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斬閃の刀狩者  作者: 華月建
第十三章 造られた娘達
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1-2

 モニタに表示された見取り図や地図に雷牙が視線を向けると、雪花は「こほん」と軽い咳払いをしてから警備の配置について説明を始めた。


「枝族会議の警備は大きくわけて三つのエリアに分けられてる。勇狼館から一番離れたエリアを担当する外周警備、外周警備よりも内側の内縁警備、そして館の敷地内を警備する近傍警備ね」


 雪花の言葉に呼応する形で地図にそれぞれの警備エリアが三色の色の円で囲われていく。


「外周警備を担当するのは警察特殊部隊と新都の各警防署から選ばれたハクロウの一般隊士。大体それぞれが交互になる形で配置されてる。こんな風にね」


 外周警備エリアを見やると黄色の円の内側に刀狩者と警察のチームカラーが表示されている。


 警察とハクロウ双方が警備を担当するためか、それぞれの警備担当エリアは明確にわけられていた。


 警察、ハクロウ、警察……という具合だ。


 ただ、それを見た雷牙は少しだけ眉をひそめる。


「今、この配置危なくねぇ? って思った?」


「え、あぁ……まぁそうっスね。正直穴というか大丈夫かなってのは思いました。特に警察が担当してるとことか」


 雷牙の指摘に雪花はどこかあきれた表情を浮かべながら「だよねぇ」と溜息交じりに漏らした。


「本当なら混成部隊の方がいいんだけど、警察とハクロウはそこまで仲良しじゃないからこういう形になっちゃってるんだよね」


「過去にはその穴を狙って襲撃されたこともあったようですしね」


「マジっスか」


「マジマジ。警備するのが特殊部隊といっても、警察の多くは非霊脈保持者、使える武器の類に制限はないんだけど枝族会議の襲撃者の中には刀狩者も混ざってる時があってね。過去、警察が警備しているところをピンポイントで狙って突破されかけたことがあったらしいよ」


「されかけたってことは完全には到達しなかったんスね」


「ギリギリだったみたいだけどね。けどそんなことがあっても結局警察のおえらいさん達は改善しようとはしなかった。結果、それが今もズルズルと続いちゃってるってわけ」


 ハッと鼻で笑った雪花は両手を上にあげてあきれるジェスチャーをしてみせた。


 確かに彼女の言うとおりだ。


 突破されかけたというのにそれを改善せず、ハクロウと未だに距離を縮めようとしないのは組織としてどうかと思う。


「とは言っても現場の警察官達の中では警備体制の見直しは上に申し出ているようですが」


「上の頭が固いと大変だよね。どの組織もさ。けど、仮にこの外周エリアが突破されたとしてもそこまで痛手ってことはないんだけどね」


「館までの距離が縮まりますけど、平気なんスか?」


「まぁ近くなると言っても一キロ以上は離れてるからね。それに外周警備の意味は襲撃者の拘束以外にも、彼らを疲弊させる役割もあるし」


「疲弊?」


「そ。仮に外周エリアを突破できたとしても内縁警備を担当してるのは部隊所属の手馴れの刀狩者。どうにかこうにか突破できたとしても体力、霊力共に万全の状態とはいえないよね」


「あー、確かに。そんな状態の敵を拘束するなんて部隊入りしてる人たち造作もないっスよね」


「そゆこと。万が一誰にも見つからずに外周を突破できたとしても、内縁で見つかれば外周から挟み撃ちにされる可能性もある。どれだけ見つからないように頑張っても、当日は人の目はもちろんのこと、地上と空中に警備ドローンやオートマトンが巡回してるからね。掻い潜るのは至難の業だね」


 雪花が表示したのは警備エリア各地に配置されている監視カメラと、空中から監視するドローン、地上を警戒するオートマトンの画像だった。


 カメラは街中に配置されているものに加えて、枝族会議前にハクロウが設置する臨時のもので、警備任務に登録されていないものを見つけた場合即座に警報を発する仕組みになっている。


 ドローンやオートマトンも同様のカメラ機能を持っているが、この二つはカメラとは別に迎撃用の武装も装備されている。


 武装に採用されているのは小型機関銃で、非殺傷を前提としたゴム弾と対象の危険度によって自動的に使用が切り替わる殺傷能力を持った実弾の二種類だ。


 それ以外も重武装の機体もいるようだったが、それらは有事の際にのみ出撃することになっているようだ。


「監視の目はガッチガチなわけっスね」


「うん。ドローンの設定もかなり高いレベルになってるみたいで、軍隊みたいに動くよ。しかも人間と違って一切の容赦がない」


「一度殺傷モードに切り替われば目標を殲滅するまで攻撃を続けますからね。ある意味人間の警備よりも恐ろしいです」


「ホントにねぇ。まぁそういうわけで外周と内縁エリアの警備はこんな感じ。で、最後私や鞍馬さんみたいな部隊長、灰琉火ちゃんみたいな副部隊長が警備を担当する近傍警備。雷牙くん達も今回はここに配属されるからね」


