童貞の決意
投稿遅れました()
ーー翌日。
「よく寝た〜・・・痛ッ」
ソファで気持ちよく寝ていたエゼルは目を覚まし、腕を伸ばして伸びの体制に入る。すると、首に違和感を感じ、ゆらゆらと動かしてみるも痛みを感じた。
どうやら、寝違えたようだ。
「今日は大切な日、僕の夢を叶えるためには踏み越えないといけない壁!」
自分のこと、これからのこと、それらを頭に浮かべて、彼は強く拳を握った。
ーーその頃、壁は。
「嘘だろおおおお!!なんでだよおおおお!なんで俺の最初の相手がエゼルなんだよ!勝てるわけねーだろおおおお!最高にカッコよく女の子にモテる勝ち方して童貞卒業したかったのによおおお!」
と、自室で必死に泣きながら叫び、悶えていた。ベッドのシーツは昨日の夜からの大量な冷や汗と涙で大洪水に。
「おーい、キルス。ちょい開けるぞー」
コンコン。と手の甲で扉を叩くノック音とリグルスの心配そうな声が部屋の外から聞こえた。
「い"ま"は、はい"って"ぐん"な"!」
声を押し殺してやっと出せた声は、かなり小さめで涙が絡んだせいなのか滑舌はかなり悪かった。
「・・・ったく、大丈夫か?ほら、起きて支度しろよ」
いつの間にか入ってきていたリグルスは、湿った掛け布団を人差し指と親指で湿ってない部分を持って泣き噦る童貞から取り上げるとそのまま洗濯機へと押し込んだ。
その間に彼が心を入れ替えて支度をしてくれているという理想の形を浮かべながらベッドの方へ向かうと、彼はまだ寝ているままだった。それも、タオルケットをかけて。
((布団だけじゃなくて、タオルまでかけてるとかこいつ・・・女子かよ!))
またも、人差し指と親指で湿ってない部分を持って奪うと、そそくさに洗濯機へと押し込む作業を再開した。
次こそ、何もかけるものがなくなって急いで洗面器へ直行するだろう。涙で顔がぐしゃぐしゃな状態を俺に見せることはあいつの性格的にありえない。そう考えてリグルスはベッドに向かった。
((はぁっ!?こいつ、タオルケット二枚重ね!?普通に夏場だぞ、ここの気温は元老院の気まぐれらしいけど!))
そこには、「使えばモテるタオルケット!」と縦に習字型のフォントで書かれたタオルをかけたキルスの姿があった。
((こいつ、騙されてんな。どれくらいで買ったんだよ、アレ?なんか値札付いてんな。二万三千?は?絶対三百円とかそこらへんの代物だろ!!))
二万三千円までかけてモテたいと思っているキルスの事が逆に誇らしげに思えた。ここまでモテることに努力してるのに彼のモテなさ。もう、尊敬に値する。
リグルスは、正座をし、天に向けて両手を合わせた。
「で、何やってんだよお前!」
我に返ったキルスが涙を「使えばモテるタオルケット!」で拭いながら、正座をして天にいのりをつづける男に怒鳴り声を上げた。
「はっ!な、なにって。お前の泣き声が非常にうるさかったから、様子を見に来たんだよ。で?どうした?」
気を取り直し、
目の前にいる涙で目が腫れた青年に当初の目的である疑問を素直にぶつけた。
「ああ、シード戦の最初の相手、エゼルなんだよ。」
「そうか。
でもな、100%勝てない相手なんていない。
どんなに強い相手だろうが全力を出せば結果はわからないもんだ。だからよ、今のお前みたいに戦う前から諦めんのはよくねえ。
漢なら前見て闘って砕けるなり砕くなりしてこい!俺は応援してるぞ!」
彼の目を見ながら真剣な表情で語るリグルスは、自分の背中を押してくれた全員の言葉を思い出していた。
どんなに強く憎んでいた兄でも、分かり合えることはあるんだと。
「・・・ああ、だよな!いつまでもしょげてるなんて俺らしくねえ!いつもみたいにカッコよく派手に女の子にモテるような戦い方でエゼルなんかボコボコだー!」
キルスに笑顔が戻り、彼は元気を取り戻した。いつもの明るく生意気、それでいて仲間思いの彼に戻ったとリグルスは胸を撫で下ろす。
勝負の行方はきっと最後まで分からない。
ーーシード戦開幕30分前。
「リグルス君はどっちが勝つと思う?」
「そりゃー、勝負はやってみなきゃわかんねーさ」
王宮前の広場にて観客が集い始める中、チト、リグルス、サディの三人は特別観客室と称された完全防壁の生徒用観客室の席に腰を下ろし、シード戦の開幕を話しながら待っている。
王宮の大きな広場にて開催されるシード戦はBブロック。他にも、涅槃の至る所でシード戦は開催される予定だ。
規定としては、相手の防壁の耐久度をゼロにして破壊するか、相手を気絶させるか。のどちらで勝敗が決まるようになっている。
シード戦と言っても、全員本気で挑む大会なので過激な戦いが予想されるため、
そんな時用に、観客席には防壁が貼られている。これで、強力な魔法でも大体は防ぐことが出来るわけだ。
「まあ・・・今日一番の試合はエゼルとキルスの勝負よね。私達の活躍なのか知らないけれど、割と注目の的よね。」
「やっぱり、黒闇ってのを捕まえたのはかなりデカかったみたいだな。知ってるやつは国家内に関係のあるヤツらか・・・なんか、前に説明されたよな」
「うん。チトは純粋に怖いなーって思った。」
肩を震わせながら、恐れをなした表情でこの前の話を思い出した。




