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斬閃の刀狩者  作者: 華月建
第十三章 造られた娘達
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1-1 警備任務に向けて

 年が明けて一週間が経過したころ、実地訓練に参加していた学生達はそれぞれが配属された部隊、ないしは警防署に戻っていた。


 綱源(つなもと)雷牙(らいが)の姿も新都にあるハクロウ総本部の第九部隊にあった。


 現在は副部隊長である矢炭(やずみ)灰琉火(はるか)と共に訓練場にて軽い実戦形式の訓練を終え、一息ついているところだ。


 タオルで軽く汗を拭っていると給水用の灰琉火が給水用のペットボトルを放り投げてきた。


「約二週間の休み明けにしては動けていたな。もう少しなまっているかと思ったぞ」


「師匠とかにしごかれてましたからねぇ。休む時は休んでましたけど、ゆっくりしてたのは大晦日から三が日にかけてくらいっスよ」


「なるほど。やはり厳しいのか君のお師匠、柳世(やなせ)宗厳(そうげん)さんは」


「そこまで露骨に厳しい人じゃないっスけどね。けど、俺がもっと小さいころは殺されんじゃねぇかってレベルでしごかれましたけど」


 ハハハと雷牙は笑みを零した。


 とはいっても、雷牙の場合宗厳の厳しさに体が適応してしまった故にそこまで厳しさを感じていないだけで、普通の感覚でいえばなかなかに壮絶な鍛錬もしばしばある。


 まぁ性格上若干適当なところもあるので、厳格かと言われればそうではないかもしれないが。


「それは大変だったな。しかし、一度くらいは手合わせしてみたいよ」


「ウチの師匠とっスか?」


「ああ。なにせ綱源(つなもと)光凛(ひかり)さんのお師匠だからな。隊長陣なら多いと思うぞ」


「へぇ……」


「意外そうだな」


 首をかしげた灰琉火に雷牙は「いや」と声をもらしつつ頬をかいた。


「なんていうかうちの師匠ってハクロウでの評判あまりよくないじゃないっスか。だから部隊長達からそう思われてるのが少し意外で」


「あぁ、あのことか」


「……っス」


 あいまいな返答をしながら雷牙は頷いた。


 あのこととはハクロウの一般隊士の間で吹聴されている宗厳に対する侮蔑のことだ。


 十五年前に起きた斬鬼村正の災、つまりは酒呑童子が起した刃災おいて、宗厳は雷牙と光凛を救う為に戦線を離脱した。


 それが一部の刀狩者から斬鬼に怖気づいて逃げ出したとされ、『()()()』というレッテルを貼られてしまった。


「あの話やたら広まってますけどなんでなんスか?」


「私も当時から現役じゃなかったから詳しいことはわからないが、村正の災は非常に多くの刀狩者が対処にあたった。ゆえに後退する姿を多くの者たちに見られてしまったんだろう。なおかつ柳世さんは不動(ふどう)恒義(つねよし)さんとも親交があり有名人だった。強さ自体も折り紙つき、そんな人が斬鬼に背を向けたとなれば、当時の刀狩者が失望するのも無理はない」


「部隊長が逃げる、みたいな感じですか?」


 首をかしげると彼女は少しだけ悩む素振りを見せてから頷いた。


 確かに仮に部隊長が戦線から遠ざかったとなれば、全体の士気に大きく関わる。

 

「柳世さん自身当時のことを否定することもしなかったからな。噂はより広まり、結果的に多くの刀狩者に知られることになってしまった」


「結果、今の今まで残ってるってわけっスか。はぁ……師匠もなーんで自分から否定しねぇかなー。てか、母さんや俺のことは医療スタッフに任せとけばそんな噂たてられずに済んだはずなのに――」


