目の焦点合ってないけど、僕のこと見えてる?
草木も生い茂る森を抜けて、エゼルを除く一行は海に浮かぶ離島、覇滅龍が見える岸に立ち、その姿を目に焼き付けていた。
この時、リグルスの瞳に紛れも無い復讐心の炎が灯ったのには誰も気づいてないであろう。
「はぁ………頭痛い。
まだ軋むように下の方も痛いし…」
申し訳なさそうにチトが駆け寄る。
「あっ、あの、ごめんね。
サディさんがうるさくって…!」
「いや、いいよ。
良い緊張ほぐしになった……」
この時、サディとシルバーは思った。
((緊張ほぐしとかそういうレベルの叫び声じゃなかったよな!?!?(わよね!?!?)))
「アレが覇滅龍……如何にもって感じで本当に結界が張ってないんだね…。」
遅れてやってきたエゼルが目にした光景は、離島の側面を覆うような岩の壁が陳列し、国の入り口の部分だけ小さな隙間を空け、上から見るに大都市だと分かる巨大な時計塔の存在感の大きさだった。
丁度、壁の隙間の近くに海を渡るための石橋がかかっている。
「あの時計塔は特殊でな。
都市自体が危険だと感じれば、サイレンが鳴るらしい。そのサイレンは敵も味方も戦意を消失させる魔法が入ってるみたいで、都市を守る大切な塔なのだとさ。
……お前らよく聞け。
こっから先はいつ戦闘になるか分からないクソみたいな状況が続く国だ。
都市と言っても油断はするなよ……?
どんな輩がお前らを狙ってくるか分からない!」
真剣な表情で口を開くシルバーに、彼らは深く頷いた。
***
覇滅龍の入り口である石橋の近くまで降りてきた一行の前には三人の人物が立ちはだかった。
「……涅槃のシルバーサンがこの覇滅龍に何の用です?
因みにこれから貴方達が入る敵地には、貴方達が来るということを知っている人がわんさか居ます。
ここでお引き取り願えれば、私達は貴方が来なかったと上に伝えておきましょう」
何故だ?!
ここに来ることを知っているのは涅槃で待機してくれている学園長とミストのみのはず。
だが、ここまで来ておいて帰るというのはまるで選択肢になかった。
そのように、シルバーは強く一歩を踏み出し、三名の覇滅龍の兵士の後ろへ移動する。
通り過ぎる瞬間、彼は手刀で兵士達に峰打ちをかますと、彼らは白目を向いて前のめりに倒れた。
「行くぞ!
もう潜入捜査でもなんでもない。
俺らの特攻だ!スピノザを見つけるぞ!」
彼らは走って石橋を渡り、覇滅龍の入り口なら中へと消えていった。
***
何列にも並ぶ艶のある木製の会衆席を右と左に構え、中心には光沢のある淡い赤色をした縦に長い絨毯が敷かれている。
絨毯の先には、祭壇があり、祭壇の後ろには緋色の龍が街を破壊する絵がステンドグラスで再現されていよう。
祭壇の上には蝋燭、十字架が立てるように並べられ、この場所が教会であることが確証付けられる。
祭壇の近くでは、聖職者と覇滅龍の紋章をそれぞれの場所に刻み、破壊と絶望に身を誓う強戦士が五人、スピノザを一人抜いて揃っていた。
「見張りの三人はやられてしまったようですな。使えない…。
あの三人の家族を殺せ!!!
コレで少しはやる気も出るだろう?!」
聖職者に似合わない言葉を次々と吐き出す男に呆れ、赤髪の戦士を含めた五人の強戦士は教会の赤い絨毯の上で鳴る、複数の静かな足音を弾ませながら、教会の外へと出ていった。
出て生き様に赤髪の男はーー
「シルバーって奴を殺せばいいんだろ?
俺らはそんなヘマはしねえよ」
ーーと言って、出て行った。
教会には静寂と聖職者だけが残り、男は独りでに嗤った。
***
街中を歩くも、人一人居ない。
覇滅龍の街中は人に溢れ、日々が戦闘という噂を聞いたのだが、やはり涅槃からの使者が来ると分かっているのだろうか。
まるで手招きでもしているかのように都市の中心部への道は直進の一本道のようで、微かに見える噴水がその証だ。
「やけに静かだな…。
人も居ないなんて、いよいよヤバイぞ
……ッ!?」
シルバーを先頭に一本道を直進で歩いて行くエゼル一行は、人気の無い街中に疑問を抱いていた。
すると、前方から白銀の槍が閃光の如き速度でシルバーを捉える。
「……んっ!!ぐうううううううう!!
な、なんだよ、この槍は!」
シルバーは加速し切った白銀の槍を素手で掴むと、反動で後ろへと後退していく。
地面に足をつけたままで、踏ん張っているせいか彼が踏み場にした地面は酷く穴が空いたように割れてしまった。
が、彼の馬力と豪腕にかかればこの程度のこと、簡単に止められる。
槍の速度はみるみるうちに落ちていき、白銀の槍は彼の手中に収まった。
「……オイオイ、ウッソだろ?
俺の《白銀の槍》を能力も魔王武器も使ってねーのにか!?
