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魔導機人アルミュナーレ  作者: 凜乃 初
反撃の狼煙 精鋭部隊突入
77/144

3

 翌朝。朝日が山影から顔を出すとともに、敵の攻撃が始まった。

 バティスたちも当然出撃し、早朝の平原に騒然な戦闘音が響き渡っている。


「アブノミューレ隊はしっかりと壁を作れ! 食い破られると、一気に基地まで押し込まれるぞ!」

「十三番隊、俺に付いてこい」

「おうよ、久々のコンビ復活だな!」

「二十番隊負傷。戦闘継続不可撤退する」

「抜けた穴は俺が埋める!」


 昨夜のうちに部隊間の足並みを揃えることが出来たアルミュナーレの隊長たちも、何とか戦線を維持し拮抗を保っている。

 そんな中、バティスは戦闘の中心地から少し離れた場所でアブノミューレを刈り取っていた。

 その横には当然レオンの姿もある。


「レオン、そっちの頼む」

「問題ない。バティスは前だけ見ていればいい」

「あいよ! そら、行くぜ!」


 バティス機の隣を銃弾が過ぎ去り、剣を振りあげていたアブノミューレの操縦席を撃ち抜く。

 その隙にも、バティスは正面の二機を貫き、蹴り飛ばし、破壊していく。

 バティスとレオン。この二人に続くように、後方からは今基地にあるアブノミューレのほぼ全機が続いていた。

 こじ開けられた亀裂から、アブノミューレ達の猛攻を受け分断された敵のアブノミューレが次々に討ち取られていく。その様子に、敵から悲鳴が上がっていた。


「なんでだ! なんでこんなに士気が高い!」

「王都の襲撃は成功したはずだろ!」

「どうなってんだ!」

「ハッ、その程度で王国の兵士が崩れるかよ!」

「昨夜はかなりまずい状態だったがな」

「レオン……いいとこなんだから水差すなよ」


 だが実際、レオンの言う通り昨日の夜はかなり危険な状態だった。

 敵兵から情報を与えられた兵士たちが動揺し、司令部に詰めかけたのだ。

 その時バティスは機体の修理のため格納庫にいたのだが、その騒ぎは修理で大音を垂れ流す格納庫の中でも分かるほどだった。

 それを収めたのは、王都より緊急で届けられた第二王女イネスからの一通の手紙だ。


「けど、まさか王族が前線に出てくるとはな」


 手紙の内容。それは、イネスが今後の統括となり、次代の人材が育つまで軍務を受け持つというものだった。

 ただそれだけだったのならば、むしろ不安は広がることになったのだろう。

 第二王女は今年成人したばかりの上に女性だ。子供のころから軍部の統括を担当するために勉強してきた第二王子とは違う。

 まともな指揮ができるのか、我がままなお嬢様じゃないか、前線に出てきて何ができるのか。そんな不安が生まれるのは当然だろう。

 しかし、その不安を吹き消したのは、続く一文。

 イネスが前線に赴くに従い、イネス付き近衛騎士エルドが同じく前線に上がるというものだった。

 これまでの戦果により、エルドはもはや英雄的な扱いを受けている。

 そんな人物が前線に出てくれるとなれば、士気が上がるのも当然だろう。

 しかしそんな中で心に焦りを募らせる存在が二人いた。


「エルドが前線に戻ってくる。それまでにここの状況を落ち着かせなければ、何を言われるか分かったもんじゃねぇぞ」

「それどころか、戦果をすべてエルドに奪われかねない。ある意味僕たちのラストチャンスだ」

「そうだな!」


 一気呵成に、敵のアブノミューレ部隊を真っ二つに引き裂いたバティスたちは、後方に隠れていた傭兵のアルミュナーレへと向かう。


「も、もう来やがった」

「なんでこんな強い奴がいるんだよ!」

「もしかして、こいつが基地を二機で潰したって連中じゃ」

「数はこっちが上だ。囲んで叩けばなんとななる! ここは一時休戦だ」

「仕方ねぇ!」

「こんなところでやられるわけにはいかねぇからな!」


 バティスの前に出てきたのは、三機のアルミュナーレ。その後ろにはさらに一機のアルミュナーレが控えているが、様子を見る限り積極的に戦闘に参加するタイプではないようだ。それでも、魔法による不意打ちがある以上気は抜けない。