「――それはできなかったんじゃないかな」


 不意に聞こえた声に振り向こうとすると、後頭部にやたらと柔らかい感触が襲って来た。


 同時に「あん」という妙に艶かしい声も聞こえてきたが、雷牙は特にリアクションするわけでもなく、その柔らかい物体から距離を取った。


 そこにいたのは薄く笑みを浮かべた第九部隊部隊長、上泉雪花だった。


「それはできなかったってどういうことっスか?」


「え、今のスルー!? 二週間ぶりの私のおっぱいスルー!?」


「いやあんだけやられてると二週間経っても慣れが残ってるもんで」


「えぇ……! さすがになにも反応ないのはちょっと傷つくよ? リトル雷牙くんは反応してたりしないわけ!?」


「部隊長、なにを大声で叫んでるんですか。見方によっては普通にセクハラですよ」


「だっておっぱいだよ!? 思春期男子なんて四六時中女子のおっぱいかお尻か太ももとかそういったところをずっと考えてるはずでしょ!?」


「仮に考えていたとしても公衆の面前で反応を示す者はいないと思います」


 ばっさりと否定され、雪花は「そんなー」と心底残念そうな声を上げた。


 二人のやり取りを見つつ、雷牙は溜息をついた。


 因みに反応してないというのは厳密にいうと間違いである。


 雪花の言うとおり、リトルの方はしっかりと反応していた。


 まぁ精神力で押さえ込んだが。


「で、部隊長。さっきの話どういう意味っスか? 師匠がそうできなかったって」


 咳払いをしながら問うと、雪花は表情を切り替えてから少しだけ眼光を鋭くした。


「私も当時は子供だったから記録上でしか知らないんだけどね。当時、医療現場も次々に運び込まれてくる負傷者でごった返してたみたいでね。まともに診察を受けられる状態じゃなかったんだって。湊さんや狼一さんの話じゃ光凛さんは柳世さんに君を託した時点で事切れていたみたいだし、雷牙くんをまともに面倒みれる人があそこには誰もいなかったんだよ」


