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斬閃の刀狩者  作者: 華月建
第十三章 造られた娘達
394/421

3-3

 回転する刃を備えたオートマトンは雷牙目掛けてそれを振り下ろす。


 けたたましい音を立てながら迫る刃を睨みつつ雷牙は即座にその場から飛び退いた。


 二度、三度と地面を蹴りつけて距離を取ると、視線の先で刃がアスファルトの地面を削り斬るのが見えた。


 いつもどおりならあの程度の攻撃を弾くことも出来ただろう。


 だが、今はそれができる状況ではない。


 刀狩者の膂力はその殆どが霊力による身体強化の恩恵があってこそだ。


 その恩恵があるがゆえに、人間よりも遥かに巨大な斬鬼の相手もできるし、災害現場でも己の身一つで人々を救うことができる。


 けれど今は違う。


 勇狼館を覆うように展開された結界によって、敷地内は霊力が使えない空間になってしまった。


 ゆえにあの回転刃を受け止めることはできない。


 ただの大剣ならばまだ多少受け止めることはできただろう。


「やっぱ厄介なのはあの刃だな」


 向けられた砲口から逃げつつ、雷牙は地面を抉っている刃を見やる。


 大きく角が立った刃に一瞬でも触れれば雷牙が元々持っている筋力であっても容易く弾かれてしまうのは確実だ。


 弾かれると同時に刃が雷牙を遅い、そして一瞬にして命を散らすことになるだろう。


「回避しつつ隙を見つけてぇところだけど、あのデカブツ。妙に動きがいいじゃねぇか、よ……ッ!」


 飛来した弾丸がすぐ近くを掠っていった。


 出血などはなかったものの、掠めたということはそれだけ狙いも精密だということ。


 まぁ受け取った資料によれば、単純な動きしかできない小型オートマトンとは違い、大型になるとある程度高度な戦闘も可能らしい。


 人間の動きほど自由かどうかまではわからないが、その強さは下手な斬鬼よりも上だとか。


「いくら枝族守るためとはいえハイスペック求めすぎだっての!」


 愚痴りながら飛来する弾丸を回避する。


 やはり狙いも定まり始めており、下手に距離を開けすぎるのも得策ではなさそうだ。


『あー、聞こえてるー? 綱源ー。聞こえてたら返事ー』


 不意に間延びした声が聞こえた。


 耳の中にいれた通信機からだ。


「斎紙先輩? はい、聞こえてるっスけど」


『んー。わかってはいると思うんだけど、そいつの強さはその辺りの斬鬼と渡り合えるくらいだからね。気ぃ抜いてると死ぬわよー』


「そんなことわざわざ言うために通信してきたんスか!? つかそっちは無事なんスよね!」


『後輩二人がちゃんと守ってくれてるしね。それに大型もアンタが引き受けてくれてるから今んとこモーマンタイ』


 弾丸を回避しつつ一瞬だけ一愛が逃げた方に視線を向けると、確かにレオノアと舞衣によって彼女は守られている。


 詠月の方も三咲達が抑えているので今のところ手は足りている様子だ。


『まぁそんなことは置いといて、そいつの攻略法教えてあげる』


「そういうことは……! 最初に、言って……ください……よッ!!」


『霊力が使えなくてもアンタくらいの実力があればすぐ死んだりしないでしょ。小型だろうが大型だろうが、オートマトンを行動不能するには本体中心の管制システムを破壊するしかない』


「ようはそこをぶった切ればいいってわけっスよね? 霊力使えなくても鬼哭刀なら行けんじゃないんスか?」


『確かに小型なら装甲ごと切断できる。けど、大型は斬鬼との戦闘も視野に入れてるから装甲が何層にも重なってんのよ。鬼哭刀がいくら強靭でも、霊力が使えなきゃ大型の装甲はやぶれない。でも大型は小型と違って荷電粒子を使ったビーム兵器が搭載されてる』


「もしかしてそれを使うとき装甲が展開するとか言います?」


『大正解。本体の装甲は管制システムを保護するためだけじゃなくて、粒子砲を照射するためのバレルの役割もあんのよ。でもそれを展開するってことは、管制システムが無防備になるってこと、つまり狙い目は大型が装甲を展開した瞬間。一気に勝負をしかけるしかない』


