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斬閃の刀狩者  作者: 華月建
第十三章 造られた娘達
403/421

4-6

「ぉっとぉ!!」


 顔面に向けて放たれた刃を沖代(おきしろ)(つかさ)は寸前で受け流した。


 ギャリギャリとけたたましい音に顔をしかめながらも士は刃を弾く。


 目の前の少女に僅かに隙が出来る。


 それを見逃すことはなく、彼はすぐさま攻勢に転じようとした。


 しかし、視界の端で赤い光を捉えた瞬間、攻勢に出ようとした足を引っ込め、その場から離脱する。


 直後彼が立っていた場所に銃弾が降り注いだ。


 視線を向けると複数体のオートマトンの銃口が彼に向けられていた。


 士は内心で舌打ちする。


 襲撃が始まってから時間的には三十分前後といった具合だろうか。


 その間瑞季に似た少女をあと一歩のところまでは追い詰める場面はあった。


 が、その都度オートマトンやドローンが絶妙なタイミングで邪魔をしてくるのだ。


 今の場面もオートマトンの横槍がなければ少女の意識を刈り取る一撃を叩き込むことはできたはずだ。


「……いやになるね、まったく……!!」


 様子が変化した後は攻め込む隙もなくなってきているというのに、オートマトンの横槍にも意識を向けなくてはならないというのは骨が折れる。


 けれど、自分はまだ恵まれている方かもしれないと、士は小さく息をついた。


 離れた場所で戦っている三咲と勇護、そして直柾の三人はそれをたった一人でやっているからだ。


「ごめん。沖代、さっきのサポート間に合わなかった」


 駆け寄ってきたのは共に戦っている嵐山(あらしやま)(ゆう)だった。


 彼女は申し訳なさげに顔をしかめていた。


 戦闘が始まって少ししてから士と遊は役割を分担して戦っていた。


 最初は遊が少女と戦っていたのだが、実力面を考えて今は士が少女を担当し、遊が周囲のオートマトンを潰す役割を担いつつ、隙があれば少女に攻め込む手はずとなっている。


 しかし、遊の力を持ってしても周囲に展開しているドローンやオートマトンを完全に退けることは不可能に近い。


「気にしなくていいって。なにせ数が多い。壊した矢先に湧いて出てくるしね」


 辟易した様子で肩をすくめると、遊もそれに頷いた。


 実際そうなのだ。


 壊せど壊せどそれを補うかのように出てくる。


 恐らく一箇所の個体数が減ったことでそれを補うために出てきているのだろう。


 オートマトンやドローンの戦闘力自体は少女達と比べれば高くない。


 できることと言えば銃撃程度で、近距離武器も備えているようだが滅多なことでは襲い掛かってこない。


 ゆえに考え方とすれば人よりも少しだけ大きな自律移動型の砲台だ。


 それが無限に湧いて出てくる脅威は対面しなくともわかるだろう。


 なおかつ、自分達と同等の力を持った指揮官がいるとなれば、その脅威は更に跳ね上がる。


 刀狩者であってもあまり相手にしたくはないだろう。


「ホント、霊力使えないってのは不便でならないね」


「うん。沖代の属性ならオートマトンもドローンもすぐ無力化できたはずだしね」


「それをさせてくれないってのは本当に厄介だよ」


 苦笑いを浮かべる士は徐々に集まりつつあるオートマトンと、こちらをジッと見据えている少女を見やる。


 遊の言うとおり、相手が機械ならば士の属性『雷電』はかなり有効だ。


 直接鬼哭刀で触れなくとも、疾走する電撃はオートマトンの制御基盤を破壊し一瞬にして無力化できるだろう。


 無限に湧いて出てくるとはいえ瞬間的に多数の個体を失えば補填するのにも時間がかかるはずだ。


 だが、それができる状況ではない。


 まぁそれを見越して霊力を使わせないように結界を展開したのだろうが。


「ないものねだりしててもしょうがない。俺も彼女の相手をしながらオートマトンの数を減らす。もしも彼女に隙が出来たら嵐山のタイミングで突っ込んでくれてもいい。その場合は俺が合わせる」


