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草太の立志伝  作者: 昨日の風
第四章 戦国動乱編
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百二十五、国友村

 草太と平助が宮部城を抜け出し、国友村に向かっていたことは既に述べた。その途中の一膳飯屋で、久々に民の生の声を聴くことが出来た草太は、それだけでも収穫であった。特に浅井久政という人物の扱い方については、本人の意思もあるだろうが、草太の中では内政方に加え、神輿として担ぎ出されないようにだけ気を付けるべき存在として捉えられていた。


 その国友村には、とある人物が逗留していた。正確に言えば、草太が国友村に逗留させていた。その人物とは七太郎であった。敦賀に滞在させており、戦が姉小路側の勝利に終われば即座に国友村に来るように命じてあった。その際に草太が国友善兵衛に宛てた手紙を持たせていた。そのため、時間を少し巻き戻して、七太郎が国友村に入ったところから見ていこう。


 七太郎がその妻を伴い国友村を訪れたのは、睦月二十三日(2月14日)のことであった。国友善兵衛に用があると村人に言うと、奥の屋敷へ行くように言われた。行ってみると屋敷と見えたのは工房であり、居住する家屋は他の家とさして変わらず、ただ客があった場合の客間、それに寄合の際の広間の分だけ広く作られていた。門前にて庭を掃いていた老爺に国友善兵衛に手紙を言付かっているといると言うと、老爺は直接渡すつもりか、と聞いてきた。七太郎は草太に直接渡すように言われていたので、そうだ、と答えた。すると客間に通され、しばらく待つように言われた。国友善兵衛は工房に籠っているため、早くても昼過ぎまで、遅ければ夕方か夜まではかかる、と老爺が言ったので、七太郎は血が騒いだのだろう、工房を見せてもらえるように頼んだ。

 老爺は、手紙の差出人が草太だと聞くと仕方がないという顔になり、工房へ案内した。


 鉄を撃つ音がそこかしこから聞こえてきた。銃身を鍛えているのであろう音であった。また細かい音はカラクリを作っているのであろう音であり、正面の炉の前でたたら製鉄を行い、一方では銃床を作っているものもあり、全体に活気にあふれていた。しかも、流れ作業であった。銃身を鍛えているものは鍛え終わると次に渡し、また別の銃身を鍛え始めた。この段階では単なる鉄の筒であったが、次の段階では照準がつけられ、銃尾に尾栓を組み込むために雌ネジを切りカラクリを組み込むための穴を開けていった。そうして次の段階のものに渡し、カラクリを作っていた別の者からもカラクリを受け取り、銃床を作っていた者から銃床を受け取って、組み上げられて一丁の火縄銃が完成した。

 加工速度には差があるが、その差は人数差で補っていたため、どこかの部品が大幅に余ることもなければどれか一つだけがなくなることもなかった。

 それでも、一日に五丁できるかどうか、という程度であった。月産では百丁から百五十丁程度と見積もった。これは、現在の飛騨の工廠とほぼ同規模から少し大きい規模であると思われた。もっとも、現在ここで作っているのは小筒であり、飛騨では中筒と新型銃の二つを同時に作っていたため、単純な比較は難しかった。

 勿論、飛騨でも分業体制はとられていたが、ここまで徹底したものではなかった。

 しかし、特に七太郎の目を引いたのは、最後の組み立ての工程であった。部品が合うものを探して組み上げて一丁一丁を完成させていっていた。つまりは部品に互換性がない、という事であった。



 昼時になって客間で七太郎と国友善兵衛は対面を果たした。

 まずはこれを、と七太郎は草太の手紙を渡し、国友善兵衛は一読して、ほう、という顔になった。七太郎は姉小路家の新兵器開発方であり、新型の中折れ銃を披露する、とあったためであった。早速に試すこととし、試射場へと誘った。とはいえ、国友善兵衛は早合を合わせていないため、一刻ほど支度にかかった。七太郎は既に早合を合わせてあったため、支度らしい支度といえばたすきをかける程度であった。

 支度が済むと、国友善兵衛は一文銭を取り出した。これが落ちた時が一発目の合図であるとし、国友善兵衛が二発目を撃つまでに何発撃てるかを見せてもらう、と言った。善兵衛の見立てでは、良くて三発目が撃てる程度であろうと考えていた。しかし結果は国友善兵衛が二発目を撃つまでに五発を撃ち六発目の発射態勢が整っていた。的にも全弾が当たっていたため、適当に撃ったわけでもなかった。国友善兵衛は完敗を悟らざるを得なかった。更にその後に尾栓を開けて整備にかかっていた国友善兵衛であったが、中折れ銃は折って引き金を引きながらぼろ布を通すだけで済んでいた。口火の火薬滓は発射時に飛んでいく構造になっているため、百発までは二十発から三十発毎に一度ぼろ布を通す程度で済む、と聞き、国友善兵衛はまたも驚愕した。今までの国友筒であれば精々三十発も撃てば尾栓を開けて整備が必要であったためであった。


 試射はこの位にして、と客間に戻り、技術に関する四方山話をしている最中、ふと七太郎が言った。

「組み上げまでの一連の工程を見せていただきました。最後の組み上げの際に、口金が合うものを探していたようですが」

 国友善兵衛は何を当たり前のことを、と思った。火縄銃は一丁一丁異なるものであり、銃身、銃床はもとよりカラクリ部分の一部でも破損すれば交換は難しかった。運よく口金が合うものが手に入れば交換も可能だが、通常は破損した部品を修理するか、火縄銃そのものを廃棄処分とするか、腕のいい細工師に何とか口金の合うものを作らせるかのいずれかにするべきものであったからだ。それでもまだ銃床は木製であるだけあって何とかなることが多かったが、最も破損率の高いカラクリ部分についてはどうにもならずに廃棄処分とされることが多かった。

