狂気の暴走
どんどん投稿します( ´ ▽ ` )ノ
「えーっと、普通に王宮前の広場でやるとか言ってたけど、これで良いのかな?」
「良いんだよ、エトが友達ねえ〜。珍しいったらありゃしない。」
「はっ!?普通に友達いるし!」
「居るのは認めるよ。でも、その友達のために試合を観に行くとかそういうことしないよね?俺ん時もしてくれなかったしさ!」
王宮前広場に向かって歩く人物が二人。エトの隣で話をしている青年ーー背丈はエトとあまり変わりはないが、光が灯った緑色の長髪に、弄るところが見当たらない綺麗な美形。それでいて、髪色が雫となって溢れたのではないかという、淡い緑色の眼。彼に対して、悪く言う点が見つからなかった。
「まあまあ。見えてきたよ、目的地の王宮前広場が」
「そうだよ、特設会場が出来上がってるじゃん。僕らは一応生徒だからね。生徒席に座る権利を持ってるわけだし、早く移動して座ってゆっくり見よう」
彼らは適当に開いている席に移動して、ステージに撃ち込まれた凄まじい弾丸の数から前の試合は誰が試合をしていたかなどの想像をし、試合開始を待った。
「エゼルはまだかなあ・・・」
「エト、エゼル君の能力と魔王武器のこと知ってる?」
「何だよ、また《妖聖隷》か」
「そそ!あのサイトの運営者は、日々美味しい情報を仕入れないとね!」
《妖聖隷》は、涅槃の中で話題の新情報が集まるサイトだ。利用の仕方は簡単で端末さえ持っていれば、誰でも閲覧可能。教員も使用している涅槃屈指のサイトの一つ。
他にも涅槃の人気な人物を順位付けた《朧憑夜》などのサイトがある。これらのサイトの情報は、ファンによる情報提供か、運営者の掴み取った事実であるか。なために、有力な情報であるとされている。
「能力は知ってるけど、魔王武器は知らない。魔王武器は今日出すかもよ?」
「そっかー・・・だよな!そのために来たようなもんなんだから!」
彼は拳を握りしめ、目を星のように輝かせて獲物を待つ。
情報屋にとって有力な情報は美味しいモノ、それがいくら危険であろうと掴み取るまでやめない。
エトは彼のこの性格を古くから知る友人として心配に思っているがために、溜息を吐いた。
「はぁ………安定過ぎる・・・」
「さあ!会場の準備が整ったということで!試合再開していきましょう!」
キルスの得意げに明るい実況は当然、彼らの耳にも届いた。
待ちに待った試合再開の合図が。
「右コーナァァァ!他人の生き血と精力こそが彼の好物。根は優しく、本当はドジっ子!リグルス・ブラッド選手だぁぁぁ!!」
白い蒸気に姿を眩ましながら彼は登場した。この間の大会とはまるで違う態度、彼は堂々としている。
「左コーナァァァ!その妖艶な瞳は男女問わず魅了する!涅槃の強者のミルキィ・テリーヌの実の妹!ティアラ・テリーヌ選手だぁぁぁ!!」
「白い蒸気さえも虜にする魅力を持った彼女、白く長い髪に整った美形。真っ直ぐ、前しか見ない真剣な瞳は、男女問わず格別な人気を誇る。
腰に差した愛刀で、目の前に立ちはだかる者、全て斬り捨てる最強の剣士。
Bブロック優勝候補の一人だよ。」
「流石だな・・・」
青年はニィと口を歪ませて嗤う。彼の読み上げた内容は全て自分の経営するサイトに書いてあるらしく、どこか自慢げだ。
「・・・ってことは、両者共に兄弟が涅槃の強者じゃん!」
絶大的な人気を誇る彼女の勇姿、それに立ち向かう今年入ったばかりの新入生。
会場のボルテージは既にMAX寸前だ。
「両者、共にいがみ合う様子もなく、無言が続いてるようだぜ。まあ、いがみ合う必要もないか・・・では、始めっ!」
毎回、開始の合図が違うことに統一性を持ってほしいものだが、今のキルスにそれを求めても恐らく無理だろう。
そう思った人らは無言で諦めた。
「よろしくお願いします。では、参ります!」
「よろしく。や・・・ッッッ!!」
彼女に挨拶の言葉をかけると、拳に力を込めて真っ向面から彼女に襲いかかった。しかし、反射速度が半端なものではない彼女の刀の矛先と拳は衝突した。
防壁が貼られていた拳だが、何故か刀はすり抜けて拳に直接痛みを与えている。
「防壁にばかり頼っていてはまるでダメですよ。全ての攻撃を避け、自分の全ての攻撃を相手に当てる。そうすれば、完膚無きまでに相手を倒すことができます。単純な話でしょう?」
彼女の言う"単純"とは何なのか。疑うが、正論なのは事実。頭で納得してしまいながらも、片手で刀を抑えている内にもう片方の拳に力を込めて彼女に殴りかかる。
これは避けれないーー確実に当たるーーそう思ったーー刹那。
リグルスは腹部に強い衝撃を受けて、宙を舞い、仰向けの体勢で地面に叩きつけられた。吐血混じりの声が出る。
「もう終わりですか?いくらセルシアの弟とは言えど、弟は弟。兄は兄。比べてはいけないものでしたか…?」
彼女の言葉は、リグルスの過去を思い出させた。兄と比較され、何も出来ない吸血鬼として皆に見られていた記憶を。
殺意が湧き上がる、殺意は彼を殺した。
「兄貴兄貴兄貴って父さんはいつも俺を見てくれなかった…俺はそれが憎い!憎い!憎いいいい!!!」
目に見える殺気は周りの空気を赤く染めた。赤く、黒く。流石の彼女も驚愕の表情で彼を見つめる。
最早、"ソレ"はリグルスではなかった。人間の形をしているが、鋭く尖った八重歯に真っ白い肌をしている。
