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斬閃の刀狩者  作者: 華月建
第十三章 造られた娘達
409/421

5-5

 たった一人、制御室でキーボードを叩いていた一愛の指が止まる。


 同時進行で進めていたハッキングも一時的に手を止め、彼女は秘匿回線を探していたモニタを拡大表示する。


「これ……」


 眉をひそめた彼女の視線の先にあったのは、防衛システムと勇狼館に全体に配置されているカメラを紐付けるプログラム。


 基本はカメラシステムの実行ファイルや、一時的に映像を保存しておくファイルしかない場所のはず。


 全てのカメラと連動しているのでファイルの数は膨大なのだが、その中の一つに妙なファイルを見つけた。


 いや、ファイルというより、うまくファイルに偽装したなにかと言ったところか。


 念のため手持ちの端末でそれを解析してみると、やはり中には何の映像データも入っていない。


 罠が仕掛けられていないか手早く確認を終え、彼女はファイルに偽装されたアイコンをタップする。


 案の定、表示されたのは映像データではない。


 そこにあったのは勇狼館にアクセスする何者かが使用している回線だった。


「あたりっぽいわね。けどこの回線、いったいどこから……?」


 さすがに足がつくような名前の表示はない。


 ただ、システムにアクセスしていることは確かだ。


 恐らくは専用のバックドアのようなものがあり、そこから回線を繋いでいるのだろう。


「ちょっとあぶないかもだけど、辿ってみるか」


 一愛は懐から小型のタブレット端末を取り出し、制御室のポートに接続する。


 彼女の所持するタブレット端末や、携帯端末にはハッキングやクラッキングのためのソフトウェアや、逆探知やウイルス除去用のソフトウェアが多数組み込まれている。


 これらは彼女自ら作ったもので、インターネット上に転がっている怪しいものではない。


 確かな性能は開発者である彼女自身が証明している。


 途中で勘付かれる可能性もないとは言い切れないが協力者がいるのなら、それを突き止める手がかりは少しでもあった方がいい。


「ちょちょっと、ちょいちょいっと……」


 接続したタブレットを操作し、システムに侵入している回線の逆探知を始める。


 しばしその様子を見守っていた一愛だったが、警告音と共にタブレットのモニタにポップアップが表示された。


 これが出たということは向こうに逆探知が気付かれたということになる。


「ちっ。さすがに気付くか……。仕方ない」


 一愛は逆探知を中断すると回線の切断に移行する。


 向こうも切断されまいと手をまわしてくるだろうが、それよりも早く回線を切断すればいいだけの話。


「どこの誰だか知らないけど、舐めんじゃないわよ」


 唇を軽く舐め、一愛はシステムに侵入している回線を切り離しにかかる。


 案の定向こうは抵抗を試みたようだが、今度ばかりは負けるわけにはいかない。


「遅い遅い……!」


 ニッと口角を上げた一愛はキーボードを叩く指の速度をさらに上げる。


 もはや向こうもそれについていけなくなったのか、途中から抵抗はなくなり、彼女はそのまま回線を切断した。


「おっし! 切断完了!! これで防衛システムをいじれる!」


 一愛は中断していたハッキングを再開し、即座にもう一度システム内に侵入し、防衛システムにアクセスする。


 回線を切断したことにより閉め出しをくらうことはなく、すんなりとアクセスできた。


 これで結界を解除し、霊力を使えるようになる。


 思わず笑みを浮かべつつ結界を解除しようとした一愛だったが、結界を解除しようとした瞬間、エラーを告げるポップアップが表示された。


「なっ!? システムエラーって……!! そうか、あの時抵抗がなくなったのはこのため……!」


 回線切断の際、向こうは抵抗をしなくなったのではない。


 あえて抵抗せず、このエラーを引きおこすために動いていたのだ。


 まんまとハメられた。


 悔しげに表情をゆがめたものの、一愛はすぐに結界のパラメータを探る。


 勇狼館の結界は外部からの物理的な攻撃を阻害する防御の壁と、霊力を切り離すため檻としての役割を持っている。


 幸いなことに結界自体を今すぐに解除することはできないようだが、霊力を戻すことは可能なようだった。


「不幸中の幸いってヤツかな。けど、とりあえず霊力が使えるようになって、オートマトンの制御が正常に戻れば形勢はこっちに傾く……!!」


 結界のパラメータを操作し、霊力設定を切り替え、彼女は結界内にいる学生連隊にオープン回線で告げた。


「待たせたね、みんな。結界の解除はもうちょいかかるけど、霊力だけはなんとか戻したよ!」




 一愛の声は敷地内で人造刀狩者やオートマトンと交戦する学生達全員の耳に入った。


 同時に彼らの体内に霊脈に霊力が流れる感覚が蘇る。


 それは三咲や直柾も同様で、彼らはそれぞれ口角を上げた。


「ったく、おせぇぞ」


 悪態染みた口調で呟いた直柾だったが、表情は彼女を信じていたような様子だった。


 その反応に苦笑しつつ、三咲は「でも……」と人造刀狩者に視線を向ける。


 彼女達の動きは最初に交戦した時よりもかなり早くなった。


 だが、急激な成長は体に相当の負担をかけているようで、鼻血に加え目元からも出血している。


 襲撃犯ではあるが、見ていて非常に痛々しく思えてしまう。


「これで彼女達を止められますね。辻くん」


「わぁってら。近藤! 合わせろよ!!」


「そっちもな」


