第38話 金竜会会長、辰宮誠一郎④
「変な意味ではないよ。僕直属の探索者にならないかという意味だ」
よかった。
変な意味じゃなくて本当に良かった。
誠一郎は見た目BLモノに出てくるスパダリみたいだから変な意味でそういう発言をしそうなのだ。
肩書きも大企業の若手社長だし。
どうやら、俺は思いの外気に入られてしまったらしい。
だが、俺は金竜会に所属するつもりはない。
というか、あまり組織に所属するつもりがない。
あんまりメリット感じられないし。
俺がことわりの言葉を出そうとすると、雅がスッと俺の腕に抱きついてくる。
ちょっと、雅さん? 当たってます。
「サグルくんは大槌家に所属してもらうつもりなので、お断りさせていただきます」
「雅?」
今まで俺の隣で静かにしていた雅が急にそんなことを言い出した。
別に大槌家に所属するつもりはないのだが。
まあ、誠一郎の誘いは元々断るつもりだったのでいいか。
こんな化け物の下で仕事するなんて嫌だ。
それに、俺が金竜会の所属になってしまえば、末端とはいえ大槌家に所属している雅とは一緒にダンジョンに潜れなくなってしまうかもしれない。
この誘いはなしだろう。
「……そういうことだそうなので、申し訳ありませんが、お断りさせていただきます」
「くくく。そうか。そうだね。少し残念だが、君のことは諦めよう。僕も馬に蹴られたくはないからね」
「……」
誠一郎は笑いを噛み殺しながらそんなことを言う。
誤解なのだが、誠一郎の威圧感がどこかに行ってしまったので、わざわざ誤解を解いてさっきの状況に戻す必要もない。
雅は真っ赤な顔で俯いてしまったが、少しの間だけ我慢してほしい。
「契約魔法の準備ができました」
「そうか。では美島くん。ここに契約書を持ってきてくれ」
「はい」
タイミングを見計らったかのように誠一郎の秘書っぽい女性が俺たちの前に一枚の契約書を持ってくる。
いや、タイミングを見計らっていたのかもしれないな。
さっき部屋から出ていったはずなのにいつの間にか部屋の中にいたし。
どうやら、契約魔法に使う道具のようだ。
「間違いないか確認してくれ」
「はい」
契約書には『金竜会は関東圏内では大穴探、大槌雅、矢内京子、有村朱莉の四名には敵対しない』という一文が簡潔に書かれていた。
他には何も書かれておらず、文章的には穴のつきようがないものだ。
「(『眼術・天眼通』)」
俺は眼術を使って細部まで確認をする。
もしかしたら、魔法的な何かで見えない条件が書かれてるかもしれないからな。
それに、この契約魔法というのにも興味がある。
契約魔法とか、ザ・ファンタジーって感じで面白そうじゃん?
見たところ、複雑な魔法のようなので、俺が使えるようになる目はなさそうだが。
「ほう?」
「……」
普段なら眼術は目に炎が宿るようなエフェクトが出るが、そのエフェクトは隠密のスキルで隠して発動した。
それでも誠一郎にはスキルを発動したのがバレたみたいだったが。
まあ、この人から隠せるとは思ってなかったからいい。
問題はこの美島と呼ばれた女性にもバレたということだ。
どうやら、結構強い探索者みたいだ。
もしかしたら、誠一郎のパーティメンバーかもしれない。
そうであるなら、誠一郎並みに強いと思われる。
つまり、この部屋には化け物が二人もいたということだ。
……よく考えると、誠一郎一人相手でも四人がかりで手も足も出ないだろうから、もう一人がどれだけ強かろうと一緒か。
今回は仲介役の大槌家の威光があるから向こうも何もしてこないだろうし。
「問題ありません」
「そうか、それは良かった」
特に変な点は見つからなかったので、俺は契約書を雅に渡す。
雅も何かの方法で契約書を調べているみたいだ。
雅が確認した後、京子と朱莉も念のためにそれぞれの方法で確認した。
「私も問題ありません」
「私もです」「大丈夫です」
「では、サインをしてくれ」
俺たちはそれぞれ、契約書にサインをしてく。
それを誠一郎に渡すと、誠一郎も書類にサインをした。
「これでよし。美島くん。契約魔法を頼む」
「はい。『契約』」
誠一郎が美島さんに契約書を渡すと、美島さんが契約魔法を使う。
美島さんが魔法を使った直後、何か魔法的なものが俺たちと誠一郎の間で繋がる。
だが、一瞬だけあった違和感はすぐになくなってしまった。
最後まで眼術で監視していたが、特におかしな点はなかった。
まあ、向こうとしてもここで何か変なことはしないだろう。
契約魔法はダンジョンGo!の機能の一つみたいなもんだから、何かできるとも思わない。
「じゃあ、これで話し合いは終わりだ」
「はい。それでは、これで失礼します」
「入口までご案内いたします」
俺たちが立ち上がると、美島さんが先導するように扉を開けてくれる。
正直、自分より強い人に雑用みたいなことをさせるのは気が引けるのだが、部外者に会社内を自由に歩き回らせるわけにもいかないはずだ。
ついていくほかないだろう。
「また会えることを楽しみにしているよ」
扉から出ると、誠一郎がそんなことを言ってきた。
正直もう会いたくはないのだが、そんなことを言うわけにもいかず、俺は軽く会釈をして誠一郎の部屋を後にした。
でも、なんかまた会うことになりそうな気がするんだよな。




