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魔導機人アルミュナーレ  作者: 凜乃 初
反撃の狼煙 精鋭部隊突入
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2

「意気込んでみたはいいものの、さてどうすっかね」


 バティスの前には、十機を超えるアルミュナーレに、それの十倍はあろうかと言うアブノミューレの大部隊。

 いくら優秀なパイロットであっても、これだけの差を平然と覆すことなどまずできない。

 ならばどうすればいいのか。


「援軍を待つか? 後ろの連中も、足並みがそろえばまた来るはずだ。とりあえずそれまでは耐えるとして、その後だよな」


 こちらも十機のアルミュナーレを保有しているからと言って、防衛線が必ずしも有利になるとは言い切れない。

 アヴィラボンブの飛来があれば、再び上空を対処しなければならないし、それ以前にアルミュナーレの魔法ならば、基地の壁を壊すことも可能だ。

 基地に近づかれれば、壁を壊されアブノミューレの部隊で制圧されかねない。相手の量産速度にこちらのアブノミューレ隊はまだ追いつけていない。性能が同じならば、数の多い相手側が圧倒的に有利だ。

 となれば、ここで食い止める以外の方法はなるなる。これだけの大攻勢を掛けてきているのだ。簡単に引いてくれるとは思えないが、それでもやれる限りのことはやらなければならない。

 しかし、気になることが他にもある。

 後方、味方部隊のことではなく、王都の現状だ。

 陛下の崩御と第二王子の死がどれほど士気に影響を与えるのか。

 このタイミングで攻撃を仕掛けてきたということは、相手は王都の襲撃が成功したことを知っていると考えて間違いはないだろう。ならば、相手から陛下の崩御が伝えられる可能性は高い。その時、どれだけ戦線を維持できるか。


「ええい、ごちゃごちゃ考えるのは俺の性に合わねぇ!」


 そういうことを色々考えるのはレオンの担当だと頭を切り替え、目の前の状況に対処すべくバティスはペダルを踏み込んだ。


「とりあえず数を減らす。エルドもそれで部隊を引かせたみたいだしな!」


 単騎で突っ込んでくるバティスに、敵側は一瞬動揺を見せるも数機のアルミュナーレが前へと出てきた。

 色的に傭兵たちの物だ。手柄を求めて前に出てきたのだろうと判断し、バティスは速度を落として剣を抜く。


「さて、最初の相手は誰だ! それともお前ら全員が相手してくれるのか!?」

「なら俺だ!」


 バティスの挑発に、一気にアルミュナーレが前へと出てきた。

 これが正規の軍隊ならば、集団で襲い掛かってきたかもしれない。しかし、相手は傭兵だ。ここに戦果を求め、仲間同士で競争している。故に、扱いやすい。

 突出してきた機体と剣を切り結ぶ。と同時に、足元に向けて魔法を放つ。

 ショックバースト。アカデミーの機体にも標準で装備されている、燃費のいい、しかし威力の低い魔法だ。アルミュナーレに向ければ、当然マジックシールドで無効化されてしまうが、バティスはそれを地面に向けて放つことで、相手の足場を崩す。

