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魔導機人アルミュナーレ  作者: 凜乃 初
緩衝地帯建砦編
108/144

11

「なぜこんなところにアブノミューレが……」


 そんな言葉を零したのは、元近衛騎士のジャン・ローランだ。

 彼は今、部隊を率いてγブロックから戦闘中であるδブロックの増援に向かうため緩衝地帯を進んでいる途中だった。

 そこに、偶然遭遇したのが、撃破したばかりのアブノミューレ部隊である。

 しかし、この部隊の様子がジャンは気になった。

 あまりに手ごたえが無さすぎるのである。

 本来ならば、部隊の統括としているはずのアルミュナーレが一機もおらず、それどころかアブノミューレにはまともな武装が施されていなかった。精々が、一振りの剣と備え付けの大砲ぐらいである。

 こんな武装では到底基地どころか、しっかりと武装したアブノミューレ隊を倒すこともできない。


「ジャン隊長、敵の馬車には何も乗っていません。降ろした形跡もないので、おそらく最初から空だったものかと」

「空? 燃料も弾薬も無しですか?」

「ええ、一応食糧が入った馬車はありましたが、二台だけです。残りの四台は、何も乗っていませんでした」


 余計に不気味な部隊だ。

 その意味を考えるジャンの元に、二機のアルミュナーレが近づいて来た。

 一機は、王都からなんとか合流に間に合った、十五番隊のワッツの機体。もう一機には、十八番隊のモスコフの機体である。


「機体の回収終了しました。後はもったいないですが燃やすだけです」

「こっちも部隊の状況把握終了しました。大破は無し、小破が七機ですが、どれも戦闘に支障はありません」

「分かりました。では手早く燃やしてしまいましょう」


 出来ることならば、倒したアブノミューレの機体は回収して資材にしてしまいたいところではあるが、今は任務中。基地に輸送している時間が惜しい。

 そのため、新たに配布された機体の廃棄マニュアルに基づき、焼却処分することとなった。

 三機のアルミュナーレが一斉に魔法を発動させ、一カ所に集めた残骸を一気に燃やす。


「処理はこれで大丈夫でしょう。問題は、この部隊がここにいた理由ですね」


 何の意味もなく、こんな部隊がここにいるはずがない。何かしらの理由があって、ここにいるはずなのだ。


「尋問はどうなっていますか?」

「時間もないので、手早く済ませるようには言いましたが、こちらも素人ばかりですからね」


 今回の作戦に、尋問拷問の専門家など連れてきていない。そのため多少時間が掛かっているようだ。


「あまり時間が掛かるようなら、切り上げて足を進めます。すでに戦闘は開始されているはずですし」


 作戦の開始予定は今日の日の出と同時のはずだ。すでに日は山脈から顔を完全に覗かせており、なるべく急いだほうがいいに越したことはない。

 と、三機の足元に一人の兵士が息を切らしながら駆け寄ってきた。


「た、大変です! 奴らの目的が分かりました! 奴らは、基地に空爆を仕掛ける気です! 緩衝地帯での戦闘を前に、戦力を集中させないようにするため、γとεそれぞれのラインにアヴィラボンブを飛ばす予定だと言っていました! ここにいた部隊は、その操縦者たちの回収部隊です!」

「チッ、そう言うことですか」


 帝国の考えに、ジャンは間が悪いと舌打ちする。

 もう少し作戦の開始が遅ければ、基地の防衛は問題なかっただろうが、確かに戦力の分散は成功した。逆に、もう少し遅ければ、まったく関係なく今回の侵攻を成功させることが出来ただろう。

