 カンザスの機体が突然燃え上がる。しかし、機体自体が炎上しているわけではなさそうだ。

 そしてその両手には、炎と氷の剣が握られ、腕には、土の盾ができている。

 燃え上がる機体を、渦のように巻く風が包み、その炎を空へと立ち上らせていた。


「近接だ」


 全身を魔法で覆った機体が、俺の前に立ちはだかる。


「魔装乱舞、これを使うことになるとは思わなかったぞ」

「隠し技ってやつか」

「この姿を見せた者を、私は生かして還したことは無い」

「なら俺が一人目だな」


 アーティフィゴージュをパージすると、その中から肘までの腕が姿を現した。

 初期の頃はしっかり指先まであったのだが、色々とアーティフィゴージュに詰め込んでいるうちに肘より下が邪魔になりカットしてしまったのだ。

 まあ、これはこれでかまわない。どちらにしろ、俺が使うのは右腕一本とそこに握られている剣だけだ。

 久しぶりだな、この感覚。

 全神経を集中させて、機体と俺が一体化したかのような感覚へ。

 考えて動くんじゃない。考えたときにはすでに手はその動きを実現するために動いている。

 脊髄反射のような動きで、最速最高のパフォーマンスを。

 それが、この機体を任せられた者の責任だから!


「んじゃ、行くぜ?」

「来い!」


 ペダルを全力で踏み込み、一気に加速する。

 アーティフィゴージュが無くなった分、機体の最高速度は格段に上がっていた。

 まずは先制の一突き。

 真っ直ぐに突き出した剣は、敵のアイスソードによって逸らされる。

 俺はそのまま敵機へと突っ込み、スライディングで敵の脇をギリギリで抜ける。そして、振り返りながら立ち上がり、背後から強襲。

 しかし、カンザスの背面に突如として炎が集まる。それは瞬く間に球体状に膨れ上がり、爆発を起こした。


「こんな近距離で!?」

「それが魔装乱舞!」


 爆発の直後、爆煙から飛び出してきた敵機が、俺目がけてフレイムソードを突き出す。

 とっさに地面を転がって避け、すぐさま態勢を立て直す。


「私の魔法は私には届かない。どれだけ近くで爆ぜようとも、この鎧が全てを弾く。さあ! 乱れ狂う魔法の鎧。抜けるものなら抜いて見よ!」


 敵機が両腕を振れば、それだけの動作で爆風が荒れ狂う。

 確かにこれは、乱舞だ。舞っているのは大量の魔法だが。


「厄介だな」


 近づけば、あの爆風。離れれば強力な魔法。魔力切れを待とうにも、あの背中のタンクにどれだけの濃縮魔力液(ハイマギアリキッド)が入っているのか分からない。


「閣下にそんな隠し玉があったなんてね。ならあたしは指示通り下がらせてもらうよ」


 手助けは不要と考えたんだろう。リゼットは、機体をゆっくりと立ち上がらせて、こちらに注意しながら少しずつ下がっていく。

 これで、リゼット側を注意する必要がなくなったのは俺としても助かるが、目の前の問題が片付いたわけじゃない。

 さて、どう攻略してやろうか。

 小さく舌なめずりをして、俺は立ち上がらせた機体を走らせ、カンザスの周囲をぐるりと回るように動く。

 どこかに死角はないかと考えるが、魔法の鎧は全身を覆っている。背後からの攻撃も、おそらく意味は無いだろう。

 ならば――


「踏み込む!」

「正面から来るか!」


 正面まで戻ってきた時点で、一気に踏み込む。

 剣は突き出さず、軽く背中側に回した状態だ。

 カンザスは、剣での攻撃を選んだ。俺の接近に合わせて、機体を進ませ、間合いに入ると共に、両手の二刀を振り降ろしてくる。

 俺は、機体の腰を捻らせ、勢いをつけた振り上げを左手のアイスソードにぶつける。そして右手のフレイムソードは左肩で受け止めた。

 衝撃と共に、左肩がすっぱりと切断される。

 即座に左腕をパージし、燃料の供給をカット。同時に、機体を捻らせ、さらに懐に。

 ガツンと機体同士がぶつかり合った。


「これでどうだ。さっきの魔法、使えるか?」

「むっ」


 触れるほどに接近すればどうだ? 魔法の防御は基本的に機体表面や機体全体を覆うようにするものがほとんどだ。ならば、ここまで密着した時点で、そこは魔法防御の範囲外となる。

