動き始めた闇
「・・・にき!兄貴!!」
「・・・ん?遠くから弟の声が聞こえた気がする・・・何だこれは・・・もっこりしてるが・・」
セルシアは何となく目覚め、片手をゆらゆらと揺らした。
その時に布地からもっこりとしてる"ソレ"との接触を果たしたわけだが、"ソレ"の持ち主であるリグルスは顔を真っ赤にしてセルシアの顔面をグーパンで殴りつけた。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁあああ!」
突然の拳とその痛みに驚愕と激痛が走ったセルシアは絶叫した。
静かにしないといけないというマナーがある病院内には叫びが何重にも響き渡る。
この件は、後に《涅槃の強者》の《無限人格》も病院嫌いという印象が持たれる原因になるものになるとはこの時誰もわかっていなかっただろう。
「…んで、兄貴は俺のこと怒ってないの?」
「いや、怒ってるよ。一族を眼の前で全員殺されて怒らない奴がいる?俺は何でそんなことをしたのかを聞きたいんだよ」
最初に登場してきたセルシアではないようだ。冷静かつ慎重な姿勢でリグルスに接していることから、彼を《優しいセルシア》としよう。
「・・・俺も分からないんだ。
何であの日、主人公だった俺が一族の皆を殺さなければならないのかが・・・」
「それは、お前自身にも分からないってことかい?それだともう何だかわからないね・・・さっき自分ではないって言い張ってたけどどういうことか詳しく説明してもらえる?」
セルシアの優しい問いに笑顔でリグルスは答える。過去にあった事を全て話すと、彼は「声が聞こえた」辺りから不審な態度を見せた。
「それはどんな声だった?」
「よくは覚えてないけど、その頃の俺と変わらない歳の男の子みたいな声だったと思うぜ」
セルシアは口を開いたままポカーンと考え事をしている。自分の知っている何かと合致が入ったのだろうか。
彼は先程の"闇の少女"の行方について司令官に聞いた。
「あん?さっきの?ああ、ここの病院の地下、隔離病棟っていう犯罪者が入院した時に治療をする場所に居るぞ。隣の部屋が拷問部屋と提携してんだよなー。んで、そいつがどうした?」
「・・・!?それはヤバイ!地下となると照明も少ないはず・・・貴方なら分かるだろ?ミルニアは、"黒闇"の一員なんだよ!つまり、どんなに拘束がなされていても意味がないんだ!」
セルシアの"黒闇"という言葉に驚愕の表情を浮かべる司令官。
自分の注意不足に後悔をしていると、司令官の肩をポンと叩いて自分の方へ振り向かせた少年が声を上げて言った。
「司令官、"黒闇"が関わっていたなんて知りませんでした・・・後悔をしてる場合じゃないです。今すぐにでも病院内の患者さん達に避難を!」
その少年は、"黒闇"という単語に一切驚きもせず、司令官よりも司令官らしい指示を出してスマートな表情でグッドサインを司令官に向けて作った。
「エゼル、何でお前がこの国の国家機密を知ってんだよ!」
「それは・・・僕の経歴をご存知の司令官なら理解出来ると思います」
((元老院様、こんな少年に何て恐ろしい事を教えていやがる))
元老院に向けて言った言葉ではないが、何処かの小さな空間で髭を生やした長老が"ホッホッホッ"と笑った。
「まあ、いい!これは国家機密だから他の奴には話すなよ?」
ジトォ〜。
司令官は四人からの凄まじい視線を感じた。教えられることならば直ぐにでも教えたいのだが、今回はこの場所で言うのはキツイ。そう考えた司令官は"コレが終わったら王宮で教えるよ"と言ってしかめっ面の四人を何とか説得した。
「僕は話せないよ。話せば、"バレる"からね。ところで、いつの間に患者さん達逃げたの?」
見たところ、誰も居ない感じのする病院は当たり前の如く静まり返っていた。
外からは非難に成功した患者と先生の安堵の声が聞こえる。
「俺らが話してるうちにな。伝心能力で先生と患者全員に避難しろと言葉を送った。言うこと聞くか分からなかったが、言い方次第で何とかなるもんだな」
「何て言ったんですか?」
「ああ、えーっとな。『今、俺の一緒にいる《無限人格》の人格が"狂"の人格になったから、今すげ逃げろ!』ってな」
エゼルの質問に、半分ドヤ顔混じりの表情で司令官は伝えたことをそのまま繰り返し言った。
「狂の人格?」
質問したのは、その《無限人格》本人。
本人は自分自身に人格が存在していることを知らないのでこういうことが起こるわけだ。
「まあ、その辺は気にすんな!よし、お前ら、地下に行くぞ!」
暗黙の了解で本人にソレを伝えてはいけないことになっているため、言葉を濁してセルシアを含めた七人一行は地下の隔離病棟へ向かった。
***
その頃・・・地下の隔離病棟では。
「闇がこんなにたくさんあるのね、私、あんなに痛かったけどもう大丈夫みたい。
沢山暴れさせてもらうわよ。うふふ、えへへ、ぐへへへへ」
闇の少女が動き出す。
近くにいた警備員の生気を頂いて、彼女は闇夜に嗤った。