 だが、部隊が減っている今、基地の防衛は手薄になっている。対アヴィラボンブ用の対空機銃が開発させているとはいえ、まだアルミュナーレの魔法に頼っている部分は大きい。

 このままでは、確実に基地に被害が出る。

 だが、ここで戦力を一部でも基地に戻せば、現在行われている侵攻戦にどのような影響が出るか分からない。

 本当にタイミングが悪かった。


「どうします。部隊を基地の防衛に割きますか?」


 ワッツの問いかけに、ジャンは少し悩んだ後答えを出す。


「いえ、基地には伝令だけを送り、警戒と退避を促します。私たちはこのまま南下し、作戦通り敵を挟み撃ちにしましょう」

『了解』


 ワッツの判断に従い、彼らは再び南下を始める。

 そして、戦場の気配がし始めたころ、彼らの前に一機の黒いアルミュナーレが立ちはだかった。


「待ち伏せ?」

「いや、敵は一機です。私たちで叩きましょう」


 ワッツとモスコフは、即座に剣を抜き戦闘態勢を取る。

 その後ろに控えているアブノミューレの部隊も、いつでも動き出せるよう構えを取る中、ジャンだけはその機体を見て怒りに震えていた。


「その機体、王都を襲撃した傭兵ですね」

「なっ!? では奴が」

「エルシャルド傭兵団の戦闘狂、フォルツェ」


 驚く二人をよそに、当のフォルツェは懐かしそうにジャンへと問いかける。


「へぇ、そのことを知ってるってことは、あの時王都にいたのかな?」

「ええ、よく覚えていますとも。あなたに殺された、第二王子の近衛騎士なのですから!」

「ああ、あの突っ込んできた機体か。少しは強くなれた?」

「貴様!」


 王都を襲撃された際、ジャンは王子を殺された怒りに任せフォルツェへと攻撃を仕掛け、そしてあっけなく返り討ちにあった。

 あの時、大破した機体の中で、どれだけ涙を流したか。そして同時に誓ったのだ。必ず、あの機体は自分で討つと。

 剣を抜き、盾を構える。

 ジャンの戦闘スタイルは、いたってシンプル。アカデミーの教本に乗るような、剣と盾を使った戦い方だ。

 だが、その戦い方を極めた存在でもある。

 どこまでも基礎に忠実に、それ故に築き上げられた操縦技術は本物だ。


「あの時は、怒りで我を忘れましたが、今回はそうはいきません」

「あの時は四対一だったけど、今回は三対一かな? まあ、頑張ってみてよ。期待してるからさ!」


 姿勢を低くし、フォルツェの機体が一気に加速し突っ込んでくる。

 ジャンは集団から一歩前に出て盾を構え、その間に他の二機が左右へと回る。

 そして衝突。

 正面からの切り降ろしを盾で受け止めつつ、剣を突き出す。

 それは相手の盾によって逸らされるが、これで両腕を押さえた。


「そこ!」

「くらえ!」


 回り込む二機が、同時にランス系の魔法を放つ。

 一直線に飛ぶ二本の槍が、フォルツェの機体に触れる直前、地面が盛り上がり、土壁がそそり立つ。

 槍はその壁にぶつかり霧散した。


「残念でした!」


 フォルツェが楽しそうに声を上げ、盾で防がれていた剣を手放すと、大きく縦に飛んだ。

 そして、自身で生み出した土壁を蹴りあげ、さらに上昇する。


「そら!」


 上空からのアイスランスの連打。ジャンは咄嗟に飛びすさりながら、槍を躱し距離を取る。


「相変わらず、おかしな動きを」

「君が単調過ぎるんだよ。そんな想定内の動きしかできないのなら、さっさと死んでね!」


 着地したフォルツェ機から白煙が上がる。


「リミッティア・ペルフェシィー発動」


 四肢を地面に付いた状態からの爆発的な加速。それは、明らかにアルミュナーレの限界速度を超えるものだ。

 だが、ジャンにはこれも以前見たことのある光景。

 二度も同じ手をやすやすと受けなどしない。

 盾を構え、一撃目を受け止める。

