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魔導機人アルミュナーレ  作者: 凜乃 初
ベルジオ王国交渉編
119/144

6

 ベルジオ最初の町から王都へはさほど時間はかからない。

 道がしっかりと整備されていることも理由に挙げられるが、最も大きな要因は、単純に国の大きさだろう。

 山岳と帝国に挟まれた大森林。それがベルジオの国土だ。

 国土だけで言えば、なかなかの広さを誇るのかもしれない。しかし、うっそうと茂る森林の伐採は困難で、人が住める土地というものは全体の三割にも満たない。

 故に、必要な施設は一つの町へと集約され、少ない数の大きな町へと発展していったのだ。

 エルドに前線の防衛を任せ、先を進むイネスは到着した王都を見て思う。

 凄いと。

 大森林の中に忽然と現れる巨大な町。森林が天然の城壁となっているため、町を囲う壁は低く、街道から町の中の様子を見ることが出来た。

 立ち並ぶ家は皆木造の三階建て。その煙突からは、白煙が登り人々の生活を伝えてくる。

 道にも木板が敷かれ、歩きやすいように舗装されていた。

 ゴトゴトと特徴的な音を鳴らしながら、町の中を馬車が進み、その横で子供たちが遊んでいる。

 まるで、今まさに攻め込まれている国とは思えないほどの平和がそこにはあった。


「ここがベルジオの王都ですか。ずいぶんと落ち着いているのですね」


 馬車の中で感想を呟いたイネスに反応したのは、護衛を任されたエイスだ。


「平和ボケともいえる。ここの国は攻められたことが無いから」


 捕虜になる恐怖を知らない。家を焼かれる絶望を知らない。

 だからこそ、戦争の波がここから三日の位置まで迫ってきていても、落ち着いていつも通りの生活を送れているのだ。


「なるほど、エイスはベルジオに関してどれぐらい知っているの?」

「帝国にいた時に、少しの間諜報をしていた……ました」

「敬語はいいわ。しゃべること自体が苦手なんでしょ? 話しやすい言葉の方が、こちらも意味が分かりやすいわ」

「感謝」


 エイスは表に出ることは無い存在として育てられた。故に、会話は必要最低限しかしておらず、その会話も一方的に何かを伝えるものばかりであり、言葉のやり取りをするということがほとんどなかったのだ。

 だからこそ、端的に、必要なことを告げることは出来るのだが、貴族や王族、目上の者に対する話し方は出来なかった。

 イネスもそのことは理解しているため、この場だけは許可を出す。


「それで、ベルジオは?」

「現時点で国王はモンドール・デル・ベルジオ。四十七歳で健康。王妃はネーベルで三十八歳。王位継承権第一が第一王子のルイベ二十歳、次が第一王女のルイネルの二十二歳。子供はこれだけ」

