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斬閃の刀狩者  作者: 華月建
第十三章 造られた娘達
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5-6

 霊力が戻ったことでレオノアと葉月の戦いにも終わりが近づいていた。


 当然、勝利が近いのはレオノアだ。


 大剣から放たれる炎撃は直撃しなくとも葉月の肌を焼き、確実にダメージを与えている。


 たとえナノマシンによって感情を排斥しようと、生物としての生存本能は間違いなく警鐘を鳴らしていることだろう。


 現に、葉月の動きは明らかに落ちていた。


「……」


 レオノアはそんな彼女の様子をどこか複雑そうな表情で見やる。


 炎の剣を受けたことで前髪は焦げ、手や顔には小さな火傷の痕がいくつもあった。


 そのほかにも大小さまざまな刀傷が見られ、万全の状態とはとてもいえなかった。


 ただ、彼女達も刀狩者であることに変わりはない。


 ならば治癒術があるだろうと考えられるが、そもそもアレはそこまで便利なものではない。


 霊力による身体強化の延長で肉体の自然治癒力を高めているだけで、治癒術という名前でも傷そのものをすぐに癒せるわけではない。


 あくまで自然治癒能力を活性化させて回復を早めているだけにすぎない。


 超速再生のような芸当ができるのはレオノアの知る限り雷牙だけだ。


 というより、彼くらいしかできないのではないだろうか。


 莫大な霊力と幼少から培ったという治癒術の鍛錬によって初めて彼のような再生染みた治癒術となる。


 残念ながら葉月からはそこまでの霊力は感じられない。


 ゆえに葉月が己の傷を治癒術でどれだけ治そうしていても、この戦いの中で完全に傷を治すことはできない。


 しかもレオノアが攻め立てればまた新たな火傷を負う。


 彼女の劣勢は確実だ。


 だからこそこれ以上傷つけないために投降を呼びかけたい。


 けれど、今の彼女にそれは無意味。


 いや、仮に彼女が今の状態にならなくともレオノアの呼びかけは無意味だっただろう。


 父である匡哉の計画と、瑞季のために全てを捧げるという思考をわずか数十分の戦いの中で改めさせるなど不可能だ。


 だからこそ力づくで止めるしかない。


 レオノアは痛めつけることでしか彼女を止めることが出来ない己の無力さを感じつつも、静かに覚悟を決める。


 大剣に纏う炎はその火力を増す。


 ゴウゴウと燃える炎の剣を腰よりも下の低い位置で構え、優しさの残った口調で告げる。


「一瞬で済ませます。でも少し痛いかもしれませんが我慢してください」


 殺害はしない。


 炎熱と斬撃の痛みで意識を刈り取る。


 今の彼女に感情はなく、痛みを感じなかったとしても、体が自然に発する危険信号まで騙すことはできないはずだ。


 痛めつけることで救うなど正直あまり褒められた行いでないことはわかっている。


 自己満足でしかないことも理解している。


 だが、そんなことをいちいち気にしていたら刀狩者などやっていけないだろう。


 自己満足上等。


 自分が助けたいように助けてなにが悪い。


 痛みを伴ったとしても、レオノアは目の前の少女を救いたいと思ってしまった。


 願いという呪縛に囚われてしまった少女を助ける。


「……これで終わりにします」


 静かに告げたレオノアが一歩踏み出すと彼女は一瞬にして葉月との距離を詰めた。


 身体強化に加え、炎の噴射による加速はまさしく瞬きの間に起きたことだ。


 床に張られた絨毯には炎の筋が一直線に残っていた。


「っ!!!!」


 葉月は声こそ発しなかったながレオノアの接近に反応した。


 だが、この距離で気付こうともはや遅い。


 レオノアはふぅ、と小さく息をつくと低く構えていた鬼哭刀、クラレントを思い切り振りあげた。


 同時に巨大な炎が葉月を呑み込んだ。


 が、それも一瞬。


 ゴウ!! と燃え上がったかと思った次の瞬間には炎は消えていた。


 いや、レオノアが消したのだ。


「……」

 