 さらに一歩前に出ることで、相手の間合いを狂わせ、次の攻撃の余裕を奪う。

 そして、シールドバッシュで間合いを取ってからの魔法。

 バランスを崩していたフォルツェ機は、その魔法を躱せない。盾で何とかガードしながらも、その衝撃で大きく後方に転倒した。

 一連の流れは、フォルツェの動きを思い出しながら何度もイメージした動きだ。

 それが完璧に決まったことで、ジャンの中に確かな確信が生まれる。


「自分はまだ戦える!」

「隙を逃すつもりは無いぞ!」

「今!」


 さらに、左右へと回っていた二機が、倒れたフォルツェ機に迫り、剣を振りあげる。

 だが、フォルツェはそれを待っていた。


「来たね!」


 一瞬フォルツェの機体がぶれた様に霞む。そして次の瞬間には機体はしゃがみ状態にまで立て直しており、さらに伸ばされた足がワッツの機体の脚を引っかける。


「なに!?」

「喰らえ!」


 接近してきたもう一機が、剣を振り降ろした。

 操縦席を抜かれた機体が、地面へとゆっくり倒れ込む。


「まず一機!」


 それは王国の、モスコフの機体だった。

 操縦席を撃ち抜いたのは、フォルツェ機の腕。その爪には衣服の破片が引っかかり、血が滴っている。


「そして二機目!」

「これ以上はさせません!」


 その凶爪(きょうが)がワッツの機体を狙おうかというところで、接近してきたジャンが斬りかかる。

 フォルツェは自機の腕を振るい、串刺しになっている機体をジャン目がけて放り投げた。


「モスコフ!」


 ジャンは機体をとっさに受け止めるが、それが悪手だった。

 フォルツェが、破壊した機体の風穴目がけて腕を突き出す。当然その先にあるのは、ジャンの機体の操縦席だ。


「ジャン隊長」

「すまんモスコフ」


 ワッツの叫びに、フォルツェの狙いに気付いたジャンはモスコフの機体を盾にしてその攻撃を受け止める。

 さらに、自身の剣を機体越しに突き出した。

 モスコフの機体の脇腹を突き抜けて飛び出した剣が、フォルツェ機の操縦席へと向かう。

 切っ先はあと少しのところでフォルツェ機が横に飛び、回避された。


「ハハ、死んだ仲間の機体を突き刺すなんて、残酷だね!」

「あなたがそれを言うのですか!」

「僕には敵だからね!」


 機体をバネのように跳ね上げさせ、フォルツェ機がジャン機目がけて飛びかかる。

 ジャンは、モスコフの機体を退けつつ、その攻撃を盾で受け止めた。


「死んだ仲間を庇いながら、いつまで耐えられるかかな!」


 フォルツェがラッシュを掛けるが、その攻撃をジャンは盾一つでひたすら受け止める。


「ジャン隊長!」


 ワッツが声を上げ、体勢を立て直して斬りかかるが、フォルツェは慌てる様子無く、蹴りの一発でワッツの機体を弾き飛ばした。


「やっぱりあれは弱いや、あんたは少しは成長したみたいだね!」

「いつまでも、上から目線で言えると思ったら間違いですよ!」


 ジャンは、盾で攻撃を防ぎながらそのリズムを見極めていた。

 そして、次の攻撃をしのいだ直後、大きく盾を突き出す。


「クッ」


 踏み込んだタイミングで突き出された盾に、フォルツェの機体は胸部を激しくぶつけふらついた。その隙に、モスコフの機体を地面へと横たえ、剣を抜く。


「ワッツ隊長、大丈夫ですか?」

「ええ、何とか。挟み込みます」

「いえ、ワッツ隊長は部隊を連れて南へ。これ以上、部隊の到着を遅らせるわけにはいきません」


 今もδブロックでは戦闘が行われているはずだ。これ以上援軍を遅らせれば、当初の予定にあった挟み撃ちが成功しなくなる。

 片方ずつからの援軍と、同時に両側から来る援軍では、相手に与えるプレッシャーが段違いだ。それが、国の勝利につながる可能性があるならば、作戦を失敗させるわけにはいかないと判断した。