「意外と少ないのね」


 イネスは自身の所が五人兄妹だったことを考え、二人だけというのは王族にしてはかなり少ないように感じた。

 帝国では側室の子も含め十五人以上の継承権を持った子供がいるという話も聞くし、フェイタルの北西にあるウェリア公国でも男子が第二子までは生まれている。

 男子を一人しか用意しないのは、国としてはかなり危険なはずなのだ。


「所説あるが、継承争いを嫌ったという話が有力。国内は安定しているため、暗殺の可能性が少なかったことも理由にあげられる」

「なるほどね。そこも平和ボケってことかしら」

「安定しているなら、継承争いの排除も有効な手段。帝国では、確認できるだけで五人暗殺されている」

「あら、帝国はそんなことになってたの?」


 思わぬ情報に、イネスが目を見開く。


「判断不明も三人。帝国の王宮は常に殺伐としている。裏にいても、嫌な空気がピリピリと伝わってきていた」

「行きたくはない場所だけど、いずれは行く必要があるんでしょうね」

「旦那様の命令。傷一つ付けさせない」

「期待しているわ」


 その後、貿易資源や産業の情報などを確認しつつ、イネスたちの乗った馬車は王宮へ続く城門を潜っていく。

 そこに広がっているのは、巨大な木造の扉。

 その前にはずらりと兵士たちが並び、イネスたちが乗る馬車の道を作っていた。

 馬車はその道に沿って進み、門の前で停まる。

 すぐに扉が開けられ、案内係から声が掛かる。


「フェイタル王国の特使様でいらっしゃいますね?」

「ええ」

「案内を務めさせていただきます、コイノと申します」


 恭しく馬車の前で頭を下げる女性。その身にまとう衣装は、エルドがその場にいれば着物と驚いていたであろう代物だった。


「お部屋へ案内します。こちらへどうぞ」


 まずエイスが降りて、周囲を確認する。その後、エイスが差し出した手を取ってイネスが馬車から降りてきた。

 側付きたちは、せっせと荷物を下ろしはじめ、ベルジオの係の者と共に運び込んでいく。


「話には聞いていたけれど、不思議なところね」


 それが、最初に感じたイネスの感想だ。

 フェイタルやオーバードと違う建築様式。石を使わず、木を組み合わせて作られた五階建てのその城は、木の色を残しながらも、美しいと思える佇まいがある。そこは、まぎれもなく王の住む城としての雰囲気を出していた。

 案内役の後に続いて、城の中へと入っていく。

 床にはフェイタル同様ふわふわのカーペットが敷かれ、所々に調度品が飾られている。


「こちらの部屋をご用意させていただきました。荷物やお連れの方には、すぐ隣の部屋をご用意させていただいております」


 部屋の中へと案内されると、一面に広がるガラス張りの窓からは、大森林とその奥にそびえる山脈が一望できた。

 景色としてはかなりいい部類に入るだろう。

 内装は、会議にも使えそうな長机が置かれ、その横には十人以上が一度にくつろげそうなソファーがある。

 壁際には、別の部屋へと続く扉があり、その先は寝室となっているようだ。

 

「いい部屋ね。ありがとう」

「他に何かご入用がありましたら、何なりとお申し付けくださいませ」

「後で、会談の予定を確認したいから、分かる人をよこしてちょうだい。そうね、一時間後でいいわ」

「承知いたしました。では失礼いたします」


 案内役が退室し、入れ替わるように側付きたちやオレールたち騎士隊が入って来た。


「荷物の運び込みは終了しました。使いそうな書類をお持ちしましたが、どちらに置きましょう?」

「テーブルの上に置いておいて。それで、エルドから連絡は?」


 側付きに指示を飛ばしつつ、イネスはオレールへと尋ねる。


「まだありませんわい。そろそろ来るとは思うんですがのう」

「そう。出来れば会議前に情報を仕入れておきたかったんだけど」


 前線の様子がどうなっているかで、ベルジオへの協力度合いも変わってくるとイネスは考えていた。

 彼らだけでも対処できるのならば、エルドは早めに手元へと戻すべきだし、もし対処が困難であれば、エルドには一働きしてもらわなければならない。

 現状、この国の様子を見た限りでは、エルドには働いてもらわなければならなそうだと感じつつ、イネスは交渉の準備を進めていく。

 そして、ちょうど一時間経ったころ、部屋の扉がノックされた。


「どちら?」

「宰相のフォーレと申します。ご挨拶と今後の予定についてお話に参りました」


 扉越しに掛けられた言葉に、イネスは頷きエイスが扉を開く。

 立っていたのは初老の男性。髪は死滅していたが、その代わりだと言わんばかりに白鬚が伸びている。

 そして、その後ろにはまだ若い男性が一人。


「お初にお目にかかります。イネス第二王女殿下。ベルジオ王国宰相を務めさせていただいております、フォーレ・ノスタルジと申します」

「わざわざありがとう。イネス・ノルベール・フェイタルよ。今回は、特使として来させていただいたわ。後ろの方は――私の記憶が正しければ、第一王子のルイベ様だと思ったのだけど」


