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軍神王-完全装甲-

エト隊全員を貶めたルナールは現在、鬼の館付近の特設拠点にて、優雅に椅子に座って紅茶を飲みながらティータイムを過ごしていた。



「……ルナール様!!こ、此方に向かって光速で移動する何かが近づいて来ています!!


…あっ!アレです!!

お逃げください!!」



ルナール隊に所属している複数名の隊員は光り輝き超速の存在を目で追うことは当然出来ず、大急ぎで拠点から離れようと、走り始める。



「こいつら如きでは手に負えないやつが来ちまったか。クソ面倒だな。


……つか、逃げねえよ。

こいつは突っ込んで来ねえし。


アリク、客だ。

茶の用意をしろ」



「御意」



彼らが居座っている拠点の目の前にソレは降り立った。

光速で移動した時にかかる肉体への耐久力と速度を落とすための耐久力を自分の力の限界までに引き上げて。

そして、ソレの表情は赤く、黒かった。



「何用で来たんだ?エト・アルカディナ。


お前も今は合宿中だろう?」



「……どうして…」



「ん?」


彼の発しようとする言葉を聞き取ろうと、ルナールは耳を傾けた。



「……どッ、どうしてッ!!


お前はいつまでたっても自分の力に頼ろうとしないんだよッッ!!


……セコい手ばかり使って、関係のない人を簡単に傷つけられるのかって聞いてんだよッ!!」



椅子に座って紅茶を嗜んでいたルナールにエトからの拳が直撃した。

彼は数メートル先に吹っ飛ぶほどの威力を受けたが、エトは彼自身を逃そうという意思は感じられず、腕を掴んで、その後、何度も何度も拳を彼へ打ち付けた。




「……ぐふっ!!


痛ェなッッ!!」



自ずと、エトに反撃の拳を殴り当てた。

強い衝撃に耐えられず、彼はルナールと一定の距離を挟んで、激しく叫び散らす。



「なぜ分かり合えない!!


同じ涅槃という国の仲間だろ?!

ティアの時も今回の時もお前が全部発端じゃねえかッッ!


ここで分かったと言わないならお前をここでぶっ殺す!!」



「悪いが、お前の中に眠っているソレを使おうとしない限り、お前自身が俺様に勝つことなんざ、絶対にありえない!!


来い、白黒(ヴァイス・ネグロ)

この世界を白と黒の静寂な世界に変えようぞ!」



彼の両手に握られた剣は、(ヴァイス)(ネグロ)

ルナールの視界には白と黒しか見えていない。そして、彼は現在最強だ。




「……俺が此奴を使うわけないだろ!


ルナール、お前は俺が死んでも止めてやる!



速度強化(スピード)威力強化(パワー)防御強化(ガード)!」



ルナールはこの時、地面を白。

空を黒。と、自分の中で投影した。


それは文字通り、地面は盾。

空は剣となってエトへと襲いかかろう。



「……くッ!

黒を避けるのに精一杯だ…!


攻撃をしようにも白に防がれて黒で滅多打ちにされるだろう…。

やっぱり、俺には彼奴に頼るしか…!」



窮地に追い込まれつつあるエトは、ルナールに対して一度も攻撃を仕掛けることができていない。

黒によって降り注ぐ剣を避け、攻撃をしようにも白の盾で見事に防がれてしまうからだ。


……ので、彼は次の行動に出よう。

ルナールをここで止めなければ、魔闘演戯で復活したエゼルがボコられて終わり。

なんて事になりかねない。


彼は全神経を身体に眠る細胞へ集中させて、とある言葉と共にーーー




「俺の中に眠る、浅く、儚く、脆い軍神よ。


この俺に少しだけでいい。

力を寄越せ……!軍神王(オーディン)!」



ーー解き放った。




「……この形態はアカデミア以来だな。


さっさとケリつけないと!!」



彼の血管、骨、臓器、細胞。

それら全ては黄色く白い、閃光のように輝く、魔王武器となった。


心も、腕も、足も、全てが魔王武器。

コレが、エト・アルカディナの魔王武器。


軍神王・オーディン。

特質:完全装甲型(フルアーマー)


まさに、閃光。

金色の装甲は全身を包み込むように装備され、所々は剣のように鋭利に見える。


背中に挿してある赤い槍は、禍々しさを物語っており、ルナールの持っている白黒(ヴァイス・ネグロ)とは次元が違うようだった。



「……す、凄まじい魔力!

コレは…まるで別次元!!


さっさと始め……ッッ!?!?」


興奮しているルナールの右腕は綺麗に削がれ、宙を舞って、地面にボトリと落ちた。


一瞬の出来事だったのか。

彼には状況判断ができることはあり得なく、声を荒げて反撃を繰り出す間も許されることはないーー



「俺はお前を許さない。


ここで、死んでも止めなきゃならない!」



ーー彼はルナールの魔王武器を破壊した。

武器損壊時、魔王武器の所有者は身体と精神共に激痛という形のペナルティを受け、三日は動くことができない体になってしまう。


という言葉をどこかの授業で習ったことをルナールは頭で思い出し、その激痛を味わった。



「それがお前の本気か…


エト・アルカディナ。

クソ…魔王武器の生成には…三ヶ月以上の猶予と精神的な痛みを耐え凌がなきゃならない…!!


夢が叶う一歩手前でこんな事になるなんてな…!くそが…。

お前は絶対に許さな……」



魔王武器の破壊により、彼は地面へ倒れ込んで苦しみながら最後の言葉を吐き終わることも無しに、意識を手放した。


「こ、このッッ!!

よくもルナール様をッッ!!」



周りにいたルナール隊幹部はポカーンと口を開けて、目の前の事実に目を背けようとエトへと襲いかかった。



「やめとけ!!」


一人の言葉にピクッと体が停止する。



「今のお前らじゃ束になっても勝つことはないできない!

ルナール様が相手になられ、敗北してしまったんだぞ?


少しは頭を冷やしてから行動に移せ!」



そう言い放ったのは、ルナール隊副隊長のリブロだった。

エゼルとチトに倒されて以来、拠点の奥、救護室にて治療を受けていたが騒ぎを聞きつけて、彼らを止めたようだ。



「エト・アルカディナ?だよな?


容姿が全然違ってわけわかんねえけど」



「……」



彼の言葉に興味を示さず、エトはその場から去ろうと背中を向けた。

歩みを始めると、完全装甲の魔王武器は解かれ、彼は脚力に神経を集中させた。



「……コレで、きっと良かったんだ。

ルナールは俺が倒して、今回からの魔闘演戯はエゼルとの一騎打ちで、良かったんだよ。


……ティア、お前の敵討ち終わったぞ!」



エトは帰還する。

高速で発射したロケットのように、地面を蹴って空高くまで飛び立った。


まるで、自分の過去にサヨナラするように。



冷静な表情で、着実に。



カルラの元へと、向かっていった。





ーーーとある人物の精神の中。


真っ暗な世界。あるのは、白く眩い光が差し込む入り口が一つあるだけ。


そんな世界で、椅子に座った黒い影は地面に倒れている白い影を見下し、傷つけて、立ち上がり、眩く光る出口へと向かっていった。


「貴様では、この世界を白と黒で染めることは出来ない。

使えない雑魚の後始末は使える優秀な人がやるしかないんだよバーカ!

黙って見てろ、雑魚!」



ーー交代。


誰かの中で、何かが入れ替わった。


其れは、誰にも予期せぬ事態だろう。


白は黒く……塗り潰された。


遅くてすいませんッッ!!

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