君の攻撃はもう見切った!!
「ぼ、僕は負けないっっ!!」
赤き槍は、彼の腹部へと直接近づいていこう。
人間とは、窮地に追い込まれた時こそ本当の力を発揮出来るモノ。
彼は、目醒めた。
負ける哀しみと辛さを背負いたくないの一心を胸に秘めて。
「消滅…!」
瞬間。
ルナールの目の前から、エゼルの姿は一瞬にして消えた。
気配も掴んでいたはずの手触りですら感じない。
「これが噂に聞く、消滅ってわけか!
自分の姿も気配も存在も無かったことにして、相手の裏の裏の裏を書くっていう!」
が、今回は一瞬だけだ。
囚われから自由に解放されると、彼はいつも通りの姿で消滅神に力を集中させる。
彼の身体が白く黄色く発光し、ソレは涅槃中に顕となった。
「これが僕の魔王武器完全装甲型、消滅神だ!!」
白と黄色が全体以上の色を占めるゴツゴツとした鎧は全身を護るように装着されており、彼が手に握る刃の無いナイフもまた、警戒しなければならないモノの一つだ。
「……ッ!?
へー…
…完全装甲型を使えるなんてね。背中の傷は伝説の証だよ。
ただね、大丈夫。
……それが出来るのは君だけじゃないよ」
そう言って彼は、白黒の二刀を自分の腹部に強く突き刺した。
溢れるのは赤く鮮血な血液ではなく、黒い順悪な液体。
液体は、宙を舞って一つの球体になると、そこから、さらに形態を変えて、段々と彼の身体に纏わりつき、鎧へと変わっていこう。
「これぞ、白黒の究極完全体、完全装甲型だよ。
俺はお前みたいな才能で生まれてきたような奴とは違って、努力でここまでやって来たんだ。
だけど、大切なモノが護れないんじゃ意味無いよな?」
彼の身には右半分が白、左半分が黒色の鎧が身につけられていよう。
感覚だけでも理解が可能なほどに、その力は強大で限度の知れないものだ。
「僕は、君を全力で倒すだけだよ。
リグのために…!!自分のために!
お前が今までやってきた所業の罪、全て理解させてやる」
「ハッ、笑わせんなよ。
高々、消滅と完全装甲が出来るからといってそれがなんだ?
俺はお前が知り得ないものまで作り出せるんだぜ?」
そう言って、彼はエゼルの目の前で全身の気を地面へと咎めた。
すると、数分もしないうちに百匹以上の龍が召喚され、エゼルの前に蹂躙しよう。
「こ、これは!!!
今まで剣やら鎖やらの武器しか召喚しなかったルナール選手が、生物を召喚させましたーー!
生物の召喚といえば、召喚術の中でも高位の部類に入るくらい難しく、体力の消費も激しいのですが、、、!
それを一度に百匹も!!!
もう凄いです!!
エゼル君頑張れー!!」
そそくさ〜にエゼルの応援も兼ねて、カルラは彼に向かって笑顔でVサインを送る。
「この絶望的な状況で何をニコニコしてるんだ?
エゼル君?」
「いや、絶望的かどうかは僕が判断する。
君如きの価値観で僕の絶望を決定しないでよ、僕はこんなの怖くない」
「……ほう?
なら、やってみせろ。
行け!お前らぁぁぁあ!!」
ルナールの声に合わせて、エゼルへ飛びかかる巨大な龍の群れ。
だが、現在の彼の速度に敵う敵などーー
「龍の初速よりも僕の方が速いよ。
君は、召喚すべきモノを間違えた!!」
ー居ない。
エゼルが居た位置に龍が届くのも否、最初の時点で飛びかかった龍の鋼鉄で覆われた皮膚は簡単にも彼のナイフで一刀両断されていこう。
肉が裂けていく音と血が飛び散る音が組み合わさり、嫌な音と光景を会場中にお届けしている。
「やはり、身体能力強化魔法は強いすぎるな。
身体の能力であれば何でも強化することが出来る辺り、この程度の獲物では勝てない!
