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魔導機人アルミュナーレ  作者: 凜乃 初
カメントリア奪還戦
91/144

7

 作戦会議を終え、俺は格納庫へと向かっていた。途中まで一緒だったアンジュとは、夕食を準備してもらうために途中で分かれている。

 今夜は隊の皆もほぼ徹夜になるだろうし、せめて食事だけはきちっととってもらわないとな。

 そして、到着した格納庫では、やはり整備士たちが忙しなく働いている。

 俺の機体は、バラしてはいないものの各部からケーブルが伸び、装甲の換装が行われている。

 今はちょうど操縦席前、胸部の装甲を交換しているようだ。剥き出しになったジェネレーターと操縦席が、なんとも格好いい。

 完璧に整備された機体を眺めるのも好きだが、こうやって内部の構造がむき出しになっている機体を見ているのも楽しいな。

 こう、自分が人型巨大ロボに乗っているってことを思い出させてくれる。


「おう、隊長。どうしたんじゃ?」

「オーレルさん、機体はどうですか? そこまで酷い被害は無いと思うんですけど」

「そうじゃな。歪みも少ないし、装甲の換装だけで問題ないじゃろ。ただ、アーティフィゴージュにペルフィリーズィが入っておらんかったが、どうしたんじゃ?」


 そうだ、オレールさんに言うのをすっかり忘れてしまっていた。


「すみません、言い忘れてました。ペルフィリーズィは、戦闘中に破壊されちゃいまして」

「む、あれに予備は無いぞ。今から注文しても、一か月はかかるじゃろ」


 オレールさんの言う通り、あれはオーダーメイドの武装で換えの装備も生産していない。なので注文しても、そこからまたパーツの制作に入るのでかなりの時間がかかってしまうのだ。

 そもそもあれって狙撃用の武装だから、敵が間近にいる状態で使う事なんて想定されてないし、壊されることもないと思ってたからな。


「分かってます。なのでアーティフィゴージュには、その分剣を入れといてください。剣のスロットなら、予備を持ってきてましたよね?」


 ペルフィリーズィと違い、剣の鞘はいくつか予備を持ってきていたはずだ。あれをペルフィリーズィのスロットに入れれば、二本ぐらい剣が増やせるはずである。

 実践中にそこまで剣を使うことは無いと思うが、トータリテ・イピリレーションの威力を少しでも上げられるのなら、それに越したことはない。


「うむ、了解した。ならカリーネに物理演算器(センスボード)の調整も頼まんといかんのう」

「あ、それなら俺が伝えてきます。ついでに頼みたいこともあるので。今も操縦席に?」

「ああ、籠っとるはずじゃ」

「分かりました」


 わざわざ階段を使って上がるのも面倒なので、魔法を発動させて一息にアルミュナーレを駆けあがっていく。

 そしてタラップから操縦席内をのぞき込むと、カリーネさんが真剣な表情でモニターと向き合っていた。そこには、大量の情報が映し出され、下から上へと流れていく。

 どうやら、物理演算器(センスボード)用の情報をモニターに出しているようだ。今まで物理演算器(センスボード)の調整をじっくりと見たことがなかったが、こうやって物理演算器(センスボード)から情報を読み取り、その情報に合わせて最適化させているらしい。


「エルドの反応速度が速いわね。たまに異常加熱してる。もっと余分なところ削らないと。それに腕の切り替えに遅延が出てる。回路の距離のラグかしら? にしても、無茶苦茶な操縦ね」

「無茶苦茶で悪かったな」

「きゃっ!? へぶっ」


 カリーネが可愛らしい悲鳴を上げながら、驚いて画面に顔を打ち付けた。


「な、隊長! いたなら声ぐらいかけなさいよ!」

「真剣にやってたからな。邪魔したら悪いと思ったんだよ。それってどういうデータなんだ?」


 俺は操縦席へと乗り込みながら、画面に流れている文字列を目で追ってみる。

 ↑や↓などの矢印と、数字やアルファベットが一つずつ並んでいる。正直、これを見ても何が何だから分からない。


「これは操縦履歴よ。隊長が入力したデータがそのまま出てきているの。ほら、これなら前進しながら、出力系を変えて踏み込みつつ腰に力を加えて右腕を突き出してる」

「これが突き攻撃になるのか」


 言われてみれば、確かにそんな操縦をしていた覚えがある。しかし、それは俺が実際にその動きをしていたから分かることで、他の操縦士の操作だけを見てこれがどんな動きかなんて言われてもきっと分からない。


「これを見ながら、機体の状況と照らし合わせて、機体の内部的な状態を確かめるのよ。これができるようにならないと、物理演算器(センスボード)ライターとして一人前とは認められないわね」