「しかし、こいつを一人でやるのは」

「分かっています。難しいことですが、不可能だとは思っていません。私も伊達に近衛騎士をやっていたわけではありませんよ」

「……分かりました、ご武運を。全アブノミューレ部隊は私に続け」


 ワッツは、フォルツェの動きを警戒しながらアブノミューレ部隊を率いて南へと向かう。その間、ジャンがフォルツェの動きに細心の注意を払うが、相手が動く気配はない。


「素通りさせるのですね」

「あれは弱いし、量産型なんて潰す価値もないからね。僕が喰いたいのは、君だけさ」

「帝国の勝利の為でもなく、自らの団の利益の為でもなく、ただ己の欲望のために戦うのですか」

「それが僕だからね。さあ、続きを始めようじゃないか。期待を裏切らないでよ?」


 再び白煙をまき散らし、突撃するフォルツェ機に対して、ジャンは盾を構え、正面から受け止めるのだった。


         ◇


 フォルツェがジャンたちと戦っている頃、主戦場からさらに南に下ったところで、もう一つの戦いが始まろうとしていた。

 方や、王国の挟撃部隊。ジャンたちと同じように、遭遇した部隊を撃破し、伝令を基地に走らせた者たちだ。

 その指揮を執るのは、一時期エルドと共に行動をしていたエレクシア・クルツロード第十一アルミュナーレ隊隊長である。

 そのそばに控えているのは、一機のアルミュナーレ。両肩に大剣を背負ったバティスの機体だ。

 アルミュナーレは、その二機だけ。その代り、アブノミューレ部隊の数が百四十と北の部隊よりも一部隊単位の数が増えている。つい半年前まで帝国に占拠されていたカメントリアでは、これが出せる限界だったのだ。

 そして、彼女たちの前に立ちはだかるのは、一機の黒いアルミュナーレ。

 しかしその機体には、全体的に王国の機体の雰囲気が残っている。

 装備は左の腰に下げられた一振りの曲刀。ただそれのみだ。

 盾もなく、ハーモニカピストレのような飛び武器も見られない。


「どこの傭兵だ。見たことが無いな」

「俺もないっすね。けど、一機で立ちはだかるってことは、自信があるってことっすよね?」

「そう言うことだな。気を抜かずに、二人で掛かるぞ」

「了解」


 二機が構えると、傭兵の機体が剣を抜いた。

 鋭利に輝く刀身は、朝日に照らされて二機を映し出す。


「行くぞ!」

「おうよ!」


 両機が敵機を挟み込むように左右に迂回しながら走り込む。

 敵機はチラリとエレクシアの方を見た後、バティス機へと向かって駆け出した。


「おっと、こっちに来たか。ある意味正解だが――」


 バティスが巨大な剣を振る。その剣は敵機にあっけなく回避され、地面へと突き刺さった。

 直後、ただ地面を突き刺しただけとは思えないほどの爆発が起き、土煙を巻き起こす。

 そして、地面を斬ったはずの剣が、ナイフでも扱うかのように素早く斬り返される。

 敵機は少しだけ驚いた様子で、機体を横へと投げ出した。

 ギリギリの所で避けられた剣は、大きく弧を描いてバティス機の後方の地面を叩く。


「よく躱した。けどもう一本あるぜ!」


 左腕の大剣を振りあげる。同時に、大剣の背で爆発が起き、その衝撃によって加速された刃が振り下ろされる。

 敵機の体勢は整っていない。剣で受け止めようとも、その細身の曲刀ではその刀身ごと叩き切られるだろう。

 バティスは心の中で確かな手ごたえを感じた。

 しかし、その大剣は突如その軌道をずらし、敵機の真横を叩く。


「なっ」


 お返しとばかりに、敵の曲刀が突き出され、バティスの操縦席を狙ってきた。

 とっさに下がり回避すると、敵機は立ち上がりながら走り込んでくるエレクシア機に向き直る。


「ハッ!」


 エレクシア機の武装は、普通の剣と盾だ。

 敵はその剣を曲刀で受け止め、空いている左手を伸ばし相手の盾を掴む。


「なにを!?」


 敵は掴んだ盾を引っ張り引き寄せると、今度は勢いよく突き放す。

 エレクシアはバランスを崩しながら後退するが、何とか転倒を防ぐ。しかし、その隙は致命的だ。

 だが、敵機は攻め込んでこない。左腕をエレクシア機にかざすと、エアバレットでその頭部を撃ち抜き、カメラを破壊する。

 そして振り返りざまに剣を振るい、剣を振りあげていたバティス機の脚部を薙ぐ。

 関節を破壊されたバティスの機体がバランスを崩しながら地面へと倒れ込んだ。


「ぐあっ」

「バティス!」


 エレクシアが慌ててウォーターランスを放ち、敵機をバティス機から遠ざけると、体勢を立て直して、バティス機を庇うように敵機へと攻撃を仕掛ける。

 敵機はその剣を曲刀で受け流し、まるでダンスでもするような軽やかなステップでエレクシア機のサイドに回ると、伸ばした左腕で敵機の背中を掴み、足を掛けてその場に引き倒した。