「簡単に言う……!」


 中々の難題だったが雷牙の表情には笑みがあった。


 こんな状況を雷牙はどこか楽しんでいた。


 不謹慎だろうし、自分でもどうかしていると思う。


 けれど、これが綱源雷牙が持って生まれてしまった性なのだ。


「……タケミカヅチの影響が強いのかもしんねぇけどな……!」


『なんか言った?』


「いや、なんでもねぇっス。でもその荷電粒子砲ってヤツを使うタイミングとかあるんスか?」


『位置づけ的には最終兵器的な役割だからある程度痛めつけないと使ってこないと思う。だから、まずはあいつを劣勢にさせなさい。アームや脚の関節は可動域の問題で装甲が必然的に薄くなるから、霊力が使えなくても斬鉄できるはずよ』


「りょーかい。つまり腕やら脚やら使いもんにならなくさせて本体の弱点引き摺り出せってわけっスね」

 

 ニッと口角を上げた雷牙は砲撃をやり過ごした直後、すぐさま転進してオートマトンとの距離を詰める。


 その間も砲撃が収まることはなく、執拗に雷牙を追いかけてくる。


 だが、例え霊力が使えなくとも速力は常人のそれよりも高い。


 そもそも大型は機体の姿勢制御が重要なために瞬発的な動きに弱い。


 つけこむならそこしかない。


 とはいえ全てが雷牙の思い通りに動くわけではない。


 オートマトンの脚部装甲の一部が展開し、新たな銃身が現れたのだ。


 銃口自体はアームに備えられているものよりは小さいが、人間一人をミンチにするには十分な大きさの弾丸を放てることだろう。


「ッ!!」


 駆けながら雷牙は逡巡する。


 照準はまだ完全にこちらを捉えてはいない。


 もう一度距離を取って攻めるか、このまま危険を承知で突っ切るか。


 選択は二つに一つだ。


 霊力さえ使えていれば間違いなく後者を取った。


 けれど今は霊力による身体強化は期待できない。


 少しでも判断を誤れば細切れの肉塊に変えられることは確実だ。


 ほんの一瞬脳裏に死がよぎる。


 けれどそれでも雷牙の口元から笑みが消えることはない。


 スゥッと肺に空気を入れると同時に雷牙は速力を上げた。


 それはほんの僅かな速力の上昇だったかもしれないが、その選択が生死を分ける。


 雷牙の前方で銃口炎が煌いたが、弾丸が抉ったのは雷牙ではなく雷牙の背後だった。


 一瞬だけではあったが、雷牙の思考がオートマトンのシステムを上回った。


 そして雷牙は呼吸を最低限にとどめたままオートマトンの真下に潜り込み、四本ある脚部のうち二本の関節部分に向けて鬼哭刀を振るう。


 駆け抜けざまに放たれた斬撃は的確に関節を捉え、確かな手ごたえを感じさせた。


 腕に残っている確かな感触を感じながら雷牙はオートマトンを後ろから見据え、大きく息をつく。


 脚部を見ると紫電が煌き、火花が散っているのが見え、次の瞬間には巨体がガクンと体勢を崩した。


「まずは二本……。このまま一気に――!」


 再び大きく息を吸い、オートマトンに迫る。


 体勢を崩したのだから姿勢制御も難しくなるはず。


 あれだけの巨体だ、下手に動かせばそれこそ大きな隙となる。


 人間の判断能力なら多少の無茶を承知で無理にでも動かすかもしれないが、システムによって制御されているなら下手な行動は起さないだろう。


 この好機を逃すわけにはいかない。


 地面を強く蹴りつけて残り二つの脚部に迫った瞬間、視界の端でアーム部分が動くのが見えたが、もはや止まることはしない。


 全身の捻りと筋力をのせた一閃は残った脚部すらも的確に捉え、先程よりも深く抉り斬る。


 関節部分からは炎が上がり、小規模な爆発のあと黒煙が上がった。


 全ての脚部関節を斬られてもなお、オートマトンはその巨体を制御しようとするが、関節部分へのダメージは大きかったようで巨体の姿勢を安定させることはできなかった。


