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斬閃の刀狩者  作者: 華月建
第九章 刀狩者仮免試験
276/421

3‐3

 試験場に入ると戦闘班と救助班はすぐさま二手に分かれた。


 それぞれの班がやることは非常にシンプル。


 戦闘班は斬鬼役の試験官を索敵、及び遭遇時は応戦開始。


 救助班は救助対象であるパネルを優先して回収がメインとなる。


 あえて共通点を挙げるとすれば、試験官の索敵くらいだろう。


 ちなみに、救助班が遭遇した場合は無理に対処するのではなく、接敵したことを報せる合図を出す手はずになっている。


 場内は非常に静かで聞こえてくるのは風が吹き抜ける音と雷牙達が歩く音だけだった。


「快晴先輩、集まった時も言ってたッスけど、試験官っていきなり出てくるんスか」


「基本的にその部分は変わらないはずだ。そもそも斬鬼の発生、妖刀の顕現自体が突発的に起こるからな。今はほぼ百パーセント鐘魔鏡で事前に観測されるから本当の意味で突発的に現れるのは稀だけどな」


「ですが、四月ごろに新都を騒がせたクロガネが作り出したという人工妖刀の件もあります」


「ああ。これから先もクロガネ……いや、禍姫が従来にはない妖刀を生み出す可能性もある。それを加味して、今回は小型の鐘魔鏡も持たせてもらえてないしな」


 仮免試験の内容自体に大きな変化はない。


 ただ、細かい部分には今年起きた事件などを反映しているようで、例年ならば携帯型の鐘魔鏡が配布されるものの、今回はそれがない。


「だから各々周辺の警戒は怠らずにな。少しでも違和感や殺気、霊力を感じ取ったら報告を頼む」


 快晴の指示に雷牙達は頷くも、「チッ」という舌打ちが班の後方で聞こえる。


 全員が視線を向けると、見るからに不機嫌そうな極楼閣の受験生が三人、指揮官役である快晴を睨んでいる。


「何か気に食わないことでもあったか?」


 明らかに自らに向けられている視線を気にする様子もなく、快晴は彼らに声をかけた。


 すると、その中の一人が大きなため息をついた。


「別に、なぁにビビッてるんだかって思っただけっスよ。センパイ」


「ビビる?」


「どう見たってビビってるでしょ。索敵なんてかったりぃことやる暇があんならさっさと試験官ぶっ倒しゃいいのに。そんなんだから前の試験で落ちてんじゃねぇの?」


 あからさまに快晴を小馬鹿にする態度を取る三人の受験生。


 快晴は彼らを見据えているものの、瞳や表情に怒りなどは感じられない。


 が、その態度は彼らの精神を逆撫でしたようだ。


「ハっ! これだけ言われてダンマリと来た。やっぱ星蓮院なんて女ばっかの育成校出身の男は腑抜けばっかりだな。これなら俺が指揮官やった方がまだマシだぜ」


「ちげぇねぇ」


「他のヤツらもそう思うだろ?」


 ギロリと威圧するような眼光が他の受験生を僅かに萎縮させる。


 どうやら彼らの狙いは快晴を貶し、自分達が戦闘班を率いることらしい。


 集合した時点でそれをしなかったのは、自分達に不利になる可能性があったからだろう。


 戦闘班だけならば掌握できると思ったから仕掛けたようだ。


「……くっだらねー」


 雷牙は溜息をつくと大きく肩を落とした。


 すると三人のうち、リーダー格と思われる恰幅のいい猪倉(ししくら)という受験生が「あぁ!?」と雷牙を睨みつけた。


「玖浄院の綱源だったな。なにがくだらねぇって?」


「お前らがやろうとしてること自体がだろうがよ。いつ試験官が襲ってきてもおかしくない試験中だぞ? そんなときに難癖つけて突っかかって、馬鹿みてぇだなって思っただけだよ。それともなにか? 快晴先輩に文句言えば試験突破できんのかよ」


「テメェ……戦刀祭で活躍したからって調子こいてんじゃねぇぞ。俺だって出場できてればアレくらいはできたし、クロガネとも渡り合えた。運よくあそこにいた分際ででけぇ口叩きやがって。本当にヤッちまうぞ? あ?」


「いやいやいや、今その話関係ないだろ。俺も言い方が悪かったかもしれないけど、いきなり突っかかるお前らもどうかと思うぜ。試験中くらいは仲良くしようや」


「彼の言うとおりだ。ここで争っても意味はない。君達からすれば俺は前回不合格者の落ち零れで、従うのは嫌かもしれない。だが、身内で争っていたら合格できるものも出来なくなってしまうぞ」