 この状態で先ほどの爆発を起こせば、俺の機体が触れている部分、つまり敵機の腹部から爆発の衝撃を浴びることになるってことだ。それ以上に、俺の機体から吹き飛んだパーツで、敵機もボロボロになる。


「だが!」


 カンザスは、フレイムソードの切先をこちらに向けて突き出してくる。

 それに対して、俺は機体をぶつけたまま回転させ、ガリガリと装甲を引っかきながら相手の脚を蹴り払う。

 バランスを崩したカンザスの機体が倒れ、俺はその上に倒れ込むように覆いかぶさりながら、剣を右肩へと突き立てる。これで右腕は封じた。


「物理攻撃には意外と弱いみたいだな!」

「クッ、退()け!」


 カンザスは、アイスソードを振るって俺を上からどかそうとしてくるが、来る攻撃が分かっているのなら、塞ぎようはいくらでもある。

 剣を振るう直前の肘をつかみ、握力を全開にして握りつぶす。

 装甲を握る潰せるほどの力は出ないが、剥き出しの関節ぐらいならば潰せるんだよ!

 メキメキと音を立てて、関節のパイプやチューブが潰れ壊れていく。それに合わせて、左腕から力が抜けていくのが分かった。

 代わりにこちらの指先も駄目になってしまったが、まあ問題ないだろう。

 完全に力の抜けた左腕を離し、腕を振り上げる。


「これで終わりだ!」

「八将騎士に敗北は無い!」


 とたん、カンザスの機体から光があふれ出す。その光に俺は見覚えがあった。

 それは、濃縮魔力液(ハイマギアリキッド)が昇華する時に発生する光。

 魔力が漏れている証拠だ。だが、こんな状況で突然供給ポンプが破損するなんてことは考えられない。ならば、可能性は一つ。


「自爆だと!?」

「私共に死ね! 隻腕の!」

「そんなつもりは無い!」


 俺は振り上げた腕を操縦席へと叩き付ける。一瞬、カンザスのうめき声が聞こえ、すぐに聞こえなくなった。おそらく衝撃で気絶したのだろう。

 機体を立ち上がらせながら、敵機の状態を確かめる。操縦者が気絶しても、自爆装置が止まることは無い。

 溢れ出す光は徐々にその光量を増して、俺の機体を照らしている。

 ふと思い出すのは、バティスが敵アルミュナーレのジェネレーターを破壊した時の光景。爆心地を中心に巨大なクレーターができる様子だ。


「間に合うか」


 俺は踵を返して全力で駆けだす。今は少しでもあの機体から距離を取らなければ。

 そう思いつつ、周囲に仲間の機体が無いかを確認する。幸いなことに、近くにアブノミューレの残骸は無く、少し離れた位置にバティスの機体が片膝立ちで待機している状態だ。

 だが、あの位置でも危ないかもしれない。カンザスの機体には、通常の優に三倍から四倍の濃縮魔力液(ハイマギアリキッド)が搭載されていたはずだ。それが、一気に爆発すれば、被害は以前の比ではないはず。


「バティス! すぐに機体を起こせ! できるだけ離れるんだ!」

「あ!?」

「あの機体が自爆する! 相当ヤバい爆発が起こるぞ!」

「マジかよ!? 無理だ、すぐには動けねぇ。左足の回路が断絶してる」


 クソッ、だからこんなところで待機してたのか。


「魔法は使えるか」

「ああ、そっちは問題ない」

「なら全力でクレイシールドだ。確かあっただろ?」

「分かった。燃料消費なんて考えなくていいんだよな」

「当然だ!」


 俺がバティスの機体を支えつつ、バティスはクレイシールドを燃料ありったけ使い大量に生み出していく。

 直後、閃光と共にカンザスの機体が爆発を起こす。

 衝撃が一瞬で広がり、クレイシールドを勢いよく破壊し始めた。

 俺もとっさにトルネードの魔法を発動させ、衝撃を何とか逃そうとするのだが、その威力が強すぎて風系統の魔法ではどうにもならない。

 そして、最後の土盾が破壊され、熱波に機体がさらされる。

 衝撃と共に機体が転倒し、さらに地面をまるでゴミ屑のように転がされる。

 俺は操縦席の中で激しく体を揺さぶられ、座席に頭を打ち付けて意識が遠のいていくのを感じたのだった。


レディーファーストには、お前俺の肉壁な!的な意味があったとかなかったとか

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