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斬閃の刀狩者  作者: 華月建
第十三章 造られた娘達
416/421

6-4


「それにしても全員無事でよかったねー」


 病室にやってきた龍子はソファに座りながら微笑んだ。


「瑞季ちゃんも命に別状はなかったみたいだし、ホントによかった。体は大丈夫?」


「はい。痛みはありますが、酷く悪いわけではありません。ご心配をおかけしました。それと――」


「――ちょい待ち」


 瑞季が言いかけた言葉を龍子は腕を突き出して止めた。


 彼女の眼光は鋭く、ピリッとした空気が病室に漂う。


「もし謝ろうとしてるなら受け付けないよ。雷牙くんが言ったかもしれないけど、今回のことに関して君に責任はない。寧ろ被害者と言ってもいい」


「会長の言うとおりよ。アンタは意識なかったみたいだし、謝る必要なんてないわ」


「実際、瑞季さんと戦って怪我したのは雷牙さんぐらいですしね。その雷牙さんもピンピンしてますし」


 レオノアが雷牙に視線を向けると、彼はうんうんと頷いた。


 そして瑞季の肩を軽く叩いた。


「言っただろ俺は問題ねぇ。会長達も気にしてないって言ってんだし、もう誰が来ても謝るとかそういうのはナシな」


「そのとおり。勇護くん達もぜーんぜん気にしてなかったからね。というか、謝るなら私の方だよ」


「え?」


「だって後輩がピンチだったのに助けられなかった。雷牙くんたちもそうだけど、何よりあんなに近くにいた瑞季ちゃんを助けられなかった」


 龍子は瑞季に対して深く頭を下げた。


 さすがに人質だった彼女から謝罪されるとは思っていなかったのか、瑞季は「い、いえ!」と動揺を見せた。


「会長が謝る必要などないでしょう! 会長……というか、他の枝族当主の方々こそが被害者だったわけですし、私に謝罪することなんて……!」


「後輩を助けられなかったのは事実だよ。あの距離にいて何もできなかった。瑞季ちゃんが助けを求めていたのはわかっていたはずなのにね。本当にごめん」


 龍子は頭を下げたままもう一度謝罪した。


 人質に取られていたとはいえ、龍子にとっても後輩を守れなかったのは辛いところだったのだろう。


 それに加え、仲間達が戦っている間ただ待っていることしかできなかったあの状況こそ、龍子にとっては我慢ならなかったはずだ。


 学生最強、十代最強と言われる彼女だからこそあの状況は拷問にも等しい時間だったはずだ。


「顔を上げてください、会長。謝る必要なんてありません。私もこのとおり元気ですから」


 瑞季に言われ、龍子はゆっくりと顔を上げる。


 その表情はまだ申し訳なさげな雰囲気があったものの、彼女はやや口角を上げてはにかんだ。


「ありがとう。次は必ず皆を守ってみせるよ。……さて、とりあえずこの話はここまでにしておいてと」


「「「「え?」」」」


 突然表情が変化し、声色すらも変わった龍子に雷牙達は思わず疑問符を浮かべた。


「ん? どうかした?」


「いやー、えっとぉ……ねぇ、雷牙?」


「俺かよ!?」


 舞衣が向けてきた視線と声に雷牙は驚きつつも、やがて観念したように大きなため息をついた。


「いや、そのなんつーか……切り替えがはえーなぁって思って。なぁ? そうだろ、レオノア」


「え、えぇまぁ。前半と後半でかなり声色が違ったのですこしビックリしました。多重人格だったりりします?」


 レオノアの言葉に雷牙たちも深く頷いた。


 多重人格とは言わないまでも、情緒が心配になるレベルだ。


「だって瑞季ちゃん気にしてないって言ってたしさー。終わったことを気にしてたってしょうがないジャーン? 大事なのは切り替えの速さよ!!」


 ビシィっと効果音が聞こえてきそうな勢いで親指を立てた龍子だったが、よくよく考えてみれば龍子はこういう性格だった。


 状況が状況だっただけに流石にいつもより切り替えに時間がかかると思ってたせいで、呑み込むのに時間がかかってしまった。


