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 ハーモニカピストレの残弾は残り三発。剣は残り七本か。それに対して、敵の数はざっと二百ってところ。後ろの二人が後二十はやってくれることを期待しても、残りは百八十。剣なら一本二十六機計算か。さすがにキツイな。魔法を併用するにしても、もう少し効率よく倒していきたいところだが、そもそもアルミュナーレが多対一を想定してないんだよな。

 こうなったら、相手の武装も使わせてもらうか。

 即座に頭の中で方針を決め、行動に移る。

 斬りかかってきた一体をアーティフィゴージュで殴り飛ばし、右手の剣で別の機体の操縦席を突き刺す。

 同時に、敵の握っていた剣を奪い取り、別の機体に向けて振り下ろした。

 すると、敵機の持っていた剣は、装甲を破壊しながらもあっさりと折れてしまう。どうやら、敵機の持っている武器も相当安物を使っているようだ。


 コスト削減するにも、これはやりすぎだろ。むしろ、これでアルミュナーレに対抗できると思っていたのか?

 技術者なら、作っている時点でこいつじゃ勝てないことぐらいわかりそうなもんだけど。

 それとも、別の運用方法を想定していたのか?

 あまりの弱さに、疑問を抱きつつ殲滅を続けていくと、とうとう精神が限界に来たのか、俺の近くにいた機体が左腕を掲げ、俺に向けて大砲をぶっ放してきた。

 当然、そんな攻撃が当たるはずもなく、躱された弾丸は後方にいた敵機を破壊する。


「こんなところでそんなもんぶっ放したら危ないぞ」


 言いながら、倒れていた機体の剣を奪い、大砲を撃った機体の操縦席を貫く。

 発狂にも似た悲鳴が機体から上がった。


「くそっ! なんで!」

「こんな一機に!」

「死にたくねぇよ!」

「ここで功績を立てれば!」


 仲間が大量に死んでいるのにもかかわらず、漏れ聞こえてくる声を聴く限り敵機の操縦士の戦意はまだまだ衰えていない。

 活躍すれば何か報酬があるようだが、そんな機体じゃ新人はまだしも、一度でもアルミュナーレ同士の戦闘を経験したことのある奴に勝つことなんてできねぇよ!

 俺はクレイウォールを自分の足元で発動させ、せり上がる地面の力を利用して、一気に空へと飛びあがる。

 そして、落下しながら周辺を確認した。

 本物のアルミュナーレがいるとすれば、このハリボテどもの後方になるはずだ。

 カメラをそちらに向けると、一番後ろに並ぶ三機の機体。そして、その近くには逃げた魔導車が止まっていた。

 つまり、あそこが本陣ということだろう。

 俺が飛び上がったことで、自分たちの場所が知られたのを感じたのか、アルミュナーレが一機前へと出てくる。どうやら、俺と遊んでくれるらしい。

 なら、それまでにバトルスペースを作っておかないとな!