アレが今回の目標であるシルバーって奴に間違いなさそうだな」
「お前ら、アレは俺がやる。
他は適当に、遊んでやれ」
彼らの目の前に立ちはだかったのは、五人のいかつい戦士。
それぞれが特別なまでの力を手に入れ、ソレを極限にまで高めた強戦士、《黒龍》と恐れられていることで有名だ。
彼らの中で一人、赤髪の刺刺とした髪をオールバックに束ねたいかつい表情の男は、覇滅龍の制服であろうか、茶色の服をベースに白色のばつ印が幾つも描かれている服を着て、焦げ茶色っぽい長ズボンを履いている。
他の魔人もそんなような服装に、自分自身でアレンジを加えているようだ。
「……エゼル、サディ、チト、リグルス、キルス!!
絶対に死ぬなよ!
お前らなら分かってる思うし、任せられるけどな……心してかかれ!!」
シルバーはそれだけ叫ぶと、赤髪の男を出来るだけ遠くに誘導しようと、近くにある建物まで高く飛び上がり、そのまま屋根を登って去って行った。
「んじゃーな。
てめぇら、負けたりしたら承知しねーぞ」
赤髪の男も空高く飛び上がり、シルバーの後を追って行った。
「……てかよ、このクソガキ共に何が出来んの?俺の《白銀の槍》で全員片付けられそうな気が済んだけどォ!」
「……うるせえぞザック。
テメェは常に吠えてねーと気が済まないのか?
お前ら適当に好きなやつに攻撃しかけろ、被っちまったらそいつを二人で殺せ。
分かったら、さっさと行動しやがれ!」
黒色の長い髪で右目が隠れている男は、他の三人に命令を下した。
恐らく、四人の中で一番強いのだろう。
三人は何も抵抗することなく、彼の指示に従おうと武器を取り出す。
「……んじゃ、俺こいつにするわッ!!」
白銀の槍を携えたクリーム色の髪色をしたローブのフード被っている男は、迷いもなくリグルスへ槍の先端を振るう。
賺さず、リグルスは回避を。
「……うるせえヤツに選ばれちまったな。
さっさと行くぞ、クソ野郎!」
「はあ…?
テメェの方がクソ野郎だしぃ!!
俺は《黒龍》のザック・レスタロスってんだよ!!
うるせえ、分かってんだぃ!」
リグルスとザックは文句を言い合いながら退場。
黒髪の男は、「遠くの場所に行って一対一を意識させろ」とは一言も言ってないが、案の定馬鹿ザックには通用しないであろう。と、頭を悩ませた。
「……あの馬鹿ザック、まあいい。
このまま一対一の勝負の方が俺らもやりがいがありそうだな。
それじゃ、選んで散れ!!」
男は思いついたように告げる。
「……オマエ俺の相手シロ…!」
ガスマスクを付けた機械のような性別不明の魔人は二刀を両手に持ち、サディに襲いかかった。
が、このままでは誰も指名してくれないと彼は思ったのだろう。
二刀を槌の持ち手で止めると、ガスマスクの男の前に立ちはだかった童貞。
「は?私をご指名の相手なのに何であんたが……!まあ、被ったら二人でそいつを殺すんだっけ?童貞、殺るわよ、こいつ!
……まあ、顔も見せてくれないような負け犬と私が一緒なんてやる気起きないわよ、こんなの」
キルスとサディはガスマスクの男と一緒に何処かへ消えていった。
消えざまに、彼女はチトへのエールを送る。
「チト、負けんじゃないわよ。
あんたは大丈夫なんだからね!!」
「うん!ありがとう、サディさん!」
続きまして〜とでと言いたげにチトへ炎で作り出された球体が飛び、彼女の目の前で消滅した。
「えっ?
なになに、今の〜〜!
私の魔法が消えちゃったんだけど〜、超ウケる!
ほら、おチビちゃんおいで!
あんたの相手はあたしだよ!」
魔法使いだろうか、眼鏡をかけたセクシーなお姉さんはチトと一緒に街のどこかへ消えていった。
隠して残りは、黒髪の男とエゼル。
「お前があの五人の中で一番強いだろ?
というか、隊長か?冴えない顔してんのに、何つーか、隙がないな」
「それはどうも。
ところで、目の焦点合ってないけど僕のこと見える?」
エゼルは彼の目の前にいたはずが、背後に移動して、聞いてみる。
「……なッ!
どうやって移動しやがった!!」
「フツーに君の横を歩いていったけど…。
もしかして、僕のこと見えない?」
男が後ろを振り向く、
その瞬間にエゼルは彼の横を通り過ぎて目の前へ。
「な、何でいない!
クッソが……餓鬼に俺が弄ばれてるようだ。
腹が立つ、俺との戦闘はここでいいよな?
見えないのは構わない、気配を追って全力で叩き潰してやんよ!!」
影の薄さを高位に上げたとしても完全に消滅してない僕は、少しだけ残念に思った。
覇滅龍で強い人と戦うという心の準備はできていたのに、こんな腑抜けたような人が相手なのだ。
力を抜くことはしないが、全力で叩き潰して、二度と僕の前に立たせないようにしてやる。
エゼルは、自分を見つけられていない男の目の前で不敵にも笑ったのだった。
投稿しました。遅くて申し訳ありません。
それと、昨日だけで1300PV上がりました、歓喜すぎて自分の顔面が崩壊してます(笑)
本当にありがとうございます!!
ブクマや感想、採点なども大変励みになっております、感謝しかございません!
これからも引き続き、涅槃の境地-とある少年の消滅英雄譚をよろしくお願いします。




