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僕が生まれてきた理由

ーーー数年前。

小夜時雨、寒い冬の夜に降り注ぐ一粒一粒の雨は泣き噦る少年の頬を濡らし、涙と共に地面へと滴り落ちる。



「……お母さんもお父さんも、僕のこと、見えてないんだ!!


ど、どうして…無視するの…?」



少年は胸の内を、誰もいない場所でただただ独り呟く。

その呟きに答える存在が現れた。


消滅の神、ロストだ。



「……貴様は忘れ去られてしまったんだ。

人間の身でありながら、私を受け入れてしまったばかりに!!


何故、私を受け入れた!!

私は君の存在を消し去ってしまうモノだぞ!」



少年は真っ赤に腫れた目をこすり、泣くのをやめて立ち上がると、自分にしか見えない影へ笑顔でこう言った。



「初めての友達だから…!

受け入れないなんて出来ないよ!!


僕は君が現れる前に元々影が薄かったんだ…。だから、君のせいで僕が消えるなんて考えないでよ。

いけないのは全て僕なんだから……」


ロストはなにも答えることが出来なかった。

元々、少年の影が薄かったことは事実。

でも、親に忘れられるほどにまで薄くさせたのは間違い無く自分の存在が原因だ。



「僕ね、友達も居ないし親にも忘れられちゃったから、君しか頼りどころがないんだ。

だから、僕が消えるまで君は僕の中にいてほしい。

頼むよ、お願い!!」



少年は自分がなにを言っているのか、理解していたのだろうか。

だが、ロストは答えた。



「良いだろう!

貴様が消え去るまでこの私が責任を持って貴様に力を貸そう。


この私の最初で最後の友人よ!」


彼は笑顔で頷くと、その小さな体を濡れた地面へ任せて、倒れた。

冷たい雨は空気と一緒に彼の全身を襲う。

だが、少年の身体は消滅と共にアリ。


雨にも風にも冬の寒さにも負けない。


その瞬間から、彼の背中には一生消えない傷と力が宿った。

諸刃の力が。



この時、少年は、(よわい)12歳だった。



そもそもの話、ロストと出会った原因は少年の私生活、共に両親に原因があった。


彼の家族構成は、父、母、自分、双子の妹。幸せな4人家族の筈が、影の薄い彼を親は愛すことなく、妹だけを愛して唆した。


親に愛されなかった苦しみを、何処かで発散しようと外出をしては友達と遊ぶ毎日。

だが、11歳を超えた辺りで少年の生活にヒビが入り始めた。


ピキピキと割れる音と共に。


毎日のように遊んでいた友達はーー



「よっしゃ!今日もサッカーするぞ!


アレ?人数1人足りなくね?

いつもは揃ってたのに……誰か呼べないの?」



"僕はいるのに"


10人でやっていたサッカーは、僕の目には普段通りに見えても、他の友達から見れば僕の存在は見えていないと同然。

5:4の試合に見えてしまう。


徐々に亀裂は大きくなっていく。



「出席取るわよー。

アレ?31人いる筈なのに、いくら数えても30人で1人足りないわね。

名簿を見ても1人もいないなんてことないし…おかしいなあ」



"僕が見えてないの?"



学校に行っても僕は誰にも認知されないようだった。

授業中、音を立てて立ち上がっても、授業をしている教員の前で手を振っても、誰1人として気づいてはくれない。

思い切って、生徒名簿を覗くと、その瞬間から僕は自分自身という存在がわからなくなってしまった。



"僕の名前は……ない"


そこに彼の名前は無かった。

自分の席の列の前の生徒と後ろの生徒の名前が詰められて、綺麗に抹消されていた。


ーー消滅した。

自分自身という存在そのものが。



学校でも家庭でも認知されなくなってしまった少年に居場所なんて当然、無かった。



「生きるために生まれてきた筈なのに、これじゃまるで……消滅するために生まれてきたようなものじゃないか!!


僕は誰にも認知されない……!

見てくれない!!誰か見てくれよ!僕を!」



そんな時だった。

彼に一筋の光が見えたのは。


自分を破滅に追い込む、最悪の存在に気づい

たのは。


自分を初めて認知してくれる存在に、気づいてしまったのはーー。



「少年よ、どうした?

何故、一人で遊んでいる?」


巨大な影は夕焼け雲の見えていた夕方の景色を一変させるほど、黒く、暗い。

少年は自分の目の当たりしている光景を、不思議にも驚くことはなく、影の言葉に答えた。



「僕、誰にも見えてないみたいなんだ……」



「……それは嘘だな。」



黒い影は答える。



「嘘じゃないよ。

誰も答えてくれないし、誰も僕を見てくれない。友達と遊ぶ時も授業の時も、家にいる時もずっっっと!!


僕は誰にも認知されない!!

どうして、こうなってしまったのか…分からないんだ!!!」



黒い影は再び答える。



「また嘘をついた。

誰にも認知されない?


私は認知している。

少なくとも、ここで一人。

ブランコに乗って遊びながら泣き叫んでいる少年を、私はこの目で見ることが出来ているのだ。


もう一度聞こう。

それは、嘘だろう?」



少年は嬉しそうに目に溜まった涙を、服の袖で拭きながら応えた。



「うん!!!

あ、ありがとう…!


君は、なんていう名前なの…?

あっ、僕はエゼル・シスタ!」



「私の名前か…?

我が名は消滅の神、ロストよ。

貴様の運命に従って現れた、安い神だ」



ーーそれがロストとの始まりだった。



僕は、エゼル・シスタ。


彼の名前は、消滅の神、ロスト。



僕は、ロストとの契約を終えて誰にも気づかれない消滅の人となった。

14歳になるまで、ずっと世界を周って力を高め、僕の目指す道を探した。


でも、どんなに色んな場所に行ったとしてもキッカケが訪れなければ生きる意味を、目指す道なんて見つかるはずがない。


ロストが居たとしても、人に触れることが出来なければ、ぼくは成長できない。


甘いことを言っていたんだろうと思う。

でも、14歳の頃の僕にはそんな考えしかできなかったんだろうな。

人と繋がることでしか、強くなれない気がして。


でも、今は分かるよ。

人と繋がることで強くなりたかったんじゃなくて、人と繋がることを求めていたんだろうと思う。


僕を見て欲しくて、純粋に話したかったんだと思った。


でも、今はそれが当たり前にできる生活に触れることが出来ている。

僕は幸せ者。


元老院様と出会ったのは14歳の頃。

でも、その話は今回とは関係が無いからまた今度に話すよ。


ニア、エト。

僕はね、消滅するために生まれてきたんだ。

誰にも認知されなくて、誰にも声をかけてもらえない僕は、この世界で消滅しない道を探すこと、それが夢なんだよ。


この背中の傷は、ロストとの絆の証。

伝説の魔武器(レジェンダル)は、昔の英雄神の力を借りるものだと聞いているけれど、消滅の神にそんな力はないよ。


だから、僕の背中の傷はきっとソレとは違うものなんだろうさ。


だから、これ以上。

この傷の痛みに触れるのはやめてくれ。


エゼルの目には酷い怒りと、悲しみの炎が満ち溢れているように感じた。


小夜時雨、今日もまた雨が降り注ぐ。


冬の冷たく凍てついた雨が。。。


投稿スパァーッと行く理由は、きっと書いてるのが楽しいからです!

楽しん頂ければ光栄です!!


今はシリアスですねー。

もう少しすれば本戦スタートですよ!

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