「お前ら、少し寝てろ!」


 着地と同時に、トルネードの魔法を発動させ周囲の機体を転倒させ、続けざまにファイアランスを発動し、機体の操縦席を貫いていく。

 と、ハリボテの壁の向こうに氷の槍が浮かびあがる。それは一瞬のうちに十本まで増え、一斉に俺目がけて掃射された。

 とっさにアーティフィゴージュを前にだし、直撃コースの氷槍を防ぐ。

 ガリンっと氷の砕ける音共に俺の機体に衝撃が走るが、その程度ではマジックシールドに守られたアルミュナーレの機体を破壊することはできない。

 だが、魔法が放たれたということは――


「来たか!」

「これ以上、好きにはさせん!」


 飛び出して機体が、真っ直ぐ俺に向けて斬りかかってくる。

 俺は即座にアーティフィゴージュから剣を抜き、相手の斬撃を受け止めた。


「お前はここで止める!」

「ハッ、雑魚の影に隠れてる奴らにそんなことが出来んのか!」

「帝国騎士を舐めるな!」


 つばぜり合いから、強引に押し込み相手を後退させる。

 相手はすぐに態勢を立て直し、左手にも剣を握って接近してきた。

 俺も相手に向かって走り寄りながら、持っていた剣を投げつける。それと同時に、左腕へ操作を切り替え、横スイングを放つ。

 大質量の鉄柱は、両手の剣だけでは受け切れない。

 相手は投げた剣を弾くと、すぐさま機体の脚を止める。

 俺のスイングは当然空振りに終わり、反動で大きく体をねじることとなった。


「隙あり!」

「ねぇよ!」


 厄介な左腕を先に切り落とそうとしたのだろう。二本の剣が肩の付け根目がけて突き出される。

 しかし俺は、アーティフィゴージュを地面へと突き刺し強引に反動を止めると、機体側に流れてきたその力を利用して体を浮かせる。棒高跳びのような動きだ。

 機体が宙へと持ち上がり、左腕を支えにして一本腕の逆立ちのようになった。

 重力のせいで操縦席から転げ落ちそうだが、しっかりとシートベルトが俺の体を支えてくれる。


「なにっ!?」

「おら!」


 頭上から、相手の頭部目がけて剣を突き出す。

 相手もとっさに機体を傾けるが、避けきれず左腕を破壊した。


「だが!」


 重力に従い降りてくる俺の機体に向けて、左腕を失った敵機が右腕を振りぬく。

 だがそれも予想済みだ。

 俺はアーティフィゴージュを回転させ、機体を空中で強引に動かす。肩への負担が少し大きいが、重い装備を付けるってことで肩の関節を強化しておいてもらってよかったよ。

 斬撃を躱し、地面を削りながら着地する。


「なんなのだ貴様は!」


 それは、帝国騎士の純粋な叫びだった。

 まあ、俺だって初見でこんな動きする敵に遭遇したら、そう叫びたくなるのも分かる。けど、ここは戦場だ。


「叫んでる暇があるなら!」


 アーティフィゴージュを地面から抜き、残り弾数の少なくなったハーモニカピストレ取り出し構える。


「機体を動かすべきだったな」


 バンッと放たれた弾丸は、正確に相手の右肘を撃ち抜いた。


「このぉぉおおお!」


 両腕を失ったアルミュナーレがアイスランスを放つ。

 その槍は、マジックシールドによって結合を緩められ、俺の機体の装甲に当たると脆く崩れ去る。


「こんなところで! こんなところで私は!」


 戦う手段を失った機体に対し、俺は剣を抜きとどめの一撃を加えるため走り出す。

 直後、俺の足元にファイアランスとアイスランスが突き刺さった。


「貴殿の努力は無駄ではないぞ」

「よく耐えたじゃん」

「残りの連中か」


 槍が降ってきた方向を見れば、そこには二機のアルミュナーレ。

 後方に待機していた、残りの機体だろう。

 となれば、ようやく全力で来る気になったってことか。


「下がっていろ。あとは俺たちが片づける」

「いいとこどりで悪いけど、これが作戦だからな」

「すまん、後を頼む」


 両腕を失った機体が、ハリボテの壁の向こうへと消えていく。

 一瞬追おうかとも考えたが、あの二機がそれを許すとは思えない。

 どうせ全部倒すのだ。それなら、こいつらを倒してから追いかけても問題はないだろう。

 そう判断し、俺は剣を構えた。


「一機で俺たちとやり合うつもりか?」

「無茶するねぇ。まあ、仕方ないかもしれないけどさ」

「無茶だと思ったことはねぇな。どんな奴だろうと、俺は負けねぇよ」

「いい啖呵だ」

「確かにあんたの腕は一流だ。それは俺も認めるぜ。けど、物には限界ってもんがある」

「なに?」


 相手の言っている意味が分からず、俺が眉をしかめた途端。後方の隊長二人が声を上げた。


「エルド隊長、燃料が!」

「こちらも残りが心もとない」

「チッ、そういうことか」


 すでに二時間以上戦い続け、敵機の装甲が柔らかいことに引かれて魔法を放ち過ぎていた。

 そのせいで、後方の二人は濃縮魔力液(ハイマギアリキッド)の残量が枯渇し始めていたのだ。

 俺は、アーティフィゴージュ内にある予備タンクのおかげでまだまだ問題ないが、アルミュナーレ二機を相手取るには武装が少し心もと無い。

