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魔導機人アルミュナーレ  作者: 凜乃 初
変わる世界
143/144

7

 機体の換装および補充を終え、俺たちの隊は本来の役目である第二王女の護衛としての任務を行う。

 クロイツルから緩衝地帯へ。その砦で一度陛下の部隊と合流する。

 帝国側が会談の場にと指定してきた場所は、正確に言えば緩衝地帯ではない。

 現在帝国側に侵攻を掛けたフェイタルが支配する町の一つだ。オルベラというその町は比較的大きな町であり、王族どうしが会談するのに十分な場所も確保できる。何より、フェイタルが支配しており、現在帝国側から最も近い町ということが理由だろう。

 何かあっても、真っ先に安全圏に逃げることができる場所だ。先日まで戦争をしていたものたちが会談を行うなら、それぐらいは注意しないといけない。

 帝国側としてはできることなら関係のない第三国でと言いたいところなのだろうが、これまでの行いと情勢の変化により帝国の周囲にはもはや敵しかいない。

 ある意味、オルベラ以外に両者が納得して会談を開ける場所はもう残されていないのである。

 そんな説明を移動中に聞かされ、会談中の護衛位置や順番を陛下側の部隊と決めていく。

 もちろん、陛下の護衛部隊は近衛騎士であるエドガー隊長の部隊だ。久しぶりに会うが、相変わらず騎士というよりも執事のほうが似合うような印象の人である。

 オルベラへの移動途中の休憩を使って色々なことを話し合い決め、会談の二日前にオルベラへと到着した。

 帝国の町に入るのは初めてだが、あまりフェイタルと変わったところは見られない。

 レンガや石造りのアパートが立ち並び、道は舗装されている。

 機体で歩いてもびくともしないし、かなりしっかりと舗装しているみたいだ。まあ、帝国内の主要交易路の一つでもあるそうだから、当然と言えば当然かもしれない。

 厳戒態勢の中、陛下と姫様が宿泊する宿へと到着する。

 この町で最も高級な宿の一つを貸し切りだ。スタッフも全てこちらが配置しており、本来の宿の従業員は全員休業中。まあ、しっかりと料金は払っているので文句は出ないだろう。


「ここが姫様の部屋みたいですね」


 用意された部屋へと入り、俺は窓から景色を眺める。

 周辺に同じ高さの宿はない。頭一つ飛び出た感じだ。これなら、外からの襲撃はあまり警戒する必要はないな。屋上も常に警備の兵が巡回しているし、全ての入り口にも兵士が立っている。

 俺が安全性を確認している最中に、姫様はベッドへと飛び込み、ポンポンと反動で跳ね、へたりと動かなくなる。


「疲れたわ」

「お茶用意しますね~」


 アンジュが別室に設置された台所へと向かい、お茶を用意する。

 その間にも、姫様は足をバタバタさせながら靴を脱ぐと、ベッドをもぞもぞと昇っていく。ああ、服に皺が……怒られるぞ。


「ああ! イネス様! ドレス皺皺になってます!」


 ほらやっぱり。

 ぷりぷりと怒りながら、姫様の側付きであるセイリアさんが駆け寄ると、そのまま姫様を抱き起す。

 完全に気の抜けてしまった姫様は、なされるがままだ。さて、とりあえず俺はいったん退室するか。

 これから姫様の着替えだろうし、男の俺は邪魔ものだ。言われる前にさっさと退室するに限る。

 俺が部屋を出ていこうとすると、セイリアさんからありがとうございますと声を掛けられた。俺は軽く手で答えて部屋を出ると、扉の前で警備の人たちと共に待機する。

 廊下の窓から見えるのは、正面の大通りだ。人通りは少なく、閉まっている店が多い。まあ、他国に絶賛支配され中の町なのだから当然だろう。

 ただ、民衆が暴れていないおかげで、こちらも乱暴をする必要がないのは助かった。下手に暴れられると、こちらも殺さなければならない。軍人ならまだしも、民間人なんて殺したくはない。

 だが皇帝が来るとなると、民衆の感情が爆発する可能性もある。一応、町の人には会談のある二日間家から出ないように通達を出して食料を渡してあるが、警備は厳重にしておかないと。

 少しすると、部屋の扉が少しだけ開き、アンジュが顔を出した。

 

「もういいのか?」

「うん、いいよ」


 アンジュの許可を得て、再び室内へと戻ると部屋着になった姫様が、やはりベッドにだらんと寝そべっていた。その手元には会談用なのか資料があり、寝ながら読んでいる。


「エルド」

「はい、なんでしょう?」

「今回の会談なんだけど、さすがに国家どうしのことだから私が出る幕はほとんどないと思うわ。お兄様が相手と話して、停戦条約の内容はあらかじめ相談されていたものがそのまま決まると思う」


 まあ、それが普通だろう。王というのはなにかと忙しいものだ。なので、国家間の話し合いなどは予め補佐官どうしで話し合い、内容を決め、決定の段階になって調印するだけにするのが普通である。

 今回も、既に補佐官は交渉に入っており、大筋も決まっているらしい。姫様が今読んでいる書類も、その類のものだろう。


「最後まで話し合いに参加できなかったのはちょっと残念だったけど、大筋内容は納得できるものになってるみたい」


 そういって寝そべったままの姫様は、一枚の用紙をこちらに差し出してくる。

 読めってことか?

