この俺にそんなことをしていいのか?
暗闇の中で問答を続ける男とエゼル。
「貴方が生まれたのは?」
「一般家庭で18年前に生まれました。」
男はコクリと頷く。
「それでは、貴方が憎いものは?」
「……特にありません。」
__________瞬間。
強い拳が僕の足を襲った。
今ので右足の骨は簡単に砕けてしまっただろう。
男は首を傾げ、次の質問にと言葉を変えた。
「君はなぜ消滅神と友達なんだい?」
「それは、僕が一人ぼっちだった時に現れて、僕を助ける救いとなってくれたから…」
うんうん、と頷く仮面の男。
「君の目的は?」
「魔闘演戯でっ……!!」
_____今度は左足に強い衝撃が加わって、
左足はあり得ない方向にひしゃげてしまっている。
痛みは感じるが、耐えられないレベルではない。僕は必死に痛みに耐えることにした。
「君の得意魔法は?」
「ストレングッッッ!!!」
______今度は左腕の骨を折られた。
「ふむ。やはり、記憶の改竄をされてしまってるようだな。
我らが王の答えは、いつだって同じだったのに、それが今ではなんだろう。
頼り甲斐の無い魔人だよ、これでは…」
「はあ……はあっ……!!
僕はお前なんか知らなッッッ……!!」
腹部に強い蹴りを受け、口から血が溢れ出た。
身体を最大限にまで虐められた中での問答、これは紛れもなく拷問だ。
「君が話していいのは、俺が私が僕が、質問を言った時だけなんだよ?」
男は左ポケットから取り出した赤いボタンを指先で強く押す。
すると、磔にされていたエゼルは地面に落とされ、叩きつけられた。
「ふっ、無様だな。
王様、君は目覚めなければならない。
この国でも他の国でも君を求めている人は五万と居るんだ。
ほら、立ち上がって俺の質問に答えて、いい加減、目覚めろよ!」
この男は何を言っているんだろうか。
分からない。僕が王?なんの?
目覚める?分からない。
でも、僕の中の何かがドアを叩いてる。
「出してくれ」って。
男は、地面にうつ伏せに倒れこんだエゼルを自身の黒い革靴で足蹴りにし、ふふふ、とニヤついている。
「ぼ、ぼくはエゼル・シスタ!!
涅槃を生きる魔人だッッッ!!」
男の足に掴み掛かり、強く捻るように力を込め、男の右足を完全に砕いた。
「あーらら、こりゃひどい。
何か仕返しをしないとなあ」
ぐにゃりと折れ曲がった男の足首からは血液が垂れている。
それでも、男は動じず、地面を蹴れば、床に腰を下ろし下から自分を見つめる白髪の男の子の背中に強く着地した。
「……ぐっぁぁぁああ!!」
「君の生命線の背骨、折ろうか?
それとも、首がいい?選んでよ」
男の硬い靴底が首に迫り、重心が首にかかろうとした瞬間_______彼は目醒めてしまった。
エゼルの中の南京錠が二つ、同時に。
音を立てて、粉々に粉砕した。
「アルハイト……痛いじゃないか。
この俺にそんなことをしていいのか?」
エゼルが発した声。
でも、それは何処か違う雰囲気。
仮面の男は冷や汗をかいて、少年の背中から降りようとしたが刹那______男の腹部を貫き、真っ二つに引き裂く彼の両腕がうねりを上げて、大量の返り血を受けた。
「消滅魔法、傷消滅」
彼の詠唱と共に傷は一瞬で消滅し、全身がバキバキに折れていたのにも関わらず、既に完治した。
「アルハイト、早く起き上がれよ。
それとも、このまま本当に殺してやろうか?」
「め、滅相もございません。
お、お待ちしておりました…。
黒の王よ、よくご無事で!!」
上半身と下半身を引き裂かれた男は、当たり前のように起き上がるとエゼルの足元に跪き、満面の笑みをこぼした。
「もう一度聞きます。
貴方の目的は?」
「この世界を消滅させることだ」
アルハイトは仮面越しから涙が溢れ出て、地面にポタポタと垂らしている。
「あっ、貴方様のぉぉぉ!!
つ、創り出した黒闇は、
大切に私がお、お守りしてきましたぁぁ!
今こそ、我が王よ。
また、私ども戦ってくれますか?!」
「_____ふっ、当たり前だ。
俺はお前らが居なきゃ居場所なんて無えんだからよ。」
エゼルはアルハイトに微笑む。
彼は大きく変貌を遂げた。
正しくは戻ったのだ。
涅槃のエゼル・シスタから。
黒の王、エゼル・シスタへと。
「元老院のジジイがつけてた俺の制御も全部外れたよな?
アルハイト、今すぐ全隊をあつめろ。
いつまで泣いてやがんだよ、男かテメェ!」
「はい。全部外れてますよ…!
だ、だってー!
エゼル様ぁぁぁ!!
……か、畏まりました。
少々お待ちください、ぐすん」
相変わらず喜怒哀楽がはっきりしすぎてる野郎だと、エゼルはアルハイトのことを笑った。
久々の仲間に会えての嬉しさからくる高揚感が全身を支配するように胸も昂ぶった。
__________その頃。
「はあっ、はあっ……!!!
キリがねえ……!!
この人形、どんだけ!!」
シルバー達はまだ無限に増え続ける人形と格闘をしていた。
倒すコツは掴んだものの、一瞬で復活し、増えてくる人形を対処するのに精一杯でピエロ姿の男にまで攻撃がいかない。
すると、ティアはポケットから出した端末を指でタッチして、耳元にあてた。
「えっ……!?
王が…!?わ、分かったよ。
それじゃ、戻る!!
うん!!」
嬉しそうにしているティアを見つめるに、シルバーは嫌な予感を覚えていた。
王が?どうしたというのだろう。
黒の王はもうこの世にいない。
それは分かっていることなのに、不安が止まらないのだ。
「やったね、王が!!
んじゃ、君ら弱いから俺帰るね〜!
さよなら、シルバーさん?」
「お、おい!ちょっと待て!!」
ティアは時空の裂け目に混ざるように消えてしまった。
人形もその瞬間からはただの砂となって、地面に崩れて消えた。
「俺たちは時間稼ぎをさせられたのか!
クッソおおおお!!!
し、仕方ねえ。
エゼルは諦めて、スピノザのところに向かうぞ」
シルバーの決断を止めるものなど、誰一人としていなかった。
この場合でなら、リグルスもキルスも空気を読んだのだろう。
__________シルバー率いる隊は、隊長のエゼルを失ったまま、潜入捜査を続けることになった。
遅くなりましたが、投稿です。
エゼル君覚醒ですね( ´∀`)
いやはや、やはり描いてて楽しいw
ブクマや採点等、またよろしくお願いします!