 地図が切り替わり、館の敷地が写し出される。


 学校でも聞いたことだが、今回雷牙達に与えられた警備エリアは勇狼館の敷地内だ。


 ただ、全ての育成校がそうというわけではなく、玖浄院(くじょういん)轟天館(ごうてんかん)摩稜館(まりょうかん)の三校が敷地内。


 極楼閣(きょくろうかく)星蓮院(せいれんいん)の二校は館の塀の外に割り当てられている。


「配置を決めたの長官だけどかなり学生のことを考えた配置になってるね。どうしてかわかる?」


「えっと、襲撃犯は外周や内縁エリアで大体止められるからっスか? あとは部隊長と副部隊長がいるからとか」


「大体そんなとこだね。枝族会議の警備においてもっとも危険とされているのは外周エリアの警備。外部からの襲撃の場合まずここが攻撃を受けるからね。けど、仮に外周が突破されても内縁で殆どの襲撃犯は拘束できる」


「館の敷地内がもっとも安全ってことっスか」


「うん。だからと言って気を抜いていいってわけじゃないよ。まぁ万が一……いや、億が一にも内縁を襲撃犯が突破したとしても敷地内は霊力が使えないから霊脈保持者の襲撃犯にとっては地獄だけどね」


「けど、非霊脈保持者だったら関係ないっスよね?」


「非霊脈保持者の襲撃犯が外周エリアを突破できた記録はない。もっとも迫ったのは内縁の直前までだ。それも刀狩者との混成襲撃犯でな」


 灰琉火が補足するように展開したモニタには過去の襲撃がリストアップされていた。


 彼女の言うとおり、過去の襲撃において実弾兵器を用いた襲撃犯が外周を突破した記録は見られない。


「あ、それがさっき話してたヤツっスか」


「そそ。警察が警備してるとこを突かれたやつ。まぁその話は置いとくとして、仮に二つの警戒エリアを突破して敷地内に入ったとしても、中では霊力が使えない。体力的には疲弊しきっている状態。敷地内には部隊長と副部隊長に加え、各種ドローンやオートマトンの厳重警備。正直こんな状態で襲撃続行なんてできると思う?」


「俺だったらやらないっスね」


 考えなくともわかることだ。


 二つの警戒エリアを気付かれずに突破できたとしてもその時点で襲撃犯に残った体力は僅かだろう。


 見つからないように行動していれば、精神の消耗も激しいはず。


 加えて霊力を使えない状態で、素の実力が超人クラスの部隊長達、一切の容赦がない機械兵器を掻い潜る、ないしは実力で突破し枝族を人質にとるなどまず不可能。


 刺違える覚悟だったとしても刃が届くことすらないだろう。


「私も同じ考えだよ。仮に成功したとしても逃げられるわけもないしね。そういうことも含めて、勇狼館の敷地内が一番安全なんだよ。星蓮と極楼の生徒は外になっちゃうけど、そこも襲撃される心配はないだろうね」


「だから負担が少ないってわけっスか。けど、それだったら俺らがいる意味なくないっスか?」


 首をひねると雪花は「ふふ」っと笑みを零す。


「長官は警備任務の空気感を皆に体感して欲しいんじゃないかな。学校卒業後にハクロウに所属すれば、必ず要人警備に携わることになる。そこで初体験になるか、そうでないかでは体の動きも違ってくるだろうからね」


「空気感……。やっぱり斬鬼やら妖刀を相手にする時とは違ったりするんスか」


「結構違うよね。灰琉火ちゃん」


 雪花が同意を求めると灰琉火は「ええ」と頷いた。


 雷牙も守る戦いをしたことがないわけではない。


 酒呑童子と闘ったことは大きなくくりでみれば、守る戦いに含まれるだろう。


 しかし、警備かどうかといわれれば違う。


 だから今回の警備任務の話を聞いた時は緊張同時に少しだけ楽しみな気持ちもあった。


「警備任務は常に周囲を警戒する必要があるからね。斬鬼討伐の時もそうだけど、警備の場合は戦闘中だけじゃなくて、それ以外でも徹底した周囲への警戒が大事。警備対象の機微から、周囲の僅かな違和感、動き、音……それら全てに気を配る必要がある。大衆がいる場合は、その人たちの視線の動きや妙な仕草がないかとかね」