 イネスがその男性へと視線を向ける。

 フォーレの影に体を半分隠すようにして立つ男性の姿は、馬車の中で確認したベルジオ王国第一王子、ルイベ・デル・ベルジオの姿絵とそっくりだったのだ。


「初めまして。イネス第二王女殿下。ルイベ・デル・ベルジオと申します。今回は、勉強のためにフォーレの補佐として同行させていただきました」

「そう言うことでしたか」


 ルイベの年は二十一と、すでに成人し王族としての教育はほとんど終わっている。しかし、交渉などの実地はどうしても経験が足りていなかった。それを補うために、今はフォーレの補佐をしながら、外交について学んでいるのである。


「早速ですが、この後の交渉に関して、事前の打ち合わせを」

「ええ、どうぞ」


 席に掛けるように勧め、イネスも対面へと着席する。

 周囲を近衛騎士たちとベルジオの兵士たちに守られつつ、打ち合わせが始まった。


「とりあえず、こちらの希望としては以前と同じよ。オーバード帝国への非難声明と足並みを合わせての武力行使の示唆」

「それですと、こちらの回答も変わりありません。ベルジオは現在すでに帝国と交戦しており、貴国の要望に応えられるだけの余裕がないと言うことになります」

「ええ、分かっているわ。来る途中でベルジオとオーバードの交戦の情報も少しだけ手に入れることが出来ましたし。そこでなのですが、私から提案します。私たちの要望を前向きに検討していただけるのなら、私の騎士お貸ししますがいかがかしら?」

「殿下の騎士というと、近衛騎士ですかな!?」


 イネスの提案に、フォーレが目を剥き、ルイベが思わず声を上げる。


「ええ、今は帝国側の動きを偵察してもらうために少し離れていますけど、私が指示を出せばすぐにでも介入できるようにしてあります。少し厳しいのでしょう?」

「それは……」


 自国が負けていることを認めることが嫌なのか、それとも交渉の場として安易に相手に情報を渡したくないのか、フォーレは口ごもる。

 しかし、そのしぐさが答えを物語っていた。


「私たちは、なぜこの国が帝国に狙われているのか知りませんが、戦力の投入量を考える限り、帝国はかなり本気です。それだけのものがこの土地にあると言うことですわよね?」

「そうですね。これは伝えておいた方がいいのかもしれません」

「ルイベ様、それは」

「いや、これは伝えておいた方がいいと思う。じゃないと、次の戦火を招きかねない」


 イネスの揺さぶりに、ルイベが口を開こうとする。それを、フォーレが止めた。

 だが、ルイベもただ揺さぶられたから、しゃべろうとしたわけではない。王族として、この情報は渡しておいた方がいいと判断したから、話すのだ。


「ベルジオの主産業が鉱物だと言うことはご存知ですか?」

「ええ、それと副産物として掘り出される魔力石の魔力を使った特殊兵器ですわね」

「そうです。そして、それが今回の原因でもある」

「魔力石――魔力液(マギアリキッド)を欲してですか? ですが、副産物程度の量では――まさか!?」

「はい、大規模な魔力石の鉱脈が、ベルジオの大森林で見つかったのです。帝国はそれを知り、この国へと侵攻してきました」

「そう言うことですか」


 現在、どこの国も一つは魔力石の鉱脈を持っている。しかし、オーバードとフェイタルがほぼ同時に魔力液(マギアリキッド)で動くアブノミューレを開発したことで、魔力石の需要が爆発的に高まっているのだ。

 需要が高まれば当然値段は跳ね上がる。他国から輸入するにしても、足元を見られては戦争を続けることが出来なくなる。

 そこに、ベルジオで魔力石の鉱脈が見つかったとなれば、それを欲するのはある意味当然のことと言えた。


「我が国はまだ国内の鉱脈で賄えていますが、帝国だとそうもいかないのですね」


 間接的にオーバード帝国が追い込まれているようにも聞こえるが、これは単純に戦争を仕掛けている国の数の問題だ。

 どこかの戦場で決着が付けば、そこにいた部隊が別の戦場へと投入される。その前に、包囲網を完成させる必要があると、イネスは確信する。


「帝国が魔力石を狙っているのならば、今後確実に侵攻の勢いは増すはず。アルミュナーレに対抗できるのものは、最終的にアルミュナーレだけになります。これは、アブノミューレが出てきても変わらなかった事実。それを受け止められるなら、交渉の余地はあると思いますが?」

