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斬閃の刀狩者  作者: 華月建
第十三章 造られた娘達
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4-3


「ねぇ、あんた達にちょっと聞きたいことあるんだけどさ」

 

 制御室へ向かっている途中で一愛が雷牙達に声をかけた。


「なんスか?」


「あんたら、瑞季の父親には会ったことあるんでしょ。どんな人だった?」


「どんなって……」


 三人は顔を見合わせ、逡巡する素振りを見せた。


 すると、舞衣が代表する形で匡哉の人柄を語る。


「一度しか会ったことはないんであの人の人成りが全部わかるってわけじゃないんですけど、それでもいいですか?」


「いいよ。少し気になってるだけだから」


「えっと、瑞季のお父さん……痣櫛匡哉さんの第一印象はなんていうか普通に優しそうな人だなって感じでした。枝族であることを鼻にかけている様子もありませんでしたし、少しやり取りをしただけでもフランクっていうか話しやすい感じはありました」


「ふぅん。他にはなにかある?」


「うーん……。あ、瑞季のことはすごく大切に思ってるような感じでしたよ。まぁ奥さんが亡くなってるんで片親だから少し過保護気味なのかもしれませんけど。でも、話してるときに変な様子はありませんでしたし、なによりこんな事件を起すような人には見えませんでした。あんた達もそうでしょ?」


 舞衣が同意を求めるように視線を向けると、二人はそれぞれ頷いた。


 一愛は「なるほどね……」と息をついた。


 枝族会議が始まる前、一愛は枝族の現当主達のことを調べた。


 当然その中には匡哉も含まれている。


 彼の立場は他の当主たちとは少し違う。


 言うなれば当主代理だ。


 瑞季が十八歳になるまでの仮の当主。


 それが入り婿である彼の立場だ。


 この襲撃事件が起きたとき、最初に疑ったのはそういった己の立場に対する不満から来るものかと考えた。


 当主代理はあくまで新たな当主が適性年齢に達するまでの代用品という扱いでしかない。


 子供が成長すればいずれその座を返さなくてはいけない。


 瑞季が当主になるまではあと二年。


 時間が近くなってきたことで当主の座から降ろされることに不満を感じての凶行かとも思った。


 けれど、そうなってくると調べた資料の中にあった彼の人柄と激しい乖離があるようにも感じられたのだ。


 匡哉の評判は決して悪くない。


 いや、悪くないというのは語弊がある。


 寧ろ彼は人が良すぎるくらいの善人のようだった。


 医師や研究者としての能力があることはもちろん、職場での人当たりもよく、誰からも信頼されているようだった。


 決して横柄な態度をとるようなことはなく、権力を振りかざすようなこともせず、権力のある立場を好むような様子もなかったという。


 そんな人間が枝族の当主代理という立場を手放したくないがためにこんな事件を起すだろうか。


 一愛の中では限り無く低いという答えが出始めていた。


 では、彼はなぜこの襲撃を起したのか。


 己の研究成果を知らしめ、自己顕示欲に浸るためという線も考えられなくはないが、そうなるといくつか疑問が残る。


 人造刀狩者で頭数を増やしたといっても、増えたのはあくまで戦闘能力だけ。


 情報操作やハッキング技術などに秀でた個体もいるだろうが、あの短時間で防衛システムを乗っ取ることは困難だ。


 では匡哉がやったのではないかとも考えられるが、それもどうだろう。


 彼は医師や、霊力に対する研究者としては非常に優秀だ。


 が、ハッキング技術などに秀でているという情報はない。


 そもそも勇狼館のシステムを守っているファイヤーウォールはそう簡単に突破できない。


 匡哉の力だけでどうにかできるようなものではないのだ。


 となれば考えられるのは一つ――。




「匡哉に協力しとるヤツがおるぅ?」


 会議室で希代墨が首をかしげた。


 彼の声に辰磨は深く頷いた。


「ああ。その可能性は十分に考えられる。希代墨、お前もわかっているとは思うが、匡哉は医師や研究者としての技術は一級品だが、それ以外はそこまで秀でているわけではない。ましてやハッキングなどでできるはずもない


「せやけど人造刀狩者がやった言う線はないんか?」


「いや、それもないと思いますよー」


 希代墨の言葉を否定したのは少しだけ姿勢を崩した状態で椅子に座っていた遥蘭だった。


「防衛システムが乗っ取られたとき、多分人造刀狩者の子達はまだ勇狼館の外にいたと思います。で、彼女達が侵入したタイミングを見計らって匡哉さんは結界を展開した。勇狼館は外部からのハッキングに対して独自のネットワークを構築することでアクセスを物理的に遮断してます。でも敷地内にいる人間なら、そのネットワークを使うことはできます」


「……そう。外部にいた彼女達がどれだけ秀でたハッキング技術を持っていたとしても、敷地内にいなければそれはできない」


「仮に彼女達が侵入直後にハッキングしたのならそれはあまりにも早すぎる。となると考えられるのはやっぱり匡哉さんがシステムを乗っ取ったってことですね」

 

 遥蘭、そして二人の部隊長も話しに加わりいよいよ辰磨の予想が現実味を帯びてくる。


 三人の声に辰磨は再度頷いてから深く息をついてからはっきりと告げる。


「だが、匡哉にその技術はない」

 

