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衝突

「初日から雨なんてついてねーな…」


ルナール隊と合同任務を任されたエト隊は、涅槃の出入り口である|転送魔法式巨大転送装置(バベル)の周りの警護にあたっていた。



「だね〜、エト君、雨具持って来た?」


「いや?持って来てないよ…。何で皆はそんなに用意周到なんだよ!」


エトを除くメンバーは全員、戦闘用の雨具を装着している。視界の曇る雨天時に特化した涅槃特製の防護製なので強い衝撃にも雨にも耐えることが出来る代物だ。

涅槃の街を出る、野外任務をする場合は必須で忘れることなんてあり得ないのだが。。



「まあ、エト君。絶対忘れるだろうと思って、呼びを一つ持って来てるんだけどね」


カルラは背負っている鞄から畳んである雨具を取り出してニコッと笑った。



「カ、カルラぁぁぁぁ……!!」


「ちょっ、顔近い!!嬉しいからって調子に乗らないでよね…!」


あまりの喜びにエトはカルラヘ抱きついた。突然の出来事に顔を赤らめたカルラは、エトの頬へ張り手を食らわし、雨具を投げ捨ててプイッとそっぽを向いた。


「エト〜…何でそんなに鈍感なの?」


「……痛ってえ…。ん?鈍感って何が?」


カルラとエトを除く、全員は"ダメダコリャ"とエトの鈍感さにやや目で呆れた。



「よし!これで雨も敵も怖くない!」


エトが雨具を装着し、準備万端と言わんばかりの声を発した直後。

複数の敵兵が頭上から現れた。数は、数百体。明らかに異常な敵の数に圧倒されながらもエト隊は陣形を組み、それを壊すことなく敵兵を倒していった。



「はあ……はあ……。何でこんなに敵が…」


数百体という敵を倒した彼らの消耗は激しく、すぐにでも休息を取りたいと思っていた時。。。彼らの前に"敵"が現れた。


この時を待ち構えていたと言わんばかりに。



「敵国の兵士を操るというのは案外便利なんだな。かなり助かったよ、リブロ。」


「お褒めに預かり光栄です。ルナール様。」


涅槃の白い制服を纏った複数の敵は、ルナールを筆頭に疲労しきったエト隊へ向かって歩いてくる。


「敵を操る?まさか…さっきの人数は…!」


「そう!察しがいいんだね、大間抜けの大馬鹿隊長の隊員のくせにさあ!!」


ルナールの言葉と共に放たれたのは巨大な大剣。大男が振り回すようなソレは、複数エトに向けて飛んできた。



「クッソ……ルナール!!!」


一つ目の大剣はするりと華麗な身のこなしで避けることが出来たが二つ目が避けた位置に出現し、エトは大きく吹っ飛ばされた。



「その程度の力でよく俺に刃向かうよな?涅槃も学園もお前も!!全て、俺に服従を誓っていればそれだけでいいのにな!」


三つ目の大剣がエトに向かった時ーーーー



「タイタンよ、俺に兄さんを守る為の…仲間を守るための力を寄越せ!!」



ドガァッ!と金属が簡単に破壊された音がして、ルナールの投影した大剣は粉々に砕けた。

その場に残るのは、エトの前に立って身を呈し、その拳で大剣を叩き砕いた一人の少年の姿だった。



「ルナールとか言ったな?何でもかんでも自分の思い通りになると思うなよ!この自分勝手のクソ野郎が!」



拳を前に突き出し、構えているのは、ティアだった。彼の魔王武器はーー大地神(タイタン)。その拳に灯る光は何者をも砕き、破壊する力を持っている。



「小癪な!!疲労しきったお前らにこれが止められるかよ!!!」


ルナールはあらゆる全ての武器、この世に存在するものを投影し、ティアへ放った。



「お前の数に頼る戦略は俺には効かない!!」



が、彼の拳によって全て破壊された。



「なっ!?(あの魔王武器、厄介だ。あれを使うしか無いな…)」


自分の攻撃が当たらないことに驚愕を見せ、彼は次の行動に出た。

通常の能力では魔王武器の火力に勝ることはあり得ないと悟った為だ。



白黒(ヴァイスネグロ)よ。我が手に落ちぬ、不動な輩を殲滅する力を寄越せ!」



すると、ルナールの右目が白く、左目が黒く。一色に染まる。その眼からは異形の光を感じたが気のせいだろうか?