 流れるような動きは、まるで機体がそのまま人の動きをトレースしているように見えるほど無駄がない。

 バティスには、その動きに見覚えがあった。

 周りが男だらけの中で、力負けしないように剣を受け流し、隙をついて足元を狙い、一見決められそうな場面でも、しっかりと敵のカウンターを予測した動き。

 それは、まぎれもなくレイラのものだ。


「レイラ! お前、レイラなんだな!」

「レイラ? 裏切りの姫か!」

「あら、気付いたのね」


 返ってきた声は、レイラのそれだった。


「なんでこんなところにいんだよ! お前は――」

「傭兵よ。帝国に雇われたね」

「……マジで傭兵やってんのか。しかも、王国の敵になって」

「どうせエルドから聞いてるんでしょ? それとも、見ないと信じられないタイプ? けど、なら信じられたんじゃない?」


 レイラの言葉に、バティスは思わず操縦席の壁を叩く。

 現に、今目の前で自分がやられたのだ。二対一で掛かったのにも関わらず、レイラに一撃を与えられないまま、膝を破壊され立ち上がることも出来ない。

 この状況が、まさしくレイラが王国を裏切った何よりの証拠。


「なんで、なんでこんなこと」

「そのセリフ、エルドで聞き飽きてるの。時間もないし、さっさと終わらせましょう」


 歯を食いしばり、涙をこらえるバティスを、レイラはすげなく切り捨て機体が動き出す。

 剣を振りあげ、地面に抑え込んでいたエレクシアの機体に切っ先を振り降ろそうとした瞬間、突然機体を立ち上がらせて振り返りざまに剣を振るう。

 その刃は、レイラ機の後方から飛んできたクレイランスを見事に一刀両断した。


「どういうつもりかしら?」

「いやいや、俺たちも手伝ってやろうと思ってよ。一人で二機の相手は大変だろ?」


 レイラ機が見る先にいたのは、二機の黒いアルミュナーレ。どちらも髑髏に剣が突き刺さったマークを付けている。それは紛れもなくドゥ・リベープルの印だ。


「明らかに私を狙ってたわよね?」

「いやいや、その先にいた倒れてる機体が変な動きしてたからよ。慌てて撃ったんだ」

「ふーん。それで、もう一度聞くけど何の用?」

「もう一度言ってやるよ。手伝い(横取り)に来たぜ」

「見ての通り、必要ないわ。さっさと帰りなさい」


 現状、一機は足を破損してろくに立つこともできず、もう一機は邪魔さえ入らなければ先ほどの攻撃で倒せていた。

 馬鹿が横やりを入れたせいで、その隙を突かれてバティスの元まで戻られてしまったが、だからと言ってどうと言うことは無かった。

 レイラからすれば、エレクシアも相手ではないのだ。

 だが、傭兵たちは引く様子を見せない。


「そういう訳にもいかねぇな。向うはだいぶ王国に押されてて、正直儲けられそうもない。裏切りの姫さんよう。なぁ、あんたも傭兵なら分かるだろ? 傭兵は、稼げる場所でしか戦わねぇんだ」