 地面にできたのはわずかな凹みだが、こちらの剣を受け止め、巨体の姿勢を維持するために相応の力がかかっているアルミュナーレの足には十分だ。

 土がずれ、敵機がバランスをわずかに崩す。

 その隙をついて、一気に押し込み敵機をその場に押し倒した。


「まず一機!」


 すかさず剣を操縦席に向けて振り下ろす。しかしそれは敵機が体を捻ることで操縦席の横へと突き刺さった。


「簡単にやられてたまるかよ!」


 胸の横を貫かれた形のアルミュナーレだが、機械である以上痛みに悶えることなど無い。

 即座に敵機の右腕がバティスの機体へと延び、その腕をつかむ。


「チッ」


 バティスは敵機の上から大きく移動しつつ、その手を強引に払う。

 その間にも、敵機は自身に刺さった剣を抜きとり、それを武器として構えた。しかし、左腕の動きが悪い。


「関節部まで壊せたみたいだな。なら一気に」


 決めてしまおうと前に出た途端、敵機が後退し始める。それに合わせて、別の機体が前へと出てきた。どうやら、選手交代のようだ。


「なかなかやるみたいだな。次は俺だ」

「おいおい、俺の番だろ」

「早いもの勝ちだ」

「なら俺だな!」


 傭兵の二機が競うようにして前に出てきた。他の機体は、まだ行動を決めかねているようだ。それを確認したバティスは、モニターで後方の様子も調べる。

 基地の外壁の近くで、アルミュナーレ隊が合流し、アブノミューレ部隊もいつでも動けそうな状態だ。

 これならば、基地近くまで引っ張ってきても問題ないだろう。

 二機相手でも十分勝つだけの自信はあるが、その後が続かない可能性を考えてバティスは少しずつ後退することを選択する。


「出来ればあいつみたいに暴れたいけどな」


 だがエルドと自分の実力の違いは嫌と言うほど理解できる。だからこそ、今自分の最大限の力を使って、この場で最高の戦果を上げるべく動く。

 二機の剣を剣と盾で受け止め、衝撃を逃すように後方に大きく下がる。そして、今度は前へ。

 右側の一機の懐へと飛び込み、ショルダータックルを掛ける。

 敵機はそれを器用にも受け止めた。


「おっとあぶねぇ」

「受け止めてよかったのか? 手柄を持ってかれるぞ?」

「ナイスだ! そのまま抑えとけよ!」


 バティスの言う通り、もう一機が受け止め抑え込まれたバティス機に向けて剣を振るっていた。

 しかしその剣は空を切る。

 受け止めていた機体が手を離し、バティスの機体を斬撃の軌道から外したのだ。


「こいつは俺の獲物だって言ったろ!」

「早い者勝ちっつったのはあんただ!」


 そして口喧嘩を始める二機の操縦者。その間にもバティスは機体のバランスを立て直し、敵機の背後へと回り込んでいた。


「口喧嘩もほどほどにな」


 背面側から剣を突き立てられる機体。

 その切っ先は背中から首元へと飛び出し、確実に操縦者をひき肉へと変えていた。


「やっと一機か。エルドならこの時点で三機ぐらい潰してそうだな。ま、俺は俺だ」


 すばやく剣を引き抜きつつ、破壊した機体をもう一機へと蹴り飛ばす。

 飛んできた機体を躱した敵機が、炎槍を放ちながら後退していく。それに合わせて、今までゆっくりとしか距離を詰めてこなかったアブノミューレの部隊が突撃を開始する。

 傭兵は、戦果も重視するがそれ以上に損益の判断に敏感だ。

 アルミュナーレなんて、一機で大金の動く代物を使っていれば、その機体でどれだけ稼げ、どれだけ損失を追うのかを常に考えている。

 撤退した一機は、バティスと戦うことが、利益よりも損失を大きくすると判断し、アブノミューレを囮に戦線から下がったのだ。

 その機体以外にも、数機のアルミュナーレが後方へと下がっていくのをバティスは確認した。そして、攻め時と判断する。


「そら、やっかいな連中は下がらせたぞ! 先輩たちでもアブノミューレの相手ぐらいできんでしょ!」

「舐めたこと言いやがって!」

「後で覚えておけよ!」

「そういうのは、死亡フラグっすよ」


 腐っていてもアルミュナーレの操縦士に選ばれる程度には優秀な人材たちだ。

 攻撃のチャンスと見て、後方で合流した部隊と共に一気に攻勢を掛けた。

 正面から、二つの勢力がぶつかり合い、一気に場は乱戦の様相を呈する。


「確か、アブノミューレ百五十機でアルミュナーレ一機ぶんだっけ?」

「運用コスト的にはな。けど、戦績的には関係ないだろうよ。結局アルミュナーレを潰せるかどうかだ」

「前に出てきてるのは腕自慢ばかりだ。驕るなよ」

「分かっている!」


 騎士たちがアブノミューレを蹴散らしながら、アルミュナーレがいる場所へと向かう。

 その間にも、アブノミューレどうしの戦闘が始まり、いたるところで爆発が起きた。

 アブノミューレのセフィアジェネレーターは、そこまで高価な物ではない。そのため、アルミュナーレと違いジェネレーターを次々に破壊しているのだ。その際にあふれ出した魔力液(マギアリキッド)が爆発を起こしているのである。


「派手にやってんねぇ」


 少し下がった位置から、バティスは戦場全体を見わたしつつ呟く。

 全体的には数の面で負けているこちらが不利ではあるのだが、初撃を上手く決めれた分今は押し込めている。出来ることなら、このままアルミュナーレ隊に敵のアルミュナーレを潰してもらいたいところなのだが、アルミュナーレ隊の騎士たちもアブノミューレの物理的な量に苦戦しているようだ。

