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格納庫に並ぶ三機のアルミュナーレ。
俺はそれを見上げながら満足げにうなずく。
一機はもちろん俺の機体。そしてその隣にあるのがバティスの専用機だ。
見た目はほとんど素体のままであり、特質した点は無いらしい。
バティス曰く、素の機体のままの方が、アカデミーで習ったことを実践しやすいのだとか。
確かに言われてみれば、アカデミーの時の機体と似ている。魔法の選択までほぼ同じにしているらしい。さすがに威力などを上げたり、物理演算器での最適化などは行っているらしいが、誰でも使いやすい機体になっていると言っていた。
武装は腰に剣が二本、盾を一つ。そして、背中に腰の剣よりも一回り大きな剣を二本、増設ユニットと共に装備していた。
「この剣ってオリジナルか?」
俺が何気なく呟くと、格納庫の入口からちょうどいいタイミングでバティスが入ってきた。その隣にはエレクシアも一緒だ。
「いや、こいつも量産品だ。増設ユニットもな」
「大剣が欲しいと望む騎士もいるからな。数は少ないが生産はしていたはずだ」
バティスの答えに、エレクシアが補足を入れる。
なるほど、騎士の剣は基本的に片手で運用することをメインに設計されているから、大剣を使ってる人からすれば不満なのか。
「けどバティスって大剣使ってたか?」
アカデミー時代の記憶だと、ずっと片手剣を使っていた気がしたのだが。
「アカデミーに入る前までは大剣も使ってたんだよ。ほら、俺貴族だから、子供の頃から家庭教師とかつけられて剣術の訓練とかもやらされてたからな」
「そうだったのか。ならなんで片手剣を使ってたんだ? 言えば融通してもらえただろ」
昔からなじんでいた武器ならば、そちらを優先的に訓練するように融通するぐらいはアカデミーでもしてくれていたはずだが。
「そりゃ、色々な武器が使えた方が色々便利だからな。子供の頃の訓練も最初は片手剣だったし、復習の意味も込めて片手剣を使ってたんだよ。戦場じゃ、敵の武器を奪って使うなんてこともあるかもしれないからな。使えない武器があるとそれで後れを取る可能性もある」
「そういうことか」
特にアルミュナーレの場合は、基礎武器は腰の二本だけだ。増設することもできるが、それにも限りがある。
俺の場合はアーティフィゴージュで強引に増やしているが、バティスはそれを戦場で調達することで解決することにしたわけだな。
「他にも一通り武器は使えるようにしてるんだぜ。基礎を固め過ぎたせいで、応用はあんまりだけどな」
「意外と堅実だな」
バティスの印象的には、もっと派手にとか必殺技でドカーンとかそっちのイメージなのだが。
するとバティスは、髪を掻きながら困ったように答える。
「俺の剣の先生がそういうタイプなんだよ。ちょっとカッコつけようとすると思いっきり殴られんの。俺一応貴族なんだぜ? 普通顔に痣できるまでやるか?」
「文字通り体に叩き込まれたわけか」
「いい先生ではないか。私もそんな先生がいれば、剣術ももう少し上手くなれたのだがな」
「エレクシアも十分強いだろ」
訓練で剣を合わせたときも、かなり強かった。レイラには届かないレベルかもしれないが、バティスやレオンとはいい勝負をするはずだ。
「あくまで独学が多いのだ。だから、本当に強い者からすると隙が多いらしい。初めて騎士隊に所属した時にそう隊長に言われたのだ」
「俺たちじゃ分からないレベルだな」
「まったくだ」
訓練の時も、エレクシアに隙なんてあるようには思えなかったんだけどな。本当に強い人たちからするとあれでもまだ隙があるってことか。
けど、俺たちの主体はあくまでもアルミュナーレでの戦いだ。完璧に動きを再現できるなら剣の腕も大切かもしれないけど、アルミュナーレじゃそれは無理だしな。
やっぱ大切なのは、戦い方よ。
俺は気持ちを取り直して、最後の機体を見上げる。
素体はバティスとあまり変わっていないが、全体的に装甲が薄めで、細部に追加装備が配置されている。
肩と腰、それに太ももの部分にブースターのようなものがついているのだ。それに対して、背中側の装甲は特に薄いような感じだ。ハーモニカピストレでも撃ち抜けそうだな。
「エレクシアの機体は結構弄ってあるんだな」
「ああ、追加部分は魔法の補助が主だな。風属性を基本としてスラスターやウイングを生成するパーツだ」
「ウイング? 飛ぶのか?」
「さすがに鳥のようには飛べないがな。スラスターを使い上空へと飛び上がり、落下をウイングで調整するぐらいだ」