だがな、今回は俺も居るんだよッッ!」
彼が竜の攻撃を華麗に捌いている中、闇に潜んで彼の頭上に突如として現れたルナールはそのまま強く叩き落とした。
砂煙と共に地面にのめり込むも、彼の頭上には数十体の龍が踏み潰すように落下し、ゆっくり地面で寝ている場合ではなかった。
ので現在、その攻撃も避けて、あっさり空中を飛んでいるわけだが。。。
「それにしても厄介だ。
残り50体程の龍を捌きながらの、完全装甲ルナールを倒さないとならない。
どちらにせよ、ルナールは後回しだな」
空を飛び、飛びかかってくる龍の体、スレスレで避けてからに、そのままルナールの攻撃も華麗に避けきると、彼は連続で繰り返す。
視力強化
相手の攻撃の初速、パターン、軌道、角度、形、それら全てを目で読み取り、頭の中に「形」として作り上げていく。
「何だよ、逃げてばっかりだな。
でも、この絶望的な状況じゃ仕方ないだろうな!!死ねえええ!!」
彼の攻撃速度は増し、火力も増す。
怒りによって力を出し切っているのだろう。
「君の攻撃、見切った!!」
龍の初速と攻撃パターンを計算して、次に繰り出される攻撃が頭上からの尾を重ねて突き落とす攻撃だと予想されると、攻撃速度よりも早い初速で回避行動を。
「……使えねえ龍だなオイ!」
彼の動きも目視できない速度ではない。
背後からの初速が少し遅めの蹴りを五発連続で打ち込むことを予測すると、空中を華麗に舞っては完全な回避を。
ーーそして、全てを避け切った後に彼らが紡ぐ微妙な誤差の隙を逃さない。
一閃。
閃光の如く、光が過ぎ去ったかと思えば否。
それは敵を欺くための罠。
目視出来る速度で分身を飛ばし、ソレを自分だと思い込ませて敵に背後を見せてもらう。
単純明快で簡単に敵を欺くことの出来る業だ。
「君らの攻撃は全て見切ったよ。
だから、もう僕に攻撃を当てることは出来ない。
安心して逝きなよ。
僕が連れて行ってあげるから!!
身体能力強化魔法-奥伝-豪の衝!」
彼が持つ技の中で高火力のモノを一撃。
空中で巨大な爆発が二度と三度と連続で行われ、その度に彼の手に握られている白き槌に光が灯っていこう。
「りゅ、龍が壊滅!?
あいつはどこから現れた!?
ま、ま、まさか……!?」
瞬間。
空中に落下する彼に追撃する槌を持った少年。
そのまま地面に激突すると、白い光が円柱のようにエネルギーを高出力で放って、防壁内は爆発による影響で砂煙が絶えない。
「はあ、はあ……!!」
砂煙が消え、ルナールは白目を剥いて地面に残る巨大な穴の中心に横たわっている。
中心には、上半身がボロボロに散り始めたエゼルの姿があった。
「よ、よっしゃぁぁぁあぁぁぁあ!!
ルナールを倒したぁぁぁあああ!」
大きい声で叫び、腕を高らかに掲げると、それだけで歓声が巻き起こった。
試合はエゼルの勝利、ソレで終わり。
だと、誰もが思い、願っていた。
それを願うのは、闇に生きる黒闇。
白目のルナールには赤眼が生まれ、折れた骨も足りない血液も体内で簡単に生成されていく。
この時から、快晴だったはずの天気は黒い雲に覆われ、黒雲が渦を巻いては、司令官を含めた上級者連中は悪い予測を的中させた。
黒闇の時間だ。
そう告げるように、雲は黒いまま。
遅れてすいません。
今日は三日分の三話、投稿しますね。
また、「世界まるごと異世界転移!?」も三話、投稿しますのでお楽しみください!




