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有罪

投稿遅れてすいません!

「さあ!前回は不慮の事故で延期となってしまった今大会!Bブロックシード戦で実況を務めさせていただいているこの俺!キルス・エーヴェルバイトだぜ!よろしくー!」


「同じく実況者のカルラと!」


「解説者のナイルです。」


「「どうぞよろしくお願いします」」


"二人だけの実況解説だけでいいだろ"と同じ席に座っているキルスへの野次が飛ぶ。


「試合が始まるのでやめてもらってもいいです?このようなことを永遠(とわ)にされるのであれば、親衛隊など、私は要りません。今からこの手で破壊してあげてもよろしいのですよ??」


くるっと観客席の方へ振り返り、何もない空間から丁寧に鞘にしまわれた刀を取り出すと狂気じみた声で一言。

怒りの籠った言動は、観客席を凍りつかせる。

ーー刹那。


「本音を出すなぁぁぁ!!!」


「……痛っ!す、すいません…」


彼女の頭に降ってきたのは拳。

突然の痛みに頭を抑えながら彼女は言った、謝罪の言葉を吐いた。



「で、では!気を取り直していくぞおおおおおおおお!」


「一回戦目は、今涅槃で大注目の選手!黒闇の団員を捕まえたことで大きな功績を得た隊の隊長!と、前回の魔闘演戯でエト・アルカディナ選手に奥の手を使わせた、かなりの猛者。ですね。では、ご登場願いましょう!!」