「了解。私もできるだけあんたにあわせるよ。じゃ、がんばろ」


 二人は軽くグータッチすると即座に離れた。


 やることはさっきまでと変わらない。


 周囲の雑魚を処理しつつ、少女を無力化する。


 あまり余裕はない。


 時間経過と共に少女の能力は格段に成長してきており、このままではいずれ攻め込めなくなるどころか隙すらもできなくなってしまう。


 その前に彼女を仕留めるかあるいは……。


「頼むよ、突入班……!!」


 一人ごちる士の脳裏に浮かんだのは館へと突入した雷牙達だった。




 瑞季のことを雷牙に託した舞衣と一愛はついに制御室の扉の前に辿り着いた。


 周囲に人影はない。


 少し離れたところでは剣戟の音が聞こえるが、こちらに迫ってくる様子はない。


「雷牙なんかは上手いことひきつけてくれてるみたいね。あの親父がこっちに来てないってのは意外だったけど」


「あの人は瑞季のことがすごく大事そうでした。多分、あの子の勝利を見届けたいんだと思います。もしくは……」


「雷牙の息の根を自ら止めたいってとこかもね。さっきの眼、雷牙に固執してる感じだったし」


 匡哉の眼光には雷牙に対する敵愾心がたっぷりだった。


 娘に近づけたくない。


 まさにそんな雰囲気だった。


「子離れできない親ってのはある意味狂気だよねぇ。まぁどうしてあの人がそんな風になっちゃったのかは、わからんけども」


「気にはなりますけどね。でも今はシステムを取り戻さないと」


「わかってるって……。うん、扉に罠の類はないけど……中に入るにはさすがに認証が必要か……」


「時間かかります?」


「いんや、この類ならそんなかからない。ちょっと周り見張ってて」


 一愛は扉の脇にあるコンソールの外部アクセスソケットと自身の端末を接続する。


 ホロモニタとキーボードが展開し、彼女はそれを手早く操作していく。


 ホロキーボード特有の高いタイピング音が遠くの剣戟と混じって舞衣の耳に届く。


「……そういえば結局明確な理由聞けませんでしたね」


「匡哉がこの襲撃を起した理由?」


「はい。やっぱり自分の研究成果の誇示が目的なんですかね」


「そうだねぇ。それが一番しっくり来る。人造刀狩者を造って有用性を示したいと同時に己の研究者としての素質を認めさせるって考えるのが妥当だろうね。でもあの瑞季に対する執着……なんか裏がありそうな感じがしなくもないね」


