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慰め

その日。

エト隊から一人の魔人が殉職した。

原因は、ルナール隊との衝突。ということにはならず、国外の敵を殲滅しようとした結果に敵の力が強大だったために死亡が確認された。


という、報告が上にされた。

コレは、エト隊が書いたものではなく、ルナール隊が書いたものであった。

ルナールはエトに対し、何かを思ったのかさえ定かではないが、彼らの友好関係は前程には喧嘩沙汰になる程の物でもなくなった。


そもそも、エトがルナールに突っかかることもルナールがエトに対して突っかかることがなくなったからである。

学園長は少しの違和感を肌で感じたが、黙認した。



ーーー葬式等が終。ティアの墓にて。



「ティア、俺が生きてる間に仇を取ってやるからな!ルナール、俺が殺す!」


ニアは涙ぐみながらも、ティアの墓へ拳を掲げてそう言い放った。

あの日から四日ほどの月日が経とうとしていたが、エトは自分の部屋から一歩も出てきていない。


ティアの葬式にも出欠していない程に、恐らく深刻なものなのだろう。

この時のエト隊のムードは最悪そのものだった。ティアというムードメーカーの殉職に、捏造された事実。

隊長が引きこもり、全員が俯いている。


そんな状態も流石にまずいと思ったのか、カルラは額を空へ向けて、こう叫んだ。


「ティア!絶対に、エト君は私がなんとかするから!!お空の上で、私達のことを見守っててよ!絶対に!!」



涙を流しながらの叫びは多少の嗚咽を混じらせながら、空へ響き、空気に消えた。

彼女の言葉はニアにも、隊のメンバーにも。そして、きっとティアにも届いたであろう言葉だった。



残るは、エト一人のみ。

彼女は全力で足を踏み出した。



ーーーーー



学生寮に着くと、彼女は真っ先にエトの部屋へと向かった。彼の部屋がある場所は、やや高めの場所なので階段よりもエレベータの方が無難ではあるが、急いでということあってなのか、それとも単にじっとしてられなかったのかわからないが、彼女は階段を一気に昇り詰めようと必死に走った。


果てしなく続く階段を夢中になって登り、やっとの思いでエトの部屋へ着くと彼女はインターフォンを押さずに扉を叩く。


「エト君!開けて!!」


「……カルラか。どうしたよ……」


扉越しにも分かる聴いたこともない闇に埋もれた低い声。鼻をすすり、鼻水をティッシュで拭っているような音と共にソレは彼女の耳に届いた。



「どうしたじゃないの!ここ開けてよ!」



「ごめん……開けることは出来ない。今朝も、ニアが来たんだけどな………。帰ってもらったよ……」



あのしつこさだけなら、誰にも負けないはずのニアに開けられなかった扉。

何故か、自分の中で無理なのかと確信してしまったが。

彼女には諦められない理由がある。

このまま、自然解散するかもしれない自分の隊の隊長にして、幼馴染を助けたい。その一心だけが彼女の心を大きく動かして、力に変えた。



水龍神(リヴァイアサン)よ、私に大切な幼馴染を助けるための力をください!」



彼女の真下に青きに光り輝く六芒星の魔法陣が出現し、彼女の手には弓を、背中には矢を託すと、音も無く消えていった。

学生寮の真ん中に位置するエトの個室だが、この時の彼女は何も考えていなかったのだろうか。

盛大にその力を開かずの扉へぶっ放したーー



「ハアッ…!?」



ーー彼女の目に映ったのは、驚きのあまり、目を丸くしたエトが自分を見ている光景。

すかさず、カルラは背中から矢を取り出し、エトに弓を向けた。



「オイ…カルラ、それはどういうつもりだよ」


「……」



無表情に笑いもせず、カルラは弓に力を込めた。真剣な眼光で。



「使えない隊長を殺しに来たのか…?仲間も守れない、魔王武器も使えないようなクソみたいな隊長を…!」



情けない姿のエトに、彼女は躊躇なく矢を放った。矢の軌道は、真っ直ぐエトの脳天に向かっていく。綺麗なまでに。



「……エト君は役立たずの隊長なんかじゃないよ。いつも適当で面倒臭がり屋だけどほっとけなくて、皆に頼られてて愛されてる最高の隊長なんだよ……?皆、待ってるよ。エト君がこの辛い状況を乗り越えて立ち上がるのを……」