 後ろの二人が崩れたら、ハリボテどもの大隊を抑えられなくなる。


「作戦ってのはそういうことかよ」


 大量の量産型を前面に配置することで、強引にアルミュナーレ隊を出撃させ、その燃料が枯渇し始めたところで真打のアルミュナーレが叩く。

 物量作戦としては、確かに有効だ。


「さて、お前の機体も燃料がそろそろ厳しいはずだ」

「投降――する? 今なら機体を貰って、捕虜になるだけの破格の待遇で出迎えてもらえるぜ」

「バカ言うな。お前ら二機ぐらい、残った燃料で十分だ」


 どうやら相手は俺の機体も燃料の在庫がまずい状態になっていると勘違いしてくれているらしい。わざわざ訂正する必要もないので、そこはごまかさせてもらおう。

 問題は武装だ。ハーモニカピストレは残り一発。剣も五本を切っている。


「お二人は基地へ下がりながら、ハリボテどもをけん制してください。こっちがキツイってことは相手もキツイってことです。強引には押し込んでこれません」

「エルド隊長は!」

「俺はここで二機を仕留めます」

「よくぞ言った」

「なら遊んでやるよ!」


 俺が啖呵を切ると同時に、二機が動き出す。

 俺を挟むように走り出すと、両側から魔法を放ってきた。

 この二人、連携がかなりしっかりとれている。もともと二機で動いていたのか、それとも同期かなんかかね?

 俺はマジックシールドで魔法の威力を減衰させながら、右側に来た敵に向かって駆け出す。


「お、俺と勝負か!」

「どっちも変わんねぇよ!」


 見た目同じ機体なんだから、どっちに誰が乗ってるなんて分かるわけないだろうが。

 アーティフィゴージュを前に突き出し、そのまま突撃する。

 相手は横にステップしてそれを躱すと、間髪入れずに剣を振り下ろした。

 俺は振り下ろされる腕を受け止めることで、その攻撃を防ぐ。

 だがまだ相手には左腕が残っている。

 予想通り、相手は左腕にも剣を握り、操縦席に向けて突きを放ってきた。

 だが俺も同時に、相手の脚をひっかけ、腕を引いて相手を引き倒すことで攻撃を躱す。


「チッ」

「ハァ!」


 一機を転倒させたところに、後方から来ていた一機が攻撃を仕掛けてきた。

 俺は振り向きざまに、転倒させた機体を踏みつけながら、アーティフィゴージュで斬撃を受け止める。

 そしてそのまま、力任せに相手を弾き飛ばす。


「まだそれだけの力があるというのか」

「燃料なくなりかけてるんじゃねぇのかよ!」

「あー、そうそう。もうなくなりそうだわー」

「てめぇ! 騙しやがったのか!」


 俺が棒読みで答えると、踏まれた機体から騒がしい声が聞こえたので、その場で足踏みしてもう一度強く踏み直し、アーティフィゴージュから剣を抜く。


「ぐあっ」

「騙して悪いが、戦争だからな」

「させるか!」


 足元の機体に向けて剣を振り下ろそうとすると、弾き飛ばした機体が握っていた剣を投げつけてきた。

 それは正確に俺の剣にぶつかり、軌道を逸らす。

 ザクッと切っ先が操縦席横の地面に突き刺さった。


「いつまでも踏みつけてんじゃねぇよ!」


 攻撃が失敗に終わったすきに、足元の機体が魔法を発動させる。

 アイスランスが俺の目の前に形成され、操縦席目がけて放たれた。さすがにこの距離だとマジックシールドの減衰があっても破損は免れない。

 けど、ここで一機仕留めるチャンスを逃すのは惜しい。流れは今こちらにあるのだ。それをみすみす逃す手はない。

 即座に判断した俺は、機体をしゃがませることで頭部を犠牲にしながらも槍を何とか躱す。出来ることなら、首をひねって躱してやりたいところだが、アルミュナーレの首ってそこまで自由が利くわけじゃないんだよな。


「まず一機」


 もう一度振り下ろされた刃は、今度こそ敵機の操縦席を貫いた。

 そういえば、これでアルミュナーレの撃破は通算七機目だな。いつの間にか双頭獅子勲章確定しているじゃないか。

 ああ、けどまたあの面倒な書類書きが待っているのか……つかこれ、俺が九機撃破したら、三つ首獅子勲章になるのか? なんかキモイな。


「よくもラオを!」

「知り合いか仲間か、それともそれ以上の関係か知らねぇが」


 俺は左腕を持ち上げ、相手に向けて構えると、腰を低く落とす。


「また突撃か! 一度見た技は喰らわんぞ!」

「冷静さを失っちゃいけねぇな」


 突撃してくる機体に向けて、俺は左腕の隠し兵器を起動させた。

 アーティフィゴージュの先端が開き、さらにすべてのハッチが解放される。しかしそこから剣の柄が飛び出してくることはない。

 さらに、濃縮魔力液(ハイマギアリキッド)がアーティフィゴージュへと供給され、物理演算器(センスボード)が指示に則り魔法を発動させた。

 直後、ズドンッとまるで一斉に大砲が発射されたような音と共に、機体の肩から黒煙が吹き出し同時にアーティフィゴージュの先端から、残った四本の剣が勢いよく吐き出された。


