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斬閃の刀狩者  作者: 華月建
第十三章 造られた娘達
387/421

2-2

 雷牙達が勇狼館の警備を始めてから数時間、陽が沈みかけたころに枝族が到着するという連絡が入った。


 訓練どおりに配置についてしばらくすると正面の門が開き、護衛車両に囲まれた枝族の車がやってきた。


 最初にやってきた車が館の入り口に横付けされ、車内から高級感のある背広を着た男性、武蔵辰磨が現れる。


 彼に続いて車から降りたのは華美ではなく、かと言って地味すぎもしない和服美人、辰磨の妻である武蔵(たけくら)(あおい)


 年齢的には決して若くないはずだが、顔に皺などは殆ど見られず、三十代後半でも通用しそうな美貌だった。


 そしてこの二人が現れたということは当然のことながら次に出てくるのは雷牙達がよく知る人物だ。


 二人に続いて車を降りたのは当然龍子だった。


 母親の葵が和装だったのでてっきり彼女も和装をしているのかと思われたが、龍子は赤いドレス姿だった。


 赤といっても普通の赤というわけではなく、所謂ワインレッドで真っ白な髪と相まって気品と美しさを演出していた。


 普段制服姿しか見ていないためドレス姿は中々新鮮な印象で、雷牙は少しだけ彼女を目線で追ってしまった。


 まぁ当然のことながら彼女がその視線に気付かないはずもなく、一瞬だけ彼女と視線があってしまった。


 すると彼女はフッと口角を上げて前を歩く両親に気付かれないように『集中』と声に出すことなく告げてきた。


 それに浅く頷いた雷牙はすぐさま視線を戻した。


 幸い角度的に他のメンバーには見られていないようだが、恐らく学校に戻ったら龍子にはいじられるかもしれない。


「……やっちまった……」


 溜息交じりに呟きながらも雷牙は思考を切り替えて引き続き周囲を警戒する。


 勇狼館の周囲にはそれなりに背の高いビルが並んでいるが、その殆どは刀狩者や警察によって抑えられている。


 といってもさすがに全てのフロアを完全に把握しているわけではないので、室内からの狙撃などは十分に考えられる。


 ゆえに気を抜くわけにはいかない。


 少しだけ緩んだ気を引き締めなおし、次にやってくる枝族の到着に備える。


 するとそこまで時間を置くことなく枝族の車が現れた。


 が、その瞬間雷牙を含めた連隊のメンバーは顔をしかめた。


 現れた車体が武蔵家のものとくらべるとなんというか、派手だったのだ。


 色自体は同じなのだが、バンパーやらグリル、フェンダーなどがかなりいじってある。


 下品とまではいかないものの、武蔵家のものと比べると明らかに派手だ。


 濃いスモークガラスのせいでどの枝族が乗っているのかわからないが、なんとなく誰が乗っているのか察することができる。


 横付けされた車内から現れたのは強面という印象はないものの、彼と同じように威厳の溢れる風格漂う男性だ。


 彼は車を降りるとしばし周囲を見回して「ほぉ……」と興味深げに頷いた。


「ほんまに学生らが警備に参加しとるんやな。もうちょい気ぃ抜けとるもんや思うたけど、意外にみんなしっかりしとるわ」


 声自体に聞き覚えはないが、強い関西弁なまりの口調は覚えがある。


 すると「あんたはよしぃや!!」という声と共に男性が車内から飛び出してきた足に蹴りつけられた。