「常に緊張状態を持ち続ける必要があるってことっスね」


「そのとおり。で、実際に襲撃が起きた場合の対処はまず優先されるのは警備対象の命。確実に守るためには、多少危険でも襲撃犯との間に割って入って自らを盾にしなくちゃいけない。一人が盾役になったあとは、第二、第三の襲撃をされる前に警備対象をその場から避難させる必要がある。避難誘導は最低でも二人、ともかく警備対象を安全圏まで逃がさないといけないからね。安全圏まで避難させても油断はできないよ。他にも襲撃犯がいないとも限らないから、完全な安全が確保されるまで警備対象から離れちゃだめ」


「常に警戒しつつ仲間と連携、あとは自己犠牲の覚悟を持って挑むわけっスか……」


「そう。ボディガードやSPが時として命を落とすのはそういう理由あるからだね」


 己の命を差し出す覚悟。


 どれだけ研鑽を積んだ人間であっても、命を差し出す覚悟というのは即断即決で出来るものではない。


 百パーセント死ぬという話ではないが、並大抵の覚悟ではできない。


 雷牙自身、即座に盾役になれるかと問われれば難しいところだ。


 楽しみなどとは感じていたが、どこかで甘えがあったのかもしれない。


 無意識のうちに眉間に皺がよっていたのか、「けど、今回は平気だと思うよ」と雪花が心配を拭うように笑みを浮かべた。


「枝族会議の警備は今まで話したとおり、相当数の人員でやるからね。学生が盾になるようなことはないよ。勇狼館自体にも緊急時の隔壁とかあるし、まぁ雷牙くんが今考えてたようなことはほとんど起きないと思うよ」


 今までの話を纏めれば確かに今回の警備に関して言えば、雷牙のような学生達は非常に安全な場所にいると言っていい。


 だが、完全というわけではない。


 限り無く低い可能性ではあるが、起きる場合も考えられるのだ。


「それでも気は抜けないっスよね」


「……絶対起きないって言ってあげたいけど、そうだね。ちょっと怖くなった?」


 表情が強張っていたからか、雪花は首をかしげながら問うてきた。


 が、雷牙それに頭を振った。


「怖いとはちょっと違いますかね。寧ろ覚悟が決まったって感じです。絶対安全なんて言われたらどっかで気が抜けると思うんで、今からそれなりに緊張感を持ててよかったです」


「なるほどね。確かにある程度の緊張感は必要だね。けど、それに呑まれすぎないことも大切だからね。適度に緊張しつつ、適度に力を抜く感じで頑張ろう」


「はい。当日はよろしくお願いします。部隊長」


「こちらこそ……って言いたいところなんだけど、ごめん。私たち学生達と一緒にはいられないんだよね」


 雷牙は思わず「え」と声を漏らしたが、そういえば以前枝族会議の警備について教えてもらった時に言っていたことを思い出す。


 確か部隊長達は枝族達を警備するため、基本的に同じ空間にいるとのこと。


 つまり、会議中や食事中などは基本的に館の中いるのだ。


 対して雷牙達は館の敷地内にいるとはいえ、館内ではなく外に配置されている。


 ゆえに部隊長達と常に一緒というわけではないのだ。


「あー、そっか。そういや枝族と一緒に行動するって話でしたっけ」


「そうなんだよー。定期的に連絡するけど、勇狼館にいる間はあまり一緒にはいられないかも」


「こればかりは仕方ありませんね。私たちとしても出来るだけ学生達をバックアップしたいところではありますが」


「けど枝族の警備を怠るわけにもいかないからね。ホントこういうとき部隊長って大変だよねー」


「基本的には俺らのみで行動することになるんスね」


「もしかして寂しかったりする?」


 ニヤッとどこか煽り混じりの笑みを浮かべたが、雷牙は肩をすくめた。


「寂しかないっスよ。むしろ俄然やる気が出てきたくらいっスね。部隊長達ナシでも問題なく任務遂行して見せますよ」


「頼もしいねぇ。それじゃあ頼もしいついでにこの後の鍛錬少しハードめね。あと警備任務のレクチャーもしてあげるから。楽しみにしておいて」


 展開したモニタを閉じながら告げた雪花だったが、雷牙は見てしまった。


 彼女の瞳にサディスティックな光が灯り、口元は不適に歪んでいたことを。


 こういった表情をするとき、雪花は容赦がない。


 思わず灰琉火を見やると彼女は「あきらめろ」と言いたげに視線を伏せた。


 結果、休憩後の鍛錬は非常にハードなものとなり、警備任務のレクチャーもあって雷牙はそうとうしごかれることになるのだった。

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