貴方が無事に帰ってくることを祈ってるよ
今回から次なる章、覇滅龍編です。
お楽しみくださいませ!
学園長からの他国潜入許可書を受け取った一行は、|転送魔法式巨大転送装置を潜り抜けた後、近くの木陰で手の甲の紋章を涅槃から覇滅龍に変えることのできるアイテム、仮紋章を皮膚に被せるように付けると、
彼らの手の甲の紋章は、黒き龍が焔を吐き、絶大な力を誇っている様が描かれた紋章に変わった。
「先に言っておくが、これは観光ではない。敵地に足を踏み入れるということはそれだけ慎重に、円滑にコトを進めねばならない。
故に、チームワークは大切だ。
お前らの個々の力は確かに強力なものだが、其れらをどう組み合わせてチーム戦に持っていくのかが大切な部分であり、お前らの課題だな」
シルバーを含めたエゼル隊は、まず最初に涅槃の近くにある森を抜けようと足を進める。
この森は、草木が生い茂り、所々、欠けた岩石が岩となって影のできる場所を作っている、隠れ場所が多い森だ。
故に、敵の攻撃がどこからやってくるのかは分からない。
気配で察知し、敵を殲滅する必要があるわけだ。
戦闘能力だけでなく、察知能力も涅槃で決めた水準に達していなければ、許可書を受け取ることは不可能だ。
「ところで、これから行く覇滅龍はどんなところなんですか?」
「あー、そうか。
お前らはそもそも、この世界のことを知らないんだな。なら、説明しよう!」
思いついたようにニヤリと笑みを浮かべたシルバーは、次の説明を淡々と話していこう。
この世界にはいくつかの国があるが、その中で先進国と呼ばれる国は三つ存在する。
一つは、涅槃
自然を愛し、自然に誓う森の都。
三つあるうちの先進国の中で唯一、独立した国で他国との接触を好まない国であることが有名。
国の君主である学園長、自らが関わらないことを一択とし、今も昔もずっと変わらないスタンスを繰り広げている。
二つは、覇滅龍
自然を壊し、大地を破壊せし野蛮な魔人が多く住む大国。
覇滅龍の戦士は武功を挙げること以外に目的もなければ、興味もない。
戦士であることの意味は自分自身が英雄になるか、自分の大好きな戦闘を楽しむことができるから、と言ったわけのわからない理由で楽しんでいることが極めて多い。
覇滅龍の人口は涅槃の1.5倍。
数だけで言えば、三大国の頂点に君臨していよう。だが、民度は三大国の中で一番下と言えるほど。
海を制し、海の上に浮かぶ巨大な離島に作られている王都を含めた街並みは外部からの敵襲をも戦闘の好機と捉えるためか、結界も何も張られていない。
三つは、堕天王
唯一、空の上に浮かぶ浮島に作られた都市で、背中に羽を持つ特殊な種族が頂点として君臨している。
羽の大きさや色などで身分が決まり、高い戦闘能力を持つ魔人も過大に評価されることが多い。
そのため、戦闘能力に長けている天才は、身分欲がある場合に堕天王を選ぶことが多いとされている。
「……とまあ、こんなもんよ。
今から俺らが潜入することになってる覇滅龍はどんな奴も黒闇の人間だろうがなんだろうが勝手に出入り出来るんだよ。
けどな、自己責任っつーことで入って怪我したり命落としたりしても何も文句は言えねえ。文句なんて言おうと思えば、弱いお前が悪い、この言葉で片付けられて終いだ。」
強くなる為であれば、どんな手段を行使しようとも動じない心が覇滅龍の戦士とやらには植えつけられているのだろう。
そもそもの事件の原因を覇滅龍の仕業だと教えてくれたミストへ大会が終わった後に聞きに行ったリグルスは彼女の言葉を思い出す。
***
巨大な水晶を背景に再び最上階にある彼女の部屋に着いたリグルスは、机に両肘を置き、「よく来たね」と声をかける彼女に視線を向けた。
「……それで、その少年ってのは?」
「うんうん。
シー君の許可は得たみたいだから教えるわね。
君の目の前に現れた少年の名前は、スピノザ・ディスカバリィという覇滅龍の強戦士よ。
君が現在1800歳ってことを考えれば、800年は生きてる少年ってことでしょう?