いや、その場にいた全員の誰もがそう感じ取ったのだからそう思っても間違いはないだろう。



「お前の能力は触れているものを破壊する力だろうが、俺の魔王武器には通用しない!」


「どういう意味だぁぁぁぁ!!」


ティアは無防備になっているルナールの腹部に力一杯溜め込んだ力と共に拳を放った。

普段なら感じる破壊した時の手応えも、この時はまるで感じず、自分の力が全て無にされてしまったように感じた。



「危ない危ない。君の拳、やっぱり俺の(ヴァイス)には届かないんだね。これは良い〜」


ルナールが今見ている光景は全て白黒だ。

色彩情報を全て遮断し、眼に見えるのは黒と白の世界だけ。

そんな世界が見えている彼の魔王武器の能力は、白い部分を剣とし、黒い部分を盾とする。


この時、ティアの放った拳は常人でも超人でも発動者以外は見ることの出来ない|白

(ヴァイス)の盾に阻まれていた。

大地神の魔王武器の破壊出力の条件は、使用者が眼に見えているもののみの破壊。と言った決まりになっているためにルナールの(ネグロ)には最悪の相手だ。



「さて、俺も本気を出そうか。」


ティアにやられてばかりだったルナールは、目の色と同じ二種類の剣を何処からか取り出し、携えて構えを決め込んだ。



「ティア、あれはヤバイ!退散しろ!」


「ここは誰も通さない!」



エトの忠告も意に返さず、ティアはルナールに殴りかかったーーーーーー



「ちょこまかとウロチョロされては私の狙いが定まらないじゃないですか。貴方は私達のサンドバックにでもなりましょうか」



ーーが、ティアの身体は速度共に力を失い、ルナールの手前で硬直してしまった。何かに抑え付けられているようで動こうとしても体がビクとも動かない。



「な、なんだよこれ!!」


「俺の優秀な仲間、アリクの能力で一定時間、標的の動きを止めることが出来るんだよ。バーカ」


「お褒めに預かり光栄です。そう言えば、申し遅れましたね。私はアリク・シュトラウスと申します。以後、お見知り置きを。」


アリクは丁寧にお辞儀をし、そう言い放った。硬直のタイムリミットはそう多くはないためにルナールは硬直の一瞬を見逃さない。


「その強い魔王武器もさあ、腕が無きゃ使えねえよなあ?」


「ま、まさか・・・!?」


ルナールは白い剣の矛先をティアへ向けて振り下ろした。 が、何も起こらなかった。

『その瞬間だけは』



「うっ……ぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」



ティアに襲いかかるは無数の黒い剣。標的とルナールにしか見えない黒い矛はティアの両腕を貪るように突き刺し、辺りの地面一面を血飛沫で染め上げる。


「ティ、ティア!!!」



「おっと、エト・アルカディナさんには私達の相手をしてもらわないと。彼方は彼方、此方は此方で戦闘を楽しみましょうよ?」



力を振り絞って立ち上がったエトだが、その前に立ちはだかったのはルナール隊のアリクとルナールを除く三名だった。

疲労も何もない万全な状態であれば、一瞬で葬り去ることのできる相手だが現在は能力を使うのもままならない状況下だ。


エトはニアへ視線を向けた。


「……もう一度だけなら…使えるぞ!」


察して、ニアは言った。

クロノスを使うのは身体に多大な疲労を与える。現在の状態で使えば、きっと一ヶ月は万全な状態が作れないだろう。

だが、仲間の危険に伴ってニアは決意を固めたのだ。



「目の前で仲間が死ぬくらいなら……このくらいの辛さ、味わってやらあ!!」


ーーニアは力一杯叫んだ。

自分の大切なものを、仲間を守るために。



「自分よりも仲間を優先、それが俺の決意と信条だ!!だから、仲間を目の前で失うのは嫌なんだ…クロノス、俺にこの状況を改善する力を寄越せえええええええ!!」



ーーニアの両手に装着されたのは時計のついた手袋。彼が握った反動でぐしゃりとシワが寄るが、再度には白い光を放ってーーー



