盛大な登場から〜
「ふぁーあ・・・もう朝か・・」
昨日の夜は疲れ果てていたせいなのか気持ちよく眠ることが出来た。
昔なら、寝る前は羊が何匹とか考え事をして眠ろうとしていた時期もあったが昨日の襲い手と言い、初対面だったけれど、同じ隊の馬鹿三人組と接していると本当に疲れる。
ベッドから起き上がり、淀んだ表情を右手で正して、真っ白い時計に視線を移した。
時計の針は七時を指している。
集合時間は九時、今からのんびりと朝ご飯を食べて身支度をしても時間が余るくらいだ。
エゼルは立ち上がって洗面所に向かい、蛇口を捻り水を出して顔を洗う。
朝起きて必ずすることの基本中の基本だ。
真っ白くふかふかのタオルに顔を埋め、水分を拭うと、キッチンに向かった。
元老院様にお世話になっていた頃から料理をしていたエゼルにとって、ニルヴァーナで初めての料理は楽しみの一つだった。
だからなのか、彼の表情はどこか浮かれている、このまま調子に乗って怪我をしなければ良いのだがーー。
キッチンの引き出しから鋭く尖った新品の包丁を取り出すと、冷蔵庫にあった、ニラと肉を自分の食べれる大きさに切って切って切りまくる。多少拙いなあるようだが、経験者ではあるようだ。
料理の下ごしらえが全て終わると、フライパンに溶き卵を流し込み、肉とニラと一緒に卵をかき混ぜるようにしてスクランブルエッグ状に、肉は色が変わるまで炒めたら塩胡椒で味付けをしてーーエゼル特製ニラ玉の出来上がり!
「炊きたてのご飯に大好物のニラ玉・・・堪らないッッ!!」
ニラ玉を口に入れてご飯をかっ込んだ。
口一杯に広がるニラの香りと風味に卵が良い具合にマッチングしてくる。
今の自分の幸せを全力で堪能した表情はまさに100点の笑顔。
久々の自分の料理を堪能していると、玄関からはノック音が聞こえてーー。
「おーい!この部屋からいい匂いが・・・イケメンの俺のために料理をおすそ分けしてくれ!!」
「このDTの分は良いから俺に何か食わせてくれっ!」
声の主はリグルスとキルスだ。
朝っぱらから騒がしいな〜と面倒臭そうに自室の扉を開ける。
扉が開くなり、目を星のように輝かせた二人は口々にお礼の言葉を吐いた。
「エゼル、頼むぜ!」
「生はないのか?生は」
ーー打って変わって、いざ部屋に入ったら態度が変わった二人の注文に"何様だよ"とツッコミを入れたくなる衝動を抑え、生ビールと適当に目玉焼きを二つ焼いて、ご飯と一緒に二人の前のテーブルに並べた。
「エゼル助かったぁぁ!ありがとう!」
「ぷはーっ!最高だなオイ!サンキュな!」
((良い料理人ゲット!))
「何かこれからずっとゴチになろうとか考えてないよね?」
二人の悪意ある表情から何かを察知したのか、疑わしい目線でそう呟いた。
「「ぎくっ」」
「まあ・・・ご飯だけなら良いけど」
「「ありがとう!!」」
二人はお得意の馬鹿っぽいハモりを見せながら感謝の眼差しで一言お礼を言うと、自分らの端末をソファに座って堂々と弄り始めた。
そんな二人に怒りの鉄槌が振り下ろされる。
「もう八時だから早く支度して王宮前に行くよ!!」
料理を作り終え、食器を簡単に片付けると昨日配給された真新しい制服に身を通し、エゼルは蒼色の宝石を丸く象ったネックレスと赤と緑、黄色の宝石が埋め込まれた指輪をそれぞれの指にハメる。
「ん?なんだよ、その指輪とネックレスは?俺に似合いそうだな〜」
「料理も出来てアクセサリーも付けるとか女子かお前は!」
「・・・ああ、これは僕にとってのお守りみたいなものだよ。さあ、二人共!僕は準備オーケーだよ?自分の部屋に戻って着替えて王宮前!んじゃ、先行くね」
「あ、おい、待てよ!!」
宝石の話を聞かれた時、彼の表情が若干、暗かったことを感じ取ったリグルスは、これ以上は聞かないようにと心に釘を刺した。
***
王宮前では司令官がご機嫌斜めの様子で立っていた。エゼルとチト、サディの三人は九時前に王宮前に来ていたのだが、五人のうちのバカ男組ことキルスとリグルスが九時を過ぎた現在も来ていないのだ。