「なっ!?」


 突撃に備えながら斬りかかろうと剣を抜いてきた敵機は、突然飛んできた四本の刃にその機体を貫かれる。

 そのうちの一本は操縦席のすぐそばを貫通していた。あれなら、即死とはいかないまでも操縦者もただでは済まないだろう。


「ぐふっ……なにが」

「トータリーテ・イピリレーション。装備した武装を一気に射出する隠し兵器さ」


 一斉掃射は男のロマン。残弾なんか気にせず放つことにこそ、真の強さが存在するのだ。

 整備の連中にそう語ったら、思いっきり呆れたような眼で見られたが、俺はこのシステムを装備したことに一片の悔いもないぞ!


「帝国に……栄光を!」


 敵機はそれだけ言い残し、力尽きたように崩れ落ちる。

 周囲の量産型たちは、二機のアルミュナーレが同時に破壊されたことで戦意を著しく喪失したらしい。

 周囲を囲っているだけで、こちらに攻撃を仕掛けてくる気配がない。


「さて、後は雑魚だけが残ったわけだが」


 残飯処理は好きじゃないが、まあギリギリまで暴れさせてもらいましょうか。その壁の向こうには、手負いというか手がなくなったアルミュナーレと、この部隊の指揮官がいるわけだからな。

 すべての武装を撃ってしまったので、俺は足元の機体に刺さったままの剣を握り、掃討戦へと移行するのだった。



 基地からの砲撃支援を受けながら、迫ってくる量産型の大群を少しずつ削っていく。

 最初こそ数えていた撃破数も、いつの間にか数えるのを忘れていた。ただ、確実に二十五機以上は倒している。

 そんなことを考えながら、アズラが戦っていると敵部隊の奥のほうで爆音と共に巨大な黒煙が上った。


「な、なにが!?」

「エルド隊長か!」


 とっさにカメラをズームさせ、エルドの機体を視界に収める。そして、飛び込んできた光景に、アズラは我が目を疑った。


「本当に二機とも倒したっていうの――」


 エルド機の足元には、操縦席を剣で貫かれた帝国のアルミュナーレの姿。そして、少し離れた場所に今まさに崩れ落ちていく機体を見た。


「や、やった!」

「凄いな。いや、凄いとしか言葉が出ない」

「これが第一大隊の実力……」

「近衛部隊が全機出れば、この戦争終わらせられるんじゃないか?」


 アズラもボンヌも、二機同時に相手取り当然のように勝ってしまったエルドの姿に、ただただ感心するのみだった。

 同じアルミュナーレ乗りとして、嫉妬なんて感情が浮かびようもない、隔絶された実力の差をそこに感じたのだ。


「これで三機撃破ですね」

「ああ、相手ももう戦えないだろう。そろそろ引くはずだ」


 同じように、エルドたちによって倒されるアルミュナーレの姿を見た量産型たちは、完全に及び腰で先ほどまでのような攻勢が完全になくなっている。

 絶えず放たれ続ける基地からの砲撃に、ついには逃げ出す機体まで現れ始めた。


「ここが頑張り所だぞ。一気に敵機を押し返す」

「あ、は、はい!」


 残りの燃料はほとんどないが、この状態で膠着させるわけにはいかない。

 ボンヌが機体を前にだし、少し遅れてアズラも攻勢をかける。

 量産型たちはその攻撃に、非力な抵抗をして次々と破壊されていく。

 そんな中でも、エルドの動きはやはり別格だった。

 右手の剣と左腕の鉄柱。二つの武器と魔法を使い、アズラやボンヌが一機倒す間に三機以上をまとめて屠っていく。

 敵の戦線は完全に崩壊し、敗走しバラバラに散ろうとする量産型たちは、基地から飛び出してきた大砲を乗せた魔導車が次々に撃破していった。


 エルドが四機目のアルミュナーレを破壊し、敵司令を捕まえたのはそれから二十分後のことだった。


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