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斬閃の刀狩者  作者: 華月建
第十三章 造られた娘達
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エピローグ 禍の蜂起


 米国の首都にある高級ホテルの一室で天都(あまつ)尊幽(みゆ)は苛立った様子で窓の外を睨んでいた。


 視線の先にあるのは()()()ハクロウ本部。


 訪米した時に一度だけ顔を出したものの、それ以降は一度も足を踏み入れていない。


 いや、踏み入れさせてもらえないと言った方が正しい。


「そんなに睨んだところでなにも変わらんぞ」


 背後からの声に視線を向けると、長いひげを蓄えた老人、柳世(やなせ)宗厳(そうげん)が持参したお茶を啜っていた。


「そんなことくらいわかってるわよ。けど、ムカつくでしょうよ」


 尊幽は苛立ったまま近くにあった一人掛けのソファに腰をおろした。


 彼女がここまで苛立っているのには理由がある。


 それは米国ハクロウの態度だった。


 こちらに来た時はそれなりの待遇で迎え入れられたが、それはあくまで形式的なもの。


 一度顔を出した翌日からは完全な締め出しをくらっていた。


 それが踏み入れさせてもらえないと表現した理由だ。


「私ら一応総本部から派遣されて来てんのよ? なのにこっちの本部に入れないってどういうわけよ」


「仕方あるまい。日本と違い米国は国からの圧力や干渉が強い。同じハクロウとは言え、儂らは外国の刀狩者。同盟国とはいえ好き放題されるのは好ましくないんじゃろ」


「ましてや極東の島国出身の黄色い猿にはってこと?」


「そこまで思っているかどうかはわからんがの。しかし、連中にも面子がある。呼び出しがあるまで我慢しとれ」


 肩を竦めた宗厳は再びお茶を啜った。


 尊幽はまだ不満げで、ソファにあったクッションを窓に向けて思い切り投げつけた。


 ボフっという音が響くものの、そんなことで気が晴れるわけでもなく尊幽はふてくされるように大きく息をついた。


 その様子に宗厳はやれやれと肩を竦めたが、ふと胸元に入れてあった端末が鳴動した。


 モニタを投影すると『武蔵辰磨』の名前が表示されていた。


『柳世さん。武蔵です』


「どうした? なにか問題でも起きたか」


『まぁ、そうですね……。尊幽はそこにいますか?』


「いるわよー」


 それなりに離れているだろうに尊幽の耳には彼の声もしっかり聞こえていたようだ。


 彼女は宗厳の下までやってくると「で、なんかあった?」と首を傾げた。


「そっちから連絡してくるってことはそれなりのことなんでしょ? 枝族会議が難航したとか?」


『……そうだな。間違ってはいない』


 辰磨の様子に二人は表情をしかめたものの、直後に彼が語った出来事に納得せざるを得なくなった。




「そうか。今回の枝族会議はずいぶんと荒れたようじゃの」


「人造刀狩者ってまたタイムリーな……」


 枝族会議で起きたことを聞いた辰磨と尊幽はそれぞれ小さく息をついた。


 尊幽の場合は少し前に雷牙に教えたばかりの内容だったことにどこか視線をそらし気味でもあった。


「で、痣櫛匡哉は投獄、世間的には死亡か。当主はどうするつもりじゃ?」


『娘の瑞季が十八になるまでは武蔵家が後見人になるという判断になりました。まだ学生の彼女枝族当主の重荷を背負わせるわけにもいかないので』


「まぁそれが妥当でしょうね。んなことよりもよ。私が気になってんのは黒幕の処理、評議会のバカ共だったんでしょ。それなりの罰は与えたんでしょうね」


 尊幽の瞳が鋭くかり、赤みがより強くなった。


 殺気こそ感じないが怒っているのは明らかだ。


 辰磨はそれにすぐ答えることはなく、少しだけ沈黙が流れた。


 だが、やがて腹をくくったのか彼女にすべてを語った。


『評議会は私が全員処刑した。ハクロウに対する裏切り、学生たちや当主を危険に晒したこと、命を軽んじる研究を促し、最終的にはそれを己の欲を満たすために利用しようとしていたこと。たとえ過去の英雄だったとしても許すわけにはいかなかった』


「……」


 辰磨の言葉に尊幽は即座に反応することはなかった。


 とは言っても驚愕で固まっているわけでもなく、表情にそこまでの変化はない。


『すまない、尊幽』


 彼女の返答が聞こえないことに辰磨は謝罪したが、当の本人は「え?」と謝られたことに驚いた様子だった。


「なんでアンタが謝ってんの?」


『なんでって、ハクロウに害をなしたとはいえ、彼らは君の……』


「あー、そのことね。確かに連中とは昔は仲間だったけど、ハクロウを裏切ったってんなら話は別。龍馬が死んでからおかしくなってたし、そもそも私あいつら嫌いだし。殺してもらってせいせいしたわね」


