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不穏な空気と紋章

「王宮って広いな〜・・・なんだよこの絵、笑えるぜ。ふははははっ!」


王宮の長い長い廊下に飾ってある歴代王家の者の肖像画にツボってしまったリグルスは"黙って歩け!"と言われ、司令官からゲンコツを喰らい死んだ魚のような目で王室への扉をくぐった。


王室には台座の上に綺麗な女性が座っており、その女性の胸の辺りに大きく"学園長"と名札が貼られてある。

司令官を除いた五人は突っ込むべきなのかと一瞬戸惑ったが、危険を察知して空気を読んだ。


「よく来ましたね。司令官とサディ、キルス、リグルス、チト・・・エゼル(?)。」


((今絶対思い出して付け加えたけど、合ってるか心配になったやつだ))

と心の中で泣きながらエゼルは肩を落とした。


「・・・今から貴方達はこの国、ニルヴァーナの為に命を賭け、生涯をこの国で過ごすと誓ったことになるわけですが、この後に皆さんの手の甲に紋章を入れさせていただきます。かなり痛いが少し痛いと言っておく・・・あっ、失礼失礼。少し痛いので我慢してください。それと、この隊の隊長は司令官と話し合った結果に・・エゼル・シスタとします!」


「えっ?僕ですか?!」


「いや、お前以外にいないだろ。見てみろよ隣を・・・バカ三人とか弱い乙女だぞ?」


「あっ((察し」


最初は何か戸惑いがあったエゼルだが、何かを察したような仕草すると学園長に簡単な意気込みを告げ、正式に五人のチームの隊長となった。

隊長になったエゼルは嬉しいやら悲しいやらの微妙な気持ちの中、頭の中で色々と考え事をし始めた。

その最中ーー三人のバカは紋章を入れる際の"かなり痛い"という部分と"学園長が紙を片手に言っているので締まらない"という部分に対してかなりの不安を抱えていた。


((こんなんが学園長で大丈夫なの!?))

((紋章痛そう・・・))


「うるさい!全て分かっても黙って従え!!」


その瞬間、司令官の理不尽な命令と共に三人の頭に絶妙なタイミングでゲンコツが入った。ゴツンッと良い音が三連続でなったので綺麗なメロディに聞こえたかもしれない。



司令官の後に次ぐ、五人は黙って焼きの部屋へ入る。

中には、黒いベッドが五つ用意され、熱された紋章の判子がジュージューという音と熱気を発している。

部屋の温度がまるでサウナのようなのに、王宮で働いているであろう係りの人たちは全員フードをかぶり、マスクで顔を隠している。服も上下共に肌が一切見えないような長袖の黒いマントだ。


五人は覚悟した様子で、黒いベッドの上に寝転がり右の手の甲を上にして目を瞑った。

次の瞬間ーージュゥゥゥという音と共に熱さを通り越して痛みが、激痛が彼らを襲う。

顔を歪ませて痛みを耐え凌ごうとするが体が次第に熱くなって息がし辛い。

そうも考えているうちに紋章入れは終わったようだ。


「終了です」


五名の係員の一人が代表して終了の合図を告げると、焼き入れの道具を持って奥の部屋に消えて行った。


二つのうちの一つの不安が消えたバカ三人は暴れるように立ち上がり、手の甲についている司令官と全く同じ紋章に興奮して声を上げた。

エゼルとチトも自分の手の甲を見て、興奮したように笑う。


「ところで、お前らバカ二人。何故、龍に乗って王宮まで来たんだ?」


司令官が先程から気になっていたことを直球で聞いた。

すると、キルスが事の発端を思い出しながら話し始めた。


ーー王宮に龍で突っ込む四十五分前。


「あいつ速すぎるだろ・・」

「王宮まで一本道だし、エゼルの足ならすぐに着くだら、どう考えても」


エゼルが宿舎から王宮に向かって着いた頃に、二人は宿舎を出た。

身支度やら何やらを済ませて、やっと出てきたのが十五分後。

真っ直ぐに歩いて進んでも全然余裕で間に合うと思った次第、キルスは街を見ながら遠回りをしていこうとリグルスに提案した。もちろん、承諾したリグルスはキルスの後について街をぐるぐると回っていた。


「あと十五分か。ここからの距離なら五分で間に合うし、どうすっか?」

「そうだな、龍研究所とやらがそこの突き当たりを曲がったところにあるらしい。行ってみようじゃねえか」


そして二人は龍研究所に到着。

広大な面積を持つ、研究所に入るためには高位の権利が必要らしく、高めのバリケードが貼ってある研究所は外からでも中の様子は見えない。

諦めて、王宮に向かおうとしたその時ーー彼らを襲ったのは1匹の蒼炎の龍。



「うおっ!」

「え?!」


巨大なバリケードを紙のように破り、突っ込んできた龍の攻撃を普段なかなか見られない身のこなしで避けた二人は、偶然にも龍の背中に飛び乗ってしまった。

龍は飛び上がり、街の上空をぐるぐると迂回し、王宮のど真ん中へ突っ込んだという。そこからは、司令官に受け止められたという次第らしい。



「龍研究所?取り敢えず、二人が襲われた現場に行ってみようか。ちょっとヤバイ匂いがするんだよ。さっきお前らが乗ってきた龍が消えててよ、噴水も綺麗に治っててな・・俺がこの手で仕留めたはずなのにな」


五人は急いで王宮を飛び出た、そこには半壊も全壊もしていない綺麗な噴水があった。龍の姿も勿論、無い。


「「「「「え・・・!?」」」」」


五人が驚愕している最中、煙草に火を灯した司令官はサングラスを外してこう言った。


「龍研究所へ、行くぞ!」


六人が向かう、その場所には忌々しく蠢めく"何か"が居座っていた。それが何なのかは、六人はまだ知らない。


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