赤い空気は蠢く生き物のように彼女の刀に纏わりついた。
「なっ、なんなの?」
「ハハハハハ!!死ねえ!!」
彼が指先で何かを描くようにタクトをすると、黒い槍が出現し彼女に放たれる。
それは、瞬きさえ許してくれないほどの速度ーー破壊されたガラス音と共に彼女の防壁は破れ、槍は貫通して彼女に突き刺さった。血液は出ていないものの、彼女は意識を失った。精神系統にダメージを与えるものだろうと青年は解釈して、次の行動に移した。
「エト、多分、アレは目的を達成したくらいでは収まらない。彼女は俺が運びだすから、エトは時間稼ぎお願い!」
「チッ、了解!」
二人は観客席から飛び上がると、観客席とステージに貼られている防壁をすり抜けてステージに降り立った。
彼の眼は緋く、何も見えてない様子だ。
「久しぶりにこの魔法使うな〜。取り敢えず、エト、よろしく!」
「おう!」
青年は彼女を手で触れると、自分と一緒に観客席の方へ一瞬で移動した。移動直後、慌てふためく教員が彼女を保護し、彼に礼を言って去って行った。
「どうしたもんかね〜。今日は戦う予定ではなかったのに・・・」
エトは、彼が射出する黒い槍を紙一重で避けながら顎を触って考えていた。
辺りを見回せば、観客席に座っている生徒全員、教員も含めて恐怖の表情に満ちている。エゼルの隊の司令を務める司令官ですら、今はただの"人"だ。
「これは多分、セルシアの《狂の人格》と同じかな。封じ込めるには、俺の師匠のしてたあの技をするしかないな・・・めんどくさい」
エトは突然立ち止まり、ステージの床に両掌を伏せた。飛んでくる黒い槍を見切ったように首を動かして回避すると、伏せた掌から中心に巨大な魔法陣がステージ全体の床を覆った。
「一寸光陰!」
地面から光の線のようなものが無数に現れて、彼の身体を縛り付ける。
一つ一つが眩い光を持つ線であるがために、眼へのダメージを抑えることは出来ない。彼は悶え苦しむように暴れ始め、線が音を立てて引き千切られ始めた。
「師匠のようにとまではいかないか・・・。でも、こちとら、君を野放しにするなんて失態犯すわけにもいかないんでね!」
両掌にかける力を倍増させ、光の線は線というよりも意思を持った触手のようになった。戦意を喪失させるためか、触手が彼の両腕両足を貫く。
彼は叫び声を上げて、そのまま意識を手放したようにダラリと倒れこんだ。
赤い空気も消えて、彼は元の姿に戻っている。
「エト・アルカディナだな。ありがとう、恩に着るよ」
司令官は正気を取り戻したようにリグルスに近づくと、エトに礼を言って傷だらけのリグルスを医療班に渡してその場を去って行った。
地面に刺さっている黒い槍は見るからに触れてはいけないものに見える。会場修復班は槍を防壁で挟み込むように掴み取ると、解析のために《守十刻》に提出した。
「えー、エゼルの試合見に来たのに明後日に延期ー?くっそーー!」
「仕方ないよ。これだけことが起こってしまった以上、延期は確定だろうと思ってたしね」
王宮前広場試合会場の外では、エゼルとエトが延期についての話をガッカリした様子で話していた。
その話から打って変わって。
「・・・後さ、ほんっっっとにありがとう!エトが止めてくれたお陰で大事には至らなかったんだし!」
「それ、エゼル、8回目な!何回言うんだよ!困った時はお互い様だろ!」
「本当にありがとう!!」
「9回目ー!!10回目要らないからな!」
「二人とも仲良いね〜。本当にこの間会ったばかりとは思えないよ」
と、ガッカリの意味を込めた口調で彼らの話に割って入った。
「お前ともこれくらい仲良いだろうが!なんで拗ねてんだよ!」
「いや、俺とエトは一年も経ってるからそりゃあ仲良いに決まってんじゃん!」
そう言えば、エゼルに紹介していなかったな。と、このタイミングで思ったエトは青年を紹介し始めた。
「こいつは俺の古い友人ってか、同期で同じチームのニア・クルト。まあ、気軽に仲良くしてやってくれ」
((「このタイミングで紹介!?」))
エトのマイペースに驚きつつも、紹介されたニアは"よろしく"とエゼルに挨拶を吐いた。
「よろしくお願いします!ニアさん!」
「あー、俺にも敬語とさん付け要らないよ。堅苦しいのは好きじゃなくてね」
いきなり初対面の人に呼び捨てで、タメ口は気が引けたが、ニアの真剣な眼差しに圧倒されて普通に接することにした。
「よろしく!ニア!」
「いいね!やっぱり、こういうのはいい!」
「ニア、あまりベタベタ密着するとかはやめろよ?エゼルにだってプライベートは必要なんだからな」
ニアの喜びの言葉を遮るように、自分がされたことを考慮して忠告した。
「えっ。し、し、し、し、しないよ!」
「絶対する気だっただろ」
「いやー、寮の部屋も近いんだよ?エゼルの部屋は2580番で俺の部屋は2576番!エトの部屋は2575番だよね?ほら、近いから遊べるんだよ?!」
「え?エゼルの部屋ってそんなに近いのか?!よっしゃ、明日遊びに行こう!」
明日はきっと騒がしくなる。そんなことを胸に秘めて、エゼルはリグルスの様子を見に行こうと、二人に別れを告げ、病院に向かったのだった。
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