第24話 何者かに襲われたらしい②
「昨日の夜、聖良ちゃんたちの帰りが遅くて、おかしいと思って港の方に行ってみたら大怪我をした二人が見つかったのよ」
「二人とも無事なんですか?」
「……なんとか一命は取り留めたって感じね。どうも、傷にCランク以上の呪いがかかっているらしくて、私たちでは治療しきれないの。今、島外に出てる探索者を呼び戻そうとしてるんだけど、八月はどこも忙しいからね。うまく行ってないみたい」
「そうなんですか」
どうやら、俺たちが寝ているうちに事件が起きたみたいだ。
聖良さんを含め、数人が何者かによって切り付けられたらしい。
今、Sランクダンジョンから出てきたモンスターによる犯行ではないかということで、島内を調べているそうだ。
被害を受けた探索者の中には聖良さんのような高ランクの探索者も含まれていたので、複数パーティを一班として調べている。
今この島にはあまり探索者パーティの数がいなかったこともあり、あまり進捗は良くない。
それに、子供や専業の生産職などを本邸の方に避難させたりもしていたため、そちらにも人員が割かれている。
女将さんも娘のリクちゃんと一緒に今から本邸の方に避難するそうだ。
もしかしたら、一夜さんと連絡が取れないのもそのせいかもしれない。
しかも、傷には呪いがかかっており、治療はうまく行っていないようだ。
回復魔法でHPは回復できるのだが、呪いのせいで傷を塞ぐことができないらしい。
HPは回復できるけど流血の状態異常が治せなくてダメージを受け続けているようなものかな?
流血ダメージみたいにずっとHPが減り続ける状態になってしまっているのだとか。
覚醒者であればその呪いを解除することができるはずだが、Cランクの回復職なんてどこでも引くて数多で、今この島にはいない。
呼ぼうとしてもすぐに動ける状態の回復職は見つからなかった。
そのため、対症療法にはなってしまうが、Dランクの回復職が昨晩からずっとHPの回復だけ続けているらしい。
おかみさんも元回復職らしく、さっきまでずっと病院の方で治療にあたっていたそうだ。
「あ! そういえば、京子ちゃんは回復職だったわよね?」
「え? はい」
「悪いんだけど、治療に参加してもらえない? 報酬は本家の方からでるそうよ」
「えっと……」
京子は不安そうに俺の方を見てくる。
京子がいないと俺たちのダンジョン攻略ができないことを気にしているのだろうか?
今はそういう状況でもないし、今日は多分ダンジョンには潜らずに終わるような気がする。
大槌家の探索者たちがダンジョン探索を中止して島内の探索をしている中、俺たちだけダンジョンに潜るのはどう考えても感じ悪いからな。
Sランクダンジョンのせいでこの島にはDランクダンジョンしかないそうなのだ。
Dランクダンジョンはランクアップまで数ヶ月はかかるので、一日探索をやめたところで大きな変化はないし。
「行ってきたらいいんじゃないか? 聖良さんたちとは知り合いなんだし」
「うん。私たちのことは気にしないで!」
「ダンジョンに潜らなくてもやれることは色々あるからね」
「……」
ダンジョンに潜らなくても暇になるというわけではないはずだ。
俺たちにだってやれることはある。
島内の捜索に加わってもいいし、避難の手伝いをしてもいい。
朱莉は探索能力が高いし、俺や雅だって戦闘はできるんだから、頭数には入れるだろう。
「あの、サグルさん!」
「ん?」
「えっと。一緒に来てもらってもいいですか?」
「え?」
京子はそう言って俺の服の裾をキュッと掴む。
京子の瞳は不安そうに揺れていた。
「サグルっち。きょうちゃんと一緒に行ってきなよ。私たちは大丈夫」
「そうだね。本邸の方までいけば探索者もたくさんいるだろうし。私たちは大丈夫だよ」
「わかった。じゃあ、俺は京子と一緒に行くよ」
「……はい」
俺が了承すると、京子は安心したように微笑んだ。
◇◇◇
『やったわね。サグルさん。アカリちゃんや雅さんじゃなくてあなた《私》の方を選んでくれたわよ』
「……」
女将さんと一緒に本邸に行く準備を始める雅さんとアカリちゃんを置いて、京子はサグルと一緒に診療所の方へと向かっていた。
京子の胸の内には罪悪感がいっぱいだった。
『京子』の誘惑に負けてサグルさんに迷惑をかけてしまった。
サグルさんだけじゃない。
アカリちゃんや雅さん、女将さんだってサグルさんが一緒に避難してくれた方が安全だっただろう。
『気にすることないわよ。アカリちゃんの索敵能力があればモンスターに近付かれる前に逃げることだってできる。宿から本邸までの間で危険な目に遭うことなんてありえないわ』
「(そうかもしれないけど)」
アカリちゃんの索敵能力はサグルさん以上だ。
女将さんは元探索者らしいのでモンスターから逃げるくらいならできるだろうし、リクちゃん一人くらいならはサジタリウスを起動した雅さんが抱えて走ることができる。
『それに、診療所より宿の方が本邸に近いんだから、むしろあなた《私》の方が危険なんじゃないかしら? サグルさんがこっちに来てくれたのは当然のことよ』
宿から本邸はそこまで離れていない。
本邸の方に逃げ込むだけなら二人でも十分なはずだ。
診療所は港の近くにあるので、宿よりも本邸から遠くにある。
京子を診療所に連れて行ってから本邸に行くとかなり大回りになる。
サグルさんを京子の護衛につけたおかげで、雅たちは直接本邸の方に向かえるので、むしろ、安全になったかもしれない。
そう。
京子は間違ったことはしていない。
そう言い聞かせるようにして、サグルさんの背中を追う。
いや、今は聖良さんたちの治療に専念しないと。
「(私にできることをやらないと)」
『そうね。サグルさんにいいところ見せないとね』
「……」
京子は『京子』の言葉を無視して、サグルについて診療所へと向かった。