 時に国友村に修繕依頼が来るが、国友筒であってもカラクリ部分が破損していた場合には修繕することは難しかった。そういった場合には、ほとんどカラクリ部分を全交換することで対応するしか方法がなく、非常に高くついた。

「部品を共通化すれば簡便なのですがね」

 七太郎がこともなげに言ったが、そもそも、部品を共通化する、という発想自体が国友善兵衛にはなかった。部品は分からないでもないが、共通化とはどうすれ良いのか。それ以前に一つ一つの部品が共通であるとはどういうことなのか、つまりは同じ寸法のものを大量に作る、ということに他ならなかった。そのようなことが今の国友村で可能かどうかすら、国友善兵衛には判断できなかった。正確に言えば、ほぼ同じ寸法に作ったはずのものが大量にあるが、少しずつ違うから口金が合う、合わないという問題が出てくるのであった。

 加工精度の問題は、即ち測定精度の問題であった。そのことを指導することも七太郎の国友村への派遣の目的に入っていた。



 翌朝、草太は平助のみを連れて国友村へ訪れた。老爺に国友善兵衛に来訪を告げると、武芸者とその弟子が鉄砲でも習いに来たか、とばかりに客間にぞんざいに通した。客間では七太郎と国友善兵衛が話をしていた。国友善兵衛は床の間を右に座っていたが、草太が入っていくと驚いた。手紙によって草太が来ること自体は知っていたものの、行列を組んで供回りを多く連れてくるものだと思っていたためであった。

 草太が床の間を背に座り、床の間を右に平助が座って国友善兵衛は草太に対面する場所に移動して座した。平助が直答を許すと言って会見が始まった。

 草太は、あまり長々と話す余裕がない、と言い、簡潔に言った。

「今後、国友のある北近江は我が姉小路家の領土となる。まずは左様心得よ。……さて、まずは鉄砲であるが、今後は中筒以上の鉄砲は姉小路家がまず買い、余りたる物のみを他に売ることを許す。良いな」

 はは、と国友善兵衛は平伏しながら考えた。国友善兵衛が商人であれば小筒を大量に作ろうと考えるか、或いは中筒を姉小路家がほぼ全量買ってくれると喜んだであろうが、残念ながら骨の髄まで職人であった。中筒を売る先が姉小路家であろうが他の誰かであろうが、問題はなかった。今後は他から注文を受ける際に中筒以上の仕事は受けられぬな、と思っただけであった。

 続けて草太が言った。

「今後は七太郎の指導の下、姉小路家の規格による火縄銃を作ってもらう。全ての部品を同じ大きさで同じように作るというのは簡単なことではないが、国友衆であれば問題なく乗り越えられる、そう信じておる故、左様心得よ」

 はは、と国友善兵衛は言ったが、何のことかよくわからなかった。規格とは、全ての部品を同じ大きさで同じように、とは一体どういうことだ、と考えた。そこへ七太郎が助け舟を出した。

「今でも分業体制で作っている火縄銃、あれは最後の組み上げの時に合うものを探して組み上げているが、探さなくてよいようにすべて同じ形に作る、そういうことだ。技術としては職人技というだけではない。カラクリだけで動けばよいというものではなく、全て同じに作るというのは、常人ではできぬ。職人の腕の見せ所だ」

 これには国友善兵衛も納得したようであった。確かに組み上げが最も経験が必要であるが、全ての職人が職人としての技を発揮することで成り立つ世界、というのは、確かに心惹かれるものであった。

 納得した顔を見て草太は続けた。

「更に、新型の中折れ銃と早合、薬莢についても作ってもらう。中折れ銃については、七太郎、見せたのであろうな」

 既に、と七太郎が答えたのをうけて、草太が言った。

「あの中折れ銃を作ってもらう。ただし、供給先は姉小路家のみであり、技術の流出は許さぬ。機密は守ってもらう。良いな」

 はは、と国友善兵衛は頭を下げただけであった。新しい技術を教えてもらえるのであれば文句はなく、そしてその中折れ銃を他に売らなければ良いだけの話であった。国友善兵衛はどこまで行っても職人でしかなく、商人ではなかった。ただ中折れ銃を他に売ることが出来ない程度のことは、新技術の前には特に問題にはならなかった。

 草太はこれだけを伝えると書状に纏めたものを懐から出し、国友善兵衛に署名をするように求めた。二通同じものがあり、一通は姉小路家が、もう一通は国友村が持つこととされた。既に「姉小路房綱」と草太の署名と花押があり、あとは国友善兵衛の署名花押のみであった。


 早合の革筒は作り手が国友村には居なかったが、薬莢の製造は真鍮の扱いであるため国友村で行うことが可能であった。ただし絞りと呼ばれる技術については七太郎の指導が必要であり、それをものにするためには数か月という期間を必要としたのであった。


 草太は書状の交換を済ませるとそそくさと国友善兵衛の屋敷を出た。出がけに七太郎に耳打ちするのを忘れずに。

「この国友村での仕事が終わったら、復命に戻れ。そうしたら一年ほどやるので九州へでも行ってくるが良い」

 七太郎が張り切ったのは言うまでもないことであった。


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