俺のアクティブウィングと同じようなシステムなのか。
「どれぐらいまで上がれるんだ?」
「場所にもよるが、平地なら機体の三倍程度までの高さは可能だ。敵や仲間の魔法を利用すれば、もっと高く上がることも可能だが」
「凄いな。そこまで上がれると、アヴィラブースターとほぼ同じ高さまで上がるのか」
強襲には便利そうだ。今回の基地強襲でも高い壁が問題になるからな。エレクシアの働きには期待できるかもしれない。
「仲間の魔法は隆起系の物でいいのか?」
「それも可能だし、爆発系でも可能だ。スラスターに合わせて使えば、推進力を増すことが出来るからな」
「なるほど、なら俺の機体の魔法で行けそうだな」
襲撃時の作戦を頭の片隅で考える。
エレクシアを突撃させて、内側から門を破壊。一気に捕虜の有用所を確保の後、俺とバティスで暴れるのが一番か。俺の方にアルミュナーレを集中させたいから、司令部施設の近くで暴れて、バティスには格納庫の方で攻撃させるか。姫様からはある程度基地の状態を保ったまま確保したいとは言われているけど、こっちも命がけだ。少しぐらいの破壊は見逃してもらえるだろう。
「私の機体も大分弄って入るが、エルド隊長ほどでもないと思うぞ?」
「そうか?」
「あの重さを支えるとなると、脚部なども特注になっているのだろう?」
「そうらしい。俺もつい最近知ったけどな」
うちはメカニックが優秀過ぎるからな。気づいたら機体の最適化のために色々変更が行われてたりするから、俺自身が機体について知っていることは意外と少ないのかもしれない。
できれば全部知りたいんだけど、隊長の仕事とかのせいでアルミュナーレばかりに構っていられないんだよな。
「あの左腕の中にはなにが入っているんだ?」
「剣が十本にハーモニカピストレが三丁と、特殊武装のペルフィリーズィだ。こいつは長距離狙撃が出来るピストレだな。それに物理演算器とマギアタンクも入れてある」
「そんなにか」
「大抵戦闘になるとほとんど消費しちまうんだけどな。その後の書類制作が辛い辛い」
あのたびに書類の山を作らなければならないのだ。あれを想像するとさすがの俺もアルミュナーレに乗るのをためらってしまう。
あれさえなければ毎日でも乗り回すんだけど。
俺の意見に、エレクシアも理解できるところがあるのかうんうんと頷いていた。
「濃縮魔力液の補充だけでなぜ五枚近くの書類が必要なのだろうな……」
「やっぱおかしいよな」
「お前らが使い過ぎなんだよ……」
書類の多さに悩む俺たちに、バティスがあきれたような視線を向けてくる。
「使い過ぎ?」
「エルドの機体は当然として、エレクシアさんの機体も追加装備って魔法の補助っていうか威力強化用ですよね? それって濃縮魔力液の消費が倍増するんじゃないですか?」
「うむ、確かにそうだが」
「俺の機体だと、この前の戦闘でもせいぜい三枚でしたよ。濃縮魔力液の一枚に武装で二枚」
なん……だと……
エレクシアも初耳だと言わんばかりに驚いている。
「それマジで言ってる?」
「大マジだ。少しは節約を覚えろ。軍の資金だって無限じゃないんだぞ?」
「痛いところを突いてくるな……」
「考えておこう」
エレクシア……その答えは実行しない答えの筆頭だぞ。
とりあえずこれ以上この話を掘り下げるのは危険だな。
「まあその辺りは今後考えるとして、明日の早朝に出撃するぞ。メンバーには通達終わってるよな?」
「ああ、こっちのメンバーは全員了解してる」
「私の方も大丈夫だ。しかし本当に少人数で行くのだな」
俺が今回の襲撃のメンバーとして招集した人数は全員で十七名。全部俺たち三人の騎士隊の中から選出している。
まあ、少しでも慣れ親しんだ顔があるというのは落ち着くしな。
整備班はそれぞれから三人ずつ、斥侯は全部で五人、物理演算器ライターにカリーネさんを抜擢し、最後の二人にサポートメイドのアンジュとエレクシア隊のサポートメイドを招集した。サポートメイドに関しては、二人の隊のどちらのサポートメイドにするか悩んだのだが、二人に聞いたところエレクシア隊の方がサポートメイド歴が長く戦場にも慣れているということでそちらを選ぶことにした。
「強襲はスピード勝負だし、見つかれば失敗に終わる可能性も高いからな。気づかれずに出来るだけ基地に近づいて、相手が対処する時間を与えずに一気に制圧する。スピード勝負に人数は邪魔さ」
「それもそうか」
「じゃあ俺は出撃準備が整ったことを姫様に伝えてくる。二人は早めに休んでおいてくれ」
「お前もだぞ」
「分かってるよ」
俺は軽く手を振りながら格納庫を後にするのだった。
