後夜祭
どんどん投稿します!!
ーーその日の夜。
「え?それ、僕行かないとマズイですか?」
「当たり前だ。戦闘での身体の支障は無いんだろ?なら、強制だ。リグルスとサディもなー」
「なんだそれ、飯食えんのか?!」
「退屈凌ぎにはなりそうね〜。」
初日の試合を勝利で収めたサディ、リグルス、エゼルは司令官に招集を受けていた。司令官の招集理由は、各ブロック入賞者だけが入れる今夜限りのパーティーがあるそうだ。リグルスはキルスに気を遣って行かないと豪語したが、飯という単語を聞くと急に気が変わって今に至っているわけだ。
「わ、分かりましたよ!行きますよ!」
半分キレ気味でエゼルが言うと、"決まりだな!!"と司令官は優しく包み込むようにして彼らを王宮へ導いた。
「うわぁぁぁぁっっ!すっごーい!」
男性はスーツ、女性はドレスに着替え終わると司令官に引き連れられてパーティー会場に入った。
目の前の光景に唖然としてしまうのも無理はない。巨大なパーティー会場は、金やガラス細工等で綺麗に装飾がされており、テーブルに並べられている料理はどれも一級品。会場内にあるステージには、マイクを持ったカルラとナイルが癒しの声で歌を披露していた。
「あっ、司令官。質問なんですけど、他のブロック会場には実況者はいないんですか?」
「ん?ああ、居ないぞ。たまたま、今日は俺たちのブロックに来ていたが彼女らはその日その日で点々と実況する場所を変える。戦闘向きでない魔人は、こう言った分野で活躍しているんだよ。因みに、来週は俺らも実況無しだ・・・」
実況無しの試合とは、盛り上がりに欠けるなーと思ったエゼルはこんな提案をしてみた。
「それって、キルスを推薦出来ません?」
「・・・んあ?なかなか面白いことを考えるな〜。んじゃ、ちょいと学園長に提案に行ってくるよ。お前らは適当に喋るとか食うとかしてろ。楽しめ!」
司令官の"キルスイジメ心"に火を灯してしまったのだろうか。スキップで幸せそうに学園長に向かっていった司令官を苦笑いで見送った。
「ありゃあ、ガチで楽しんでる人の顔だな。」
「やれやれって感じね。私はあっちの方で美味しいケーキやらイケメンやらを探すとするわ。じゃあ、またね」
サディは退場。彼女が会場に入ってきた直後、Bブロックで観戦、または試合をしていた生徒は泣きながら逃げ出していた。恐らく、その人らへの罰もあるのだろう。ご愁傷様。それだけ心の中で伝えるとエゼルもリグルスに別れを言って会場内を歩き始めた。
「これだけ広いと・・・」
「やあ!エーゼッ君!」
黒いスーツに身を包んだ金髪の青年、エトがエゼルの視界の前に突然現れた。あまりの突然さにビックリしながらも、早速エトに会えた嬉しさから元気よく返事を返した。
「その辺でなんか食べる?エゼル君は食べ物は何が好き?」
「僕は・・・ラーメンです!!」
目がキラーンと星マークに変わり、数あるテーブルの中からラーメンを補足すると直行で一杯拝借した。
「ラーメン好きなんだね〜。」
「はい!そう言えば、エトさん。僕のことはエゼルで大丈夫ですよー」
「そう?なら、エゼルって呼ぶね!」
「はい!」
「じゃあ、俺のこともエトで良いよ。それと、敬語もいらないかな」
ニッコリと笑顔でエトはそう言うが、流石に目上の方に呼び捨て&タメ口は聞けない気がしたので丁重にお断りの言葉を言おうとした直後。
「エゼルの性格なら、ここで断ってくるよな。でも、タメ口と呼び捨てじゃなきゃ俺は振り向かないよーっ。って言ったらどうする?」
「ええええええええ!!それはちょっと頑張るしかないヤツ・・・!」
「じゃあ、頑張って!」
悪戯っ子のような笑みと表情は美形の青年であるエトにされたら断りたいものも断れない。"あざといな"と心の中で思ったエゼルだった。
ーー
「・・・ねえねえ。君がシー君の担当してるリグルス君?」
「シー君……?」
「あっ、ごめん。司令官さんのこと」
美味しいものを見つけるとそれを皿に乗せてムシャムシャと食べていた吸血鬼の青年に声をかける少女。
「ああ、そうだよ。あんたは?」
「リグルス君が小さい頃に一度だけ会ったことがあると思うんだけど・・・覚えてないかな?」
「・・・はぁっ?!ってことは、あんた吸血鬼かよ!」
「そうそう。私は、ミスト・K・ブラッド。S家の分家と言ったところかしらね。」
彼女の言葉に震えが止まらないリグルス、兄貴のように自分に恨みを持っているのだろうか。その恐怖からは永遠に逃れることはできないが為に。
「そう言えば、リー君の千歳の誕生日の出来事。シー君から聞いたけれど、心当たりがあるわよ。知りたい……?」
「マジかよ…!教えてくれ、頼む!」
「うんうん。じゃあ、明日のお昼辺りかしらね。この王宮の最上階にある私のお部屋に来てくださいな!」