「それはあなたたちが弱さを隠すためのいい訳でしょ? 一緒にしないでくれる」

「んだと」

「てめぇ」


 レイラの挑発に、二機のアルミュナーレが剣を抜く。

 それを合図に、レイラ機は駆け出した。


「ほ、本当に俺たちとやり合う気か!」

「ドゥ・リベープルの掟を忘れたのか!?」


 レイラが一直線にかけてくるのを見て、傭兵たちが慌てた様に声を上げた。

 もともと、主戦場では生き抜けない可能性があったから、こちらへ逃げてきたのだ。その上、レイラが敵を倒し有利になる状況まで待っていたのである。

 そんな連中が、本気で殺しに来るレイラの相手になるわけがない。

 だからそんな言い訳を始めるのだが――


「戦場では予想外の事故死が付き物よね。例えば、ジェネレーターの爆発とか」

「な、なにをする気だ」

「私、あなた達みたいなの、反吐が出るほど大っ嫌いなのよ!」

「ちきしょう!」


 傭兵が諦めた様に動き出し、レイラ機目がけて剣を振るう。懐へと飛び込んだレイラは、その腕を左手で受け止め、操縦席目がけて曲刀を突き立てた。

 あっけなく破壊される機体に、隣にいた傭兵が恐怖のままにファイアランスを放つ。

 レイラは少しだけ下がって、エアシールドを発動させた。

 マジックシールドとエアシールドの併用により、完全にファイアランスが打ち消される。


「くそっくそっくそっ!」

「チッ、面倒なことしてくれるわね」


 二重の魔力シールドによって、ファイアランス自体は完全にかき消せているのだが、ファイアランス自体を放っている機体に近づけない。しかも、シールドを削られることで、着実に濃縮魔力液(ハイマギアリキッド)を消費させられている。

