光魔法はこの世で一番強い!!
一時頃。
涅槃の大型試合会場では、今から始める決勝戦に歓声が送られ、会場で見ることの出来なかった人向けに、大きなカメラまで備わっている。
涅槃は大きな都市、郊外の方まで行くと小さな集落があって、村がある。
彼らが都市の中心部まで来ることは、かなりしんどいのでTV局が率先してうねりを上げていよう。
「あー!あー!マイテスマイテス!!
おっけーですよ、キルスさん!
高らかに叫んじゃってください!」
実況室にいるカルラは、隣に座っている涅槃一の自称イケメンの童貞へ高らかに宣言をした。
「さあぁぁあああ!!
やって参りましたぁぁぁああ!
今回は、長々と続き、歴戦の猛者達が熱き戦闘を交えたこのフィールドで、新たな涅槃の最強が生まれる瞬間なんだぜ!!
さあ、両者共にクソは漏らしてねえか!?
大丈夫だなあ!?
よし!!選手入場だぁああ!!」
日に日にサマになっていくキルスの実況だが、今日は一段と汚く、綺麗に見える。
彼も彼なりに一回戦敗退したのは辛く、悲しい現実であるが故に、自分を倒した男を全力で応援しようと実況を引き受けたのである。
「……僕は、エトを倒して夢を叶える一歩を絶対に掴み取ってみせる!!」
そう言って、吹き荒れる白い蒸気から登場したのは、今大会随一のダークホースにして、黒闇の猛攻を何度も撃ち破ろうと立ち向かった勇者、エゼル・シスタだ。
対して、逆側の入り口から出てくるのは、涅槃一の光魔法使い《光帝》の名で、世界各国に名を轟かせている人物。
昔は若きダークホースとして、最強に成り上がるまでの道のりを踏みしめていたが、現在では彼もかなりの上級者。
強く一歩を踏み出し、歩く様はいつもの朗らかな彼とは別の人格に見えてもおかしくはない。
いつもよりも恐く真剣な表情、それは、最強が新人に全てを教えてやらんという覚悟の表れだ。
「両者共に最高の顔つきだぜ!!
さあ、用意はいいな!?
観客席に座ってる奴らを楽しませる最高の闘いを俺らに見せてくれ!」
決勝戦が始まる準備は全て整った。
実況者による場の盛り上げも完璧。
そして、いつも王宮の深くで戦士達を見守る女性は突然に会場のど真ん中に現れて、不敵にも笑った。
彼女の登場でざわめく観客席。
「私は、ルディス=フィリオ=ゴールデリアです。涅槃の境地の最高高位権力者にして、この学園の創設者、学園長です。
分かっておいでの方も居られるのでしょうけれど、分からない方もいらっしゃると思いますので自己紹介をさせていただきました。
二人共、よくここまで勝ち抜いてきましたね。
これは大変素晴らしく思います。」
二人の前に現れた女性。
ルディスは、簡単に言うと涅槃の国王だ。
彼女は、いつも王室の玉座にて座っているので身長も容姿もあまりよく分かられていない場合が多い。
が、この時は違った。
二人の闘いを祝福しようと、王座から態々舞い降りてきたのだ。
紫と青の入り混じった綺麗な丈の長いワンピースを着て、手には彼女の身長を優に超える長さの大きな杖を。
神父が頭に被っているベールの付いた帽子で赤黒い髪の頭を守っていよう。
「はい。御言葉、光栄に上がります。
ルディス学園長。」
エトが跪き、彼女の前に頭を差し出せば、エゼルも真剣な表情で同じ体勢をとる。
彼女は二人の頭を両手を使って撫で、「頑張ってくださいね、応援していますよ」と優しい声で告げると、その場から消え、試合会場の敷居から出る位置に出現した。
「では、試合開始の意を私が務めさせていただきます。
私が弾くコインが地面に着いた瞬間、戦闘が開始となります。
では、いきます!」
彼女が指先でコインを弾くと、コインは回転し、上へ登り始める。
その間に、所定の位置に戻っていた彼ら二人はお互いの顔を見つめて、戦闘の態勢に入る。
落下してくるコインの音だけに耳を澄ませて、集中力を極限までに高めようと必死になった。
「……」
「……」
ゴクリと唾を飲み込み、コインの落下を待つ。
ーーーチャリンッ。
コインが落下し、彼らは動いた。
開始前から最大にまで引き上げておいた自分の身体能力を使って、両者共に一気に間合いを詰めよう。
「……ッ!?」
彼らの初速は少しだけ、エトの方が上回っていたのだろうか。
懐を先に取ったのは、紛れもなくエトだった。
「光魔法…一千の光!」
彼が放った眩いばかりのギラギラとした光からなる剣はエゼルの背後へ過ぎ去っていくように通過すると、弾けて一千の刃へと変化した。
変化した一千の光の刃は、エゼルの背後を当たり前が如くに貫こうと放出された。
魔法を使用したエトも挟み撃ちになるように、彼の腹部めがけて強烈な蹴りを放とうと脚を振り上げよう。
「身体能力強化魔法…初伝…草薙の剣!」
彼を捉える無数の刃と渾身の蹴り、それは確実にヒットしーーー
「チッ……鉄壁のカウンターか!