「終わっちゃったことをどうにかするのは最強無敵の超絶美少女の私でも無理だからさー。くよくよしたってしょうがない! 前見なきゃね!」


「すんごい笑顔してるー」


「瑞季いいか、お前に足りないのはアレぐらいのふてぶてしさというか図太さだと思う」


「いや、流石にあの切り替えの速さは情緒不安定を疑われそうだが……」


「というか、自分で自分のことを最強無敵とか超絶美少女とか……自己肯定感がカンストしてるのでは……」


「事実だからね!!」


「性格がそれじゃなかったら完璧でしたねー」


 全身をくねらせて己の美を見せ付けてくる龍子に後輩達は冷ややかだった。


 だが、実際問題彼女が美少女なのは事実なので誰も突っ込めないのが困るところだ。


 その後、雷牙たちは軽く談笑していたものの、瑞季の容態も考えて三十分ほどで解散することとなった。


「そんじゃ瑞季ちゃんにこれ以上負担かけても悪いからこの辺で帰ろうか。つっても今日一日は皆ここに缶詰だけど」


「そうですね……くぁ……流石に私も眠くなってきました」


「舞衣さんは早く休んだ方がいいと思います。一応重傷でしたし」


「わかーってるって。それじゃあ瑞季、私たち行くからー……」


 舞衣は大きな欠伸をかみ殺しながら龍子、レオノアと共に病室を出て行こうとした。


 が、途中で「あ」と何かを思い出したのか後ろ歩きで戻ってきた。


「言い忘れてたけど、アンタたちに見せたいものができたから。退院して学校戻ったら楽しみにしといてね」 


「わかった。楽しみにしているよ」


 瑞季は薄く笑みを浮かべ、舞衣は満足げに口角を上げると二人と共に病室を後にした。


「さて、んじゃ俺もそろそろ行くわ。さすがに眠くなってきたからな」


「ああ。ゆっくり休んでくれ」


「おう」


 雷牙も欠伸をしつつ出て行こうとしたが、扉に手をかけたところで立ち止まった。


 彼はその場で大きく息をつく。


 やや強めに拳を握ってから「瑞季」と彼女を呼んだ。


 声にはどこか決心したような雰囲気があった。


「さっきの話……あれは、本心だ」


 それは龍子達が入ってくる前に二人がしていた話の雷牙なりの答えだった。


 瑞季はすぐに答えることはなかったが、やがて小さな返答があった。


「……そう、か」


「おう。ようはそういうことだ。またな」


 首筋のあたりが熱くなるのを感じながら雷牙は即座に病室を後にした。


 廊下に出るとそのまま自分に割り当てられている病室まで足早に向かいすぐさま扉を閉めた。


 そこでようやく大きく息をつき、扉に背を預けながらズルズルとその場に座り込む。


 頬はもちろんのこと耳まで赤くした雷牙は天井を見上げながらもう一度息をついた。


「はー……言っちまった……」


 瑞季が望んだ答えなのかはわからない。


 だが、ずっと伝えられなかった気持ちの一端は彼女に伝えることはできた。


「人を好きになんのって結構来るなぁ……」




 雷牙が病室戻るのと時を同じくして瑞季もまた顔を真っ赤にして俯いていた。


 鼓動は早く、頬は熱が出ているときのように熱い。


『本心』。


 あの言葉を聞いた瞬間、胸が高鳴ったのを感じた。


 前々から自覚はあった。


 自分が雷牙のことを恋愛対象としてみていることは、自分を含め周りも周知の事実だった。


 だが、互いに恋とは無縁の生活を送ってきたがゆえに、どう踏み出せばいいのかわからなかった。


 気持ちはあるのにそれをどう伝えたものかわからない。


 だから今の今までずるずるとあいまいな関係が続いてしまっていた。


 親友以上、恋人未満。


 まさにそんな感じだった。


「ふぅ……」


 瑞季は顔を上げながら息をつくと、そのまま枕にバフっと頭を預けた。


 鼓動は多少落ち着いてきたものの、頬の熱さは変わらない。


 脳裏にちらつくのは振り向かずに本心だと伝えた雷牙の姿。