 ただ、やられるだけでなく、迷惑までかけていく一番面倒な相手だ。

 しかし、その時間もそれほど長くは続かない。

 次第に魔法の威力が弱まり、やがて濃縮魔力液(ハイマギアリキッド)が枯渇したのか完全に魔法が発動しなくなる。

 もはや残っているのは、通常起動分だけだ。


「ようやくね」


 レイラは面倒くさそうに敵機へと近づき、容赦なく操縦席を突き刺す。

 と、足元に動く影を見つけた。それは操縦席から間一髪で逃げ出した傭兵だ。

 男は、一目散にレイラたちから逃げていく。

 それを冷めた目で見ていたレイラは、捨てられた機体を地面へと投げ倒す。

 濃縮魔力液(ハイマギアリキッド)の残量を確かめれば、残りは三割もない。

 ここでバティスとエレクシアを倒すだけならば、問題ない量ではあるのだが、その後に主戦場へ行くことも考えると予備として残しておきたい量でもあった。


「仕方がないわね。バティス、悪いけど今日はここまでよ。けど、目的は達成させてもらうわ」

「何をする気だ!」

「こうするのよ」


 レイラは、魔力が多く残っている方の機体へと近づき、そのジェネレーター目がけて曲刀を振り降ろした。

 溢れ出した魔力が輝き、空へと零れ出す。それは、爆発の前兆だ。

 レイラ機は剣を突き立てた時点で素早くそれを抜き、全速力で主戦場へと駆け出す。

 バティスはその光景を見て、八将騎士が自爆した時のことを思い出した。


「エレクシア隊長、ヤバいぞ。すぐに部隊を避難させねぇと!」

「分かっている。しかしお前も」

「クソッ、アルミュナーレは破棄するしかねぇか。そっちに相乗りさせてくれ」

「分かった。早く来い! 他の部隊は全力で撤退だ! 消費など気にするな! 出来るだけここから離れるんだ!」


 エレクシアの指示に合わせて、遠巻きに戦いを見守っていたアブノミューレ部隊が一斉に撤退を開始する。

 そして、バティスとエレクシアも全力で撤退を開始する。

 その間にも、光は広がり、やがてドンッという音と共に爆発が起きる。

 強烈な熱と風に周辺が一気に焼け焦げ、逃げる機体たちの背中へと迫っていった。そこに、二回目の爆発。

 それはバティスの機体の物だ。

 二つのシュプレームジェネレーターの爆発は、主戦場からもはっきりと目視できるほど朝日よりも明るく、草原の空を染め上げていった。


         ◇


 王都近郊、王国のアヴィラボンブ発射基地。

 早朝前に大量のアヴィラボンブが発射されたそこに、一機の異形のアルミュナーレが入って来た。

 その足元には、魔導車で機体を追従するオレールとカリーネの姿がある。


「どこに行けばいい?」

「このまままっすぐじゃ。通常の発射台の奥にお目当ての物がある」


 操縦しているレオンの問いに対して、オレールは若干浮かれたような声で答えた。

 それもそのはず、今日完成したこの機体をエルドへと届けるのである。

 しかし、アヴィラボンブが発射したことが示す通り、戦端は既に開かれ、当然エルドも戦場にいるだろう。

 戦端が開かれる前ならば、今話題の魔導列車に乗せて前線まで持っていけたのだが、今ではエルドを前線から引き離す行為になってしまう。

 そこで決まったのが、アヴィラボンブによる前線への直接輸送だ。

 普通に考えれば馬鹿げた行為なのだが、エルドが以前一度成功させていることも、決定を後押しすることとなった。


「しかし、本当に僕で大丈夫なのか? この機体、本当に基本動作しかできないぞ」

「分かっておる。心配せんでも、しっかり届けるための物を用意してある」


 不安げなレオンの声に、オレールははっきりと答えた。

 そして、基地の中を進んでいくと、オレールの言っていた物が見えてくる。

 それを見たレオンの第一印象は立てられた棺だった。

 王国の色を反映してか、その棺は白く塗装され、前面以外をアヴィラボンブに覆われている。


「こいつはキャリアボンブ。こいつの中に機体を入れて飛ばすんじゃ。前回と違って、操縦を別のもんに任せるから、方向の修正は不要じゃぞ」

「いや、それは助かるのだが、これは……」


 何度見ても、棺にしか見えないそれに、自分が入るのかと思うと、あまりいい気はしない。

 しかし、オレールは知ったことかと言わんばかりに、せかしてくる。


「ほれ、はよ乗せんか。時間は待っとくれんぞ」

「分かってる」


 言われるままに、機体の脚を進ませ、発射ケースの中へと格納する。

 すると、格納庫にあるハンガーと同じように、機体の両肩を脇の下から挟むようにしてロックされた。

 オレールは管制室へと向かい、カリーネが魔法を使って操縦席の近くまで登って来た。そしてカメラに向けて開けろと合図をするので、操縦席のハッチを開けると体を滑り込ませてくる。


「どうかしたか?」

「エルド用のメモよ。基本的なことはあらかじめ伝えてあるし、要望通りに作ろうとはしたけど、やっぱり少し違う部分とか出てきてるから。それに関する簡単な伝言」

「ああ、なるほど」


 これまでと全く違う操縦席と言うことで、内部の説明は操縦席が出来た時点でエルドには手紙で伝えてある。しかし、手紙ではやはり限界があり、そこに機体完成後に調整でいじった部分もいくつかあるため、細部に違いが出てきているのだ。

 レオンはカリーネからメモを受け取りつつ、それをモニターの隙間へと差し込み固定する。


「それと、このキャリアボンブだけど、エルドの発案を開発部が完成させたものだから、安心しなさい。こいつに関しては、試験運用の時間もしっかりあったから、安全性は保障出来るわ。操縦も、試験運用の時に手伝ってた人だから」


 それを聞いて、レオンは少し安心する。実績があるというのは、とても心強かった。


「それを聞いて安心した」

「じゃあ、エルドによろしくね。私たちの最高傑作なんだから、ちゃんと届けてよ」

「ええ、あいつに必ず届けます」

「カリーネ、そろそろ打ち上げるぞ! こっち来るんじゃ!」

「分かったわ! じゃあよろしく」


 カリーネが操縦席を出て、管制室へと入っていく。

 それを見送り、レオンは打ち上げ準備へと入る。

 格納部分の扉が徐々にスライドし、完全に前面を覆うとガチャンとロックされた。


「ジェネレーター始動モードに移行。モニター機体チェック状態へ。機体システムオールグリーン。機体は問題なしです」

「キャリアボンブ、燃料充填完了、システム正常に稼働、射出角度確認、完了。天候風向き共に問題なしです」

「ではゆくぞ! キャリアボンブ、発進じゃ」


 オレールの合図と同時にキャリアボンブのブースターが点火し、徐々にその速度を上げ煙の尾をひきながら、空へと飛び立つのだった。


次回予告

八将騎士三席の実力の前に、エルドの機体は徐々に破壊され、ピンチを迎える。

そこに空から一機のアルミュナーレが投下された。

デニスたちが時間を稼ぐ中、エルドはその機体へと乗り込む……



次回予告なんてするもんじゃねぇな。

※本編の内容は突然変更になる場合がございます。

この注意書き入れねぇと、分量滅茶苦茶になるわ


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