身体能力強化魔法が世界で一番強い!
「・・・・((殺してやる!))」
少女は殺意を込めた表情で空中に飛び上がると、両掌の間から赤黒い禍々しい球体を作り出して一番弱々しい容姿のキルスに向けて放った。途端に加速してキルスに襲いかかる赤黒の球体。
「チッ……やっぱり、そうだと思ったよ。雑魚の俺は確実に狙われんだ。なら、俺の今持てる力でぶっ潰すしかねえ!来い!鬼よ、このイケメンで爽やかな俺様にもっとカッコよくなる力を寄越せ!」
予期していたのか、キルスを中心に巨大な円の魔法陣が地面に浮かび上がると、赤い光を放ちながら轟音と共に巨大な槌型の魔王武器がキルスの手に握られる。
武器を握った右腕には、赤い装甲が纏わりつくように装備された。
「出し惜しみなんかしてる余裕ねえ!」
巨大な金棒型の槌を頭上で器用に回転させて大竜巻を顕現する。
大竜巻は回転すると同時に赤い色に染まり、赤黒く禍々しいミルニアの球体との接触を果たした。
揺れる木々を差し置いて激しくぶつかり合う両者の業は、周囲に衝撃波を飛ばしながら激しく空中の中へ混ざり合うように消滅した。
「・・・・(雑魚じゃないのね)」
「久し振りに魔王武器使ったから不思議と力が湧くぜ!」
キルスは金棒の矛先をミルニアに向けて、再度構え直した。
すると、ミルニアは詠唱を始めた。
自分の持てる力を最大限に引き出すべき相手だと悟ったためだ。
「闇の力よ、全てを飲み込む最強の力よ。
私の命を捧げよう。私の命分の力を分け与えなさい!」
ミルニアの言葉と共に彼女に流れ込むはいつの間にか真っ黒に染まった空からの闇の光。彼女の額には黒色のバツの印が浮かび上がり始め、身体にも纏わりつくようにバツの印が何重にも重なり刺青のような形に変化していく。
胸部分に巨大なバツ印が浮かび上がる頃には、彼女の意識は身体から消え去り、白眼を剥いて"何か"が身体を動かしているように宙を舞い上がった。
「こんな相手、俺様のスーパー最強武器を使っても勝てる気がしないんだが・・・」
キルスは目の前の光景に悶絶し、肩を震わせている。彼の背後に顕現されている鬼も少しだけ焦っているようだ。
戦っていなくても分かるレベルで今の彼女はヤバイ光を放っており、流石の司令官ですらも眉間にシワを寄せ、彼女を直視していた。
「司令官、下がっててください」
「おう。って、オイ!エゼル!お前が下がれよ!」
エゼルの意見に本気の表情で返答をする司令官を横目で見ながら、エゼルは前に進む。
操り人形のように宙を舞い続ける少女を標的として。
「僕は君のように圧倒的な魔力や武器を持っていない。けれどね、君が最強だと思って頼った闇の力よりも!身体能力強化魔法の方が最強だ!!」
「威力強化!!」
エゼルの身体に秋色の光が浮き上がるように宿る。
彼は飛び上がり、彼女の腹部に強烈なヒザ蹴りを食らわせた。
「・・・ま"だぁ"ま"だぁ"!!」
どうやら強烈な一撃は効いていないようだ。
彼女の周りからは小さな紫の球体が無数に出現し、エゼルに目掛けて隕石のように降り注ぐ。
命中すれば、恐らく命はないも同じな程に危ない代物のようだ。
「声は大切にしないとダメですよ!・・・身体能力強化魔法-初伝-草薙の剣!!」
彼に降り注ぐ、紫の球体は全てエゼルに命中した。
だが、何故だろう。彼の体には傷一つ付いておらず、代わりとして彼を中心とした周辺の地面がえぐられている。
「・・・・!?」
少女は驚愕し、一瞬の油断を見せた。
その油断が命取りとなり、焦りを見せた彼女は咄嗟に旧態を作り出すも、彼にはもう届かない攻撃。
「発射までの速度が段違いに遅いです。そ
の球体を作り出すのに時間なんか使ってたら、死と隣り合わせの戦場ですぐに命を落としますよ?
速度強化、威力強化!」
エゼルの身体が黄色、朱色の順に光ったかと思うとそれはすぐに消え、エゼル自身も彼女の前から"消えていた"。
そして・・・"ドォンッ"
巨大な鉄球を光速でぶつけたような凄まじい音とその威力からは彼女が一瞬で空へと消えた理由も充分に理解出来る。
「この世で最強の魔法は、身体能力強化魔法!」
彼の声は上空を舞っている少女とソレを受け止め、彼女にがっかりした様子のため息を吐く者にもはっきりと聞こえた。
「・・・・いや、この世で最強の魔法とは、闇の力であり、怨念の力、ソレが最強だ。
身体を強化して戦うなんていう子供にしか通用しない誰でも出来る特質魔法なんか最強にはなれるわけがないよ」
空中から舞い降りてくる男に、リグルスは怯え、司令官は"本命が来たか"と意識を集中させた。
白く長い髪に吸血鬼特有の真っ白い肌、剥き出しの八重歯をギラつかせて全てを見通すような紅い眼をしている。
彼は怨念の感情を込めた赤い瞳でリグルスを睨みつけながらこう言った。
「やあ。久しぶりだね。俺の生涯の殲滅対象であり、最愛の弟、リグルスよ。」