「ぬかせ」


 勇護の声に鼻で笑うと、直柾の鬼哭刀から烈風が巻き起こる。


 同時に、勇護も己の刃に炎を纏わせた。


 そして二人は口裏を合わせたわけでもなく、どちらかともなく跳躍する。


 直柾が風の刃を放つと、それに同調する形で勇護が炎を振るった。


 風の中に放られた炎は一気に燃え上がり、大炎へと変化する。


「んじゃ、いっちょ食らっとけやぁ!!」


 凶悪な笑みを浮かべた直柾が鬼哭刀を振るうと、巨大な炎は吹き荒ぶ風と共に少女達を飲み込んだ。


 あれだけの炎と疾風をもろに食らえば、どれだけ身体能力を強化されていようと無事ではすまない。


 が、戦う為に生み出された彼女達の中にも当然霊脈は存在する。


 巨大の炎の中から詠月が飛び出した。


 彼女の体は淡く発光しており、霊力を纏っていることはすぐにわかった。


 完全な防御が間に合わなかったのか、服や髪の一部は焼け、肌にも火傷の痕が見える。


 彼女はそんなこと意に介した様子もなく、直柾へと切り掛かった。


 が、その刃が届くことはない。


「生憎ですが、させませんよ」


 呟いたのは三咲だった。


 直後、直柾に迫っていた詠月は回転しながら吹き飛ばされた。


 空中に残ったのは大小様々な水飛沫。


 三咲は鬼哭刀の切先から高密度に圧縮した水を打ち出したのだ。


 さらにそこに回転と捻りを加えていたので、空中にいる人間を吹き飛ばすには十分すぎる威力だった。


 大きく吹き飛ばされた詠月は近くの茂みの中に叩き込まれ、一瞬立ち上がる素振りを見せるものの、ダメージはかなり大きかったようでそのまま意識を失った。


「ったく、邪魔しやがって。あれくらい俺一人で十分だったぜ、副会長さんよ」


「それは失礼。で、そちらは?」


 三咲が視線を向けると直柾は顎をしゃくって先程の少女達を指した。


 詠月同様、少女達はその場に倒れており、立ち上がってくる気配はない。


「死んじゃいねぇさ」


「なら安心です。辻くんはやり過ぎてしまう傾向がありますから」


「その辺りは俺が炎を調節したから問題はない。だが、彼女達で終わりではないだろう」


「ええ。二人とも霊力が戻ったばかりで申し訳ないですが、他の場所の対処に向かってください。彼女達は私が拘束しておきます」


「へーい。んじゃ、沖代の方にでも救援にいってやるかね」


 直柾は軽く地面を蹴ると疾風に身を任せるようにして飛び去り、それに続いて勇護も跳躍した。


 二人を見送ると、三咲は倒れている詠月達を一箇所にまとめて応急手当を済ませ、手足に拘束具をつけておく。


 ひとまず自分達の方は落着したと言えるが、まだ事件が解決したわけではない。


 三咲は視線を勇狼館へと向ける。


 防音設備が整っているとはいえ、外の剣戟音に混じって館の中からも微かに戦闘音が聞こえる。


 戦いはまだ、終わっていない。




 一愛からの通信が入った直後、雷牙は己の中に流れる霊力を感じ取っていた。


 短い間ではあったが、こうして戻ってみるとすごく長く感じた。


 そして普段どれだけ自分が霊力に頼っているのかも、再認識することができた。


 そういう点ではいい機会だったと言える。


 だが、今は己を見直している場合ではない。


「……まぁそりゃそうだよな」


 溜息交じりに漏らした雷牙の視線の先では、瑞季が刀身から水を滴らせていた。


 霊力が使えるようになったのはなにも雷牙達だけではない。


 瑞季や彼女の妹達も同様に霊力の使用を封じられていた。


 けれど霊力が使えるようになった今、その枷はどちらもなくなった状況にある。


「防衛システムにアクセスできない……。なるほど、やはり彼女達か……この短時間でシステムに侵入してくるとは」


 匡哉は端末を操作しているが、一愛によって完全にコントロールを奪われたのか苦虫を噛み潰したような表情をしていた。


「大人しく投降すんなら今だぜ。こっから先は巻き込まない自信はねぇ」


「いや、それはできない。私は彼女達の命の上に立っているようなものだ。ここで諦めることは、その命に対する侮辱になってしまう。だから、瑞季……!!」


 匡哉の指示に瑞季は頷くこともなく己の周囲に回転する水の槍を生み出した。


「……大馬鹿だぜ、アンタ」


 どこか悲しげに眉間に皺を寄せた雷牙だったが、その直後、水の槍は雷牙を貫く勢いで飛来した。


 けれど、水流にえぐられるよりも早く、雷牙は鬼哭刀『禍断』を一息で振り抜いた。


 赤く変色した霊力による斬撃が空中に刻まれると、次の瞬間複数展開していた水の槍はパシャン、という音を立てて消え去った。


 空中には赤い霊力の残光が残り、その中で雷牙の瞳は淡く輝いていた。


「っ! そうか、それが君の……!」


「ああ。そうだ」


 雷牙が放った力は己の属性。


 万物万象、一切合切をことごとく斬り裂く刃『断切』だ。


「匡哉さん。瑞季は解放させてもらうぜ。ついでに……」


 雷牙は大きく息をつくと切先を突きつける。


「……過去に縛られ続けてるあんたのこともな」


 言い切ると同時に雷牙は全身から霊力を溢れさせた。


 膨大な霊力を前に瑞季……いや、彼女を操っているナノマシンも迂闊に手を出すのは危険と判断したのか、すぐにはしかけてこなかった。


 その膨大な霊力の中で、雷牙は鬼哭刀を両手で握り中段に構える。


 剣道の構えに近い。


 瑞季を一直線上に捉えるその様子は、次の一撃で全てを終わらせるという気迫と覚悟に満ちていた。

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