キルス vs エゼル 怒涛のシード戦開幕!
投稿遅れました(´・ω・`)
ーー遡ること二日。
「悪いなお前ら、休日なのに呼び出しちまってよ。前に話してた、黒闇に関することの説明をしようと思ってな」
この日、休日だった彼らに司令官から召集がかかった。
この間の戦いで捕縛に成功した黒闇に所属する一人の件で、説明の約束をしていたと司令官が思い出したためだ。
「まあ、簡単に言うとな。黒闇ってのは、この国であれば涅槃に所属する生徒、つまり魔人。この所属の部分が無所属な魔人、そいつらの作った世界に復讐心を抱いた団体のことだ。そもそも、魔人が作られるには魔闘演戯を共に開催してくれる国のみ。つまり、涅槃を入れて六つだ。
俺が言いたいのはだな、黒闇に所属する魔人は全員、国に所属していた魔人なんだ」
「つまりは、国を裏切った魔人ってことですかね…?」
チトが分かりやすく説明し直してくれた。"自分の今の長い説明はなんだったのか"と、ガックリした様子で後悔した司令官はチトの話を肯定しながら"ゴホン"と咳払いをして話を続けた。
「その、国の裏切り者がな。凄く強く、どの国からも恐れられている。そして、何よりも怖いのは彼らの使うことの出来る魔法だ。この間の一人の魔法を見たと思うが、闇魔法と言ってな。闇魔法使用者は、暗い場所でより強い力を発揮できるらしい。それが現在の世界の脅威だ。いずれまた、黒闇と戦うことになるだろうが、その時は暗いところには行くな。今のお前らじゃ、簡単に捻り潰されてしまう。本気で気をつけて欲しい」
「あっ、司令官!質問よ!」
司令官を中心に取り囲んだ状態で話をしているエゼル隊。司令官の話が途切れそうになった時、一人のドSが大きく手を挙げてそう言った。
「どうした?サディ」
「一般的に闇の魔法を使う人って居るのかしら?」
「ああ、それは居るぞ。そもそも、この世界の魔法というのは属性魔法とエゼルのように身体能力の強化などの特質魔法に分類される。その属性の中に、闇魔法というのは種別として存在しているからな。属性魔法は主に、風、炎、水、氷、闇、光、草、という七つの種別があるが、特質魔法はそれが無い。個人個人が作り出す魔法と言われているからだ。お前らも特質魔法の一つは持っておいた方がいいぞ」
司令官の説明に、一同は目を輝かせながら頷く。力を手に入れることとは即ち、自分や他人を守る力を得るということ。彼らにはその信念があるのだ。
ーー
「おっ!そろそろ、始まるみたいだぞ!」
リグルスの声に驚き、チトは記憶の扉を閉じて、目の前の会場に視線を移した。
「さあっ!やって参りました!!涅槃の夢、全世界の夢!頂点に立つのは誰か!涅槃のシード戦開幕です!!」
元気の良い開幕合図が終わると同時には、ムードのある軽快な音楽と雲一つない青い空に破裂する花火が上がった。
「私、実況者を務めさせていただきます。カルラ・イングラディッチとー!」
「解説者を務めさせていただきます。ナイル・カーヴァレッジです。」
「「よろしくお願いしまーす!」」
にこやかな笑顔と活き活きとした声、実況者と解説者には大抜擢なカルラとナイルは、サディ達の居る生徒用観客席の前に椅子と机を用意して座っている。
彼女達は絶大な人気があるらしく、観客席からは男女問わずの大量のハートマークが浮き上がるような光景が見えた。
「では、最初の試合に移ります!第一試合はぁぁぁ!今年注目のエゼル隊のお二人の真剣勝負!ナイルさん、この一戦、どうお思いですか?」
「はい。私としても学園の皆さんにとっても恐らく一番楽しみにしている試合だと思います。最近一番の功績を挙げた新人チームのお二人の力が見れるわけですから、これは二人の激闘に期待ですね」
「はい!そうですよね!では、そんな二人にご登場していただきましょう!」
プシューッと白い蒸気が会場控室から試合会場に伸びる長い廊下から歩いてくる人影を隠す。右と左、両方に見える同じ光景は彼らの歩みによって消された。
「右コーナァァァ!今年大注目のエゼル隊、隊長!エゼル・シスタ君です!あれ?いない?あっ・・・居た。蒸気に負けて・・・失礼いたしました。」
エゼルは蒸気の中から肩を竦め、涙目で登場。"やっぱり忘れられる"と悲しみの言葉を小声で言いながら。
「左コーナァァァ!エゼル隊の特攻隊長と言えば彼しかいない!最強の格好良さと最高の優しさで世界中の女を虜にする!けど、童貞!!キルス・エーベルヴァイト君です!」
観客席からは笑い声が聞こえる。中にはツボに入った人も居るらしく、笑い声が絶えない。
「最悪の実況だなオイ・・・」