俺の渾身の光魔法が効かねえなんて、やっぱり楽しませてくれるようだな、エゼル」
ーーたようにみえただけ。
彼の背後にあるフィールドは爆発でもしたかのように強く抉られている。
「このくらいじゃ、僕はまだまだへこたれないよ。
……今度は、僕から仕掛ける!!」
彼の速度はエトよりも残念ながら遅い。
が、その時だけは一瞬、光の速さを超えるような速度を持っているように見えた。
「身体能力強化魔法…初伝…天叢雲剣!」
自身の速度の速さを応用して、蹴りからなる数回の斬撃を放つ。
「これくらいじゃ……簡単に見切れる!」
が、彼には当たらない。
けれど、それは予定通り。
当たらないのは当たり前。
でも、この一撃が当たらないわけがないのも当たり前だ。
「……此れなら、どうだ!!」
斬撃を避け切った彼へ、手刀からなる強烈な一撃を見事、お見舞いすることに成功した。
役、五十連撃の斬撃が一つの手刀によって編み出され、エトの身体を切り刻んで行こう。
「……ッ!!」
複数の斬撃が終わった後、エトの上半身は裸になってしまっていた。
肉体のダメージはゼロ。
服までの防御性能は持ち合わせていないため、粉々に吹き飛んでしまったけれど、今からの彼は強すぎると、そんな予感がした。
「エゼル、やるね〜。
俺も身体能力強化魔法は使うけど、それを応用した技を考えたりするのはしたことがないからさ。
でも、光魔法は別さ。
身体能力強化魔法なんて所詮は諸刃の剣、光魔法は使い勝手が非常に良くて、自分の体力の持ちもいい!
君を非難するわけじゃないけど、強さなら前に宣言した通り!!
真っ向から戦えば、俺が勝つ!!」
彼の背中に描かれる紋章が煌めく時。
彼の魔法はより一層輝きを取り戻そう。
「光魔法……光の鉄槌!!」
彼が地面に手を伏せて、力を込めた瞬間。
黄金に輝く光の鉄槌がエゼルへと無数に降り注ぎ、避けても避けても追跡する。
「続けて、光魔法……一千の陽光!」
お次は太陽。
太陽の光は見えるか見えないかどうかのギリギリの針となって目標を追尾し、撃墜する。
「身体能力強化魔法は強いよ。
それは認める、けどね!
それだけで本気を出させる俺じゃない!!」
次々に振り下ろされる鉄槌を華麗な身のこなしでなんとか避けきるも、無数に飛んでくる光の針にまでは集中が届かない。
彼の腕や脚に無数の針が突き刺さり、段々と動きが鈍くなっているようだ。
「くそッ……!
エトの方へ、まるで近づけない!!
こんな時、どうしたら!!」
絶体絶命の彼へ、更に攻撃をやめないエト。
「……本気を出させてくれないならいつも通り、俺に期待をさせておいて裏切ってくスタイルの奴等と同じレベルってことだよ。
俺がエゼルに期待をし過ぎたのか?
こんなもんじゃないだろ!!
見せてみろよ!
久々にお許しをもらったんだ。
俺は存分にやらせてもらう!!
極大魔法……無数の閃光!!」
それはかつて、有罪を仕留めた時に使った光明の惨劇よりも極大な魔法。
空中に眩い光とともに描かれるは、強大な大きさの光紋章。
それが戦闘終了のお知らせをしているような破壊力と分かるのは、ルディス学園長自ら、防壁の前に立って勇ましい顔をしていること。
「天使の防壁」
今からフィールド外にまで至る魔法攻撃と魔王武器等の特殊異能攻撃の全てを無に帰す特殊防壁が張られ、観客席への被害は問題ないと言ってもいい。
「な、なに、!?
クッソ…この鬱陶しい光の針と鉄槌を避けるので精一杯なのに、この眩い光は!?」
自らの魔法と激闘を繰り広げている友人に怒りさえ覚えた彼は究極の手段をとった。
空中に生成された魔法陣からは、壮絶な破壊力を秘めた太い光柱がフィールドを破壊し尽くそう。
巨大な爆発音さえも聞こえない、触れれば消滅の世界で柱は無数にもエゼルとの距離を詰め始めた。
「この魔法は、俺の師匠も完成させることが出来なかった魔法の一つ。
光魔法はこの世で一番強い!!」
彼の強大すぎる力に、モニターで見ているニアもシャスも、実況室で肉眼観察をしているカルラでさえも恐怖を感じた。
それは、今まで自分が強すぎるが所以に、誰も相手をしてくれなかった寂しさからくるもの。
やっと、自分に立ち向かってくれる相手が出来た。
エゼルに「僕がエトの本気を出させる!!」って宣言してくれた時には涙が出るほど嬉しいことだったのに。
絶体絶命が味わいたかったのに。
怒りを露わにしたのだろう。
彼が言い放った直後、学園側が用意していた防壁が音を立てて割れ、砂煙と共に学園長の防壁にぶち当たった。
強い力でさえも傷一つつかない鉄壁の防壁で観客側の安全は守られたが、中にいた少年はどうだろうか?
「……広範囲の極大魔法。
いくら消滅を使ったとしても退けれない…!
死にはしないとしても、もう動けない体になったのは確実。
エゼルは俺に完全装甲を使わせてくれるほど、強くはないのかな?
だとしたら、また同じだよ。」
光魔法が蹂躙したフィールドはかなり深いところまでえぐれてしまったようで、観客席から見える光景は地面に穴が開いてしまった状態。
こんな状態で彼は生存しているのだろうか。
新たな力が覚醒しよう。
はい、というわけで!!
決勝戦に入りました!
決勝戦に入る前に12年前の時間とかそういう伏線を貼らせてもらったのに理由がありまして……はい、それは読んでいただければ次第にわかっていきます!!
では、次回もお楽しみに!