 レオノアの前には大きな火傷を負い、頭髪を焦がした葉月が立っている。


 動きはない。


 ただその場に立ちながらにして気絶しているのだ。


 レオノアが放った炎はそれこそ一瞬にして彼女の肉体の危険信号に作用し、彼女はそのまま意識を失った。


 どうやらタイミングも火力も完璧だったようだ。


 意識を刈り取られたことで鬼哭刀を握ることもできなくなったのか、葉月は刃を手放しカシャンという音が室内に響く。


 同時にスプリンクラーが作動し熱が充満していた部屋を冷まし、火傷を負った葉月の体にも水が降り注いだ。


 レオノアは深く息をつくと前のめりに倒れこんでくる葉月を受け止める。


 息はある。


 だが、体に与えてしまったダメージは相当なものだったはずだ。


「……ごめんなさい」


 こんな方法でしか解決できなかったことに悲しげな表情を浮かべながら、レオノアは葉月を背負って制御室へ向かった。




「あ、く……っ!!」


 短い悲鳴は舞衣のものだった。


 壁に叩き付けられた彼女の体は先程よりも傷が増えている。


 素肌が見えている顔面や手はもちろん、戦闘服にも血が滲んでおり非常に痛々しい。


 加えて壁に叩き付けられた時に打ち所が悪かったのか頭からも出血し、彼女の視界を赤く染め始めた。


 ずるずると崩れ落ちる舞衣にもう戦闘続行は不可能のように見える。


 それでも、彼女はまだ諦めてはいない。


「っ!!」


 全身の痛みに耐えながら立ち上がろうとするものの彼女の眼前でキラリと何かが光る。


 それが刀の切先であることに寸前で気付いた舞衣は体を捩って回避しようとした。


 が、万全の状態でないが故、反応が一瞬遅れてしまった。


 次の瞬間襲ってきたのは左肩を貫く灼熱感にも似た感覚。


 一拍置いて訪れるのは鋭い痛み。


 刺されたと理解するのに時間はかからなかった。


「まだ動けるんだ。霊力戻ったから少し反応よくなった?」


 やや嘲笑の混じった声に舞衣は鋭い眼光を向ける。


 そこには舞衣と同様に頭から血を流している文月が立っている。


 声からして笑っているのはわかっていたが、口元には小憎らしい笑みが見えた。


 彼女も傷を負っているとはいっても、全体的な数でみれば舞衣よりは少ない。


 呼吸も落ち着いていてどうみても舞衣が劣勢だ。


「やっぱりアンタじゃ私の相手にはならないね」


 ふぅ、と息をついた文月はぐりっと舞衣の肩にささっている刃を捩じった。


 激痛が駆け抜け思わず声をあげそうになりつつもそれを堪える。


「でも罠やブラフの張り方はうまかった。この傷だってそれで出来たわけだしね。誇っていいんじゃない?」


「誰がそんな小さな傷を誇るってぇのよ。このチビ」


 痛みに襲われ、目尻に涙をためながらも舞衣は笑って見せた。


 状況はよくない。


 というより最悪だ。


 仮免試験を乗り越え、実地訓練に参加して少しは力をつけたと思っていた。


 けれど、まだ届かない。


 雷牙やレオノア、そして瑞季のようには動けない。


 だがそれがどうした。


 劣っていることなど最初からわかっていたことだ。


 それが諦める理由になるのか。


 闘わない理由になるのか。


 否。


 劣っていようが、弱かろうが刀狩者を目指したのなら戦わない理由にはならない。


 それが友達を助けるためならなおさら諦めるわけにはいかない。


 舞衣は肩にささっている刃を掴む。


「抜き身の刀に素手でさわるとか正気? 私が引いたら指なくなるよ?」


「やれるもんなら、やってみろ……!!!!」

 

