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残酷な一回戦

「第一回戦は、

リグルス・ブラッド VS ルナール・ディネーチェ」


キルスが説明した一言はリグルスの頭に深く残った。

隊長のエゼルを再起不能なまで仕上げた外道な魔人、強さがあるのにも関わらずその強さに自信を持てず、ゲスいことを平然とやってのける。

そんなルナールへ、彼の熱い闘志と怒りが炎となって目に灯った。



「……リグルス・ブラッド君だね?

よろしくね!

俺は、ルナール・ディネーチェ!

前大会の優勝者ってなってるけど、そんなに買い被らないでね。決勝戦は、不戦勝だったしさ!!


まあ、お互い頑張っていこう!」



その場の全員がポカーンと口を開けたまま、数秒後ーー



「お、お前!!

なんでそんなにキャラ変わってんだよ!!」



"良かったリグルスで"

エゼル隊は全員思った。



「キャラ……?

何のことかなあ、俺、元々こういうキャラだったと思うけど?

この土壇場でキャラ変なんかしないでしょ普通……。


まあ、強いて言うなら、"入れ替わった"とだけ、伝えておくよ」


"入れ替わった"

その言葉が意味するものは当然、その言葉通りの意味なのだろう。



「ル、ルナールは元々二人居て、ソレが入れ替わったってことか!?」


「そんな細かいことは気にしないで、もう試合始まるんだから正々堂々、勝負してね!」


それだけ言うと、彼は不敵な笑みを浮かべながら控え室へ消えていった。




「エト、お前まさか…!!」


「な、何だよニア!なんか知ってるのか!?」


ハッ!と何かに気づいたのようにニアがエトに話を切り出した、



「い、いや…!

前に倒した時、頭のネジとか100本くらい抜いたのかなーって」


「んなわけねーだろ!!

つか、何だよありゃあ……まるで、天使と悪魔みたいだなオイ」


「おおっ!!

良いね!《妖聖隷(フェアリーズ・エデン)》のルナールのページに天使化と悪魔化ってのを入れて解説入れたい!

今日の戦闘は楽しみですなあ…ぐへへへへ」


ニアの安定過ぎる情報愛に呆れ返ったエトは、彼を無視して控え室へと向かった。



ーー数分後。

参加選手全員がそれぞれの控え室に到着が確認されると、会場の観客席には隙間なく観客が、入り口と観客席側のそれぞれのポイントには司令官を含めた《守十刻(ジャッジメント)》の隊員が配置されている。



「涅槃直属の司令官ってこともあってか、俺達《守十刻(ジャッジメント)》の式まで任されるとは流石、出世したな!」



「うるせえよ、大体、お前も出世したじゃねえか!

俺もお前も隊が崩れてから、変わったな。

ガキの頃を思い出しちまうとなんか切ないってか、そんな感じよ」



「まあな。

でも、今日はそんな余韻に浸れるとは限らないぞ?

黒闇が攻めてくる可能性が高いからな」



「だからこうして、学園長の勅命で会場中に見張りと護衛を配置しているんだろうが。

俺の背中はお前に預ける、だからお前も俺にその頼りない背中を預けろ」



「わーってるよ。

涅槃直属の司令官サマ」



司令官ともう一人、守十刻の黒い武装服に勲章をジャラジャラと付けているガタイの良い男が昔懐かしげに会話を交えた。

どこの誰であろうと決して、彼らの眼から逃れることは出来ないだろう。

その程度のオーラは感じられた。



「よっしゃ、俺様が行くぜ!

第一回戦の右コーナァァァ!!!


熱き闘志を瞳に灯し、相手の血も精も全て根こそぎ奪い取る!

吸血王(ヴァンプ・キング)を身として大地を揺るがし、今宵は最強の吸血鬼となりて!!

リグルス・ブラッドォォォ!!」


白い蒸気と共に現れたリグルスの瞳に宿るは、熱き炎の闘志と怒り。

今日の彼は今までの何倍も身に纏っているオーラが異常を来しているように見えた。



「左コーナァァァァ!!

《阿修羅》の異名を持つ気高き涅槃最強の召喚士、ルナール・ディネーチェェェェェ!」



説明が短過ぎるのを突っ込みたいところだが、彼はそんなことは気にしていないようで白い蒸気の中からは笑顔で登場した。



「テメェ、頭逝ってんならさっさと降参でもなんでもしやがれ!!

俺はお前を殺しちまうかもしんねえ!」


「あっそ、殺せばいいんじゃない?

それが出来ればの話だけどね…?」



試合前の両者のいがみ合いは会場のボルテージを勢いよく上げた。

観客席からの声援が静まり返る頃、会場中が静寂の渦に飲まれた。


リグルスは魔法陣を展開して魔王武器発動の準備に身体を身構え、ルナールはそのまま何もせずに棒立ちのまま試合開始の合図を待った。



「それでは、魔闘演戯本戦、第一回戦をここに開始いたします!!