それで有れば、永遠に少年の姿のままだと呪いを掛けられた龍で有名のスピノザ・ディスカバリィであることが釘付けられるのよ。
それに|狂増薬(インセ二ティ・ドラッグ)は彼が発表した代物よ。
覇滅龍に行けば、彼に会うことが出来る。
君が復讐をしようとしているのなら、私は止めたい。けど、私は止めれないな。
でも、死なないでね。
貴方が無事に此処に帰ってくることを願ってる。」
彼女はどこか寂しげに上の空の瞳を、リグルスに向けて、クスッと微笑んだ。
彼女の笑顔にはどこか懐かしげなものを感じる、きっと気のせいだろう。
リグルスは、スピノザ・ディスカバリィ。
という魔人の名前を忘れないように頭の中に釘を刺した。
用件だけを聞いて、去って行く様に彼はミストに一言。
「……ありがとな」
***
「スピノザ・ディスカバリィは、覇滅龍切っての強戦士だよ。
黒紫の混沌の龍と謳われ、咆哮だけで街を壊滅させることが出来ると言われている。
この間、ヤツに会ったが、まさかこんな形でまた再会することになるとはな。
次会えば、絶対に戦闘は免れないような気がするが……」
シルバーは頭を掻きながら面倒臭そうに言う。
「あっ、そろそろ森を抜けるわよ!」
森を抜けた先に広がる青い海が見えて来た。
涅槃の郊外にある鬼の館付近にも黒い海は広がっているが、真っ青な海は初めて見た。
という感じに、彼らは目を輝かせる。
「司令官んん!
これを背景にしてこのカッコよくて実況も上手いイケメンなオレ様を撮ってくれよ!」
顎に右手でチェックマークを作ると、彼はキメ顔で海の見える位置を背景に立ちなざら言った。
「そんなことに時間を割いてる暇があったら歩くぞ。クソ野郎の写真なんて誰が撮るんだよ、童貞は黙って歩け!!」
彼の足を引っ掛け、尻餅をつかせる。
「イタタ……」と腰を撫でる少年に刹那の衝撃が走った。
「ーーーッ!!
いだぁぁぁぁあああああ!!!!」
飛び抜けるような一撃に、すぐさま立ち上がり、強い衝撃の走った部分を手で押さえながら、ぴょんぴょんと飛び跳ねる。
「さ、さでぃ!!!
お、お前、お、俺の!!!
た、たいせ、たいせちゅ、大切な、部分に……よくも渾身のッ、け、蹴りを!」
というのも。
キルスがシルバーに足を引っ掛けて転ばされた瞬間、彼の目の前を歩いていた彼女はドSな笑みを浮かべると、左足を強く踏み込んで右足を後ろへ振りかざし、一瞬だ。
彼の股間めがけて、強烈な蹴りをかました。
「サディ、今のは流石にやり過ぎだよ。
オトコはそこが急所なんだから…」
エゼルの忠告に、首を傾げて彼女は笑みを浮かべる。
「え…?チトから受けたいって?」
「はぁ?!」
困惑で思わず声を上げてしまう。
「さっさと転べ!!」
サディに足を引っ掛けられて、尻餅をついてしまったエゼル。
彼が目にした光景は、真っ白い足を包みこんだ白いスニーカーが勢いよく自分の下に放たれた瞬間だった。
「いぎゃぁぁぁぁぁぁあああああ」
少年の叫びは海にまで届く。
大きなものになったそうな。
更新しました。
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