 前につんのめった男性に続いて車内から顔を出したのは煌びやかなドレスを纏った女性だった。


 胸元が大きく開いたドレスは妖艶な雰囲気を漂わせるものの、顔つきは淑女然としていた葵よりもややキツめな雰囲気だ。


「いった、なにすんねん!」


 突然蹴られたことに男性は少しだけ声を荒げたが、女性は大きなため息をつきながら「じゃかしい」と外に出てきた。


「こん子らはうちらのこと警備してくれとるんやろ。ほんならさっさと中に入った方がこん子らが楽んなるやろ。手間かけさせんのはやめや」


「ちょっとくらいええやないか。なぁ黒羽?」


「そのちょっとで命落とした人もおんねや。さっさといきぃや親父殿」


 龍子と同様に聞き覚えのある声。


 両親に続いて車から降りてきたのは轟天館の生徒会長であり、有名な軍需企業でもある白鉄重工の令嬢である白鉄(しろがね)黒羽(くろは)だ。


 初めて出会ったのは合同合宿の時だったが、戦刀祭では共に斬鬼と戦い、京都でも偶然出くわしたりとそれなりに交流のある人物だ。


 黒羽もまた普段見かけないドレス姿で髪も綺麗に結ってある。


 所々にメッシュが入っているのは雷電の属性による影響だ。


「そないなこと言うたかてお前も知った顔くらいおるやろし、挨拶くらいしたいんと違うんか? 玖浄の子ぉならホレ、あそこにおる子なんて知っとるやろ?」


「あぁ、綱源くんやね。あの子の試合、ウチ好きやったわぁ。中々気骨もありそうやったし」


 妙に視線を感じると思ったら白鉄家の夫婦、希代墨(きよすみ)揚芭(あげは)の視線は雷牙に向けられていた。


 明確に声をかけられているわけではないから反応に困る。


 無視するのもアレだろうし、かといって反応してしまうのも警備の立場的にしてはいけないだろう。


 どうしたものかと逡巡していると、視界の端で「はぁー……」と大きなため息をつく黒羽の姿が確認できた。


「雷牙ー、反応せんでええからなー。他のみんなも警備優先で頼むわー。ったく、ホレ二人ともいくで。後ろがつかえてまう。鴉佐飛(あさひ)、手伝い」


「わかった」


 鴉佐飛という聞き覚えのない名前と声に雷牙は内心で疑問符を浮かべたものの、少し前に渡された当日参加する枝族の家族構成を思い出す。


 確か白鉄家には黒羽の下に弟がいた。


 その名前が確か鴉佐飛だった気がする。


 視界の端で捉えた姿は黒羽よりも若干背が高くみえた。


 そして白鉄夫妻は子供二人にせかされる形で館へと消えていった。


 武蔵家と比べるとかなり賑やかなお家柄のようだ。


 まぁ目の前を通り過ぎる車の外観からなんとなく想像はできるが。




 武蔵家、白鉄家の入館後も枝族達は途切れることはなかった。


 斬鬼対策課第十部隊部隊長であり、華斎(かさい)家現当主である遥蘭(ようらん)は配偶者こそいないものの侍女と思われる女性と共に現れた。


 華斎家の次は雷牙達の友人である瑞季が匡哉と共に現れた。


 警備をしている雷牙達を気遣ってか特に声をかけられるようなことはなかったが、視界の端で捉えた彼女の姿はいつも以上に美しく見えた。


 その後は摩稜館の生徒会長であり、史上初の飛び級で育成校に入学した摩雅彌(まがみ)家のアリスは両親、そして当主である祖父と共に来館した。


 そして摩雅彌家の次で枝族の入場は最後となる。


 最後にやってきたのは鎌條家。


 当主は遥蘭と同年代である鎌條(れんじょう)御門(みかど)