「どいつからやる?」

「馬鹿そうなのだ」

「んなもん分かるかよ」


 どの機体もさほど特徴があるようには見えない。せいぜいがそれぞれの傭兵団のエンブレムを肩に着けている程度だが、そのエンブレムも、髑髏や剣、悪趣味なハートなど、どれも馬鹿ッぽそうな物ばかりだ。


「全員馬鹿と言う意味だ」

「なるほど、分かりやすい。つまり全員一遍にってことだな!」


 バティスの機体が前へと出る。敵機はバティス機に向けて、魔法を発動させようとするが、その隙をついてレオンが敵機の脚部関節に一発ずつ鉛玉を打ち込んだ。

 所詮一発の鉛玉だ。多少関節をゆがませることはできても、破壊まではできない。

 しかし敵機はバランスを崩し、その照準をずらす。

 至近距離に着弾する魔法を気にした様子もなく、バティスは一切速度を緩めずに敵機へと接近し、そのうちの真ん中にいた一機に向けて蹴りを放った。

 敵はそれを盾で受け止めるも、衝撃にそのまま態勢を崩し後方へと倒れる。

 バティスは止まらず、倒れた機体から隣の機体に標的を変えた。

 剣を横に振り、敵機を一歩下がらせると振りぬいた勢いのまま機体をしゃがませ、足を延ばして後退した機体にひっかける。

 二機目が倒れたところで、残りの一機がようやく攻撃を仕掛けてくる。しかしそれはアブノミューレによって受け止めらた。


「ただの量産型に!」


 力押しで一気に潰してしまおうとする相手に対して、レオンはアブノミューレに力を入れさせず、そのまま押されるように後退する。

 しかしそれで問題ない。狙いはただ一瞬の足止めなのだから。


「いただき!」


 態勢を立て直したバティスが、アブノミューレの腰スレスレの位置から剣を突き出す。

 アブノミューレの影になり完全に敵機から死角となっていたその攻撃は、完全に敵機の操縦席を捉えていた。


「まず一機」

「バティス、魔法が来るぞ」

「あいよ」


 レオンの合図で、バティスがマジックシールドの出力を上げる。そうすることで、マジックシールドの範囲がバティスの機体のみから、レオンの機体まで覆いかぶさった。

 直後、転倒させられた二機から立て続けに魔法が放たれる。

 二つの魔法はバティス機のマジックシールドによって減衰させられ、二機に致命打を与えることはできない。その間にハーモニカピストレを構えていたバティスとレオンの機体が一機に狙いを定めて、その引き金を引く。

 パンパンパンパンと立て続けに発砲音が続き、合計六発の弾丸が敵機の操縦席に襲い掛かった。

 数発は装甲によって弾かれたが、連続して近い場所を打たれたことで伸びた装甲が最後の二発を貫通させる。


「アブノミューレでアルミュナーレを倒したのは、おそらく俺が初めてになるだろうな」

「快挙じゃん。このまま昇進行けるんじゃね」

「それには後こいつらを倒さねばな」

「逃げ腰の連中なんか相手になるかよ」

「それもそうだ。ではさっさと片づけるぞ」


 立ち上がり明らかに腰が引けた態勢で剣を構える機体に向かって、二機が視線を集中させる。本来機械なのだから操縦者が逃げ腰であっても機体の姿勢は綺麗なままのはずなのだが、機体まで及び腰になっているとなると、相当に怖がっている証拠だ。

