第35話 金竜会会長、辰宮誠一郎①
「あれ?」
「どうかしたのか?」
ダンジョンから脱出した直後、雅は携帯を見て驚きの声を上げる。
雅と二人でダンジョンに潜ってから数日が経っていた。
今日で七月も終わり、明日から八月に入る。
あの日以来、雅は吹っ切れたように積極的に行動している。
高ランク冒険者にも積極的に声をかけ、金竜会に所属してしまった生産職から顧客を奪ったりしているみたいだ。
普通の生産職であればキャパオーバーになってしまうところだが、雅はダンジョン内で作業をすることで、すべての武器作成を時間内にこなしていた。
普通は疲労が溜まるのでそんなことはできないのだが、京子の『快癒』の魔法のおかげで疲労をとることができる。
そのため、かなり高効率で作業をこなせていた。
俺たちの中で一番のチートは京子なんじゃないかって気がしてくるな。
いや、フィジカル一般人っていう縛りがある以上、それくらいの利点がないとやってられないのかもしれないが。
元々武器を作ったりするのは好きだったらしく、無理して作業をしている様子もなかったから、そのままやらせていた。
俺だけじゃなくて、京子や朱莉から見ても無理している様子はなかったらしいので、ほんとに大丈夫なんだろう。
「いや、うちの実家経由で金竜会から連絡が来ていてね」
「え?」
雅が自分のスマホを見て声を上げる。
俺たちは雅のすぐ近くまで寄っていくと、雅はスマホの画面を俺たちに見せてくれた。
そこには、かなり堅苦しい言葉で、金竜会が俺たちを招待している旨が書かれていた。
どうやら、金竜会は俺たちと和解したいらしい。
金竜会対策は若干の行き詰まりを見せていた。
ここ二、三日は金竜会の発見報告が上がっていなかったのだ。
何か企んでいるんじゃないかと警戒していたが、どうやら、金竜会は音を上げたようだ。
だが、まだ安心し切るわけにはいかない。
和解と称した襲撃という線もある。
会合場所は金竜会の所有しているビルのようだし、罠ということも十分に考えられる。
「いくのか?」
「本家の方から会いにいくようにと言われてしまえば断るわけにもいかないからね」
「……」
雅は末端とはいえ、旧家の人間だ。
本家の命令には逆らうわけにはいかないようだ。
一般人の俺としては、何かしてくれるわけでもない実家の命令なんて拒否しちゃえばいいじゃんと思わなくもないのだが、雅はそうは思わないらしい。
雅が行くつもりなら、俺たちも行く必要があるだろう。
京子と朱莉の方を見ると、二人とも無言でうなずき返してくれる。
パーティメンバー全員でいくことは決定のようだ。
「……三人とも警戒してるみたいだけど、警戒する必要はないと思うよ? これは大槌家経由での依頼だ。もしここで何かあれば大槌家は面子を守るために金竜会を潰しにかかるだろう。そんな愚かなことは金竜会でもしないはずだよ」
「「「なるほど」」」
古い家というのは目先の利益よりも面子を大事にする。
これには舐められたくないという心情的なものと、一度許せば相手の基準が下がってしまい長期的に見れば損をするという実利的な理由がある。
古い家というのは長い歴史を持っており、これからも長い期間存在し続ける可能性が高い。
これから長い間舐められた状況が続いていくと考えると、今、一度大赤字になっても面子を守る方が将来的には得になるのだ。
そういう理由もあり、面子を守るためにコストを気にせずに行動することが多い。
当然、金竜会の方も将来のことを考えてコストを気にせず行動してくるだろう。
今は仲裁役の御剣家が動けないようなので、どちらかの組織が潰れるまで戦うことになりかねない。
流石に金竜会もそんな愚かな真似はしないだろう。
「じゃあ、いくのは決定として、いついくんだ?」
「うーん。今日このあと行くのはどうだい? こんな面倒なことさっさと終わらせたいだろ?」
「このあとか……」
「流石にアポイントメントをとった方がいいんじゃない?」
「こちらは謝罪を受ける側なんだから、そこまで気を使う必要はないんじゃないか?」
確かに招待状にはいつでもいいから来てほしいと書かれていた。
だが、流石にアポイントメントはとった方がいいだろう。
いや、こちらが優位であると示すためにもこういう場合はアポイントメントを取らない方がいいのか?
なんか、ビジネス書にそういう交渉方法もあるとか書かれていた気がする。
「……流石に雅の実家経由でアポをとった方がいいと思うぞ? その方が雅の実家も動きやすいだろ。蚊帳の外に置かれれば雅の実家も気分良くないだろうし。それに高圧的な交渉とかなんか難易度高そうじゃないか?」
「それもそうか」
俺はそこまで交渉上手じゃない。
それは大学生の雅も一緒だし、当然、高校生である京子と朱莉もだ。
そんな俺たちは下手に高度な交渉方法を取るより、誠実に行動したほうがやりやすいだろう。
相手は交渉が得意な人間を出してくるだろうから、手玉に取られたりはするかもしれないが、誠実に対応していれば取り返しのつかない失敗は犯しにくい。
向こうだって気分がいいだろうから攻撃的にならないかもしれないし。
いや、すでに敵対関係にあるんだから、それは流石に無理か。
「じゃあ、早く解決したいから、できるだけ早くアポイントメントをとってほしいと実家の方に連絡しておくよ」
「頼む」
雅が実家に連絡をとり、俺たちは返信をまった。
先方も可能な限り早く解決したいそうだ。
返信はすぐに返ってきて、その日のうちに面会することに決まった。