 刀狩者ではないが育成校にて鍛冶技術や装備開発などを学び、ハクロウはもちろんのこと警察や自衛隊などにも技術提供という形で貢献している。


 まだ若いながらも妻と共に現れ、彼女のお腹は少しだけ膨らんでいた。


 どうやら跡継ぎ問題には苦労する様子はなさそうだ。


 以上、()()()()が勇狼館に集い、その後は政府や各界の要人なども出席し、完全に門が閉じられるまでには一時間以上を有した。




 全ての来賓が館に入り、警備が一段落したところで雷牙は大きく息をついた。


「だはぁ……! あー、なんつーかスゲェ疲れた……」


 両膝に手を置く雷牙の表情には明確な疲れが見える。


 決して体を激しく動かしたわけではないが、常に周囲を警戒していることに加え、枝族や要人に見られる気疲れもあったのだろう。


 普段の鍛錬とはまたベクトルの違う疲れが襲って来ていた。


 それは他のメンバーも同じだったようで、特にレオノアや舞衣は雷牙と殆ど同じ態勢だった。


『皆さん、疲れているとは思いますが一度集まりましょう。待機場所に来てください』


 インカムから聞こえてきた三咲の声にそれぞれ「了解」と答えると雷牙達は各育成校に割り振られた待機場所へ集合した。


「まずは入場時の警備お疲れさまでした。とりあえず何事もなく終わってよかったです。体調が優れない人はいますか? このあとも長丁場になりますので遠慮せずに言ってください」


「気疲れはすごいですけど、体力的にはまだ大丈夫です」


 苦笑気味に答えたのは新たにメンバーに加わった二年生の遊だった。


 やはり先ほどまでの警備で疲弊していたのは雷牙達だけではなさそうだ。


 が、彼女の言葉で少しだけ場の空気が和む。


「確かに慣れない任務でしたからね。できればこのまま皆さんに休息してもらいたいところですが、そうも言ってられません。すぐに巡回警備に移る必要があります」


 枝族たちが入場したから警備が終わったわけではない。


 このあとは常に割り当てられた敷地内を巡回する警備が待っているのだ。


「では俺と辻が行こう」


「は?」


 三咲の声に答えるように告げたのは勇護だった。


 一方直柾は突然巻き込まれたことに素っ頓狂な声を上げた。


「ちょい待て近藤! 俺は了承なんかしてねぇぞ!」


「それだけ吼える元気があるならいけるだろう。それに後輩達が疲れているのだから先に行くのが先輩というものだ。さっさと行くぞ、辻」


「人の話聞けこの筋肉ダルマ……! いででで! 首掴むな! はなせコラ!!」


 むんずと首根っこをロックされた直柾は勇護と共に暗がりへと消えていった。


 各育成校で分割しているといっても割り振られている敷地はかなり広い。


 三十分以上は戻らないだろう。


 しばしその様子に視線を奪われていた雷牙達だったが、二人が巡回に出てくれたおかげで休息の時間は確保できた。


「えっと……では残った皆さんは水分補給をしつつ休憩をとってください。ですがあまりだらけすぎないように、警戒心はとかずにお願いします」


 三咲が出した指示の後、連隊のメンバーはそれぞれ休息に入った。


 陽は完全に落ち、視界は非常に悪い。


 この状態で周囲を警戒しながら休息するのも難しいが、周囲の視線がない分先ほどよりも大分マシに思える。


 雷牙は待機場所の壁に背中を預けると大きく息をついた。


「疲れましたか?」


 不意にかけられた声に視線を向けると紙コップを持った三咲が立っていた。


 彼女は二つ持っていたうちの一つを雷牙に手渡す。


「あ、ども。ありがとうございます……って、なんでこんな真冬にスポドリなんスか……」


「風にあたっているだけでも水分は著しく消費しますからね。お茶だけですと糖分や塩分などは期待できません。まずはこちらの方がいいと思いまして」


 薄く笑みを浮かべた三咲は冷たいスポーツドリンクを傾ける。


 雷牙もそれにならって一口含む。


 最初はどうかとも思われたが、意外にすんなりと体に馴染んでいった。


「結構喉乾いてたんじゃないですか?」


「まぁ……そうっスね」


 視線を合わせない雷牙のことがおかしかったのか三咲は小さく笑った。


 けれど彼女がここに来たのは飲み物を渡しに来ただけではないようだ。


「綱源くん。何か気がかりなことでもありました?」


「え?」

 

「なんというか少し険しい顔してたので……ひょっとして大城家のことですか?」


 少しだけ三咲の声音が低くなり、雷牙の表情も僅かに強張った。


 図星だ。


 今回の枝族会議で集まっているのは六つの家だ。


 一つ足りない。


 その家は雷牙が一学期の選抜戦において堕鬼となった同級生、大城和磨の生家。


 大城家だ。

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