「例えばどんな?」


「そこまではまだ情報が少なくてなんとも言えない。けど、多かれ少なかれ瑞季が関係してることは確かだと思う」


「でも瑞季は人造刀狩者じゃないですよ」


 瑞季の家に遊びに行った時、昔のアルバムなども見せてもらった。


 そこにはしっかりと幼少期の瑞季や、まだ若い匡哉や、瑞季の母親の姿もあった。


 両親の職業柄写真は見慣れているため、アレが加工や編集が施されたものではないことはわかっている。


 ゆえに瑞季は人造刀狩者としては考えにくい。


 けれど匡哉が人造刀狩者を生み出しその有用性を示すために今回の襲撃を起したと考えると、若干の食い違いがある。


 瑞季が人造刀狩者ではないのなら、あそこまで彼女に執着する理由があまりないように感じる。


 むしろ大切にするのなら、彼女ではなく人造刀狩者の方ではないだろうか。


 なのに今回の襲撃は彼女達は使い捨ての手駒のように扱っているように見えなくもない。


 たとえ人造刀狩者の培養が数週間で済むとはいえ、自分で生み出した娘をあんな風に扱うとは考えにくい。


 瑞季の細胞を使っているとなれば尚更だ。


「やっぱり他に何かある……」


「可能性はある。ただどれが彼の本命なのかはわからないけどね。っと、おっけぃー」


 ぱちん、と一愛が指を鳴らすと扉の施錠が開く音が聞こえた。


 コンソールには『Lock』ではなく『Unlock』と表示されていた。


「もう開けられたんですか!?」


「案外緩めだったねー。ファイヤーウォール突破前の肩慣らしにもならなかったのはちょっと残念」


 指をポキポキを鳴らした一愛は気を抜いているようにも見えたが、眼光だけは鋭く制御室の扉を見据えていた。


 すると彼女は舞衣の方を一瞥する。


「舞衣、覚悟はいい?」


 恐らくこの中には制御室を守っている人造刀狩者がいるはずだ。


 もしも外の少女達と同等の強さなら舞衣の実力では少々荷が重い。


 だが、一愛でなければシステムの奪還は難しい。


 舞衣は一度大きく息をつく。


 刀狩者を目指していると言っても、舞衣の場合は部隊に入りたいとか、誰よりも強くなりたいとか、そういった望みはない。


 刀狩者になろうと思ったのは、ジャーナリストである両親が唯一できなかった刀狩者側の視点からの報道や論評をしたかったからだ。


 世間に溢れる報道は基本的に刀狩者ではない者達からの視点でしかない。


 現場の声や様子は後の記録程度でしか語られないし、一般人が刀狩者の声を聞くことはまずない。


 それゆえ刀狩者は時として酷いバッシングやヘイトの対象になる。


 舞衣にはそれがどうしても我慢ならなかった。


 解放軍のように刀狩者を優位に立たせろとはいわない。


 だが、現場で彼らがどれだけ危険なことをしているのか。


 どんな気持ちで戦っているのか。


 同情を誘って優しくしてもらいたいとか、大事にあつかって欲しいと言うわけじゃない。


 ただ、もっと多くの人に知ってもらいたいだけなのだ。


 だからそれを成し遂げるためにはこんなところで臆するわけにはいかない。


「……大丈夫です」


「わかった。じゃあ、開けるよ」


 舞衣が浅く頷くと一愛はコンソールをタップして扉を開く。


 即座に二人は室内に飛び込み、周囲を警戒する。


 室内は大小さまざまなモニタが展開され、モニタの光が暗い室内を照らしていた。


 そして一番奥にはシステム全体を統括しているであろうメインコンピュータが見え、その前には椅子に座る少女の姿があった。


 すると、少女は椅子を回転させてこちらに視線を向けてきた。


 薄暗がりの中でぼんやり見える彼女の瞳は瑞季のように人形っぽさはなかった。


「へぇ、案外早く突破してきたね。そっちの子、やっぱり優秀なんだね」


 少女が関心したように一愛に視線を向けた。


「どーも。アンタがここを守ってる人造刀狩者ちゃんでいいの?」


「そうだよ。お父さんからここを預かってる。文月っていうの、よろしくね」


 立ち上がった少女は薄く笑みを浮かべた。


 けれどその容姿は今までの少女達と比べると少しだけ違っていた。


「あんた、他の子達と比べるとずいぶんちっちゃいんだね」


 舞衣は足元から少女のことを観察する。


 他の少女と例外はなく文月と名乗った彼女も瑞季とそっくりなのだが、全体的なフォルムはかなり小さい。


 瑞季が十歳くらいの時くらいの身長だろうか。


「私は一番最後に生まれたし、お姉ちゃん達とは役割が違ったからね」


「役割?」


「ようは私と同じってことでしょ。ハッキングやらシステム制御やら、オペレーターみたいな感じ」

 