キルスの叫びで場の空気が少しだけ変わったことを確認すると、彼女は登場実況を始めた。タイミングの良さは今までの実況の経験で培ってきたモノだ。



「右コーナァァァ!!強さの秘訣は、身体能力強化魔法(ストレング・スニングス)との、エゼル・シスタァァァ!」


白い蒸気に身を隠しながらの登場。

この登場もだいぶ慣れたように、丸い球体状のステージに移動する。

観客席からの声援は非難の声や応援の声やらと色々と混じり、"わぁぁぁ"としか聞き取れない。


「左コーナァァァ!!彼に伝わる痛みは全て快楽!今日もあの笑顔が見れるのか、ゾヒス・マティックゥゥゥ!」


白い蒸気の中から現れたのは、くつくつと喉を鳴らし、狂気に身を任せた男。

男を見るからに、単純に倒せる相手ではないことは感じ取れるレベルだ。


ーー丁度、その頃。



「やっべー、遅刻遅刻。そろそろ試合始まるのに……。何でこんな時に寝坊するんだ俺!!もういい!速度強化(スピード)!」


起床時間が開幕から五分前だった事実に目を背けたいと思い、全速力で試合会場へ向かうエト。


そこに、目にも留まらぬ彼の速度を上回り、追跡するような軌道を描いて加速する矢が彼を貫こうと必死にーー。



「……え?なにこれ…矢?」


殺気を帯びた矢の存在に気付き、片手で鷲掴みにすると、勢いは止まったようだ。

すると、矢が諦めたかのように、黒い粉末状になって空気に消えた。



「いやあ〜、流石、涅槃が有する最強の魔人さんだなあ〜!僕の矢が届かないなんてね〜!」


「……誰だよお前。初対面の相手に刃突きつけるとか正気の沙汰じゃねえな」



エトの目の前の空間に扉が開き、中から出てきたのはピエロのような容姿で黒い仮面で顔を隠すハイテンションな男。

彼の手には、先ほど飛んできた矢と同じ殺気を帯びた刀が握られている。



「僕はアレですよ、君に勝てるなんて思ってもないし、戦う気もない。

ただ、君の大切な友人のエゼル君はどうなるか知りませんがね〜?」



「お前、何する気だ…!」


エトは顔を真っ赤にして怒り狂った様子で怒鳴り声を上げる。

この返答に"予想通り"だった男はニヤリと嗤って続けた。



「ああ、申し遅れたね。僕は黒闇幹部のティア・ロスティハーレさ。因みに、君の友達が戦う予定の《有罪(ギルティ)》は我々が買い取った男だ。

今日の試合、生きて帰れるかな??」



「あの野郎……手ェ出しちゃいけねえモンに手ェ出しやがったな!くっそがぁぁぁ!!!」


怒りMAXで男の前から刹那に消えると、会場へと全速力で向かう。



「あらら、戦う気は無いと言ったものの、力量を見たかったんだけどな〜。逃げられちゃったか〜…相手に背を向けるなんて僕がクソ雑魚ってことバレちゃってたかな……」


ーーpipipipipi。


男の端末に着信があり、画面をスライドさせて電話に出た。



「《光帝》はどうした?」


「あー、逃げられちゃいました〜」


「なに?逃げられた?殺すぞテメェ…」


「次回頑張りますよ〜!」


「まあいい……さっさと戻れ!」


「なんかあったのー?取り敢えず、戻るね〜」



刹那に男は消えていた。

端末を切る音も移動する音も何も残さず。



ーー


「さあ、両者ともに緊迫した状態でのこの試合!いよいよ開始のお時間です!」


カルラの声に周りは固唾を飲み試合開始を待ち続ける。と同時にエトが会場へ到着したようだ。

会場内の防壁が貼られていない区域に暴風が発生し、あらゆる物が飛ばされている。

そんなことも気にせずに、

速攻でニアの隣の席に腰を下ろすと、小声に低めの声で話しかけた。



「この試合、ヤバかったら頼む。お前にしか頼めないんだよ」



険しい表情のニアは、聞いたことのない低音と真面目な口調で「了」と囁いた。




「ではー!スタートです!!」


試合開始の合図と共にエゼルは身構えた。

傷つければ傷つけるほどに強くなってしまう厄介な能力を持った男の太刀筋を見極めるために集中力を咎め。



「オラオラオラァ!!開始のお時間だあよー???きんもちぃぃぃことしてくれるんだよなあ?なあ??なあ!!」


男は勢い良く地面を蹴り、エゼルとの間合いを詰めると豪腕を振るった。


「……っと、危ない…腕力強化(アーマー)!」


紙一重で豪腕を避けると、腹部が空いた隙を見逃すことなく、強化した拳で思い切り突きを入れる。

瞬間ーー男の表情はーー幸せに。


「きんもっちぃぃぃぃぃぃぃ!!」


快楽がー痛みがー幸せが力を与える。


ミシミシと音を立てて大きくなる彼の筋肉は少しでも確実に先程よりはゴツくなったようだ。



「出ましたぁぁぁぁ!ゾヒス選手の能力!《有罪(ギルティ)》自分が受けたダメージを快楽と捉えて自分の力に変えてしまう恐ろしい能力です!ナイルさん、前回はエト選手が戦ったわけですが彼の勝ち方酷かったですよね?」


「アレは……エトさん史上最高のッ……あっ、あれはそうですね…そうでもないけど。。。というか、カイルさん私にこんな質問するなんて殺されたいんですか??」


「はい!ということでねー、いいコメントありがとうございます!エゼル選手はどういった戦略を進めるのか!ゾヒス選手は夢の完全体になることが出来るのか!楽しみですね!」



実況解説が続いている間、ゾヒスの豪腕を紙一重のタイミングで避け、地道に反撃するエゼルの様子が何度も見て取れた。当然、ダメージを与えればどんどん強くなってしまう。


それは"マズイ"と考えた彼は次の行動に移すべく、攻撃の波を避け、素早く距離を取った。



「お前の突き、なかなかきんもちぃぃぃな!なんかする気なら全力で止めさせてもらうぞおおおお!!」


「なっ……!」


男の速度は、尋常ではないほどに上がり始めているようだ。

先程と同じ蹴り込みだったが、明らかに上がっている速度が違い、纏っていたさっきも一段階上がっていると見える。



「お前もきんもちぃぃぃってなりたいよなあ??」


ーー強い衝撃。


後ろへ回り込まれたエゼルに背後からのボディプレスが炸裂した。

集中力が常に研ぎ澄まされている状態の彼に不意打ちは通用しないようで、瞬時に防御強化(シールド)でダメージで威力を最小限に抑えた。



「はぁ……そろそろ終わらせるよ!」



「あぁん?」



「身体能力強化魔法-奥伝- 天裁滅裂(てんさいめつれつ)!」


速度強化(スピード)で速度を上げた時の何百倍もの速度で縦横無尽に駆け巡る。今のエゼルを認識すること、捉えることは不可能。


それにして、男の防壁が音を立てて割れた。防壁に向けての物理防御を特に上げていたゾヒスだったが目の前の光景に驚愕し、自分の思い描いていた理想が何なのか分からなくなったようだ。


叫び声を上げ、全力で試合終了なのにも関わらず、エゼルに襲いかかった。



「死ねええええ!!」



「この状態での僕を捕まえられるかな?試してみる?」


刹那ーー再び動き出す。

それは速度というには速過ぎ、動きというには目で捉えることさえも出来ない。



「取り押さえろ!早く!」


「封印魔法!動作禁止(ビヘイビア・ロック)!!」


突然として男は魔力の篭った鎖に縛り付けられ、身動きが取れなくなる。

鎖を引き千切ろうと力を込めているようだが、動作自体を禁止とさせる鎖は、男が動きを止めるまで拘束し離れることはない。


それでも必死にーー鎖を。



「お前ら邪魔すんなぁぁぁ!!」



ーー引き千切った。



「てめぇら、全員混沌の闇に溺れろ!そして朽ち果てるがいい!闇よ、この俺に力を寄越せええええ!!」


急激に空模様は晴天から曇りになると、黒雲からは黒闇が男に降り注ぐ。

黒闇の一つ一つが男に力を与え、闇を与えよう。


「ぶっ殺してやる……闇の力は俺様の力ぁぁぁ!!クソガキィィィ!!」


彼の目に映るは、殺戮のみ。

涅槃の空は黒く残酷に曇った。


仕事がぁぁぁぁ(´;ω;`)ブワッ

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