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斬閃の刀狩者  作者: 華月建
第十三章 造られた娘達
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5-8

「冴さんが瑞季を強くしたいと願っていたこと自体は事実なんだ」


「まぁ、それ自体はわからなくはねぇよ。親が子供に強くなって欲しいってのはそこまで変なことじゃないだろうしな。両親が刀狩者だったりすれば特にそういう志向に傾くだろ」


 刀狩者の両親が子供を強くしようとするのは珍しいことではない。


 いや、強さだけに拘らなければ世の親とは己の子供が他の子供よりも優れていて欲しいと願うはずだ。


 冴……というより、古くからの剣術家の家系である痣櫛家の息女ともなれば強さを求められるのはなおのことだろう。


「うん。君の言うことは間違ってはいない。冴さんも瑞季を強くしようとしていた。それでも過度な教育なんてしていなかったけどね」


「だろうな。アンタの口振りや瑞季の話からしてそれは察しがついてるよ。厳しさはあったらしいけど、優しい人だったって瑞季は言ってたぜ」


「そうだね。この子の言うとおりだ」


 親が子供に優れていて欲しいと願うのは当然。


 だが、そういった過度な期待や願いが子供に対する虐待染みた教育に発展するのは一時期社会問題になっていたらしい。


 特に刀狩者の夫婦や、片親が刀狩者であったりするとそういったことが多かったようだ。


 今回の匡哉の行いもそれに含まれるだろうが、冴はそういう手段には出なかっただろう。


 冴が生きていれば、匡哉がこんな凶行に出ることもなかったはずだ。


 全ては彼女を喪ったことで匡哉の中で何かが狂ってしまったがゆえのこと。


 最愛の人が娘を強くすることを望んでいた。


 匡哉にはそれに縋るしかなかったのだろう。


 どのような形であれ、彼女との約束を果たしたかった。


 そこだけを切り取ればわからない話ではない。


 だが、今回ばかりは方法が悪かった。


「もっと別のやり方とかあったろ。こんな誰も得しねぇやり方じゃなくってよ」


 雷牙は思わず声に出してしまった。


 すぐに口に手を当てたものの、匡哉は「そうだね……」と深く頷いた。


「こんな方法、この子も冴さんも望んではいない。そんなことは理解していたはずだった。けど、止まれなかったんだ。いや、止める勇気がなかったと言った方が正しいかな」


「生み出しちまった娘達の命を無駄にしたくなかったからか?」


「それもある。だけど、それ以上に彼女達を生み出す過程で死なせてしまった娘達の死が無駄になってしまうと考えると、もう後には引けなかった」


 グッと拳を握り締める匡哉は自責の念に苛まれているようだった。


 人造刀狩者の製造は技術が確立してしまえば短期間で製造することが可能だ。


 しかし、技術を確立し、安定して製造するまでにはそれなりの数の屍を生み出す。


 受精卵の状態で亡くなった個体。


 胎児の状態で亡くなった個体。


 幼児の段階で亡くなった個体。


 匡哉はきっと多くの娘達の死を見てしまった。


 だからこそ止まるに止まれなかった。


 狂うしかなかったのだ。


「だけど、君の言葉や行動で眼が覚めた。冴さんが遺した言葉を思い出せたんだ」


「瑞季を強くしたいって言葉だけじゃなくてか?」


「ああ。()()()()()()()()()()()()()()んだ。けれど僕は彼女を救えなかったことと、喪ったショックから『瑞季を強くしたい』という言葉だけを都合のいいように解釈してしまった。彼女が本当に望んでいた強さとは……綱源くん。君のような強さだったんだ」


 匡哉は雷牙の瞳を真っ直ぐに見やっていた。


 雷牙はそれに「俺の?」と首をかしげた。


「冴さんが僕に言い残した言葉はこうだった――」


 疑問符を浮かべる雷牙に匡哉は深く頷いてから記憶の中にある冴との思い出を語った。



 


