前触れ
GEOにハマってて、続きが遅くてすいません…!
ーー数年前、王宮前広場。
枯葉の一つも落ちていない王宮前の広場には大きな噴水が辺りに水を散らしている。
噴水近くのベンチには、ベンチ丸ごとベッド代わりに寝そべっているエトの姿があった。
「エトーー!」
「エト君、またここに居たー!」
そんなエトを取り囲むように現れたのは同じ隊に所属している四人のメンバーだった。
エトの視点から見て右から、ニア、カイル、ティア、シャスだ。
彼らを分かりやすく説明するのであれば。
副隊長のカルラ・イングラディッチは、エトの幼馴染で涅槃では彼のことを多く知る人物。
隊員の一人、ニア・クルトはどこから仕入れたのか分からないような情報を沢山所持している、情報集めなら彼にお任せ!
同じく隊員の一人、ティア・アルカディナはエトの実の弟。兄のエトとは似ても似つかないような情熱的な性格で悪いことは悪い、良いことは良い。と、筋が通ってないと納得しないタイプ。
同じく隊員の一人、シャス・ティアーナは長身の長髪美女。何でも、彼女を見たものはその魅力に魅了されてしまい、石になってしまうんだとか。
ーー
「エト君、後少しで各隊の隊長と副隊長出席の会議だよ?その前になにを話すのかとか相談しよ!って昨日端末で連絡したじゃん!」
「あー…そうだったか。カルラ、すまん」
"それだけ?"とカルラはお怒りだが、いつものことだ。エト君はそういう人なんだ。と自分に慰めの言葉を入れると話を続けた。
「ほら、行くよ?」
「あー…よく寝た…んんっ…。さて、チャチャっと終わらせに行こうか」
ベンチから立ち上がり伸びをし終わると、二人は王宮内の会議室へと向かっていった。
ーー他のメンバーは。
「ニア!兄さん達、ちゃんとやれるかな?」
「大丈夫だよ。今回が初めての会議じゃないし、エトは馬鹿でもカルラはやる時はやるしね。ただ、問題があって・・・」
「問題?」
「うん、エトはルナールとかすこぶる仲が悪いんだ・・・今回は何もないといいけど」
ニアの予想は良くも悪くも当たっていた。
ルナール・ディネーチェとエト・アルカディナはこの頃の涅槃で最強のルーキーとして数々の場所で話題になっていた二人だったが、その関係は雷が落ちる程に深刻なものだった。
ーー会議室にて。
「覇壊龍と、堕天王が連合を結んだようだ…これによって我々、涅槃に大きな衝撃を与えるわけだが…………オイ、金髪クソ野郎!」
律儀にも会議での内容をルナールが資料を手に読んでいるところだった。
彼は、目の前で退屈そうにしている金髪の青年へ口先を向けた。
「なんだよ…?腹黒ゲス野郎…」
この時、ルナールとエトを除く会議に参加している人物は今にも暴れだしそうな厄介な二人を警戒して戦闘体制に入ろうとしていたーーーーその刹那。一筋のグーパンチがエトの頬を貫くように突きつけられた。
「……エト君?もしかしてまた問題起こして私に処理させる気…?」
「はっ、痛ってな…。あいつからふっかけてきたんだぞ、俺悪くないだろ!」
「悪いとか悪くないとかの話じゃないよ?
ねえ、エト君。私…お こ っ て る よ ?」
サーっと血の気が引き、冷や汗がダラダラと流れ始めるエトは、終始「すいませんでした」と謝罪の言葉を入れて会議を再開させた。
「(エト・アルカディナ。此奴の大切なモノ、一つ奪い去ってやろうか。いつもいつも邪魔をしてくるのなら、排除対象だろう)」
ルナールはエトの隣のカルラを見つめていた。エト・アルカディナ程の強い魔人を自分の怒りを教えることで黙らせたのは事実。そこまで強い人物なのだろうか?ルナールの頭はその疑問でいっぱいになった。
「ルナール、エト。今の会議中の喧嘩の仲直りがあやふやになっていますね。よって、明日からの覇壊龍討伐の依頼は二人の班に請け負ってもらうことにします。出来なければ、二人を涅槃から追放します!分かりましたね?一ヶ月後、仲良くなっていなければ貴方達は……」
学園長の唐突な提案に不自然に驚愕を隠せないエトとカルラ。
エトとルナールが仲の悪いのはどうなっても治ることはない。そんなレベルの仲の悪さで、友達同士で仲直りをして仲良くなるような関係ではないからだ。
「が、学園長!!その提案の覇気を申請します!!俺、こんな堅苦しい腹黒野郎と一緒に協力して依頼とか…おrrrrrrrr」
「なんで、こんな金髪クソ野郎となんか依頼を受けなきゃいけないんです!!私はこんなところで止まっている人間ではない…。ましてや協力なんて絶対…おrrrrrrrr」
ルナールとエトは全く同じタイミングで反論の口を開き、同じタイミングで嘔吐した。
この部分だけ取れば、仲のいい二人だ。
「息ピッタリですね。その調子で仲良くなってください!」
そこで会議は終了し、ルナールはエトに近寄り耳元でこう言い去った。