時間停止(タイム・ロック)!」


ニア以外の時が止まり、彼は重い足取りで硬直状態のティアの腹部に拳を放った。



「これで動けるはず……。俺の身体能力施術(アルク)なら、ティアの動きを止めている根源を排除することなんて簡単だ…!」


拳が腹部に捩じ込まれると、青い光がニアの拳からティアの体内へ吸い込まれるように流れていった。



身体能力施術(アルク)、四十二の型!完璧主義者の施術(パーフェクト・トリートメント)!!」


体内に侵入した青い光は瞬く間にティアの体内の要らない部分を切除し始める。

まるで光自身が医療の神とでも言うような手つきと回復力つき、数秒で終わった。


また、そのままの格好で置いておくのは気がひけるのか、ニアは味方全員の位置を50m先に設定し、時を進めた。

するとーーー



「な、なんだと!?何故、奴らがいない!」



ーールナール達の目の前からエト隊は全員消えていた。

|転送魔法式巨大転送装置(バベル)前は小さめの広場みたいになっているが、50mも離れれば草木生い茂る森の中になってしまう。

ニアは自分の現在の限界と、それを考慮して50mという数字を叩き出したのだ。


「クッソ……逃げられたか!後少しだったってのに!」


「ルナール様、恐らく奴らはそう遠くに離れてはいません。きっと、その辺りを詮索すればすぐに見つかるかと。どうしましょうか?」


「今日はいい。拠点に戻るぞ、夜の都市外は恐ろしくも危険だ。この俺様が手を下せないのは悔しいが仕方ない。俺様はこんなところで立ち止まっている人間ではないんだからな」



高笑いと見下した眼光はどこか遠くの場所を射止めていた。まるで、そこに彼らがいることを知っているかのように。


鋭く鋭利に。



生きていれば直接手を下すまでだ。

ルナールの心の中はエトを殺したいの一心でいっぱいだ。胸が張り裂けそうに成る程、それは辛いモノ。



「ニア…ありがとな…!」


「い、いいよ…。あの局面で動けるのは俺しかいないって分かってたし…。ところで、エトは大丈夫…?」



仰向けで空を見つめ、危険な状態を脱したことによる喜びでニアにお礼を言うティアと他の隊員。

しかし、エトだけは口を開かなかった。

心配そうにニアが声をかけるがーーー


「・・・・・」


応答はない。

試しに体を揺さぶってみると、ティアの方へ哀しげな目を傾け、彼は立ち上がって何処かへ去ってしまった。


ーーー何も出来なくてごめん。



ティアに放たれた言葉だが、彼には届いていなかった。視線だけでエトの考えていることがわかるのは、この隊だけでもニアしかいないからだ。


30分程の時間が経った時、ティアは思いつくようにエトの行動の意図に勘付いた。



「……兄さん…まさか…!」



鈍感で情熱的なティアでさえも気づいた。

エトが向かった先にはーーー



ルナールの拠点があるということを!




「ティア…」


「分かってるよ、ニア。俺が兄さんを連れて帰るからここで待ってて!カルラ達もここで待機!ルナールは俺が絶対に倒す!」


ティアは大地神を身に纏い、全速力で駆けて行った。届くはずだ、まだそう遠くへは行っていない。エトを、兄を守るために!



ーーールナール拠点にて。



「一人でノコノコと現れるとは、バカも大概にしたほうがいいんじゃないのか?」



「ここで俺が決着をつけてやる。お前ら全員ぶっ倒して、俺の隊は俺が守ってやる!」



ルナール隊、五名。奇しくも、彼らは殆ど万全に近い状態。

エト隊、一名。

消耗の仕切った身体は今にも朽ち果てそうな勢いで侵食を始めている。



闇夜に戦う涅槃の戦士達。

彼らが向かう先は幸福か不幸か。。。


その予想は誰にも出来ない。


更新速度をストレング・スニンクスで早めたい!!!

更新完了です^^

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