「凄いな」

「ふふん、当然よ。物理演算器(センスボード)ライターは操縦士に続いてなるのが難しい職業なんだから」


 カリーネさんは、自慢げに鼻を鳴らす。しかしその鼻は、先ほど画面に打ち付けられて赤くなっていた。締まらないな……


「ならそんな凄いカリーネさんに頼みたい事があるんだけど」

「なに?」

「次の出撃までに例の物理演算器(センスボード)を載せておいてほしい」

「……それ本気で言ってる? 試射なしで実戦投入するなんて無謀もいいところよ?」


 手を止め真剣な表情で尋ねてくるカリーネさんに、俺もまた真っ直ぐにその瞳を見ながら答える。


「ああ、今度の作戦にはあの魔法が必要だって判断した。システム的には問題ないんだろ?」

「システム的には無くても、物理的な問題が色々残ってるわ。おもに、燃料ね。今の状態でも一発撃てばこの機体の燃料が枯渇するわ。その後どうするつもりよ?」

「補給班を待機させておく。後ろから撃てば補給の時間は稼げるはずだ」

「無茶苦茶ね」

「それでもこれが一番被害を減らせる」

「…………はぁ、分かったわ」


 根負けしたカリーネさんが、ため息を吐きながらモニターに出していたデータを消して操縦席から立ち上がる。


「今日のデータも入れて調整するから、少し時間がかかるわよ」

「明日の朝までにお願いします」

「ほんと、うちの隊長は無茶言うわね」


 カリーネさんは、持っていた資料で俺の頭をポンとたたくと、操縦席から身を乗り出して、近くにいた整備士の一人に声を掛ける。


「ちょっと悪いんだけど、第二倉庫にあるA3の物理演算器(センスボード)持ってきてもらっていいかしら?」

「構いませんよ。第二倉庫のA3ですね」

「ええ、物理演算器(センスボード)が三枚組で入ってるはずだから」

「分かりました」

「ありがと」


 快く引き受けてくれた整備士に対して、カリーネさんが投げキッスをする。

 うん、なんか慣れてる感じあるよね、カリーネさん。意外とアイドル気質なのかもしれない。属性てんこ盛りだし、見た目は結構可愛いし、意外と受けそう。

 そんなことを思いながら、カリーネさんの後ろ姿を見ていると、俺の視線に気づいたカリーネさんが振り返る。


「どうしたの?」

「いえ、なんでも」

「そ、なら隊長は早く部屋に戻って体力の回復に努めなさいよ。今日の戦闘でかなり疲れてるんでしょ?」

「まあそうなんですけどね。ただその前に」


 俺はモニターに映った人影を見ながら笑みを浮かべる。


「みんなー! ごはん作ってきたから、キリのいいところで手を止めてご飯にしてね! しっかり体力付けないと、乗り切れないよ!」

『うーい』


 アンジュが寸胴鍋に入った料理を持って格納庫へと入ってきた。


「とりあえず腹ごしらえです」

「部屋で食べればいいのに」

「こういう場所でみんなと食べるのも、なかなかいいもんですよ。さ、行きましょう」

「あ、ちょっと」


 俺は操縦席からカリーネさんを押してタラップへと出ると、料理を配るアンジュの下へと向かうのだった。



 翌日、朝から格納庫は喧噪に包まれていた。と言うよりも、昨夜からずっとと言ったほうが正しいのだろう。

 ほぼ全ての整備士たちが徹夜で機体の調整を行ってくれたのだ。

 そのおかげもあって、装甲は新しい物に取り換えられ、アーティフィゴージュ内のスロットの換装も終えている。

 そして最も重要な物理演算器(センスボード)は――


「終わったわ……」


 俺が恐る恐る操縦席をのぞき込むと、そこには疲れ果てぐったりとシートにもたれかかるカリーネさんの姿がいた。その口からは、魂が抜けているように見える。


「お、お疲れ様です」

「ああ、隊長。きっちり仕上げてあげたわよ。感謝しなさい」

「ええ、それはもう。またホスト奢りますんで」

「それよりも今から寝るから、基地の周り煩くしないでね。基地の近くでドンパチやられるなんてたまったもんじゃないわ」

「分かりました。平原から一気に押し込んで、向うの基地落としてしてきます」

「お願いよ」


 タラップに降りてきたカリーネさんと、パチンと軽いハイタッチを躱して交代する。

 乗り込んで機体のデータを画面に表示すると、きっちりと新しい魔法が登録され操縦席内にもいくつかのボタンが新設されている。


「これが、戦略魔法アリュミルーレイ……」


 俺が新たに頼んだ魔法は、戦略兵器級の威力を伴う大量破壊魔法だった。

 仕組みはいたって簡単。魔法によって放物面鏡を生み出し、同時に魔力が集まった際に生まれる歪みを凸レンズ型に形成。その二つを機体の周囲に大量に展開。演算能力を最大限に使用し、光の屈折を計算、焦点を指定した場所へと集めるという物。