「……確かにそうですね。しかし、そうなると私の一存では厳しそうです。一度陛下に確認を取らなければ」


 いくら宰相といえども、全てを決めてしまえるわけではない。

 裁量権を有すると言っても、あくまでも国のナンバー2なのだ。


「構いませんわ。直に我が騎士から情報が送られてくるはずです。それを見てからでも、遅くはありません。それまでは、我が騎士が前線を支えてくれるはずです。交渉の邪魔はされたくありませんから」

「感謝いたします。では、一度戻り、取り急ぎ検討しますので、今日はここまでと言うことで」

「ええ」


 二人で一度握手を交わし、その場はお開きとなった。


 カトレアがエルドからの手紙を持って王都へとやって来たのは、交渉から二時間後のことだった。


「イネス様、お待たせいたしました」

「ありがとう」


 差し出された手紙を受け取りつつ、カトレアから現場の情報を聞く。

 その感想は――


「随分面白そうなことになってるのね。ルイネル王女に叩き上げの部隊長、特殊武装にゲリラ戦かぁ。国としては追い詰められ過ぎじゃない?」

「現状、そうですね。エルド隊長が介入しなければ、今頃最初の町は制圧されていたと思います」

「これは、意外と早く決着つきそうね」

「はい。ルイネル様より、戦闘への介入依頼も出されましたので」


 その手紙も、すでにベルジオ側へと渡されている。

 それを読めば、今行っている交渉も問題なく進むことになるだろう。


「状況は理解したわ。カトレアは向こうに戻るの?」

「いえ、このまま警護に当たるようにとの命令ですので、こちらに合流します」

「分かったわ。オレールたちと役割分担を決めておいてね」

「はい」

「さて、我が騎士の動きが分かったことだし、こちらも少し強気に交渉と行きましょうか」


 今後行われる本当の交渉を前に、イネスは自分の切れる手札と、相手の要求を想像するのだった。


         ◇


 夜。大森林は暗闇に閉ざされ、人の目はその意味を果たさなくなる。

 しかし、そんな時間に動く者たちがいた。

 鳥の鳴き声のような音で合図を送り合い、互いの位置を確認する。

 少しずつ、しかし確実に包囲網を狭め、敵の様子を窺う。


「やはりアルミュナーレがいる。あれはフェイタルのものだ」

「ベルジオが救援を依頼したと言うことか」

「面倒だ。幸い一機しかいない。操縦士を殺せばなんとでもなる」

「それが俺たちの仕事だ」

「そう言うことだ」


 包囲網を完成させた部隊が、音を立てずに暗殺者たちがキャンプ地へと忍び寄る。

 そして――


「ツインフレイムサークル・トリディカプル(13重)、セットアップ。スタート!」


 ゴウッと突然燃え上がる炎。それは、キャンプ地をぐるっと一周するように燃え上がり、その内側にもう一つの輪を作る。

 輪と輪の間には、その男たちが閉じ込められていた。


「ダメダメ、全然だめだよねぇ」

「誰だ!」

「フェイタル王国、第一近衛アルミュナーレ大隊第二王女親衛隊サポートメイド、アンジュ。エルド君に手を出そうとするなんて、許される行為じゃないよ?」

「クソッ!」


 暗殺者たちは、各々の使える魔法で目の前の火を消そうと試みる。しかし、アンジュの全力で行使された炎は簡単に消えることはない。それどころか、勢いを増し、男たちの周囲から酸素を急激に奪っていく。