怒りで額に血管を浮き上がらせながらのキルス登場。両者共に良い気分での試合ではないようだ。
「尚、紹介文は司令官さんに頂きましたー!」
「許さねえええええ!」
キルスの叫びに、教員席にてツボに入り笑いが止まらない司令官の姿があった。
「シー君、ちょっと笑いすぎ。煩い!はぁ………私個人としては同種のリグルス君を生でじっくり見たかったのに・・・」
長い黒髪を指先にクルクルと巻きつけ、司令官の笑い転げる姿に呆れた様子の女性。彼女は、観客席に映る吸血鬼の青年に視線を移して、ウットリとしながらそう言った。
「両者揃ったということで!いよいよ、激闘の開始です!用意!・・・ス」
「ちょ、ちょっと待て!そのスタートコールでいくのかよ!」
キルスが開始合図を妨げるように、カルラに問いかける。カルラはキョトンとした様子でキルスの問いを無視し。
「スタートォォォ!!」
試合は始まった。開始瞬間に、戸惑うキルスを横に"これは好機"と捉えたエゼルがキルスに向かっていく。
「え!ええええ!?ちょっと待てええええええええ!!」
キルスはその場から逃げるように退散し、割と広い試合会場をぐるぐると逃げ回る。エゼルは、彼が正気じゃないと感じたのか、一度止まって時間を与えた。
「ふぅーっ・・・んじゃ、やるぜ!」
エゼルの意図を察したのか、深呼吸をして右手をいっぱいに広げ、彼は力を解放した。発動呪文を口頭で放って。
「俺の中に住む鬼よ!このイケメンでかっこよくて最高な俺に!もっと最高でかっこよくなれるだけの力を寄越せ!」
すると、忽ち、彼の背後には巨大な赤鬼が姿を現す。 赤く禍々しい蒸気のようにゆっくりと空気の中を移動する光を噴出しながら。
キルスの手に握られるは、ゴツゴツと棘を纏いし金棒。赤く光る眼を捉えれば、正しく彼は鬼。
「速度強化、硬質強化!」
エゼルの身体能力が上がったというサインの光が身体中に浮き上がる瞬間や否や、エゼルの瞬身と同時に放たれた激しい突きは鬼を纏ったキルスの金棒によって防壁への道を妨げられた。
「・・・魔王武器発動時の魔人に発動もしてない魔人が勝てるわけないだろ。エゼ、俺を舐めてんのか?」
「別に・・・舐めてなんかないよ」
金棒と鋭い手刀はギリギリと金属音を辺りに撒き散らす。手刀が刃物に勝る強度を誇るのは、硬質化している証拠。
この一撃の錯綜だけで観客席の素人は、激闘と勘違いして盛り上がった。
「ナイルさん、あれは、特質魔法の身体能力強化魔法ですかね!どう思われますか??」
「はい。身体能力強化魔法をシード戦で使われた選手は恐らくこれで二人目でしょう。一人目は、前大会準優勝者であるエト選手も使っていましたね。でも、あの使い方だとエト選手とは違うようです・・・どうなりますかね〜」
会場の盛り上がりを掬い取るようにして解説に持っていく。きっと彼女らが抜擢された理由は、人気があるだけではないようだ。
「じゃあ、次は俺から行くぜ!」
手刀が金棒に"触れている"ことを利用して、エゼルの居る空間の人が感じられる重力の重みを最高値まで上げた。
すると、エゼルは重力の激しい重みで無防備な体勢に。
「これで終わりだ!!」
ピキピキと重力によって防壁が軋む音が聞こえる。この状態で巨大な金棒が当たれば、割れることは間違いないだろう。エゼルは止む終えないと感じたのか、苦しみの中、心の中でとある言葉を吐いた。
「((僕は消えたくない、消滅するのは僕が消えるという運命だけでいい!僕に、それが出来る力を消滅させるだけの力をくださぁぁぁぁい!!))」
シュッと、金棒が振り下ろされるタイミングより少し早めに彼は消えた。
どこかへ消滅したのか、それは誰も目で捉えることの出来ない"攻撃"。
消えた直後、パリンッと防壁の割れる音がして、否や、キルスの防壁は砕け散った。
「・・・は?」
キルスの反応は、今回だけは正しい。観客席からは声援よりも、ただただ、驚愕の表情が広がっている。
一部の生徒と一部の教員、一部の素人に混じる人物、涅槃の強者は、何処か楽しげに嗤った。
そして数分間の沈黙からーー。
「し、、、しっ、、しっ、、試合終了!!な、な、な、何だったんでしょうか!今のは、私にも目で捉えることは出来ませんでした!と、取り敢えず!勝者は、エゼル・シスタ選手です!」
わぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ。という歓声の中で、他のエゼル隊の三人は、ただ驚愕し。
チトの心の中で"何か"が芽生えた。
それは、真愛か最悪か。まだ、何も否むことさえ出来ない。