 一機に狙いが集中したのを感じたのか、後方からも魔法で援護があるのだが、バティス機のマジックシールドによってことごとく無効化されている。

 マジックシールドの出力を上げるために、今のバティス機は思うように魔法を撃つことが出来ない。しかし、それでも十分だと思えるほど、敵は弱り切っていた。

 二機が剣を構え、タイミングを合わせて突撃を掛ける。

 逃げ腰の機体は、がむしゃらになってレオンの方を狙い剣を振るった。せめてもの抵抗にアブノミューレでもと考えたのだろう。

 しかし、その剣はあっさりとレオンの機体によって受け止められる。

 腰の入っていない斬撃など、ロボであっても脅威ではない。

 その隙をついて、バティスがよこから剣を突き立てようとした瞬間、マジックシールドのギリギリ外側の地面を魔法が勢いよく穿った。


「なんだ!?」

「例の奴か」


 バティスが驚く中、レオンは冷静にカメラを使い魔法の発生源を特定する。

 それは、別の戦闘場所から流れてきた一機のアルミュナーレだ。


「ようやく見つけたぞ。昨日の機体」

「てめぇ、昨日の老人か」

「ふっ、まだ老人と言われる年ではないがな。貴様を倒すのは俺だ!」

「それはこっちのセリフだ! レオン、そっちは頼む」


 言うや否や、バティスは新手に向かって攻撃を仕掛けに行ってしまう。

 レオンは敵機を抑え込みながら、やれやれと頭を振った。


「僕の機体がアブノミューレだということ、忘れてないか? まったく」


 増援のおかげか、敵機の操縦者が少し落ち着きを取り戻し、機体に力を込めてきた。

 レオンは即座に鍔迫り合いの力を抜き、敵機を受け流しながら後方へと回り込む。


「この機体、あまり使い勝手は良くないんだがな」


 レイラが初めてアブノミューレに乗ったときと同様の感想をレオンも感じていた。

 アブノミューレの操縦はどうも鈍く感じるのだ。

 アルミュナーレならば、軽くレバーを動かしただけでも敏感に反応し、望んだレスポンスが返ってくる。しかし、アブノミューレではそれがない。

 しっかりとレバーを操作する大きな動きこそなかなかの反応速度で対応してくれるのだが、細かな操作は時々反応しないのだ。

 そのため、ハーモニカピストレの照準が非常にやり辛くなっている。

 ある程度はオートで照準を合わせてくれるとはいえ、敵機も動いているのだ。その補正をするのは人間の手である。

 その補正にずれが出てしまえば、装甲を撃ち抜くのは難しいハーモニカピストレを活かしきれない。


「まあ、それでもどうにかするのが騎士と言うものだがな」


 弾倉を買えたばかりのハーモニカピストレを、敵機の背中に押し付けて引き金を引く。

 ダンッとゼロ距離で放たれた弾丸は、装甲をへこませ、ギリギリのところで貫通した。

 しかしそこは操縦席ではない。腰のケーブルが多く集まっている場所だ。

 破れた装甲が機体内に入り込み、その破片がケーブルを切断する。体内で暴れる弾丸が、いくつもの破損を生み出した。


「な、なにが!?」


 銃弾一発で機体が大量のエラーを吐くのに驚いた操縦者が声を上げる。


「ふむ、ゼロ距離なら一発でも抜けるか。破損もなかなか侮れないな」


 レオンはその状態を確認し、今度は照準を操縦席へと向け引き金を放つ。

 傭兵の男は、訳が分からないまま肉片へと変換された。


「さて、奥の連中は完全に止まっているな。あっちは」


 マジックシールドの範囲内から出てしまったため、奥の機体を一度警戒してから、バティスの方を確認する。

 二機は正面からぶつかり合い切り結んでいた。


「てめぇ、昨日はよくもやってくれたな!」

「戦争だ。殺し殺されが当然だろう」

「なら俺が殺す側だ!」

「それは叶わぬ望みだ!」

「クッ」


 一瞬力が抜かれ、バティス機が前にのめりそうになったところで圧がかかる。

 一気に押し込まれ、機体の背が反り返った。


「育てば危険な存在だ。今の内に叩く!」

「なめんじゃねぇ!」


 バティス機が相手の剣を逸らす。しかし、そのまま機体を寄せてくる敵に対して、対抗する手段は無い。

 懐に飛び込まれれば、姿勢の悪いバティス機が押し倒されて一気に決められるだろう。


「焦ったか」


 敵機から、少しだけ落胆の混じった声が聞こえてくる。それを耳にしながら、バティスはフットペダルを思いっきり踏み込み、機体の制御バランサーをカットした。


