これ以上、消滅しないでくれ
アルファと名乗る女性へ何度も何度も鞭を打ち付けたサディだったが、彼女が服従の意を見せないことに驚きを感じていた。
「な、なんで私の催眠術が効かないの!!」
「貴女の攻撃は精神を掌握するもの、でしたね。
私には精神という微弱なものは備え付いていません。
私に備え付いているのは生まれ持った体術を極めた者の脳情報と機械の身体のみです」
つまりは機械人間。
人造人間とでも呼べる代物だろう。
「精神掌握を得意とする私にとって、一番相手にしたくない相手じゃないのよ。
と、前の私なら諦めてたかもしれないわね。
でも、今は、信頼出来る大切な仲間が大変な時!!
躊躇している暇なんてないのよ!!
全力で行かせてもらうわ!」
彼女は手に握っている鞭を、力強く何度も振り続ける。
鞭は、どんどん加速し、目で追い切れない類の攻撃に進化していこう。
「こ、これなら!!
貴女は私の鞭を見切ることは出来ない!
速度は重さよ、今の鞭を触れれば貴女の脆い機械の身体は簡単に砕けちゃうかもね!」
彼女の降る鞭の速度は音速の域にまで達しようとしていた。
だが、αは動じない。
鞭の初速、軌道、威力、動作、それら全てを目で捉えてからに頭の中で複雑な計算式を生み出す。
「音速を超えた速度で宙を自由に翔び交う鞭程、鋭利なものはこの場に置いていないでしょう。
けれど、私の勝利は確定事項です。
貴女はもう一人の私を見ることが出来ていない」
ーー直後。
鞭を無我夢中に振り続けるサディの顔面に鋭く鋭利な蹴りが炸裂した。
その影響で、蹴りによる吹っ飛びから、サディは鞭を遠くへ手放してしまった。
「ぐあっ……!!
も、もう一人…ですって!?
……ぐふっ!!」
彼女に一息を吐かせるのも成らぬ、二人のαは早い速度でサディを蹴り飛ばし、サッカーのパス練習のようにやり続けると、最後に二人で同時に彼女の腹部を強く、上へ蹴り上げた。
蹴りの威力で彼女の体は仰向けに落ちていく態勢となってーー
「私は武の英雄の脳情報を備え付けられている戦闘機械人形。
近距離戦では誰にも負けません!!!」
ーー二人同時に空高く飛び上がると、サディの腹部に両足で着地し、そのまま地面へと乗りながら叩きつけた。
地面へ到達した瞬間に巨大な力が彼女の体に加わり、口から血を流し、白目を剥いて意識を容易に手放した。
「目標撃沈。
シード戦での貴女の脆く微弱な攻撃は私には通用しなかった。
貴女の負けは最初から確定事項でした。
って、聞いていませんよね。
私達の足の下で簡単に潰れてしまったのですから」
αがサディから降りると、二人いたはずのαはいつの間にか一人に戻っていた。
「し、試合終了ーー!!
ここまで素性不明だったαさんは自我を持った最強の機械人形だったー!?
医療班はサディ選手の介抱を急いでください。
第三回戦は、α選手の大勝利です!!
次の試合まで多少の休み時間を取ろうと思います!!
十五分後に第四回戦の、
ニア・クルトVSエト・アルカディナの試合を始めたいと思います!」
カルラのアナウンスが聞こえる範囲内よりも少し離れた場所で、試合に勝利したエゼルは耳にイヤフォンを指して音楽を聴きながらリラックスをしている。
明日の準々決勝に進むことが許された彼は、次の試合を見ること以外にすることがない。
十五分間何をしようか、そう考えていた時、彼が話しかけてきた。
「貴様、完全装甲を使いこなせていないな?
前にも説明した通り、消滅能力を使っている時にあの状態になっても多少の能力が向上されるだけだ。
アレが本領を発揮するのは、お前自身が陽の光を浴びながら戦闘をすることが条件であり、私の願いだ。
これ以上、消滅しないでくれ。
今のお前では制御を解除することは出来ない。
元老院という人間が行なっていたお前の力にセーブを掛けるシステムは多少の力がついてきた時、自動的に外れるようだが、それに達していないようだな。
自分が使える魔法のみでこの先、戦う相手と戦え!!
私の力を頼るということはお前の大切に思っている人々と笑っていられる時間が1日ずつ減っていくということになるんだぞ」
「分かってるよ…。
でも、今の僕の力ならその制御を超えることは出来るかもしれない。
それが力によって到達した道なのか、別の道なのかは僕に分からないんだけれどね。
そこが元老院様の導き出して欲しい答えなんだと思う」
「私は薄々勘付いているがな。
お前自身が分からなければ意味がない。
私は待っていよう。
お前が自らの手で消滅という境遇から立ち向かっていこうということを。」
それだけ言って、ロストは姿を消した。
何が言いたいのかは分かる、僕がこれからしなければならないこと。
それは、力を証明するわけじゃなくて、自分と向き合うということだ。
僕の心の扉が開けば、制御は外れて僕の消滅するまでの時間は延長されるだろう。
そもそも、こんな制御システムがあったのかさえ、知ったのは三日前に部屋で寝ていた時、ロストが教えてくれたからだ。
ーー三日前。
ベッドで睡眠をとっていた時、暗闇の中でロストと自分が立っている絵が頭に浮かんだ。
そして、ロストは驚いたような表情と仕草で僕に聞いてきた。
「おい!!!!
お前、お前の身体の中になぜこんな物があるんだよ?!」
「な、なんだよ!?
僕の身体の中に何があるっていうんだ!?」
全く心当たりのなかった僕は、ロストにその物体がどんな形なのか、そもそも何なのかを聞いてみた。
「南京錠のようなモノが三つ浮かんでいるぞ。
お前の体内にある力の源を縛り付けるように鎖で繋がっている。
これは誰かがお前に組み込んだ制御装置だな…。」
「制御装置!?
き、聞いたことないよ?
でも、僕にそんなことを出来るとしたら元老院様しか居ないし…」
「なら、元老院様がお前の強大すぎるからを恐れて制御装置を付けたんだろう。
お前は今自分に自信が持ててないだろう?
それは何故だと思う?」
「僕な弱いから…。
皆を守れる力がないから」
閃いたようにロストは続ける。
「そこそこ!!
つまり、それは思い込みだ!
お前には元々強大な力が秘められていて、それを元老院たるものが勝手に縛り付けた。
その解放条件とやらは私には分からないが、力をつけたらとかではない気がする…。」
「元老院様は僕に試練を紡いでいたんだ!
僕が気づくかどうかを別として、!!」
「お前の消滅する期間もこれにだいぶ関わってくるだろうな。
力があればそれを制御できる力も自然ついていくわけだ。
私がお前から消えずに、消滅を止める方法。
見つかったな!」
「だね。
でも、どうやってその制御を解除するかによるよ。
色々と考えながら本戦が終わるまでには答えを出しておきたいな」
その言葉を肯定して、ロストは姿を消した。
自分に対しての力の制御装置。
付けた理由は僕の力を恐れたから?
僕の力がまだ早かったから?
何にせよ、理由がなければつけることはあり得ない。
本戦が終わった後に、元老院様に話を繋いでこの話を紡いでもらおう。
彼はそう考えるに至った。
「そろそろ、エトとニアの試合が始まる!
会場に戻らないと!!」
彼は来た道を戻ろう。
自分の制御装置の意味を頭の中で色んなものと摺り合わせながら勘付くことを祈って、考え続ける。
毎日投稿頑張っていきましょう!