 まあ、言ってしまえばソーラーシステムだ。

 前世では色々な物理的制約のせいでそこまで兵器としての力を有することは出来ず、あくまでSFの存在でしかなかったが、それを魔法でアシストしているのがこれである。

 天候に大きく左右されるが、その火力はすさまじい物になることはすでに確認済みだ。

 魔法としてはただ機体の周囲に展開するだけのため、そこまでの消費ではないのだが、物理演算器(センスボード)による焦点の計算が異常なほど困難であり、そこにすべての魔力が消費されてしまうのである。

 そのため、一発か二発しか撃てない兵器となっていた。

 そもそも当初の予定では、敵の基地や町の上空にレンズを展開して、一気に焼き払ってしまおうという最悪の兵器だったのだ。なので戦略魔法と名付けたのだが、アルミュナーレの限界もあって今の能力としては戦術魔法と言ったほうがいいレベルだろう。


「こんなもん、使わないのが一番なんだけどな」


 俺としてもできることなら使いたくなかった。無差別の大量殺戮につながる兵器だということもあるのだが、それ以上にこれの技術が帝国に渡れば、お互いにこれを撃ち合う最悪の消耗戦になりかねないからだ。

 それじゃまるで核戦争だ。

 だから、この機体や魔法の秘密を絶対に渡す訳にはいかない。

 そのために――


「おう、隊長来とったか」

「オレールさん」


 俺が新しく追加されたボタンのうちの一つを見ていると、操縦席にオレールさんがやってきた。


「頼まれた通り、カリーネの嬢ちゃんと協力して自爆措置を組み込んどいたが、本当にこんなもんいるのか? 儂としては、操縦士を殺す装置なんぞ整備したくないのじゃが」

「絶対に必要な物です。もし俺の機体が鹵獲されれば、最悪の被害になりますから」


 俺が見ていたのは、自爆装置のボタンである。

 原理は簡単で、ジェネレーターの周りに廻らせた濃縮魔力液(ハイマギアリキッド)の管内で爆発を起こすものだ。

 ジェネレーターごと物理演算器(センスボード)もろともすべてを吹き飛ばし、塵とも残さない仕組みである。


「ま、使うつもりはありませんよ。俺だってアンジュと末永く生きていたいですからね」


 せっかくもらった二度目の人生。自爆で終わらせるつもりなんて無い。

 たとえ自爆するとしても、絶対に生き残る。そしてあの名言を言って見せる!


「当たり前じゃ。さっさと終わらせて戻って来い」

「ええ」


 オレールさんがタラップから離れていく。それと同時に、時計の針が動き作戦開始時刻の三十分前となった。

 基地内にサイレンが鳴り響き、人の動きが激しくなる。


「出撃準備だ。エルド出るぞ!」


 機体を起動モードへと切り替え、一歩を踏み出させる。

 物理演算器(センスボード)を変えたというのに、違和感は一切ない。

 これならばと確信を得て、俺は快晴の空の下基地の門へと足を進める。

 そこには、徐々に集まってくる機体たち。

 今回の出撃は、第一から第四のアブノミューレ部隊に、今動ける七機のアルミュナーレだ。各部隊に一機ずつと今回も指揮を務めるジェード部隊長の護衛に一機。そして俺とバティスのコンビとなった。


「バティス、今日は頼むぞ」

「エルドに頼られるのはいい気分だな! まあ、大船に乗ったつもりでその魔法をぶっ放しな!」

「そうさせてもらうよ」


 そしてほどなくしてすべての部隊が基地の外に集結した。

 居残りの第五部隊のメンバーが外壁の上から、王国の旗を振っている。

 そしてその中に、姫様と基地司令官の姿もあった。


「これより、カメントリア奪還作戦を開始します! おそらくこれまでで一番の激戦となるでしょう! しかし私たちはこれに勝利し、奪われた土地をすべて取り返すのです! 多くの言葉は語りません! 私はこの基地で、皆さんの勝利を信じ祈っております! フェイタル王国に繁栄と栄光を!」

『繁栄と栄光を!』

『フェイタル王国万歳!』

『イネス様、万歳!』

「全軍出撃! 目標カメントリア!」


 ジェード部隊長の指揮により、アブノミューレ部隊が動き出す。それに合わせて、俺とバティスは、最後尾から機体を進ませるのだった。


死ぬほど痛いぞ?


ソーラーシステムはロマン。

理屈で色々言いたいことがあるかもしれませんが、まあ魔法でカバーしてると思ってください。この作品はファンタジーです。

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