 どこに自分を投入すれば、一番戦局がよくなるか。それを考え、バティスはペダルを踏み込む。


「アブノミューレ隊、俺の後に続け。壁を食い破るぞ!」


 バティスが選んだのは、アブノミューレどうしがぶつかり合う戦場だった。

 時間はかかるとはいえ、アルミュナーレをアブノミューレで倒すことは至難の業だ。押せ押せの今ならば、騎士たちが落とされることはあまりないと考えられる。ならば、こちらはアブノミューレどうしで拮抗している場所に楔を打ち込み、敵を後退させることを選択した。単純な戦果ではアブノミューレをいくら潰したところで、勲章はもらえないかもしれないが、この戦場を勝たせるための重要なポジションを選んだのである。

 敵アブノミューレの部隊に向かって突撃したバティスは、大きく跳躍し膝蹴りを先頭にいた一体に喰らわせる。

 その衝撃で大きく後退したところにできた隙間に、機体を滑り込ませ、周囲の敵を剣と盾を使い次々に屠っていく。


「こりゃ確かに無双だわ」


 レバーを動かせば、二体の敵が破壊され、魔法を使えば三体の敵が吹き飛ぶ。

 まるで藁人形を破壊していくような感覚に、バティスの気分は否応なく高揚していった。


「ハハハ! 次はどいつだ!」

「俺だ!」


 アブノミューレの部隊内で暴れているバティスの前に現れたのは、一機のアルミュナーレ。そのカラーリングは帝国の正規軍の物だ。


「帝国騎士か。いいぜ、相手になってやる。お前らは周りの掃討だ!」

『了解!』


 バティスのおかげで一気に押し込んでいた王国のアブノミューレ隊が一気に攻め込んでいく。そんな優勢の戦いの中で、二機のアルミュナーレが向かい合った。

 敵のアルミュナーレは、剣と盾のスタンダードな物。バティスとほぼ同じ機体だ。


「技量勝負になりそうだな」

「参る!」


 敵機がバティス機に向けて剣を振るう。それを盾で受け止め、切り上げを放つ。それは敵の盾によってしっかりと受け止められた。


「クッ」

「なかなかいい騎士だ。だがまだ甘い!」


 敵機が剣を受け止めた盾を滑らせ、右腕の関節を叩く。

 その衝撃で一瞬剣の軌道が敵機からずらされた。その隙に、相手は盾から手を離し、バティス機の肩へと掴みかかる。


「なにを!?」

「経験不足だな」


 掴まれた肩を揺さぶられ、機体が激しく左右へと揺らされる。

 機体からすれば特に問題のない揺れだ。だが、中の人間はそうではない。

 激しい左右の移動に、何度もベルトへと体を押し付けられ、息が詰まる。

 敵機を振りほどこうにも、左腕は使えず、右腕は肩をつかまれており自由に動かない。


「かつて、人どうしが戦っていた時代。甲冑を来た敵を倒すのに、人は中身に衝撃を伝える方法で相手を気絶させたと聞く。アルミュナーレという甲冑を見にまとおうとも、貴様の体は生身の人間であろう!」

