第32話 力無き正義は無力。正義なき力は暴力②
「はぁ!」
「グギェ!」
雅が光る剣でモンスターを切り裂くとモンスターは真っ二つになり煙となって消えていく。
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色欲の大醜兎(E)を倒しました。
経験値を獲得しました。
報酬:468円獲得しました。
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「ふー」
「……何もダンジョンに潜る必要はなかったんじゃないか?」
「いやいや、ダンジョンに潜るのは気晴らしにちょうどいいだろう」
(……気晴らしには。か)
俺と雅はホテルを抜け出して近くのEランクダンジョンにきていた。
南さんに連絡を入れた後、雅は当然のようにダンジョンに突入し出したからマジで驚いた。
もしもの時にダンジョンに潜って逃げられるようにダンジョンが近くにあるホテルをとっていたが、こんなふうに使うことになるとは。
まあ、ダンジョン内の方が時間の進みはゆっくりだ。
いつまたダンジョン発見の報が届くかわからないので、話をするにしてもダンジョン内の方がいいというのはわかる。
まあ、雅がモンスターと戦いたかっただけな気がしなくもないが。
「本当に雅はモンスターと戦うのが好きだよな」
「だって、楽しいじゃないか。この足が動かなくなってから全然戦闘ができてなかったからね。鬱憤が溜まっているんだよ」
「確かに。手に入れた力を振るうのが楽しいっていうのはわかる」
強い力を手に入れたら振るいたくなるという気持ちは俺にもわかる。
いい車を買ったらドライブに行きたくなるし、新しいゲームを買ったらめちゃくちゃやりたくなる。
ダンジョンGo!だって安全マージンをしっかり取って活動する分にはめちゃくちゃリアルなゲームみたいなものだ。
敵に生物感がないから余計にそう感じるのだと思う。
それに、モンスターは倒せば倒すほど世のためになるのだ。
その上お金ももらえるのだから、やらない理由はない。
俺がうんうんうなずいていると、雅はどこか暗い顔をしていた。
「どうかしたのか?」
「……ねぇ。サグルくん。サグルくんも僕が嫌なやつだと思うかい?」
「嫌なやつ?」
「僕はね。ずっと力が欲しかったんだ」
雅は何かを吐き出すようにポツリポツリと話し出す。
「僕の両親は僕が生まれた時から生産職の探索者だった。昔は才能があったそうなんだが、僕の祖父母にあたる人たちが亡くなってから生産職に転向したらしい。僕は両親がダンジョンに潜っているところを見たことがないんだ」
「雅の実家は生産職の探索者ばっかりじゃないのか?」
「僕の実家は生産職で有名だけど、ちゃんと探索者もいるよ。旧家としてある程度の力がないと何もできないからね。力なき正義は無力って言うだろ?」
「そうなのか」
雅の実家は生産職で有名なところとの話だから、てっきり、生産職しかいないのかと思っていた。
でも、よく考えると、生産職になるためにもある程度レベリングをする必要がある。
流石に戦闘職が皆無ということはありえないか。
それにしても、力無き正義は無力か。
どっかの哲学者の言葉だったっけ?
雅って本当にこういうの好きだよな。
「僕の両親も昔は将来を嘱望される探索者だったらしい。でも、ある事件で祖父母が全員亡くなって、それ以来ダンジョンに潜るのが怖くなったみたいなんだ。それ以来、ずっと生産職一本でやっているそうだ」
「……」
「生産職は大変でね。お客さんが自分より強い場合が多いから、どうしてもお客さんにペコペコしないといけない。後ろ盾があるとは言っても殺されてしまえばどうしようもない。相手の探索者に報復はちゃんとされるけど、死んだ人間は生き返らないからね。僕の両親はEランクの探索者にもペコペコと頭を下げていたよ。確かに、謝罪しているということは両親の方にも非があったのかもしれないが、ああやって一方的に頭を下げている両親を見るのが僕は、とても嫌だった」
雅の両親は雅にも生産職になってほしかったらしく、小さい頃から雅に仕事の様子を見せていたそうだ。
そこで、雅は両親がお客さんに対して必要以上に下手に出ているところを目撃してしまった。
相手がどんな嫌な探索者でも、丁寧な態度を崩さず、低姿勢で対応していたらしい。
そんな態度だからこそ調子に乗る探索者もいたそうだ。
立派な両親がそんなふうな態度を取ることが雅はとても嫌だったそうだ。
俺も、電話でクレーム対応をしたことがあるから、雅の気持ちもわからなくはない。
『せめて敬語くらい使えよ。俺はお前の友達じゃねぇんだぞ!』と言いそうになったことが何度あることか。
そういう奴に限って何度もクレームを入れてきたりするんだよな。
接客する側からされる側になりたいという気持ちもわからなくはない。
「だから、僕は探索者になって力を持ちたかった。誰にも媚び諂う必要がないくらいの力が」
「なるほどね」
雅はなんで探索者に戻ることにあれほど拘ってるんだろうと思っていたが、そんな理由があったのか。
「でも、僕は本当に正しかったのかな?」
「? どういう意味だ?」
俺がそう聞くと、雅は俺の方を見て力無く笑った。




