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何故…覇滅龍のアイツがここに…!!

翌朝。

ディズィの医療室から出てきた青年はいつにも増して、快調な笑顔を見せて歩いている。



「今日の決勝戦、楽しみだなあ……!!

ディズィさんの話によれば、エトが決勝進出を果たしたって聞いたし!


今日は僕がエトの本気を出させる日!!

約束の日だ!」


ーー同時刻。

エトの寮室。


「くっそ、夜も眠れなかった。

楽しみ過ぎるのと、エゼルが心配過ぎるっていう二つの理由でこんなに眠れないとは…。


もし、戦うなら寝不足の状態かよ。

しょうがない……自業自得だわ。


さっさと起きて支度するぞ!!


今日はエゼルが俺に本気を出させてくれるっていう日だから!」


彼らの戦いの火蓋は早くも斬って落とされた。


ーー朝九時頃。

会場には早くも観客が入り、後四時間後に行われる決勝戦に向けて、応援の準備をしているようだ。

今日は涅槃で一番の強者が決まり、あわよくば、涅槃の強者(ニルヴァリン)の中に入れるかもしれない好機(チャンス)が生まれる。


それなりに報酬もあるわけだが、今大会の決勝戦出場者は、両者共に報酬に対しての興味と関心がゼロである。


そんな二人は早くも控え室にて、自分の身体のメンテナンスをしていた。


ーー

控え室にて、司令官に電話をしている。


「……司令官。リグルスの容態は?!」


「嗚呼。

病院に運ばれた時は、出血も酷く、死に近い状況だったらしいんだが、吸血鬼という種族はやはり随一の高位種族だな。

凄まじい回復力で、傷も一時間後に塞がり、今では寮の部屋で元気にしていることだろうと思うぞ。


会ってないのか?

あっ、そうか!!

ディズィに預けたんだったな!


あいつはどうだった?」


司令官の問いかけに真っ直ぐ、思ったことを直球で放った。



「……正直言って、性格とか諸々は最悪です。ただ、技術は最高です。


戦闘不能に陥った僕を、たった十時間で完全回復にまで回復させてくれたことは深く感謝していますから。」



「そうか。なら良かった!

あいつは医療バカでそれしか能がねえから、性格面で患者とよく言い合いになるんだ。


その様子じゃ、上手くやってくれたみたいだな。感謝するぞ。



んじゃ、決勝戦、楽しみにしてるぞ!

頑張れよ!」


通話が終わると、端末をタップして、ズボンのポケットにしまった。



「……そう言えば、ルナールは、黒闇の涅槃本部の総本部長に当たる、黒闇の幹部だったってことで、黒闇の魔人が涅槃に普通に出入りしていることが確証出来る。


僕が知らないだけで他にも沢山の黒闇に所属している涅槃の魔人が居るのかな…?

でも、前に説明を受けた時、どこにも所属をしない魔人、闇に堕ちた魔人が黒闇に所属する場合が多いって話。


何が真実で何が嘘なんだろう?

ルナールが回復しきってから、洗濯されるだろうからそれを待つしかないかな?


僕の時間制限(タイムリミット)はそんなに残されてないから…!!

早く、枷を外さなきゃ…」


彼は一人決意をし、あと一時間か後に始まる決勝戦へ向けて、万全の態勢を取ろうとソファに横になった。


ーーー

血濡れの病棟でグレースとシルバーにて。


「ここの兵士も……惨い殺され方をしてやがる!!

なんで安全装置が作動しなかったんだ?

涅槃の紋章を持ってない人間が通れば、攻撃モードに移行して、この壁から魔弾が異常なほど放出されるはずだろ?」


「分からない…。

ただ、この病棟がこんな殺戮に襲われてるんだったら一番奥にいる一人が犯人か、もしくは……」


彼らは口から大量の血液を吐き出し、絶死した兵士を複数も跨いで、最後の病室へと向かう。

病室のある地下五階の階段を降り、腐敗しきった血と肉の匂いに顔を歪ませながら廊下の方へ歩いていくと。



「……(シルバー、待て……誰か居るぞ!)」


「……(だな。俺の感覚が間違っていなければ、ヤツはとんでもないやつかもしれない)」


病室を前にして、直立で立っている男が一人。彼の容姿は見るなりに、険しく豪の強そうな男。

黒いコートに黒いズボン。手の甲には涅槃ではなく、紅き破滅の龍の紋章が描かれている。



「(覇滅龍(ファフニール)の強戦士、スピノザ・ディスカバリィだ。間違いない…!)」


「……まだ気づいてないとでも思うの?

シルバーさんと、グレースさん。


僕は、覇滅龍(ファフニール)のスピノザ・ディスカバリィです。

でも、さっきの伝言魔法(テレパシー)のやり取りでは僕の名前が出てからに、気配とオーラだけで僕と判断出来たのかな?


だとしたら、相当やるね。

ここで一戦交えたいところだけど、それはそう遠くない大戦争の時にでもやりあいましょうか。」


「……長々と話しやがって、うるせえよ。

つか、俺のこと知ってんのか?」


スピノザは苦笑して話を続ける。



「知らないわけないでしょう?

涅槃の現総司令を任される、シルバーという男の名前を知らないわけがない。

まあ、フルネームでは知らないんだけどね。

せっかくだから教えてくれてもいいよ?」



「敵に名を名乗るなんつー、めんどくせえことしねーよバーカ。

ところでこの有様はお前がやったのか?」


彼は残念そうに一言。


「君が探している犯人さんならとっくに逃げたようだよ。

僕がもし、ここで兵士を一人残らず殺していたんだとしたなら、君なら分かるよね?


僕から血の匂いがするかどうか、一発で」



「嗚呼。わーってるよ。

けど、一応確認だ。


こっちもこっちで大惨事だからな」


高笑いでスピノザは続けざまに。


「アハハハハハハ!!

そりゃそうだよ。


あの涅槃さんがまさかの!?

黒闇の侵入を三度も許してるなんてさ。


あのバベルとかいう建物、修正したほうがいいよ?

一部、破壊されてて簡単に進入できちゃうんだ。


まあ、僕も暇じゃないんでね。

君達はこれから起こることに耐えうるのかどうか、分からないけれど、頑張って!!


んじゃあね〜」



「ま、待て……!!


クッソ、逃げられた!!」


彼の言葉の一つ一つに不思議な点、疑問な点を感じるわけだが、気にしていても仕方がない。

彼らは病室の扉に手をかけて、勢いよく開けた。


すると、そこにはーー


「オイ…マジかよ…

やはり、黒闇の仕業か…」


「シルバー、これは洒落にならんぞ!

確保者の損失、これはあまりにもデカすぎる!


すぐに学園長に連絡を!」


ーー胸に刃渡りの大きなナイフが突き刺さったルナールの姿があった。

乾いた血液から察するに相当前に殺されたものとして考えても良さそうだ。

シルバーとグレースは、すぐに学園長の方へ一報を送った。


これから先で起こる大変なことに、彼らは薄々感づき始めていた。


"十二年前と同じことが起こる"。と。


更新遅れてすいません。

世界丸ごと異世界転移!?

の方も随時更新していきますのでよろしくお願いします。

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