 大きな音を立てながらその場に倒れたオートマトンは、中央の本体だけが立つような形となった。


 アームの方はまだ生きているが、本体を持ち上げることができなければ動くことはない。


「案外すんなり行った――っ!?」


 ふぅと息をつこうとしたのも束の間、雷牙のすぐ近くを巨大な刃が抉った。


 大きく地面を揺さぶられ体勢を崩しかけるも、その中で彼は見た。


 アーム部分がいくつかの節に分かれ射程が延びている。


「あの腕伸びんのかよっ!! けど、不用意に伸ばしたのは失敗もいいとこだってなぁ!!」


 ニヤリと口角を上げ、雷牙は近くにあった崩れかけのモニュメントを駆け上がり、伸びたアーム部分に飛び乗った。


 そしてオートマトンがアームを伸縮させるよりも早く駆け抜け、同時にアームの節に刃を滑り込ませていく。


 心の中で「一つ、二つ、三つ……!!」と数えながら、放たれる銃弾よりも早く回転刃のアームを潰していく。


 そしてアームの付け根部分に刃を突き立てた直後、雷牙は大きく跳躍する。


「これで……終わりだッ!」


 空中で身を翻し、落下する速度を力に変えて銃のアームの付け根に向けて鬼哭刀を振り下ろす。


 肉を切断するような柔らかい手ごたえはなく、重たく硬い感触が刃を伝って腕に及ぶ。


 が、決して力を緩めることはせず、勢いをそのままに禍断を振り切った。


 着地と同時に飛び退くと、一拍置いてからアームの付け根から爆炎があがり、バチバチというショートするような音が響いた。


 その光景を見やりつつ「っシ!!」と雷牙は強く拳を握りこんだ。


 四つの脚と二つの腕。


 どちらも無力化することに成功したのだ。


 まぁ霊力さえ使えていれば「断切」によって造作もなく倒すことができただろう。


 霊力の恩恵をどれだけ受けていたのかを肌で感じる雷牙であったが、彼はまだオートマトンから視線を外すことはしなかった。


「まだ、だもんな」


 視線の先ではもはや本体部分のみとなったオートマトンの赤いセンサーライトだけが妖しく光っていた。


 すると、センサーライトが強く発光し、雷牙の額に赤いポインターが浮かび上がる。


 こういうたとえはどうかと思われたが、赤く強い発光は斬鬼の眼光のようにもみえた。


「来るか……!」


 身構えた瞬間、オートマトンの装甲がガコンという音を立てて展開した。


 上下に展開したそれは発生させた荷電粒子を集束させ打ち出すためのバレルと化し、照準は当然ながら雷牙へと向けられる。


『バレルの奥!! センサーライトの真下に管制システムの基盤がある!! それをぶった切るか潰すかすれば動きは止まる!!』


「了解!!」


 言い切るとほぼ同時に雷牙は一歩踏み出す。


 しかし、オートマトンも弱点を晒していることを理解しているのか、まだ生きている脚部の砲門を雷牙へ向け近づくことができないように牽制射撃を放ってくる。


「往生際のわりぃ……!!」


 舌打ちする雷牙だったが、退くという選択肢はない。


 荷電粒子砲が放たれるまでにどれほどの時間を必要とするのかはわからないが、ここにきて一分以上のチャージが必要ということはないだろう。


 早ければ三十秒以内に撃ち出すことはできるはずだ。


 ふぅ、と大きく息をつくと同時にダン、と地面を強く蹴りつける。


 連続して見える銃口炎は雷牙を正確に捉えており、直撃すれば致命傷は免れない。


 それでも雷牙は止まらない。


 空気を切り裂きながら弾丸が迫り来る。


 刹那、雷牙は正面の何もない虚空に向けて刃を振るった。


 薄暗がりの中で小さな火花が散った。


 銃弾を斬ったのだ。


 刀狩者が銃弾を切断するのはそう珍しいことではない。


 霊力によって強化された身体能力は動体視力すらも強化し、常人では捉えることができない動きすらも察知する。