男性用宿舎から王宮までの道のりはまっすぐ突き進めば良いだけなのに何をしているのか。
エゼルはまたも呆れたように顔を横に傾けて、二人を待ち続けている。
遅い彼らを待つ途中、心臓の鼓動数を早めながらエゼルはチトと会話をしていた。
天使のような笑顔と姿を持つ、まさに生ける天使な彼女の心配は、ドS悪魔によって台無しにされる。
「チトさん、もう大丈夫?」
「大丈夫だよ。あのくらいじゃ、私はこう見えてタフなんだよ?」
昨日の走り具合を見て、持久力が無いことは充分に伝わってきたがタフさはあるのか。エゼルはホッと胸を撫で下ろした。
「あらあら?昨日は、チトが危なかったり居なかった時とかは呼び捨てだったのに本人目の前だとさん付けなんだね〜。ウブなのかしら?エ・ゼ・ル ?」
サディは小悪魔な笑みを浮かべ、エゼルの心を只管に引っ掻き回す。サディの言葉にエゼルは郵便ポストのような色に顔を赤らめ、チトから視線を外した。
「え、え、そうなの?エゼル君。」
「い、いや、あの時はさ・・・急いでたしそんな暇もなかったから・・・」
動揺しまくっているエゼルにサディはこれでもかというくらいにとどめを刺す。
エゼルの視線の前に必ず現れ、嘲笑の表情で煽るという何ともドSが奏でる最強の必殺技であろうか。
その必殺技を何とか回避しようと、エゼルは大きく息を吸い、叫んだ。
「うっさぁぁぁぁい!!」
「うるさいのはお前だぁぁぁぁ!!」
と同時に司令官のゲンコツを喰らい、涙目になりながら頭を抑えて王宮前の白い石で出来た階段に腰を下ろし黙って二人を待つことにした。
「やりすぎちゃったかしら?」
「サディさんは、少し自分の性欲を抑える努力をしてください・・・昨日だって私が寝ている間にあんなことやこんなことを・・・」
意味ありげなチトの言葉に鼻血がダラダラと垂れ始めるエゼル、その様子を見ていたサディはまた必殺技をかまそうと態勢を整えた。その時ーーー凄い速度で何かに乗って王宮に突っ込んでくる二名の姿が見えた。二人が乗っているのは、蒼色に輝く身体に、全てを焼き尽くす灼熱の赤い瞳をした龍。
「はっ!?あれは蒼炎の龍?!」
「だ、誰か止めてえええええ!!!!」
乗っているのは明らかにリグルスとキルスだ。二人は止め方が分からず、そのまま王宮に突っ込むことを確信した様子で泣きながら叫んでいる。
「まっっったく・・・」
司令官が呆れた様子で飛んでくる龍と同じ高さに飛び上がる。
そして、右手の掌を龍に向けてーー。
「龍殺魔法ーー封の術!」
掌から現れるは幾つもの銀色の太い鎖、ソレらは龍の頭から尾を拘束し身動きを取れなくする。
「まだまだ〜、これからっっ!!」
司令官の全身が赤いオーラに包まれ、オーラが鎖に渡ると、龍は動力を失ったように空中から崩れ落ちる。王宮前の噴水に落ちたため、噴水は崩れて辺りが軽い水浸しになっている。
眼の色は赤から白に、青く輝いていた龍の身体は赤色に変わった。
「やっぱりか・・・蒼炎の龍が生き残ってるわけねえもんな」
そう言いながら煙草に火を灯すと、静止している龍の近くへ歩いて行き、龍の下敷きになっているバカ二人を引きずり出して王宮の階段に投げ捨てた。
「「うおっ!」」
階段の出っ張り部分が丁度、背骨に当たったようで身体をのけぞらせる二人。
その直後、司令官の轟音とも呼べる怒鳴り声が王宮前で鳴り響いた。
「お前らぁぁぁ!!三十分の遅刻とは、良い度胸だなぁぁぁぁ!よし、今から理由を聞いてやる!5秒以内に言え、早く言え、うるせえええ!!」
「うるさいのはどっちだよ・・」
「すいませんでした・・」
潔く謝ったリグルスには笑顔で"次から気をつけるんだぞ"と告げた司令官は、反抗的な発言をしたキルスに制裁を与える。ボコボコにされたDTはサディに引きずられて王宮の中へ入っていく。その姿はまるでボロ雑巾のようである。
ボロ雑巾を含んだ六人は王宮の廊下を突き進んでいくのであった。
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