「舐めやがって!」


 激しい揺れで体の血が偏るのを感じつつ、バティスはとっさに機体をしゃがませ敵機の足元目がけて蹴りを放つ。

 蹴りは当然の様に躱され、逆にその足を踏みつけられた。

 ミシリと嫌な音が響き、モニター上の機体情報から、右足に重度の破損が発生したことをバティスへと知らせてくる。

 だがバティスはそこでは止まらない。

 さらに機体をその場で転がらせた。

 足を踏んでいた敵機はわずかにバランスを崩し、その間にバティスは肩から手を振り払い、機体を転がしながら敵機から距離を取る。


「なんとか抜け出したけど」


 右足の損傷がひどい。強い負荷を掛ければ、今にも折れてしまいそうである。

 さらに状況は悪化していた。

 周囲の王国アブノミューレ隊が押され始めたのだ。


「お前ら何やってんだ!」


 ついさっきまでイケイケだった王国アブノミューレ隊が驚くほど押し込まれており、聞こえてくる声からも士気が下がっているのが分かった。


「だ、だって。王都が強襲されたって」

「陛下は、陛下はご無事なのか!」

「騎士なら何か聞いてるんじゃないのか!?」

「昨日の会議はもしかしてそれか?」

「チッ!」


 アブノミューレ隊から投げかけられた言葉に、バティスは激しく舌打ちをした。

 帝国アブノミューレ隊が、王都を襲撃したことをばらしたのだ。そのせいで、こちらの士気が激しく低下している。


「ふむ、ここまでのようだな。貴様の首、貰い受ける」

「させるか。俺はまだ抱き足りねぇんだ」


 機体を強引に起こし、剣を構える。


「その意気や良し。ならば我が剣で止めを刺そう!」


 敵機が動き、剣が迫る。受け止めようにも、右足が思うように動かず力が籠められない。

 やられる。

そう思った瞬間、飛来した一発の弾丸が敵機の頭部を撃ち抜いた。


「ムッ、真剣勝負に水を差すとは何奴!?」

「一対一がやりたければ、道場にでも行っていろ。バティス、動くなら下がれ。援護する」


 それは一機のアブノミューレだった。


「その声、レオンか!?」

「そうだ」

「アルミュナーレ隊はどうした!?」

「現状、副隊長と斥侯部隊は役に立たないからな。操縦が出来るものは、全員アブノミューレに乗っている」


 遭遇戦を想定して組まれているアルミュナーレ隊は、副隊長と斥侯役が馬で戦場を駆けまわる。しかし現状でそんなことをしてもアブノミューレに踏みつぶされるのがおちだ。

 そのため、基地の司令が操縦技術を習得している全騎士に対して出撃命令を出していたのだ。


「それとバティスはハーモニカピストレをもっと上手く使え。あれはまだこちら側にしかない有利な点だ」

「そうだったな!」


 バティスも今まですっかり存在を忘れていたハーモニカピストレを取り出し、至近距離の敵機に目がけて発砲する。

 敵機はとっさに後退しながらその弾丸を盾で弾くが、数発は敵機の関節へと吸い込まれた。


「クッ」

「んじゃ今の内。次は勝つかんな。覚えとけよ」


 捨て台詞を残し、バティスはレオンの援護の下基地まで撤退する。

 そのころには、戦闘は一旦の終息を見せていた。両方の機体の燃料が突き始めていたのだ。


「クソッ」


 ボロボロになった機体を見上げ、バティスは拳を握りしめる。

 そこに機体を格納したレオンが合流した。


「ずいぶん荒れているな」

「荒れたくもなる。あの騎士にボロ負けした」

「あの騎士は確かに強かった。あれが熟練の強さと言う物なのだろう。あの状態から撤退出来ただけでも十分だ」

「けどあいつなら。エルドならあの騎士にも勝てたはずだ」


 エルドの戦いを馬上から見ていたバティスは、エルドならば先ほどの騎士にも難なく勝てたように感じだ。そしてそれはレオンも同意見だった。


「確かにそうかもしれない。けどそれはエルドだからだ。エルドはよく分からない強さをしていると思っていた。けど、さっきの戦いを見ていて気付いた。エルドの強さは突拍子もない機動もあるが、熟練した経験豊富な強さだ」

「あいつは俺たちの同期だぞ?」

「だがそれ以外に考えられない。どこでそんな経験をしたのか知らないが、エルドはアルミュナーレの戦いに慣れている」

「…………」

「焦るな。俺たちにはまだ時間がある。経験を積めば、必ずエルドにも追いつけるはずだ。そのための土壌はアカデミー時代にしっかりと鍛えてきただろう」


 バティスは、同期ということで何かにつけてエルドと比較されがちだった。

 エルドなら、エルドは、エルドだったら。

 そんな言葉を何度も聞いてきたし、そのたびに自分たちの中に焦りが生まれるのもしっかりと感じていた。

 だがそれはレオンも同じだ。


「バティスはまだいい。お前だってエルドを除けば最速でアルミュナーレ隊の隊長だ。だが僕はまだ副隊長のままなんだぞ」

「すまん……」


 レオンも同じように焦っていることに気づき、バティスは小さく謝る。


「いいさ。僕もこんなところでいつまでも燻っているつもりはない。まあ、今はあの騎士をどうにかする方法を考えよう。あれの相手は他の隊長にも荷が重い」

「そうだな。次は確実にぶっ倒さないといけないからな」

「エルドに追いつくためにもだな」


 二人は次の戦いに備え、作戦を考えるのだった。


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