 けれど、霊力が使えない状態でそれが出来るものは一部の者達に限られる。


 雷牙の場合、今まで戦ってきた相手は殆どが彼よりも格上ばかりだった。


 刃の一振りは銃弾が迫るよりも早く、それを幾度も経験してきた雷牙が銃弾を切断できない道理はない。


『それ出来るなら最初っからやりなさいよねー』


「そうしたいのは山々っスけどねぇ……!!」


 確かに出来るなら最初からやっていればもっと効率よく攻めることができただろう。


 だが、そう簡単な技術でもないし、そもそも飛来する銃弾は一発ではない。


 何発もの銃弾が飛来する中で自分の体に直撃するものを感じ取り、それを無力化するにはかなりの集中力が必要となる。


 それこそ精神面、体力面共に酷く消耗するのは間違いない。


「こんなとこでバテるわけにはいかないんスよ」


 視界の端で勇狼館を捉えつつ、雷牙は弾幕を掻い潜って荷電粒子砲の前に躍り出る。


 一愛が言ったとおり、バレルの奥にセンサーライトが見えた。


 管制システムの基盤はの下だ。


 既に粒子は集束を始めているようで、バチバチという放電にも似た音が聞こえていた。


 ここで破壊できなければ放たれる。


 雷牙は息をつく暇もなく、バレルの端を蹴ってシステムの基盤へ向けて加速する。


 禍断の柄を強く握り、そのままセンサーライト直下に深々と突き刺す。


 肉や骨を断つような感覚とは違った感触が腕に伝わり、目の前で紫電が弾けた。


「これで終わりだ。デカブツ!」


 雷牙は押し込んだ禍断をグッとねじり、そのまま真横に引き裂いてその場から飛び退いた。


 その一太刀によって管制システムの基盤に深刻なダメージが及んだのか、集束を始めていた荷電粒子は徐々にその光を弱め、センサーライトの光も弱まっていく。

 

 ライトが完全に消えるまでは気をぬくことはせず、雷牙は力なく倒れていくオートマトンを見据えていた。


 やがて赤いセンサーライトは完全に消え、脚部などに見られた火花なども見えなくなった。


 どうやら完全に沈黙したようだ。


「ふぅ……。なんとかなったか」


 どうにかオートマトンに破壊することに成功し、雷牙は胸を撫で下ろした。


『ごくろーさん。こっちも粗方片付いたから一旦合流するわよ』


「りょうかいっス」


 答えつつ、雷牙は少し離れた場所で戦っている三咲たちを見やる。


 悲鳴などは聞こえてこないため、劣勢というわけではなさそうだ。


「……あとは頼みます」


 先輩達にこの場を託し、一愛と合流するために駆け足でその場から離脱した。




 大型オートマトンが破壊されたのを直柾は視界の端で捉え、口元に笑みを浮かべていた。


「前戦った時よりも腕上げやがったな。さすがに機械ごときにゃ遅れはとらねぇか」


 どこかうれしげな様子だったが、それも束の間彼は振り下ろされた刃を寸前で受け止めた。


「後輩の成長を喜んでる時に攻撃たぁ随分じゃねぇの。痣櫛モドキちゃん」


「戦闘中に余所見してる方がどうかと思うけどねー。それと私はモドキじゃなくて詠月って名前があるからー」


「名前を呼ぶほどの仲でもねぇだろうがよ」


 くくく、と引き笑いをした直柾の眼光は詠月のことを嘲るようだった。


 彼女もそれを感じとったのか少しだけ表情を硬くする。


「そんな余裕ぶってていいの? ちゃんと相手してくれないと殺しちゃうよ」


「くはは、言うじゃねぇか。けどなぁ、残念ながらテメェ如きに本気なんか出すかよ。確かに強いとは思うが、実力はテメェの姉ちゃん……瑞季の方が上だわな」


 直柾は詠月の刃を弾き飛ばし、彼女に対して嗜虐的な笑みを浮かべた。

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