「斥侯部隊から連絡。三時の方向に敵の哨戒部隊。数は六。東に直進中です。動きが拙い機体がいたので、新人の訓練も兼ねているのかと」
「了解。西に迂回しながら進むぞ。速度は現状を維持、ブノワさんは引き続き偵察をお願いします」
「了解。久しぶりの斥侯役だからね。やりがいがあるよ」
そう言い残して馬を反転させたのはブノワさんだ。最近はアブノミューレの出現で斥侯をするよりも大部隊で押しつぶすほうに戦争がシフトしてきたからな。アルミュナーレ隊の斥侯役の存在が薄くなっていたのをブノワさんも微妙に気にしていたらしい。
掛けていくブノワさんの背中を見送りながら、先頭を進む俺は進路をやや西へとずらす。
基地を出発して半日。俺たちはすでに敵側の偵察部隊の範囲まで侵入してた。このまま進めば、夕方には襲撃目標のクロイツルに到着するはずだ。
と、別の斥侯役がこちらに戻ってくる。
「報告します。十時方向的哨戒部隊を発見数は三のアブノミューレ隊です」
「チッ、ちょうど挟み込まれる形になったか」
「エルド隊長、落としてしまおう」
提案してきたのは俺のすぐ後方を進んでいたエレクシアだ。
確かにエレクシアの意見もありだと思う。相手が三機だけならば、こちらに負ける要素は無い。不意打ちからの襲撃で逃げる暇もなく殲滅できるだろう。問題は、相手側にも斥侯部隊がいる可能性がある場合だが。
「三機だよな。周りは誰かいたか?」
「いませんでした。アブノミューレのみの部隊です」
「よし、なら狙うぞ。エレクシアは俺の前へ。魔法のコンビネーションを試す機会だ」
「分かった」
昨日言っていた爆風を使ったジャンプを試してみるいい機会だ。いきなり基地で試すのはリスクがあるからな。
そして、進んでいくと敵の部隊が見えてくる。敵側もすでにこちらには気づいているようだ。俺たちの姿を目視でとらえた途端一目散に向きを変えて逃げ始めた。
まあ、アルミュナーレ三機相手なんて量産機が出来るわけないよな。
「エレクシア、こちらで合わせる。好きなタイミングで行け」
「では参る!」
エレクシアの機体が速度を上げる。装甲が薄い分機体も軽いのか、俺たちの機体よりもはるかに最高速度が速いようだ。
そして地面を踏み切り、勢いよく飛び上がる。と共に、追加装甲のスラスターから勢いよく風が吹き出し周囲の草久を揺らす。
俺は、機体が飛び上がった瞬間にファイアランスを発動させ、彼女の機体の足元へと放った。
それは狙いすましたように足元の地面を抉り激しい爆発を起こす。
「ふむ、素晴らしい精度だ」
エレクシアはそう言い残し、機体共々遥か頭上へと飛び上がった。
そして、機体の背中の装甲が一部スライドし内部機関が露出する。そこにもスラスターのような物が装備されており、それが背中から飛び出してくる。
「へぇ、あれが羽根を作るのか」
機体の全長をはるかに超す大きさの羽が二枚、機体の背中から広がった。
機体の落下速度が変わり、同時に方向も制御される。
逃げるアブノミューレ部隊の背中に向けて機体が滑空し、抜かれた剣が一機の背中から操縦席を貫いた。
落下の速度を足した刺突は、簡単に装甲を貫き操縦者を絶命させる。
「なんだ!? 機体が降ってきた!?」
「クソッ、けど一機なら」
そう言った機体は、操縦席をペルフィリーズィによって撃ち抜かれる。
敵は一機だけじゃないんだな。
「なんなんだよ! お前らなんなんだよ!」
動揺して完全に足を止めてしまった最後のアブノミューレ。それは、あっけなくエレクシアによって打ち取られた。
「お疲れさま。あんな高さまで飛べるんだな」
「エルド隊長の機体も凄いな。その武装はあの距離から操縦席を撃ち抜くのか」
「お前らやること早すぎ。俺の出番無かったじゃん」
後方の警戒役をしていたバティスから苦情が飛ぶが、そんなもんは無視だ。遅い奴が悪い。
「じゃあこのまま進軍するぞ。残骸はこのまま置いていく。どうせ後方部隊が回収するだろ」
俺たちが制圧した後、そのまま基地の制圧を完全な物にするためエナハトから大部隊が来る予定だ。そいつらが回収してくれるだろう。
「哨戒部隊の数が多くなってきたな」
「ああ、これからはちょくちょく戦闘することになるだろうな」
「俺にも残しといてくれよ!」
「それはバティスの頑張り次第だな。んじゃ、馬車も追いついてきたし、行くか」
敵機破壊のため先行した分を馬車が追いついてきたので、俺たちは再びクロイツルを目指して進軍を開始した。
そして完全に日が暮れたころ、俺たちは基地へと到着する。
そこは、大量のアブノミューレ部隊に守られた、堅牢な要塞と化していた。