矢は水平に跳び、彼の頭を射抜こうと必死に宙を舞う。

矢の先端が彼の頭に突き刺さる直前ーーー



「ーーさあ、起きて。エト君」



ーー彼は目覚めた。


水龍神(リヴァイアサン)の力を纏った矢は簡単に白く黄色い光に弾き飛ばされ、床に突き刺さった。

光は強く強大に、彼の心の闇を溶かす。


魔王武器が使えなくても、仲間を守り通すことが出来なかったとしても、前に進まなかったら自分のために命を張ったティアは無駄死にだ。


彼の信念は強く再生し、闇に落ち、低くなってしまった声も透き通るような美声に戻っていた。

全ては彼女のお陰だ。

立ち上がったエトはカルラの方へ向き直ると、目に涙を溜めてーー



「……わあっ!!でもね、今日くらいは許してあげないと、泣き虫のエト君は泣いちゃうもんね…。」



ーー彼女に胸に飛び込んだ。

身長の低めの彼女に受け止められるほどの重量じゃないのか、エトとカルラは床に抱き合いながら落ちた。

エトはカルラの胸の上で健気にも涙を流し、カルラも楽しかったティアとの思い出の日々を思い出して、涙を流した。



ティアという一人の人間の死は、エト隊にとってかけがえのないエピソードなのである。

彼らは戦い、彼らは護る。


自らの大切なもののために。。。




ーーーー



「そんなに酷い奴なんだね…ルナールって…」


ニアから話を聞き終わったエゼルは、思わず一言、零した。


「そ、そうなんだよ。だから、エゼル隊はルナール隊に逆らわないこと。これは凄く大切なことだよ?分かった?」


「うん。ありがとね、ニア!」


肯定的な受け答えに胸を撫で下ろしたニアはエトの方へ視線を向けた。

丁度、エトもニアの方を向いていたのか二人は目が合って。



「ニア、そろそろ魔王武器仕舞えよ。辛いだろ?あんまり、無理すんな!」


「えへへ、分かってた?」


「当たり前だろ。これ以上、大切な仲間は失わない。だからエゼル、絶対にやらかすなよ!ルナールは危険だからな…」



エトの忠告も笑顔で「うん!」と受け答えすると、ニアは時間を戻し、魔王武器を外した。


「はあ…はあ……もう動けない……」



王宮前の広場は、時間停止を行った時にはあり得ない鳥の囀りや、噴水の水が滴る音が聞こえ、同時に地面に仰向けに寝そべって死にかけているニアの嗚咽も聞こえてきた。



「……ニアァァァァ!!!エト君ーー!!」


直後。エトはその叫び声に戦慄し、エゼルの後ろに隠れ、ニアは地面に寝そべったままの死んだフリを決行した。


「え、エト?ニア?」


二人のリアクションに取り残されたエゼルはただただキョトンと声のする方へ視線を向けるとそこにはーー


「なんで会議途中に抜け出すのよ!!明日からの合同合宿の隊の人達に迷惑でしょーが!!」


怒りMAXのカルラが居た。



カルラは、エゼルの後ろに隠れたエトを見つける前に地面にて死んだフリをしている自分の隊の隊員を見つけると、呆れたように地面を蹴って彼の顔面に強めに着地した。



「ぐあっ……ヤブァイ…キャルラ…ふごふご…ごめ…ああぁぁぁぁ!!!」


「会議中に魔王武器を使ってエト君と脱走したのは誰かな?今回だけは許さない!!」


ギシギシと彼の頭蓋骨が悲鳴を上げている音も謝罪の声も、容赦無くカルラの履いている白いスニーカーに踏み潰されてしまう。

怒りMAX状態のカルラは、実況の時のような明るく元気な女の子と言った感じではなく、言葉で例えるのであれば、其れはまさしく"鬼"のようだった。



「エト君の説教が終わるまで私の靴の下で反省してなさい!!」


「………」


抵抗の言葉を吐く気力さえ失ってしまったニアは、彼女の靴の下で只々エトの説教終了を待機する形となった。

お次はエトの番。と言わんばかりのカルラの視線はエゼルを捉える。



「エゼル君、私今怒ってるんだけどその後ろの馬鹿を引き渡してくれない?」


「えーと……分かりました…」


背後から"やめろやめろやめろ"というエトの声が聞こえてくるが話を聞いている限りではエトとニアが悪すぎるのでエゼルは速度強化(スピード)でエトの背後に回り込むと、威力強化(パワー)でエトの背中を軽く押した。



「………え…」



軽めに押したとは言えど、威力は強化されているため、エトは、あっさりカルラの目の前に押し出されてしまった。


その後、優しい表情をしたカルラに連れてかれたエトとニアの末路を僕は知らない。


恐らく、死んだも同然なんだろう。


女って怖いな…と、エゼルは真剣に思ったのだった。


次の話からはいよいよ、ルナール隊との合同合宿が始まります!

ここの話が次の魔闘演戯本戦に響いていくのでお見逃しなく(*´ω`*)


更新速度は遅いですが、楽しみにしていただければ光栄です!

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