「このままでは」

「隊長、俺を使え」

「すまん」


 短い言葉の中で、男たちは決断する。

 ツーマンセルを組み、片方の男が命を捨てて魔法を発動させる。

 それは、もう片方を炎の外側へとはじき出した。


「オーバードの為に!」


 口々にそう言うと、炎の中に残った者たちは、毒を服用しその場に崩れ落ちる。

 その間にも、助けられた者たちがアンジュへと迫った。


「必ず殺すぞ」

「王国のサポートメイドだ。全力でかかれ」


 その手にナイフを握り、魔法でけん制しながら一斉に襲い掛かる男たち。

 アンジュは、そんな男たちを見ながら、口元に笑みを浮かべる。


「甘いよね。暗殺者としても、戦闘者としても、全部二流だよね」


 そう言って取り出したのは、ベルジオの兵士たちが持っていた武装。ブロンゾ(手りゅう弾)だ。


「フレイムシールド」


 自身の周囲に炎の壁を作ると同時に、ブロンゾを相手の足元へと投擲する。

 直後、光と共に起きた爆発は、襲い掛かって来た男たちを一瞬のうちに吹き飛ばした。

 かろうじて生き残った者たちも、重傷を負い痛みに動くことができない。

 アンジュはそんな男の一人へと近づき、その顔をのぞき込む。


「うーん、死にはしない……かな? けど、情報とか持ってなさそうだしなぁ」


 暗殺部隊であるならば、本体とは別の指示系統の可能性もある。そもそも、失敗の可能性もある部隊が、重要な情報を持っているとは思えなかった。


「まあ、向こうに渡せばいいか」


 アンジュがその場で右手を掲げる。すると、テントの影に潜んでいた、ベルジオの兵士たちが一斉に飛び出してきた。

 彼らは、素早く生きている暗殺者たちを拘束し、最低限の治療を行うと、どこかへと連れていく。

 それを見送っていると、アンジュに後ろから声が掛けられた。


「その強さ、凄まじいな。ぜひうちにも欲しいよ」


 振り返ると、そこにはルイネルがいた。いつものタンクトップとハーフパンツ姿が、闇夜に残る炎に照らされている。


「どういたしまして。けど、ごめんなさい。私はエルド君のものだから」

「ククッ、フェイタルではなく彼のものか」

「はい、奥さんですから」

「彼が羨ましいな」

「ルイネル様は夫や婚約者はいないのですか?」

「ああ、特に急ぐ必要もないと思っていたら、こんな年になってしまったよ」


 豪快に笑うルイネルに、それじゃあ確かに難しいかもと思うアンジュ。


「では、いいなと思うタイプは? 意外と部隊長の中にいたりします?」

「彼らか? 身分は置いておくとしても、彼らではまだまだだな。今の彼らでは私を支えることは出来ないよ。私としては、グッと引っ張っていってくれる人がタイプなのだがね」

「難しいかもしれませんね」


 師団を統率できるだけのカリスマを持った王族を引っ張れる存在など、なかなかいない。それこそ、他の国の王族でもない限り難しいのではないのだろうか。


「分からんぞ。彼らも必死に意見を出してくれている。考えることを止めない限り、人は上へ上り続けることが出来るからな。あいつらの中から、私が付いていきたいと思える人物が生まれるかもしれん」

「なるほど、育てている訳ですね」

「ククッ、そうとも言えるかもな。さて、回収は終わったようだ。ここがバレている以上、明日の朝には移動になる。アンジュも早めに眠ることだな」


 暗殺者の部隊が来ているということは、相手にこの拠点がバレたと言うことだ。ならば、次に来るのはアブノミューレたちの部隊だろう。

 そうなれば、多くの死傷者を出すことは避けられない。すでに反撃の準備は進められているし、ここでぶつかる必要はない。

 町への攻撃の直前には、作戦を開始できる予定だ。


「はい、では失礼しますね」


 アンジュは一つ頭を下げてルイネルの元を離れる。

 ルイネルもアンジュを見送りつつ、自身のテントへと戻るのだった。

 そして、その影で拳を握りしめる男。

 可能性があるかもと言われて、密かに喜ぶトロンは、残り火に頭を輝かせつつ気合を入れるのだった。


次回予告

反撃作戦が――始まる

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