レディ………ゴー!」



「ルナール!!テメェは俺が許さねえ!!」



開幕速攻、リグルスの手には赤き頭身を持つ巨大な大剣、吸血王(ヴァンプ・キング)が握られていた。

そのまま、一気に間合いを詰めて、彼に大剣を振り下ろした。

がーーー



「……ハイハイ。

それで?許さないからどうしたの?」


ーー容易にも、ルナールの片手に大剣が掴まれ、抑えられてしまった。

彼が力を加えるたびに、持ち手のリグルスが険しい表情を見せ始める。



「ウッソでしょ……。

その程度で俺に許さない!とか言っちゃうのキミ……クッソ恥ずかしいね」


「うるせえ!こんの野郎ォォ!」


大剣に力を込め、奇跡にもルナールの手に傷を負わせた。小さな傷だが、それでもルナールは頭の中で少しの勝機が見えた。



「痛いなあ。

てか、なんでニヤニヤしてるの。

まさか、今ので勝機見えちゃった?」


「嗚呼、俺の勝ちは確定並みにな!」



どこか楽しげに余裕そうなルナールは、流石に攻撃をしようと思ったのか、背後に10本の刀を発現させた。

矛先の向かう先は勿論、大剣を両手で持って無防備な少年へ。



「クッソがぁぁっ!!!」


刀はリグルスの腕と足、腹部に突き刺さり、あらゆる場所から血液が滝のように噴出し始めた。

回避をすることも出来ない彼になすすべなどない。


「一気に形勢逆転だね…。

てか、早くその見えた勝機を実行しないと君の体、持たないよ?」


次々と何本も何本も何本も刀を発現させて放つルナールには余裕があり、それを全て受け止めなければならないリグルスには体力の尽きが見え始めていた。



「ぐはっ……!!き、消えろ!


今は、に、逃げることを優先しねえと、マジで不味い!」


吸血王を消すと、後ろへ後退し、無数に放たれる刀を必死に避けてルナールとの間合いを徐々に詰めていこう。



「もう終わりかあ。

ダメだなあ、こんなんじゃ俺が魔王武器を使う必要性も無いじゃん」


血液をだらだらと流しているリグルスの動きは明らかに遅くみえた。

通常の速度よりも遥かに動きが鈍い。


「お、俺は負けねえ!!!

お前を一発でも殴らねえと、俺の気がすまねえんだよ!!!」



彼が現時点で放った最後の刀をするりと最後の余力を使って避けると、右手を強く引いてルナールの顔に拳をめり込ませた。

動きが鈍っているとは言え、全力のスイングに身体ごと吹っ飛ばされて尻餅をついたルナールは、どこか楽しげに笑った。



「良かったよ、今のパンチ。

だから、俺も君の気持ちに応えてあげないと、ダメだよね?


魔王武器を使う必要性は全く無いからしないけど、俺の召喚の全力を見せてあげる!」


瞬間、ルナールの背後を含め、リグルスの背後にまでステージ上に広がる防壁を伝うように無数の刀が発現する。



「俺は15個までが限界だったんだけど、今では普通に100個まで行けるんだよね。

そうそう、全部当てたいから逃げないようにっと!」


無数の刀を見て、気持ちが揺らいでいるリグルスの両足と両腕には決して引きちぎれることのない《動作禁止(ビヘイビア・ロック)》の鎖が巻かれ、彼を磔にした。



「なっ!!!

こ、これはやばい!!」


観客席側からも、それぞれの控え室で試合をモニターで観戦している者達も含めて心が張り裂けようになる想いに、全力で非難の声を上げた。



「よ、よせえええええ!!!」



リグルスの叫びは、彼の快楽に。

直後、無数の刀がリグルスの身体を簡単にも貫き、赤い赤い血飛沫で地面を濡らした。

大量の血液が流れ、リグルスはだらりと腕を垂らしてそのまま、意識を手放した。



「は、早く!!!

彼を介抱しろ!!血の量が尋常じゃない!

病院へ急ぐんだ!!」



試合終了と共に鎖も刀も綺麗にその場から消え、笑顔のままに彼も控え室へと消えていった。


血塗れで意識もロクにない彼を医療班は搬送していった。

その無残な光景に実況者も言葉が出なかったのか、ただただ見つめていることしか出来なかった。



ーールナールの控え室前。



「お、お前よくも!!!

リ、リグを!!!」


殺意の篭った瞳で鋭くルナールを睨みつけるエゼルが居た。



「エゼル君だね。

何か用?そんなに殺気立ってさ」



速度強化(スピード)威力強化(パワー)防御強化(ガード)!!」



「おっと、やる気かい?」


怒りに身を任せた彼は、ルナールの顔面へ光の速度で拳を放った刹那ーーー



「やめろ!エゼル!!」



ーーそれは止められた。



「なんで止めるんだよ、エト!

いくら君でも、僕は今怒ってるんだ!!

手を離さないなら君ごとーー」



「ここで殴ったらこいつの思い通りだぞ?!

怒りを晴らして、リグルスの無念を果たしたいなら試合で倒せばいい!!


お、俺だってな!エゼルの隊の副隊長をやられたら、怒らないわけないだろ!

少し、頭を冷やせ!」



エゼルの言葉を遮るように苦難の表情でエトは強く怒鳴った。



「あらら、なーんか、友達ごっこみたいな友情物語を見せられてもね〜。

用がないなら俺の前から失せてよ。


試合後のいちご牛乳が不味くなっちゃうからさ」



それだけ言うと、怒りの根源である彼は控え室の中へと消えていった。



「……分かったよ。

ごめん、ちょっと頭に血が昇り過ぎたみたい。


ありがとう、止めてくれて」



「ああ、試合、頑張ろうな!」



エゼルの言葉を笑顔で返すと、二人はそれぞれの控え室へと帰っていった。


変わり過ぎたルナールに疑問と怒りと殺意を覚えて、彼らは決意を固めた。


この大会で、ルナールを完膚なきまでに叩きのめすと。


二人の友情と絆は決意ほどに硬い。

毎日投稿頑張っていきましょう!

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