「わーったよ。」
「それじゃ、また明日ねー!私はそろそろ帰って寝るよん。おやすみ!」
彼女は明るい様子で会場から去って行った。彼女が去って行った後は、食べ物よりも明日の昼に自分を吸血鬼潰しの糧に利用した奴らのことを知れるという復讐心の混ざった知識欲に駆られていた。
彼の目に今映るは、混沌。
「エゼル、流石に食べ過ぎじゃない?ラーメン好きなのは嫌と言うほど伝わったから違うもの食べようよ」
延々とラーメンを食べ続けるエゼルに呆けたエトは、彼の服の袖口を引っ張り、肉のある方へ連れて行こうと必死になっている。
「分かったよ。じゃあ、ちょっとスープまくらせて!」
「おっけー・・・いくら無料だからってその量は絶対おかしい」
合計120杯のラーメンを食べ尽くしたエゼルは満腹の様子でエトに引っ張られるがまま、肉料理のある席に腰を下ろした。
「そう言えば、エゼルの来週の試合見に行くよ?」
「えっ・・・。あ、そうか。エトは、Aブロックの生徒、全員倒しちゃったんだっけ。良いよ、見においで!!」
すっかりタメ語にも慣れたエゼルは、エトの肩をポンポンと叩きながらそう言った。エトも負けじと、肩を叩き返す。
会って間もない二人だが、何処か親友のように見えたのは間違いではない。
「ーー今日のBブロックで凄かった試合ですか?それはもう一番最初のエゼル・シスタ君の試合ですね!・・・」
「エゼル、お呼びのようだよ」
「え?お呼び?」
何のことか分からず、エトに聞き返した直後、会場が真っ暗になり、突然視界が眩くなった。スポットライトでエゼルを照らしたからだ。
「俺も去年されたよ。今回はエゼルだね、ほら行ってこい」
「……え?え?何が?ちょ、ちょっと押さないでえええ!」
仕方なく立ち上がると、後ろから足で蹴り押される。前に行けということか、そう解釈するとステージに向かって歩みを進めた。
「はい!エゼル君。実況してたカイルだよー!君に聞きたいんだけど、今日の試合のアレは何だったのー?」
ステージに降り立った直後、彼女の疑問に思っていることが直球でエゼルに投げ込まれた。
「え?嗚呼、魔王武器ですよ。そこまで細かくは言わないですけど、僕の能力の一つとでも覚えて貰えばいいかと…」
直球を軽く受け止めて、流れを切らすまいと華麗な切り返して言葉を返す。
彼女もその巧みな技に気づいてくれたのか、すんなり席に戻るように送り出してくれた。
「成る程。では、お次の方に移りましょう!今日、Aブロックは一人を残して全員が病院送りになったと聞きました。そんなことが出来るのは、涅槃では一人しかいません。ハイ、エト君。嫌な顔しなーい!口パクで貧乳うるせえ女とか言わなーい!早くステージに上がってこようね!」
エゼルとすれ違うようにエトがステージに向かっていった。頗る嫌なようで、カイルの顔を見るなり口パクで何かを言っている。彼女はその口パク言葉を全て理解しているのか、怒った様子でマイクでエトの頭を殴りつける。
瞬間、会場に笑いが巻き起こり、新入生以外は"いつもの夫婦漫才が始まった"と楽しそうに笑った。
ーー
「カイルさんと知り合いなの?」
「嗚呼、あいつは・・・幼馴染なんだよ。小さい頃から遊んだりとかしてたからさ。まあ、腐れ縁みたいなもんだよ」
"へー"と言いながらもニヤけ顏が止まらないエゼルの頬を両手を使って横に引っ張り、ニヤけ顔を阻止しようとするが、止まらない。
「あ、ところで、二人一緒に魔人適応主従を受けたの?」
「そうだよ。16歳の誕生日に二人で受けに行ったんだ。元老院様の管理する魔人管理協会本部に。」
「へー、そうなんだ。」
エゼルはエトが何故か辛辣そうに語っている部分を敢えて聞かないように軽く受け流すようにして次の話題を振った。
まだ聞いてはいけない部分なのだろうと、確信を持って。
「使える魔法は何があるの?」
「魔法?んー、光魔法は一番得意な分野かな。基本的に闇以外なら出来ない魔法は無いよ。でも、特質の魔法なら身体能力強化魔法かな。エゼルも使うよね、確か。」
「うん。身体能力強化魔法は一番使い勝手が良い魔法だと思ってるよ。それと世界最強の魔法だと思う!」
「いや、世界最強の魔法は光魔法だよ。闇も何もかも浄化してくれるそんな存在。それがこの魔法だよ。」
二人は互いに笑って、埒があかないことを確信した。
「じゃあ、勝負して決めるしかないね」
「そうだな」
合致したようだ。自分の思う世界最強の魔法をかけて、自分の願いのために、彼らは拳を交えることとなる。
しかし、それはまだ当分先の出来事。
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