 俺が受け取り、改めて姫様を見る。姫様は視線だけをこちらに向けて頷いた。なので、俺はその用紙に視線を落とす。

 内容はやはり停戦条約の内容に関するものだ。

 全部で五項、一項に付き十目ぐらいあるので全部で五十目ぐらいの内容だ。

 この場で全部読むのは面倒なので、五項だけを目で追う。

 国境の決め方、機体の保有制限、アヴィラボンブの製造禁止、精製施設の情報開示、傭兵雇用の制限

 大まかにいうとこんな感じの五項だ。この内容をさらに細かく突き詰めたのが各十目。具体的な数字や違反時の対処などが書かれている。これのほかに、帝国は侵攻した他国に対して賠償金を支払わなければならないようだ。

 法律は詳しくないが、おおむねおかしなことは書かれていない。

 だが、帝国への制裁がいささか緩いようにも感じる。

 正直、もっと厳しく縛ると思っていた。そのことを素直に伝えると、姫様は俺の考えを間違いだと指摘する。


「締め付けすぎると逆に逃れようともがくわ。ある程度動ければ、暴れようとはしない。そこにある限りを有効利用しようとするからね。見極めは難しいけど、これを見極めないとまた戦争になっちゃうから」

「なるほど」

「この内容ならほどほどだと思うし、市民への影響は最低限に収めてある。市民感情がすぐに戦争なんてことにはならないはずよ。食料関連の貿易は自由化してあるみたいだしね」

「市民感情を押さえられれば、上の人間も動けないわけですか」


 実際に戦うのは、アルミュナーレが全盛期のころは貴族が多かったかもしれないが、アブノミューレ部隊が主流になりつつある今、平民の兵士の割合が多くなってきているからな。

 平民の感情も無視はできないわけか。


「まあこれも中間報告だからもう少し変わるかもしれないけど」

「そのあたりは陛下しだいですね」

「お兄様も、帝王学は学んでいるわ。問題ないでしょ。久しぶりに、のんびり過ごせそうね」

「なら散歩でもします? オーバードの皇帝が来ると、外には出られないと思いますよ」

「それもそうね。少し歩こうかしら」


 と、体を起こしたところで、姫様は自分の服を見下ろす。そしてそのままベッドへと倒れた。


「着替えるの面倒だわ」

「ハハ、そうですか。では自分は周辺の地形を把握してきます。地図だけよりも、実際に見ておきたいので。アンジュは置いていきますんで」

「分かったわ。お願いね」


 ふらふらと揺れる手に見送られ、俺は宿の回りの確認に向かうのだった。




 翌日、皇帝が到着し町は物々しい空気に包まれた。

 厳戒態勢の中、両国の王がそろい会談の最終準備が進められる。

 そして予定通りの日程で、会談が開始され、二日の会議の後無事に停戦条約への調印がなされた。

 条約の内容は、あの時見たものとほとんど変わっていない。

 細かい部分では国境線の位置や、賠償金の金額、アブノミューレの保有数が変更されたが、その程度だ。軍事品の貿易は禁止となったが、食料や雑貨はこれまで通りに行われるし、新な国境線もフェイタルが緩衝地帯をランポルテ平原と命名し完全に制圧するのみとなる。

 今いる町や、他の制圧した町も順次解放することとなる。まあ、これらの町をうちの国が持っていても、防衛的にも商品の移動的にもうま味はないからな。むしろ、駐屯するフェイタルの兵士たちに市民たちの暴徒が襲い掛かる危険性があるぐらいだ。それならば、さっさと解放してしまったほうがいいだろう。

 そんな感じでつつがなく会議は終了し、現在はフェイタルへの帰路へとついていた。


「エルド! 帰ったらやることが沢山よ! 復興支援に、軍の再編成、ランポルテ平原の探査に基地の開発。それに、いい加減統括の後継も育てないと」

「そういえば、姫様は後継が育つまでの中継ぎでしたね」

「女だからね。戦争が終われば、さすがに統括でい続ける意味はなくなるものね。結婚の話も進めないといけないしね」

「ついに姫様も結婚ですか。感慨深いですね」


 婚約のまま会うことなく保留とされていた、ウェリア公国のアルド王子との結婚話も戦争が終われば本格的に再開するだろう。

 最初は乗り気でなかった姫様も、なんだかんだ受け入れているらしい。ありがたいことだ。いつまでもだだ捏ねられると、家臣が困る。


「何よ、その父親みたいな発言は。結婚だって、すぐにするつもりはないわよ。せめてあの子(アルド王子)趣味(オタク)を直さないと結婚なんてできないわ」

「別にそれほどおかしな趣味でもないでしょう。少し本が好きなだけですし」

「そんな生易しいものじゃないわよ! 前に顔合わせしたときに何に感化されたのか、最近コスプレに目覚めたらしいわ。私の分も大量に用意してあるって、手紙に書いてあるの……」

「それは……」


 何といえばいいか。そういえば、前の顔合わせの時に姫様のメイドの格好を本のキャラクターのコスプレと勘違いしてたな。あれに感化されたわけか。


「嫁いだ先でコスプレなんて絶対に嫌よ! しばらくは交流しながらあの子のオタク趣味を矯正するわ」


 婚約者の矯正に闘志を燃やす姫様。だが俺は知っている。オタクは締め付けられるほど燃え上がるということを。

 戦後処理とおんなじだな。きっと姫様にもいつか分かるときが来るだろう。ま、教えないけど。

 そうやって、いろいろと婚約者のことを考えていれば、結婚しても上手くいくだろうし。

 俺は機体のモニターに拳を掲げる姫様を映しつつ、優しい視線を送るのだった。

 

 


次回 エピローグ


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