 血で赤く染まった瞳と舞衣の気迫に圧されたのか「っ!」と文月は動揺を露にしつつ、刀を引こうとした。


 が、刀はびくともしない。


 舞衣が渾身の力でもって握っているからだ。


 刃が手に食い込む痛みを感じながらも、舞衣は決して刀を放しはしなかった。


「この……いい加減に――!!」


 苛立った様子で文月は顔面を蹴りつけにきた。


 その瞬間、体全体にのしかかるような霊力を感じた。


「――なに、これ……!」


 さすがに文月も顔をしかめたが、舞衣はどこか安堵したような様子だ。


 この膨大すぎる霊力を舞衣はよく知っている。


 思わず笑みが零れた。


 そうだ、まだ彼も戦っている。


「……私、だって……!!」


『戦える』そう言葉にしようとした時。


 舞衣は己の内に妙な感覚を覚えた。


 正確は霊脈の中といった方が正しいか。


 普段内に流れている霊力とは性質が異なる。


 まるで風のように軽やかさだった。


 瞬間、舞衣の周囲に強風が吹き荒れた。


 室内である以上風が起きることなどありえない。


 ではなぜこれほどまでの風が起きたのか。


 理由はただ一つ。


「これは……!? アンタ、まさか……っ!!」


 文月もその正体に気付いたのか驚愕を露にした。


 そう、人為的に風を起せる要因はたった一つ。


 霊力の属性覚醒、疾風だ。


 まるで雷牙の霊力に喚起されるように、彼女の霊力は新たな力を得たのだ。


 舞衣は瞬時にそれを理解すると、肩に刺さっていた刀を引き抜いて乱雑に腕を振るう。


 それだけで風の刃が巻き起こり、文月を吹き飛ばしながら切り裂いていく。


「ふぅー……!」


 大きく息をつき、舞衣は己の記憶を手繰り、今まで自分が見てきた覚醒者達の戦い方を思い起こす。


 風をむやみやたらに吹き散らすのではない。


 無駄な力を極力減らし、押し留め、洗練する。


 イメージするのは鬼哭刀への集約だ。


 疾風の刃は徐々に彼女の鬼哭刀へ集まっていく。


 だが、所詮は見様見真似。


 直柾のように磨かれていない力は、完全には集まっていなかった。


 垂れ流しになっている霊力があるのは否めないが、初めてでここまで集められたならそれなりだろう。


 舞衣はグッと足に力を込めるとそのまま文月へ斬りかかった。


 疾風を纏う鬼哭刀は唸りを上げながら振り下ろされ、彼女の肩口を抉り斬る。


 はずだった。


 文月は寸前で舞衣の太刀筋を見切り回避して見せたのだ。


「勝負を焦ったね。それとも属性に目覚めて興奮しちゃったとか? どちらにせよ、これでアンタは――」


「――いや、これでいいんだよ」


 勝ち誇った笑みを浮かべる文月に舞衣はフッと口角を上げた。


 文月は顔をしかめたものの、すぐにその意味を理解することになる。


 彼女の背後に小さな影が現れたのだ。


 それは文月よりも少しだけ小さな影。


 不適に笑う一愛だった。


「アンタは……!」


「今更気付いても遅いってね。舞衣、よく頑張った」


「どうも……」


 舞衣はどこか安堵したような笑みを浮かべたが、もはや意識は遠のきはじめていた。


 だが、完全に意識が途切れるよりも早く、一愛は文月の首筋に刀の峰を激しく打ち付けた。


 完璧に決まった峰打ちは文月の意識を一瞬にして刈り取り、彼女はそのまま力なく倒れこんだ。


 その様子を見届けた舞衣もその場に倒れかけるが、一愛がそれを受け止める。


「……舞衣、すごいよ。本当によく戦った……」


 後輩の労をねぎらいながら彼女を床に寝かせる。


 一愛は倒れている文月を手早く拘束してから二人を担いで制御室へ向かう。


 その途中、ビリビリと体に伝わっていた雷牙の霊力が徐々に弱まっていくのを感じた。


 一瞬、嫌な予感がしたものの、よく探ってみると雷牙の霊力は弱まっているわけではない。


 一点に集束しているのだ。


「……あとはアンタよ。ちゃんと決めてきなさいよ。雷牙」


 雷牙の勝利を信じ、一愛は制御室へ戻っていった。

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