「せやから協力者がおる言うわけか……。せやけどその協力者言うんは誰や? まさかこの中におるなんて言わへんよな」


「断言はできないが、可能性は限り無く低い。そもそも人造刀狩者を容認して旨みがある人間が殆どいない。枝族がかつて凍結された計画に賛同したとなれば、世間からの風当たりは強くなる一方だからな」


「じゃあいったい誰が……? 黒羽ちゃんわかる?」


「知らんがな。なんでウチが知っとる思うとんねん」


 辰磨の後ろで龍子と黒羽がなにやら話していたが、辰磨は眉間に深く皺を寄せていた。


 思い当たる節があるような反応だ。


 彼は一度鉄之進に視線を向ける。


 すると、鉄之進は硬い表情のまま考えこむように髭をなでる。


 二人は匡哉に協力する何者かの姿を予想できているようだった。


「……もしそうなのだとすればもはや――――」


 一人ごちる辰磨の声は誰に届くこともなかった。


 しかし、彼の瞳の奥には覚悟を決めた者のみが宿す強い光が見えた。




「瑞季の親父さんに協力してるヤツがいるって、それマジっスか?」


 雷牙は一愛の考察に眉をひそめた。


「あくまで仮定の話だけどね。この襲撃、彼一人で準備、そして実行するには規模が大きすぎる。人造刀狩者で頭数は増えてるけど、それでもここまでのことはできない」


「となると、勇狼館のシステムに精通している人物とか……?」


「うん。その可能性は十分ある。でも単なる協力者で済めばいいんだけどね」


「他にもなにかあるんですか?」


「これもまぁあくまで仮定の一つだけどね。協力者って言うより、誰かに焚き付けられたっていう方がしっくりくるかもって思っただけ」


 苦笑気味に答えた一愛に雷牙達は表情を硬くした。


「アンタたちが会った瑞季のお父さんはかなり優しそうな人で、瑞季に対してもしっかり愛情を注いでていた。私が調べた彼の身辺からも変な噂は聞こえてこなかった。そんな人が何の理由もなくこんなことをするようには思えない」


「でも、全部演技だったって可能性も……」


「もちろんそれも考えられる。けど、もしも演技だったとしてどこからが演技なんだろうね。瑞季が生まれた頃からなのか、奥さんと結婚した頃か……もしくは子供の頃から全てが演技か……。そんな人間、そうそういないよ」


 もしも痣櫛家の婿になるために近づいたのであれば、途方もない時間を演技に費やしてきたことになる。


 人生の大半を演技で固められる人間など最初からイカれている人間くらいだ。


「でも瑞季さんを見ていた匡哉さんの眼に偽りがあるようには見えませんでした。本当に娘を大切に思っているようで……」


「確かにな。どれだけ演技が上手くても、さすがにそれは……」


「じゃあ仮に焚き付けられたとして、一体誰に持ち掛けられたんですかね」


「そこは簡単には教えてくれないだろうね。まぁ事情がどうあれ、こんな事件を起してしまった以上、私達は彼を捕まえないと――」


 言いかけた瞬間、一愛は背後からゾワっとした感覚が襲ってくるのを感じた。


 殺気。


 本能が判断した直後、彼女は視線を背後に向けた。


 そこにいたのは黒い戦闘服を纏った瑞季そっくりの少女。


 彼女は刃を構えた状態でいままさにレオノアに襲いかからんとしていた。


 しかし、彼女の存在に気付いているのは一愛だけではない。


「フッ!!」


 視線の先で短い裂帛の声と共に赤い大剣型の鬼哭刀を振るうレオノア。


 赤い刃は少女が振り下ろした刃に完全にあわせられ、少女を大きく弾きとばした。


 レオノアは小さく息をつくと、大剣を正面に構え少女の襲撃に備える。


 その様子に一愛は思わず笑みを零した。


「……やるね、後輩」


 一愛が笑みを浮かべているとレオノアに次いで雷牙、そして舞衣もそれぞれ臨戦態勢に入る。


「まだいやがったのか。レオノア、手ぇ貸すぜ」


「三人で戦えばすぐ済むでしょ。その間に先輩は制御室に――」


「――いいえ。ここは私一人でやります」


 加勢しようとする二人にレオノアはきっぱりと言い切った。


 彼女はそのままゆっくりと足を進め、大きく後退した少女を正面から見据える。


「彼女以外にも人造刀狩者はいるかもしれません。もしそうだった場合、ここで私達が残ったら斎紙先輩の到着が遅れます。そうなったら外で戦っている皆さんの負担も大きくなる。だから、ここは私が食い止めます」


 レオノアの覚悟は硬いようで、気迫は雷牙達にもヒシヒシと伝わってきた。


 かつてないほどに高められた闘気に雷牙は「……わかった」と頷いて一愛に視線を向ける。


「先輩、ここはレオノアに任せて進みましょう」


「ちょ、雷牙!!」


 舞衣は食い下がったものの雷牙はそれに首を振った。


「アイツの覚悟は本物だ。それを邪魔するわけにはいかない。実際、アイツが言ってることは正しいしな」


「そうだね。一人で食い止められるなら、そうしてもらえるとありがたい。じゃあ、任せていいね、レオノア」


 一愛が問うとレオノアは振り向くことなく頷いた。


 それを確認し一愛は走り出し、舞衣は若干迷いながらも彼女の後をついていった。


 彼女達に続く形で雷牙は踵を返す。


「負けるなよ。レオノア」


「当然です。雷牙さんもお気をつけて」


 二人の口元には笑みがあった。


 互いの無事と勝利を願い、二人は別れるのだった。

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