「んなわけあるか!」


 バランサーをカットされた機体はペダルの操作をもろに受け、跳ね上がるように足が空へと浮かび上がる。それに反して機体は背中から地面へと倒れていった。

 しかしそれがバティスの狙いだった。

 握っていた剣と盾を投げ捨て、頭の上で地面へと手を着く。

 跳ね上がった足が弧を描きながら宙を回転し、敵機の胸を蹴りあげる。そして反動のまま一回転すると、バク転の様に態勢を立て直したのだ。

 バティスは機体が水平を向いているのを確認して、即座にバランサーを入れ直し、フッと小さく息を吐いた。


「案外土壇場でもできるもんだな」

「奇抜な動きをする」


 胸を蹴られた敵機は思うように詰められず距離が出来る。その間に、ハーモニカピストレを腰から取り出し、敵機に向けて発砲した。

 しかし弾はすべて盾と装甲によって弾かれてしまう。


「やっぱアルミュナーレ相手だと無理だな」


 ハーモニカピストレを投げすて、最後の剣をジョイントから取り外し構える。

 盾は捨ててしまった。残る武器はこの一本だけだ。


「バティス、協力するか?」

「後ろを抑えといてくれ。小バエが飛びそうだ」

「分かった」


 バティスの不利を見て、後方に控えてきた部隊が前へと出始めていた。それをレオンに任せ、バティスは一対一を所望した。


「良かったのか? 仲間の助けを借りずに」

「ハッ、ここを一人で抜けれなきゃ、あいつには追いつけねぇ」

「ふむ、男のプライドと言うやつか。勝ちたい相手でもいるのだろうが、それはここでは選択ミスだ!」


 敵機が動く。

 真っ直ぐな突撃だ。

 バティスも同じように前進し、敵機から突き出される剣をギリギリのところで躱す。

 脇下を通り過ぎた剣が装甲を削って火花を散らし、バティスの剣が敵の盾を打つ。

 脇下に入った剣は、即座に振り上げへと変わる。それを読んで、バティスは剣を脇で挟むように思いっきり抑えつけた。

 

「これで剣は封じたぜ!」

「無意味!」

「なっ!?」


 次の瞬間、抑え込んでいたはずの剣がスルリと滑り、バティス機の左腕を切断する。

 その剣の刀身には朝焼けの光を反射する氷が張り付いており、うっすらと白煙が上がっていた。


「忘れたか。魔法は放つ物ばかりではないぞ」

「クッ」


 とっさにとび退るが、振り降ろされた剣が正面装甲を思いっきり切り裂く。

 モニターが衝撃で壊れ、破壊された装甲の隙間から外が見えた。


「ヤバい、ヤバい、ヤバい、ヤバい」


 一気に後退して距離を取ろうと試みるも、相手はぴったりと付いて再び剣を振るってくる。

 バティスも剣で防御をするが、魔法の付与された刃は簡単にバティスの剣を破壊してしまった。


「これで無防備。詰みだ、若いの」


 苦し紛れに魔法を放つも、その魔法はマジックシールドに減衰され浅く傷を付ける程度だ。

 そして振り上げられた剣がバティス機目がけて振り下ろされる直前、轟音と共に何かが空から飛来した。


「ぬ!? アヴィラボンブの予定はないはず!?」

「新手か!?」


 飛来したそれは土煙の中から飛び出すと、バティス機を破壊しようとしている敵機目がけて突進し、その脇腹目がけて剣を突き出す。


「敵か!?」


 敵機はその突撃をとっさに回避し、二機から距離をとる。

 そして徐々に土煙を纏った機体がその姿を現した。

 白銀に彩られた、無骨な機体。

 それは紛れもなく、レオンが乗っているものと同じ、王国のアブノミューレ。


「ふぅ、さすがに死ぬかと思った。フォルツェが二人乗りするはずだわ」

「だ、誰だ! 今のはなんだ!?」

「ん? その声はバティスか?」


 アブノミューレが振り返りながら尋ねてくる。そこでバティスも相手の声に聞き覚えがあることに気づいた。


「まさか、エルドか!? なんでアブノミューレに!?」

「おう、姫様からの命令だ。とりあえず家の周りを掃除して来いってよ。ちなみに俺の機体は修理中だ」


 まるで落ち葉を掃いてこいと言わんばかりに無茶苦茶な命令を、エルドはこともなげに告げるのだった。


エルド前線復帰! でも機体は量産型!

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