「俺にとっては好都合だ。邪魔者は先に排除ってな」
ルナールが去った後、何も言わずにエトも王宮からカルラと共に出て行った。
次に向かう場所があるからだ。
「エト君、ルナールさんに何か言われたの?」
「……いや?何も言われてないよ大丈夫」
この時、カルラは思った。きっと何か言われたんだろう。エトは何かある時に必ずしも、語尾に「大丈夫」をつける癖があると知っているからだ。
「そっか。早くエト君の部屋に行かないとね。明日からの任務のこと、隊長のエト君が皆に謝罪の言葉も入れつつ話すんだよ?」
「分かってるよ。さっきは、ありがとな。お陰で助かった…」
唐突のお礼に先程から走り続けている彼女は、顔を赤らめて驚愕と共に喜びを感じる。
そして元気よく彼女はーーー。
「うん、いいよ!早く行こっ!」
と返答してくれた。
ーーーーー
「ーーーーってことになってしまって……本当みんなごめん!」
エトの部屋に集まっている、皆へエトは説明に謝罪を混ぜて、先程のことを全て話した。勿論、ルナールに耳元で囁かれたことは言っていない。あの言葉が示す意味はきっと自分自身の死で償えという意味なのだろう。エトはそう解釈を続けていた。するとーー。
「兄さん、気にしなくていいよ。大丈夫、一緒に任務をこなすくらいなら危険なことも起こらないだろうし、仮に起きてもみんなで乗り越えられない壁はないよ!今までだってそうだったじゃん?」
口を開いたのはエトの実の弟。ティアだった。エトとカルラが一緒に魔人試験を受けた次の年にエト隊志願で編入してきた人物だ。
「じゃあ、お前ら!明日から頼むぞ!」
「おー!!!」
カルラとティア以外が部屋から出て行った後、エトは内心ホッとしたように肩を下ろしてグッタリと椅子の上に崩れ落ちた。
「エト君、ルナールさんになんて言われたの?私、聞こえなかったんだけど…?」
「俺にとっては好都合だ。邪魔者は先に排除ってな。だったっけ?」
エトは思わず驚きの声をあげた。あの場所に居ないはずのティアがルナールの自分だけに言ったはずの言葉が届いているからである。
「なっ、なんでそれを?!ま、まさかニアの?!」
「うん、俺のステルス能力とニアのクロノスに力を借りたよ!」
「なんでそんなこと…」
正直のところ、ルナール・ディネーチェという男がどんな男なのか。この時、エトは勘づいていた。学園長に刃向かった時点で相当危険な男なのは百も承知でわかることだ。
そんな危険な男と明日から仲間として戦わねばならないのはどうしても心に歪みが生じてしまうものだった。
なんでそんなことをティアがして、ニアが協力したかは大体の予想がつく。
恐らくは俺自身を心配してくれたんだろう。そんな優しい仲間を明日、何が起ころうとも絶対に守りきるとエトは心に決めた。
「なんでそんなことしたか、分かってる顔だね、兄さん。明日からの任務、頑張ろ!大丈夫、エト隊の皆は優秀なんだからね!」
「そうだよ、エト君。いっつも、皆で乗り越えてきたでしょ?仲間を信じなきゃダメだって!」
「そうだな。ごめん!明日頑張ろか。お前ら、明日早いからもう寝ろよ!俺はもう大丈夫だからさ。」
ティアとカルラの励ましでエトは明日からの任務への心持ちがしっかりと定まった。
二人にお礼を言ってエトは寝る前の身支度をしてから電気を消して就寝した。
ーーーとある部屋にて。深夜帯。
ルナール・ディネーチェの個室は、学園の宿舎よりも遠く離れた位置にある。
理由は、学園長の命令により周辺の生徒達の安全のため。だそうだ。
ルナールはとにかく危険なため、周りの人間さえも近づこうとしない。もし、彼に名前を呼ばれるようなことがあれば誰もが彼の目の前に跪き、崇め讃えるように返事をするだろう。
しかし、エト・アルカディナ含めのエト隊は違った。ルナールが廊下を歩けば、それに恐怖して道を開ける一般生徒とは違って、エトは彼の前に立ちはだかる。
入学式の時、お互いが道を譲らなかったことによる初めての勝負があったのだが、そのせいで宮殿内は半壊した。
そのせいもあって、ルナール隊とエト隊は犬猿の仲とされ、充分な節度を保ちながら関わらないようにと誰もが願ってきた。
そんなルナールが隊長を務めているルナール隊は全員がルナールの奴隷。
ルナールを神とし、崇め、讃えて従う。
今日もルナールの部屋では、一名の隊員が跪き、彼を見上げるように口を開いていた。
「ルナール様。今日からの合同任務の件ですが、計画通り遂行可能と判断しました。報告は以上です。」
「ああ、分かった。今日からは楽しい時間が始まるな!!エト・アルカディナ。絶対に許さん!」
何処か楽しげなルナール。
今日からの合同任務が最悪とでも告げるように空は曇り、雷雨が降り注いだ。
武術都市の方も是非どうぞ(*´∀`*)
投稿遅いですが楽しみにしていただければ光栄です!