 表情を読み取ることはできなかったが、髪の隙間から見えた雷牙の耳は真っ赤だった。


 雷牙も相応の決意で気持ちを伝えてくれたのだ。


「……私も応えないといけないな」


 雷牙に気持ちを聞いたのは瑞季であり、彼はそれにぶっきらぼうながらも答えた。


 ならばそれに応える必要がある。


 次は瑞季の番だ。




 ハクロウ総本部最上層にある窓のないフロアには痣櫛家を除いた枝族の当主達の姿があった。


 彼らの視線の先にあるのは蛍光色の液体が満たされたカプセルの中に浮かぶ人影。


 長官である辰磨すら逆らうことが許されない、ハクロウにおいて絶対的な決定権を持つ最高評議会の面々だ。


 だが彼らの存在を知るのはほんの一部の者達だけで公にはなっていない。


「久しぶりに来たけども、相変わらず陰気なとこやのぉ」


 希代墨は辟易した様子で肩をすくめた。


 すると彼の声に評議会の一人が反応した。


『陰気か。まぁ確かにそう捉えられても不思議ではないかもしれないな。しかし、私たちは君達のご先祖とも顔見知りだ。そういう態度はあまり感心できないな、白鉄くん』


「そらぁどうもすんません。思ったことはつい口走るタイプなんですわ。以後気をつけますさかい、堪忍してつかあさい」


 希代墨は平謝りをしながら評議会から距離をおいた。


 けれど彼の態度を他の当主達は咎めようとはしなかった。


 寧ろ当主たちの眼光は評議会に対する敵愾心に満ちていた。


 それは辰磨も例外ではなく、その双眸には怒気すらも感じられた。


 だが評議会達はそれに気付く様子もなく、勝手に話を進める。


『まずは労った方がいいか? 枝族会議は随分な結果になったようだが』


『まさか枝族の中からまた造反者が出るとは考えもしなかったわね』


『大城家と違い、痣櫛家は後継にも恵まれていたというのに残念なことだ。代理当主の痣櫛匡哉の身柄は拘束したと聞いたが?』


「拘束はしました。襲撃による負傷者は数名、死者はゼロ。当主及び枝族に怪我人は出ていません」


『それはよかった。やはり学生連隊を配置しておいて正解だったようだな』


『今後も彼らの活躍に期待したいところね』


 評議会の面々はどこか軽い口調というか、緊張感があるようには見えなかった。


『拘束したのならさっさと処分することだな。まぁ痣櫛家は除名が妥当だろう。ここに我々に意見を求めに来たのならそれで決定だ』


『枝族を襲撃したということはハクロウを裏切ったも同然。除名は当然の処分でしょう』


『うむ。枝族が減るのは残念なことだが、こればかりは仕方あるまい』


『これが我らの総意だ。理解したのなら当主達と共に出て行け。我らはハクロウと世界の今後を考えなくてはならん』


 邪魔をするな。


 言葉はなかったものの、そう言っていると感じられる声音だった。


 普段ならば辰磨もこんなところには長居せず、さっさと踵を返して出て行くところだ。


 だが、今回ばかりは話が違う。


 彼は眼光鋭く評議会達を睨みつける。


『なんだ、その眼は。なにか気に食わぬことでもあるのか」


「ええ、あります」


『痣櫛匡哉のことか? 除名以外の処分を――』


「――匡哉については相応の処分を考えています」


 評議会の言葉を遮るように辰磨はぴしゃりと言い放った。


『ならば我らの意見を聞く必要などあるまい。さっさと下がれ』


「いいえ、下がるわけにはいきません。確かに彼は枝族を襲撃するという罪を犯しました。けれど、今回の事件、彼一人の力で行うにはいささか規模が大きすぎる」


 辰磨は評議会を睨みつけながら一歩ずつ彼らへ近づいていく。


 ビリビリと肌に刺さるような威圧感がフロア全体に蔓延る。


「遠回しの言い方はやめます。単刀直入に評議会の皆さんにお聞きします。痣櫛匡哉をたきつけ、今回の襲撃事件を起したのは貴方達ではありませんか?」

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