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斬閃の刀狩者  作者: 華月建
第十四章 鬼宴万丈
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プロローグ 鬼の住処

 ハクロウの『世界総本部』は日本の新都東京にある尖塔のような建物のことを指す。


 けれど、各国にはそれぞれの国ごとの本部が存在する。


 それらは東京にある総本部と動揺に各国の首都に存在し、そこが国の中に点在する支部をまとめ上げている。


 米国ハクロウ本部もまた、他の国の例にもれず首都に本部を置いている。


 日本総本部が尖塔という印象に対し、米国本部は塔というよりは巨大な要塞のようだった。


 周囲を高い塀で囲まれた中にあるのは、白い建物ながらもどこか重厚な雰囲気が漂うのは塀のあちらこちらに砲台やらサーチライトやらが配置されているからだろうか。


 まさしく要塞、一歩間違えれば刑務所に見えなくもないそこはまぎれもなく米国のハクロウ本部だ。


 その中の一室。


 正面の入口から数えていくつかのセキュリティを越えた先にある会議室に天都(あまつ)尊幽(みゆ)尊幽(みゆ)柳世(やなせ)宗厳(そうげん)、そして第零部隊部隊長、京極(きょうごく)剣星(けんせい)と彼の部下達はいた。


 会議室にいるのは彼らだけではない。


 階段状になっている会議室の前の席には、米国本部の重役や日本でいうところの部隊長に匹敵する刀狩者達の姿があった。


 そして壇上には米国本部長を務める、フィリップ・サザーランドが立っていた。


 けれど、ハクロウの関係者だけにはとどまっていない。


 少し視線を外せば刀狩者とはまた違った風貌の男達が見える。


「あれが米軍の指揮官達か」


「陸海空勢ぞろいって感じねー。無理もないとは思うけど」


 机に突っ伏すようにして尊幽は小さく息をついた。


 そう、会議室にいるのはハクロウの関係者だけではない。


 ここには米軍の指揮官達、さらには政府の人間、ひいては司法機関、諜報機関の人間もいる。


 けれどそれも無理はない。


 ここに集まった理由はただ一つ。


 米国の総力を上げて禍姫を打ち倒すためなのだから。


 禍姫の居場所が特定されたのは数時間前の話。


 調査によると禍姫は米国西部にある巨大な山脈の一角に潜伏しているらしい。


 どうやらそこには解放軍(トライブ)の教祖である、ジーク・シェリンガムが秘密裏に所有していた巨大なシェルターがあるとのこと。


 禍姫はそこに身を隠し、酒呑童子の力で信者たちを世界中から集めている。


「ようはそこに一斉攻撃しかけるって話なわけでしょ。なのに司法機関やら諜報機関を呼ぶ意味あるわけ?」


「彼らが呼ばれたのはむしろ僕たちに対する警戒のためかと」


 剣星が壁際に立っているスーツ姿の者たちに視線を向ける。


 彼らはこちらを見てこそいないが、尊幽達を警戒しているのは明らかだった。


「私らが邪魔しないように見張ってるってわけ?」


「ハクロウの職員では甘さが出ると米国政府が判断したんでしょう」


「だったら最初っから呼ぶなっつーのよ。証人だかなんだか知らないけど面倒くさいったらないってぇの」


 辟易した様子で肩を竦めた尊幽は大きな溜息をついた。


「米国としてはやはり自分たちの手で禍姫を仕留めたいといったところかの」


「でしょうね。禍姫に加担しているのがシェリンガムだったこともそうですが、ここで妖刀を生み出す存在である彼女を倒せば、米国の立場は日本よりも優位になりますからね」


「かつての列強としてのプライドか……」

 