 それはベッドで横になることが増えた冴が珍しく元気だったある日のことだった。


 匡哉と冴は縁側に座り、庭で遊ぶ瑞季を見やっていた。


『瑞季には強くなってもらいたい』


 ふと冴が呟いたことを覚えている。


 痣櫛家当主として娘に強さを望むのは当然のこと。


 だから匡哉は『君の娘なんだから強くなる』と答えた。


 しかし、冴はそれに被りを振った。


『私が言ってる強さは戦闘能力的な話だけじゃないの。確かに戦う力があるに越したことはない。でも、それだけあっても駄目。あの子には誰かのためになれる強さを持って欲しいの』


 楽しげに遊ぶ瑞季を見やる瞳は慈愛に満ちていた。


『友達や仲間は勿論、あの子がいずれ愛する誰かのため、そしてどこかの()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ような、強い子になって欲しいの。貴方が私のために頑張ってくれたみたいに、ね』

 

 匡哉に向けて笑いかけた彼女の表情に匡哉は思わず唇を噛み締めた。


『きっと私はもうすぐ死んじゃうだろうから。匡哉さん、あの子のことお願いね。私も出来る限りあの子に託せることは託すから』


 子供のころのように笑った冴に匡哉は目頭が熱くなるのを感じた。


 そんな彼を見て彼女は『まだ生きてるんだから泣かないでよー』と笑っていた。




 悲しみとショックから忘れてしまった記憶を思い出し、匡哉は鼻の奥がツンとなるのを感じていた。


 目尻には涙が浮かび、今にも涙が零れ落ちそうだった。


「誰かの為に頑張れる強さ……それがアンタの奥さんが本当に願ってたことなんだな」


「そう。彼女が本当に願っていたことさ。そしてそれはきっと、君のような……いや、()()のようなことを言うのかもしれないね」


 君達という言葉が誰を指すのか、それを理解するのに時間はかからなかった。


 匡哉の言う君たちとは、今回の襲撃に対処した学生達全員のことだろう。


 皆が誰かの為に戦っていた。


 まさしく冴が言っていた強さがそこにはあったのだ。


 けれどそれは何も雷牙達だけに限った話ではない。


「……だったら、瑞季だって持ってるさ」


 雷牙は匡哉を元気付けるように笑いかける。


「え?」


「瑞季だって誰かの為に行動できるヤツだよ。友達の為に怒ったり戦ったりできる。俺はきっと、そういう瑞季だから好きなんだと思う」


「そう、か……。うん、そうか……!」


 匡哉は噛み締めるように呟くと大粒の涙を零しながら何度も、何度も頷いた。


「この子はもうとっくに強くなっていたんだね。そんなことにも気付けないなんて僕はとんだ馬鹿親だ……!」


 上を見上げながら涙を流す匡哉はどこか満足げに見えた。


 彼の様子に雷牙は複雑そうな表情を浮かべていたが、不意に聞こえた靴音に瞬間的に身構えた。


 視線の先に見えたのは二つの人影。


 それは雷牙もよく知った人物だった。


「上泉部隊長……それに武蔵長官……」


 現れたのは拘束されているはずの雪花と辰磨だった。


 どうやら霊力が使えるようになったのと同時に、会議室での拘束も解除されたようだ


 構えを崩した雷牙に雪花は軽く手を振ってきたが、辰磨は鋭い眼光を匡哉へ向けていた。


 すると匡哉も二人に気付いたのか、軽く涙を拭ってからゆっくりと立ち上がる。


 やがて辰磨は匡哉の下までやってくると、怜悧な光が宿る瞳を向けたまま声をかける。


「どうやら綱源のおかげで正気に戻ったようだな」


「……はい。ですが、僕のやったことは決して許されることではありません。処罰は慎んで受けさせていただきます。申し訳ありませんでした」


 深く頭を垂れた匡哉に辰磨は大きく息をつく。


「今すぐ処分を言い渡すことはできん。だが、相応の処分になることは覚悟しておけ。上泉、本部から護送車が到着するまで彼を隔離しておけ」


「了解。瑞季さんはどうします?」


「ほかの娘達同様、救護班の到着を待て。それと敷地内にいる学生達を正面入り口に集めろ。綱源、お前達には言っておかねばならないことがある」


「は、はい」


 緊張感のある言葉に雷牙は思わず背筋を伸ばした。


 その後、合流したレオノア、舞衣、一愛と共に瑞季や他の娘達を比較的被害の少なかった部屋に移動させ、辰磨の指示通り他の学生達と共に勇狼館の正面入り口へ向かった。

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