「それが近いね。でも、それしかできないってわけじゃないよ」


 少女は傍らに立て掛けてあった鬼哭刀に手を伸ばす。


 瞬間、舞衣は駆け出した。


 武器を手に取らせる前に叩く。


 これはルールがある試合ではない。


 相手の準備を待っているほどの悠長にかまえてやるつもりはない。


 それでも雷牙や先輩達のように一瞬にして距離を詰めるなどという芸当はできない。


 自分が持てる最大限の速度でも丸腰の状態を狙うことはできなかった。


 それでも文月が完全な戦闘態勢に入るまえに先手を打つことは出来、舞衣は防御として差し出された鬼哭刀に向けて力任せの一刀を放った。


「こンの……ッ!!!!」


 霊力が使えないため己の筋力のみでの斬撃だったが、体重差と遠心力によって文月の体を浮かすことには成功し、彼女はそのまま部屋の隅へ飛ばされていった。


「おー、良い感じに吹っ飛んでくれたね。準備できてない相手狙うとかえげつなーい」


「私の場合そんなこと言ってらんないんで!!」


「わかってるよ。奇襲だって立派な戦い方の一つだしね。仮免試験の時みっちり教えてやった甲斐あったわ。んじゃ、そっち任せるよ」


「了解です。先輩もなるべく早めにお願いします」


「はいはーい」


 一愛は舞衣の肩を軽く叩くと壁際のメインコンピュータと端末を同期させる。


 その様子を視界の端で確認しながら、舞衣は吹っ飛んでいった文月を睨む。


「急にしかけてくるとか、プライドとかないわけ?」


「生憎とそんなこと言ってられるほど強くないんだよ。私は」


「ふぅん。じゃあハズレかぁ。出来れば強い子と戦いたかったんだけどなぁ。その方が()()()()()()()()()()()()()し……」


「そりゃわるかったわね!!」


 ハズレと言われたことに若干声を荒げた舞衣だったが、内心では文月が漏らした言葉に違和感を覚えていた。


 彼女は今『()()()()()()()()()()()()()』と言った。


 人造刀狩者が強者と戦うことがなぜ瑞季のためになるのか。


 引っかかりを覚えながらも、舞衣は文月と刃を交える。


 できることなら勝ちたい。


 だが、もっとも優先すべきは彼女をここから遠ざけ、少しでも一愛の安全を確保することだ。


「……やってやろうじゃん……!!」


 舞衣の口元にはどこかの誰かが戦いの中で浮かべる笑みがあった。




 舞衣が文月と戦闘に入った時、雷牙は瑞季と刃を交えていた。


 互いに一歩も退くことはない攻防は激化し、霊力がなくとも周囲の壁や床に傷をつけたり、ぶち破るほどだった。


 単純な剣技において雷牙は瑞季よりも劣る。


 だが、雷牙がそれについていけないわけではない。


 的確かつ精密に放たれる斬撃を天性の直感と、今までの経験で切り抜けている。


 いや、切り抜けているという切羽詰った状況ではない。


 対応できているのだ。


 放たれる剣筋を見極め、完璧な防御と的確な回避を状況にあわせて使い分けている。


 入学当初はここまでは出来なかった。


 今まで潜り抜けてきた修羅場での経験が、雷牙の強さを飛躍的に向上させていた。


 その中には実地訓練での経験もある。


 部隊長達との鍛錬や、斬鬼との戦闘。


 全てが経験値となっている。


 だからこそ、次に彼女が何をしようとしているのかも理解できる。


「っ!」


 ひゅおん、という風切り音と共に放たれたのは首筋を狙った一刀。


 が、それが届くことはない。


 キィン! という甲高い音と共に顔のすぐ近くで火花が散った。


 寸前で刃を受け止めたのだ。


 すぐさま雷牙は攻勢に転じる。


 受け止めた状態のまま刃をすべらせ、瑞季との距離をつめる。


 距離と態勢からして刀でのダメージは狙いにくい。


 ならば、やることは一つ。


「フっ!!」


 短い裂帛の声と共に放たれたのは鳩尾を抉るような蹴撃。


 確かな手ごたえが足に伝わり瑞季は「ごふっ」と短く呻きながら宙に浮いた。


 そのまま匡哉の下まで後退したものの、やはりというべきかその表情に変化はない。


 ダメージはあるはずだが表情に出ないというのはどうにもやりにくい。


「なるほど。やはり一筋縄ではいかないようだ」


 匡哉の声に雷牙は視線を向ける。


 瑞季を渡す云々から多少落ち着きを取り戻したようだが、眼光には雷牙に対する敵愾心が強く残っていた。


 なぜここまで嫌われるのか心当たりはない。


 とはいえ気になることはある。


「なぁ、匡哉さん。アンタ本当にどうしてこんなことしでかしたんだよ」


「さっき答えたと思うが?」


 答えたというのは舞衣に対する返答のことだろう。


 だが雷牙はそれに首を振る。


「あれじゃ答えになってねぇ。俺が聞いてんのはこんなことをしようと思った理由だ。人間、なにかしら行動を起すときは理由があるはずだろ。さっきアンタが答えたのは、自分が襲撃を手引きしたっていう自供だろうがよ」


「確かにそうだね。……まぁいい、そんなに知りたいのなら教えてあげよう」


 匡哉は小さく息をつくと胸の内ポケットから写真らしきものを取り出した。


 写真に視線を向ける瞳には敵愾心は見えず、ただ悲しく寂しそうな光が見えた。


()()なんだよ。亡くなった妻とのね――」


 そして彼は語りだす。


 亡き妻との約束を。

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