 宗厳は「ふぅむ」と息をつきながら長い髭を撫でた。


 米国と日本は表向き友好的な条約を結んでいる。


 しかし、内心では極東の島国に大きな顔をされたくないはずだ。


 今やハクロウが世界的な組織とはいえ、その大本は日本発祥の組織。


 今や米国が有している刃災対処、斬鬼対処はそのほとんどが日本からの指導で成り立ってきたと言っていい。


 鬼哭刀とて同じこと。


 あれを作り出したのも日本であり、作り出すための技術提供をしたのもハクロウであり、日本だ。


 米国としてはもはやこれ以上日本に頼りたくないのだ。


「わからなくはないがのう」


「この分だと僕たちは作戦に参加できそうにありませんね」


「だろうな。よくて前線基地止まり、最悪ここで待機ということになるじゃろ」

 

「禍姫のことなめすぎでしょ。あのバカ共に説明してあんのよね?」


「サザーランド本部長には武蔵長官から禍姫の情報が伝えられているはずです。しかし……」


 剣星の視線は軍部の人間達に向けられる。


 禍姫は今や世界の敵だ。


 解放軍を手中に収めたとなれば、米国側にも当然彼女の情報は伝えられ、作戦に参加する以上軍部にも情報は伝わっている。


 だからこそ辰磨はフィリップに念を押した。


『禍姫は一国の手に終える相手ではない』と。


 ここに到着し最初に話した時、フィリップ自身それはよくわかっている様子だった。


 だからこそ彼はギリギリまで米国政府、そして軍部にかけあい尊幽達の作戦参加を認めてもらおうとしていた。


 だが、米国側はそれを強く拒絶した。


 禍姫を倒したという事実を米国のみで独占したいからだ。


 戦場に日本から派遣された刀狩者がいて、禍姫に勝利したとなれば世界は米国の戦果としては認めない。


 尊幽達は戦場に入ることすら許されないのだ。


「戦果云々、プライド云々言ってる場合じゃないでしょうに……」


「米国にとって禍姫は通過点でしかない。重要なのは彼女を滅し妖刀や斬鬼のない世界のリーダーに誰がなるかということじゃ」


「連中はそのリーダーって奴になりたいってわけね。バッカみたい」


「共通の敵とはいえ、世界の行く末を左右するとなれば必然的に欲が出てくる。それはお前も知っていることじゃろ」


「……」


 尊幽は何も答えなかった。


 だが、長い時間を生きてきた彼女には理解できてしまう。


 人間という種がどれだけ業の深い生き物なのか、その本質は禍姫に並ぶほどわかっている。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。