「っせぇ! ったま来たぜこの野郎……! 試験官よりも先にテメェから殺って――!!」


 猪倉が鬼哭刀の切先を雷牙に向けようとした時だった。



 雷牙達の背後を炎を纏った剣閃が駆け抜けた。



「っ!!」


 全員が反射的に視線を向けると、ビルとビルの合間から再び剣閃が駆け抜け、視線の先にあったビルの壁を大きく抉っていた。


 明確にこちらを狙っているわけではない。


 無差別な攻撃は、まさしく斬鬼のそれに近い。


「――随分と嫌なタイミングで来たな……! 総員戦闘態勢、救助班にも斬鬼発生の報告を!」


「はい!」


 快晴の指示を受け取ったアリスが、救助班に斬鬼が発生したことを報告する。


 すぐさま対処したいところだが、雷牙はそれをグッと堪える。


 これはチームで挑む試験だ。


 一人が勝手な行動をすればその分リスクも上がる。


 さらに周囲には要救助者を意味するパネルの反応もあるため、不用意な戦闘開始は非常に危険だ。


 指揮官である快晴を見やると、彼も小さく頷いた。


「全員戦闘態勢を維持したままお互いに距離を取ろう。このままインカムでのやり取りへ移行する」


「了解」


 雷牙達はそれぞれ距離を取って一箇所に固まらないように散開する。


 そのままインカムを設定してお互いの声が聞こえるのを確認したが、猪倉達の声が聞こえない。


 何をしているのかと雷牙は先ほどまで自分達が居た場所を見やる。


 猪倉達はまだそこにいた。


『猪倉! 聞こえるか、おい!!』


 インカムからは若干焦りを見せる快晴の声が聞こえるものの、猪倉達はそこから動く素振りはない。


 そればかりか声を無視してその場から駆け出した。


 進行方向は試験官が攻撃を放っている方角。


「あいつ等……!」


 表情を曇らせた雷牙はすぐさま彼らの後を追い、快晴やアリス、他の受験生も同じように動き始める。


 するとザザッというノイズの後に猪倉の声がインカムから聞こえる。


『なにが距離を取るだ。こんなもんくらいでビビリやがって! テメェらはそこで大人しく見てやがれ! こんな試験、俺ら三人いれば楽勝だ!!』


『待て、早まるな猪倉!! まだ向こうの実力も未知数なんだぞ!』


『んなこと知るかよ、馬鹿が! この試験場で合格すんのは俺達だけだ!! 残念だったな、センパイ! また次出直しなぁ!! ギャハハハ!!』


 下卑た笑い声と共に猪倉の声は聞こえなくなった。


 どうやらインカムの電源そのものを落としたようだ。


 思わず雷牙は舌打ちしたものの、インカムからは『馬鹿はどっちだ……!』という苛立ち交じりのい快晴の声が聞こえた。


『こうなったら仕方がない。総員斬鬼と遭遇し次第戦闘を開始! 油断するなよ!』


「了解!」


 快晴からの指示に頷きながら返答した時だった。


 視線の先で再び炎を纏った剣閃が迸った。


「っ!?」


 思わず雷牙は眼を見開いた。


 駆け抜けた炎の中に猪倉達を見つけてしまったのだ。




 快晴の静止を振り切った猪倉達は攻撃の起点へ向かっていた。


 あの攻撃が斬鬼役の試験官の攻撃であることは確かだ。


「あれを俺達が潰せば、合格は間違いねぇ! いいか、他の連中に取られるんじゃねぇぞ!!」


「おうよ!」


「やってやんぜぇ!!」


 今日知り合ったばかりの者達だが、同じ極楼閣に属しているだけあって絡み方に差はない。


 猪倉にとっては非常にやりやすいのだ。


「見てやがれ、綱源。テメェなんか特別でもなんでもねぇ! 俺だってあそこにいれば闘えたんだ!!」


 猪倉は己の腕に絶対的な自信があった。


 同級生の中でもそれなりに強いほうだと思っている。


 戦刀祭に出場できなかったのは単純に運がなかっただけだ。


「……そうだ。本当ならあそこで活躍してたのは俺なんだ! だからここでそれを証明してやるっ!!」


 グッと足に霊力を込めて速力を上げ、猪倉達は角を曲がる。


 視線の先には無造作に攻撃を放っている試験官の姿。


 まだこちらに気付いていない。


 行ける。


 そう踏んだ猪倉は、二人と視線を交わして一気に距離を詰めようとした――。


 

 ――が、彼の考えは一瞬にして灰と化す。

 