『しかし、宗厳さんにとっても……』


「付き合いは長いがまぁ彼らの思想には儂も着いていけん。死んでよかったとは思わんが、処刑自体は間違っておらんじゃろ」


「そゆこと。だから気にしなくていいわよー」


 あっけらかんとした様子で言う尊幽の声に辰磨はどこか救われた気持ちだったのか「……ありがとう」とどこか落ち着いた声で感謝を述べた。


「にしたってよく殺せたわね。まぁあいつら私の細胞のせいであのカプセルの中じゃないと人の形保ってられないからカプセル破壊すればそのうち細胞が壊死して死ぬけどさ」


「それまでは無尽蔵に増え続けるからのう」

 

『私の属性で焼き殺しただけだ。細胞が増え続けるといっても常に焼かれていればいずれ使い切ることにはなるだろう』


「あー、なるほどね。ずいぶんエグい殺し方したじゃない」


「生きたまま火葬か。ゾッとせんな」


 二人はそれぞれ肩を竦めた。


 すると辰磨は「ですが……」と再び真剣な声音でつぶやいた。


『私がやってきたことは彼らの片棒を担いでいたようなものです。だからいずれ咎は受けるつもりでいます』


「お堅いのう」


『それが私の生き方ですから。ところで、そちらの方で動きは?』


「今んとこはなーんもなし。私らは邪魔だから呼ばれるまでなんもすんなってさ。一応剣星(けんせい)が窓口的なことしてくれてるけど――」


 と、そこまで彼女が言いかけたところで、宗厳の端末に再び通信が入った。


 連絡してきたのはその剣星だ。


 二人はあまりにもタイミングがよすぎる状況にやや顔を見合わせたが、宗厳は別枠で剣星との通信を開いた。


『柳世さん! 尊幽さん! 米国がついに禍姫と解放軍の拠点を発見したようです!』


 剣星の声に二人はそれぞれ頷き、通信越しにいる辰磨から息を飲む音が聞こえた。


「こういうタイミングってなんか被るのよねぇ。了解。剣星、私らはまだ待機でいいわけ?」


『追って通達があるとは思います。って、長官とも回線が開いてるんですか?』


「ちょいと話があっての。ちょうどいい、辰磨にも報告してやれ」


 宗厳がいうと剣星は辰磨を含め、この場にいる全員に聞こえるように改めて米国ハクロウの動きを語った。





 禍姫の前には多くの解放軍信者達がいた。


 彼らは全員がその場にひれ伏し、頭を垂れている。


 ここは禍姫が拠点としている解放軍教祖、ジーク・シェリンガムが秘密裏に所有している核シェルターの大ホールだ。


 山岳をくりぬき、数万単位の人間を収容できるようにした超巨大シェルターには世界中から集めた信者たちがいた。


 もちろん全員ではないが、軽く万は超えているはずだ。


「禍姫様。どうか皆に言葉を」


 ジークが片膝をつきながら彼女に願い出ると、禍姫は「ああ」と頷いてから一歩前に出た。


「顔を上げろ、解放軍」


 彼女の言葉に信者たちは即座に顔をあげ、その音がホール全体に響き渡った。


「我と貴様らは鬼と人。決して相容れぬ存在だ。しかし、共に戦えば必ず新たな世界を作ることができる。確かに我は人類をいう種を滅ぼそうとは思っている。だが、共に戦うのなら貴様達を()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことを約束しよう」


 彼女の言葉はすべての者たちに聞こえるようにホロモニタに投影されていた。


 新たな世界へと連れていく。


 その言葉に信者達の表情はどこかうれしげなものへ変わった。


 すると最前列にいた妊婦の信者が「あ、あの!」と手を上げた。


「失礼を承知でお聞きします! 私はこのとおり戦える身ではないのですが、それでも殺さずに新たな世界へ連れて行ってもらえるのでしょうか!?」


 確かに彼女の言う通り、解放軍は全員が戦闘員というわけではない。


 中には一般人もいるし子供だって存在する。


 戦えない存在は切り捨てられてしまうのではと不安になるのも無理はないだろう。


 すると禍姫は鋭い眼光で彼女を見据えた。


 真っ赤な瞳に射すくめられた女性は体を震わせたものの、禍姫はそれを気遣うようにふっと笑みを浮かべた。


「もちろん、連れていってやるとも。戦えずともお前は我の意志に賛同したのだ。その資格は十分にある。ところで、その腹にいるのは()()か?」


「は、はい!」


「そうか。身重ながらよくここまで来た。礼を言うぞ、強き女よ」


「あ、ありがとうございます!!」


 女性は感激したように涙を流しながら頭を下げた。


 禍姫はそれに笑みを浮かべたまま皆に聞こえるように宣言する。


「まずは手始めにこの国にいる狼共を狩る。ついてこれるな?」


 その問いに否定的な者は信者たちの中にはいなかった。


 皆が彼女に賛同し、地鳴りのような歓声がホールを揺らした。


 けれどこの時、解放軍の信者たちは気づいていなかった。


 彼女の口元にある笑みに黒く、暗い感情が込められていることを。


 それを知るのは、彼女が生み出した鬼達のみだ。

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