「だから師匠はあえて撤退したってことっスか」


「そうなるね。安全圏とはいえ、斬鬼の進行状況によっては危険に晒される場合もある。そんなところに光凛さんの遺児である君を置いておきたくなかったんだと思う」


「自分の評価ではなく、ただ弟子の子を守りたかった……といったところでしょうか」


「そうかもね」


 二人の言葉に雷牙は少しだけ胸が熱くなるのを感じた。


 自分が積み重ねてきたものを捨てることになっても、彼は雷牙の命を優先してくれた。


 そのあとも施設などに預けることはせず、今まで育ててくれたことには感謝してもしきれない。


「たぶんこれから先も柳世さんのことを悪く言う連中はいると思う。けど、君のお師匠さんは立派な人だよ」


「そうっスね。ありがとうございます、部隊長。ところで部隊長達はどうして師匠のことを臆病者って呼ばないんスか?」


「それは光凛さんの話を聞いてたからね。私は直接的に光凛さんに会ったことはないけど、先代の部隊長や先輩達からしょっちゅう話は聞いてたし」


「そもそも柳世さん自身有名人でしたしね。実力がある者ほど、彼の行動には何かしら理由があったのだと感じていました」


「弱い犬ほどよく吼えるってねー。同じ刀狩者同士だからあまり悪くは言いたくないけど、柳世さんに対する嫉妬もあったろうし、一部は想像みたいなのもあったんじゃない?」


 彼女はやれやれと肩をすくめた。


 確かに宗厳はその実力ゆえに一般隊士と関わること自体が少ない人だ。


 ゆえに一般隊士は、想像や噂でしか彼を知らない


 悪い評判ばかり流れていれば、必然的に皆それが真実だと思ってしまう。


 一般社会でもよくあることだ。


「下手に首を突っ込むことはないと思うよ。柳世さんも気にしてないんでしょ?」


「師匠はあんま周りからの評価気にするタイプじゃないんで、前少し聞いてみたら『言わせておけばいい』って笑ってましたね」


「じゃあ雷牙くんがこれ以上気にすることはないよ。でも、どうしても許せないような侮辱は見逃したらだめだけどね」


 雪花は笑みを浮かべていたものの、眼光だけは鋭かった。


 己に対する侮辱などは聞きながしてやればいい。


 だが、恩人や仲間に対する侮辱だけは看過してはいけない。


 そう言われているように感じた雷牙は深く頷いた。


「よろしい。それじゃ、本題に入りますかね」


「本題?」


「なにか用があったんですか?」


「あったよ!? だから来たんだけど!?」


 あまりにドライな二人の反応に雪花は驚愕混じりの声を上げた。


「君達たまに私の扱いが雑になるけど私、部隊長だからね? そのあたりわかってる?」


「わかってますよ。ただ、部隊長にしてはかなり子供っぽいと思っていますが」


「闘ってる時はやたら凛としててかっこいいんスけどねぇ」


 雷牙は戦闘時の雪花のことを思い浮かべる。


 斬鬼と対峙しているときの雪花は今目の前にいる彼女とは同一人物とは思えないほどに凛としたたたずまいになる。


 眼光の鋭く、かつ冷徹な雰囲気を灯し、氷結の属性と相まって冷酷な印象すら覚えてしまう。


 口調や髪質すらも変化するそれは、本当に別人なのではないかと疑いたくなるほどだ。


「平時と戦闘時のオンオフ分ける主義だって言ったじゃん。それに四六時中あんなんでいたら息詰まるでしょー」


 雪花は自分の目を吊り上げて戦闘時の自分を表現するが、あまりにも似ていない。


 顔自体は変化していないはずなのに印象がガラリと変化するせいでどう見ても同一人物には思えない。


「雷牙くん、私が同一人物に思えないとか考えてるでしょ」


 ギク、と雷牙は肩を震わせた。


 図星というかまさにそのとおりである。


 雪花はその様子に小さく溜息をつき「まぁいいや、とりあえずこれ見て」と端末を操作して二人に見えるようにホロモニタを展開した。


 表示されていたのはどこかの屋敷の見取り図のようだった。


 ふと雷牙はその図に見覚えがあることを思い出す。


「これって勇狼館の……」

 

「お、さすがにもう見てるか。そうだよ、枝族会議の会場の勇狼館の見取り図。私たちが警備することになってる場所だね」


 私たちというのは第九部隊だけを指した言葉ではない。


 学生連隊に所属する雷牙も含めての言葉だ。


「いやー私も最初聞いた時はびっくりしたよ。いきなり学生を警備に参加させるなんて言われちゃったんだもん。あんまり表情に出ない鞍馬さんも驚いてたよ」


「部隊長は反対とかしたんスか?」


「んー、まぁ実を言えば今でも反対ではあるよ。警備をさせるには学生には経験が少ない。なにも枝族会議の警備じゃなくてもとは言ったよ。けど、長官は考えを変える気はないってさ」


「たまにありますよね。長官の急な方向転換」


「あの人もいろいろ大変だろうからね。とはいっても多少は学生に負担がない配置になってるかな。雷牙くんはもう見た?」


「学校で確認はしましたけど、できればプロからの意見も聞いておきたいっスね」


 雪花たちのようにプロの刀狩者は要人の警護なども担当している。


 警備任務がどういうものか、その難しさなどはよく知っているはずだ。


 対して雷牙にそんな経験はない。


 斬鬼やテロリストとの戦闘とは違い、強ければいいとう話でもないだろう。


 少しでもプロからのアドバイスを聞いておいた方がよいと思ったのだ。


「じゃあ警備配置を見ながら説明しようか」


 雪花は薄く笑みを浮かべるとホロモニタをいくつか展開する。


 それらは勇狼館の見取り図だけではなく、館の外の地図も含まれていた。


 展開された図には警備を担当する警察特殊部隊とハクロウの一般隊士で構成された警備隊。


 部隊所属の刀狩者で編成された直近警備部隊。


 そして雷牙達学生連隊の配置がそれぞれのチームカラーで表示されている。

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