 個人対個人ならまだしも、国が介入してしまえばもはや止める手だてはない。


 行きつく先まで行くしかない。


 その先にどんな地獄があろうとも。


「……ほんと、いやになるわ」


 尊幽は嘆息しつつ進行する作戦会議を眺めていた。




「大変申し訳ありませんでした」


 会議が終わりしばらくすると、尊幽達は本部長室に集められた。


 彼女達の前ではフィリップが深く頭を下げている。


 突然のことに一瞬面食らうもののすぐに宗厳は声をかけた。


「顔をあげてくれ本部長」


 宗厳の声にフィリップは頭を上げたが、表情は芳しくない。


「何を謝る必要がある。お前さんは軍部にかけあってくれたじゃろ」


「……はい、ですが結果は……」


「見ておったよ。最後まで連中は首を縦に振らんかったのう」


 会議も終盤に差し掛かった時、フィリップは軍や政府の人間に尊幽達の作戦参加を提案した。


 が、その結果は当然『No』。


 誰一人として尊幽達の作戦参加を認めはしなかった。


 それでもなおフィリップは食い下がり、どうにかこうにか前線基地までなら許可をもらった。


「あそこでお前さんが食い下がってくれなければ儂らは前線基地にも足を踏み入れられんかった。儂らの方こそお前さんに礼をいうべきじゃ。感謝するぞ、サザーランド本部長」


「ありがとうございます。それと皆さんが最初にここを訪れた際の非礼、大変申し訳ありませんでした」


「それも気にするな。政府の目があったのならば仕方のないことじゃ。米国は政府側の意見が優先されてしまうからのう」


「だとしてももうちょいやり方あったでしょうよ。いきなり締め出しくらって正直ムカついてたわ」


「申し訳ない。ちょうど政府側の諜報機関の目もありましたので、あまり長居してもらうべきではないかと考えまして」


 フィリップの言うように尊幽達が米国に到着した時点で、政府側の監視がついた。


 気づかれていないつもりだろうが、修羅場をくぐってきた刀狩者ならばあれぐらいの監視はすぐにわかる。


 フィリップもそれがわかっているからこそ、あえて尊幽達を締め出したのだ。


 まぁ結果的に尊幽はイラつくことになってしまったのだが。


「あんたのこと責めたってしょうがないしね。けど、あいつら私たちがホテルにいる時もずっと監視してくれちゃってさぁ……。一回マジで顔見せてあげようかと思ったわ」


「やってませんよね?」


 フィリップが冷や汗を流しそうな表情で問うが、尊幽は「ったりまえでしょ」と肩を竦めた。


「気づいてはいたけどあえて無視してたわよ。問題にされると面倒だし、迷惑かかるだろうと思ってね」


「連中も気づいてはおらんじゃろ。しかし、監視が下手だったのう」


「視線はしっかり感じていましたし、なにより気配で丸わかりでしたね」


「彼らもプロとはいえ、多くの修羅場をくぐってきた皆さんには敵わないでしょう」


 苦笑気味のフィリップだったが、彼はすぐに咳払いをすると端末からモニタを投影してみせた。


 そこに映っていたのは先ほどまで行われていた作戦会議中に表示されていた禍姫が潜伏しているシェルターとその周辺地図だ。


「先ほどの会議で皆さん把握はできていると思いますが、改めて説明させていただきます。ここが禍姫、及び解放軍信者たちが集まっているシェリンガム所有の地下シェルター。その広さは広大で、数万人が収容可能となっています。各地で消えている信者たちの数を考えると、低く見積もっても既に一万人はいるかと」


「米国軍の対応は?」


「まずは投降を呼びかけることにはなっていますが……」


「連中が素直に投降するとは思えないわね」


「ええ、ですのであくまで形式的なものでしょう。三度呼びかけ、応答がない場合は陸海空より総攻撃が開始されます」


「信者もろとも灰にするというわけか」


「徹底した殲滅ってわけね。まぁ当然でしょうけど」


 会議様子はある程度見ることができたが、肝心の作戦内容まではしらされていなかった。


 おそらくは尊幽達が会議室を出た直後に決定したのだろう。


「しゃべってしまっていいのか?」


「構いません。皆さんが前線基地に行く以上、いずれはわかることですから」


「そりゃそうだけどさ。あんたの立場だってあるでしょうに」


「立場がどうと言っている場合ではありませんから」


「さすが本部長、肝が据わっておるのう」


 政府に圧されているとはいえ、彼もハクロウの一員であり米国全土のハクロウ支部を統括する本部長だ。


 もはや今の状況がまともでないことはわかっているのだ。


「話を続けましょう。シェルターとは言っても所有しているのは兵器開発会社です。周辺には岩や山肌に偽装された防衛装置が多数配置されていることでしょう」


「バリアとかもあるんじゃないの?」


「ええ、十分にありえるでしょう。おそらく殲滅作戦には過剰とも言える戦力が投入されるはずです。防衛装置とバリアを破壊し、シェルターごと禍姫を消し飛ばすことを想定しているでしょうから」


「単純だが最善と言えば最善じゃの。そううまく行くかどうかまではわからんが」


 宗厳はふぅ、と息をつくと睨みつけるようにモニタを見やる。


 それは彼だけではなく、尊幽や剣星もまた同様に見据えていた。


 地下に潜む悪鬼の姿をその胸の中に思い浮かべながら。

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