 視線の先で何かがキラリと明滅した。


 それがこちらに向かって放たれた炎だと気付いた時には既に遅い。


「え?」


 間抜けにも聞こえる疑問符をあげると同時に、燃え盛る炎という名の刃が猪倉達を飲み込んだ。




 燃え上がる炎の刃に飲み込まれ、アスファルトに投げ出された猪倉達に駆け寄った雷牙はすぐに彼らに意識があるか確認する。


 が、それを確認するまでもなく、彼らは白目をむいていた。


 軽く肩を叩いてみても意識が戻る気配はない。


「ダメか……!」


 皮膚が露出している部分は水ぶくれのようなものが見えるので、酷くてもⅡ度熱傷くらいだろう。


 気絶しているのは攻撃が直撃したことによる衝撃、ないしは一瞬にして炎に包まれたことによるショックによるもの。


 命に別状はなさそうだが、無理に叩き起したとしても戦線復帰は望めない。


「ッ!」


 刹那、襲い掛かってきた炎を雷牙は禍断をふるって打ち払う。


 熱気だけは届いたものの、ダメージはない。


「怪我人がいようと関係なしかよ……!」


「そうだ。仮免試験も本試験も基本的にそのスタンスは変わらない」


 遅れる形でやってきた快晴は三人を見やってから表情を硬くする。


「その様子だと無理みたいだな」


「たたき起こせば意識くらいは戻るかもしれないッスけど、多分起したところで……」


「……恐らく戦意は削がれているだろうな」


 猪倉達が勝手に動いたのは自分達の実力に自信があったからだ。


 けれど試験官と遭遇するや否やその自信は一瞬にして打ち砕かれた。


 体の痛みは我慢できても、傷つけられた自信はそう簡単に戻らないはずだ。


 快晴と会話している間も斬鬼役の試験官からの攻撃は止む事はなく、容赦のないロングレンジ攻撃が雷牙を襲う。


 まだ距離があるからこの程度で済んでいるが、向こうだってその気になれば一気に距離を詰めることはできるはず。


 今はあくまで向こうのさじ加減で考える猶予があるに過ぎない。


「仕方ない。三人は安全圏まで後退させる。ここにいたんじゃ戦闘に巻き込んじまうからな。三ツ谷(みつや)郷山(さとやま)杉道(すぎどう)。猪倉達を運んでくれ」


『了解!』


 展開している戦闘班の仲間に指示を出すと、召集された三人はすぐにやってきた。


 すぐに猪倉達を彼らに預け、快晴は続けて飛来した炎を打ち払いながら命じる。


「致命傷じゃなさそうだが、なるべく衝撃を与えないように運んでくれ。危ないようなら救助班から何人か借りて安全圏まで退避。大丈夫か?」


「平気です! 三人を運んだらすぐに戻ってきますから!」


「ああ、頼む!」


 快晴と雷牙が炎を殆ど同時にかき消した瞬間、三ツ谷達は三人を担いで離脱する。


 が、そう簡単に離脱を許すはずもない。


 ゴウッという音と共に巨大な火球が三ツ谷達に向けて放たれたのだ。


 斬鬼の中には弱った人間を積極的に狙う性質を持ったものも存在するため、十分考えられる攻撃だ。


「ざっけんなよ……!」


 雷牙はすぐさま火球を切断しようとするものの、ほんの一瞬間に合わない。


 そのまま六人は成す術なく火球に飲み込まれるかと思われたが、ピン、という糸が張るような音が聞こえた瞬間、火球が掻き消えた。


 アリスが操る鋼糸が火球を無力化したのだ。


「今のうちに、早く!!」


「お、おう!!」


「すまん!」


 三ツ谷達はアリスの指示に従い、その場から一目散に離脱していった。


 追撃するように炎が放たれたものの、それらは全て他の受験生によって打ち払われ、どうにか負傷者を逃がすことには成功した。


「どうにか一段落って感じだが……気は抜けないな……!」


 顎まで滴った汗を手の甲で拭いながら快晴が呟く。


 状況は最悪とまではいかないがそれなりに悪い。


 猪倉達がいきなり仕掛けたことで完全に出鼻を挫かれた。


 本来なら様子を窺いつつ仕掛ける予定だったのが完全に意味を為さなくなってしまったのだ。


『あいつ等勝手なことばっかり……!』


『だから極楼閣の連中はダメなんだ!』


『怪我しただけならまだしも、こっちの戦力まで減らすなんて!』


 インカムからは残っている戦闘班の受験生の悪態が聞こえる。


 無理はない。


 集まった当初、猪倉達は作戦に従うことを了承していた。


 にも関わらずこんな行動を起したのだ。


 同じ班の彼らが毒づくのも仕方ないだろう。


「今は彼らの非を咎める時間じゃない。確かに猪倉達に非はあるが、彼らの考えを見抜けなかった俺にも責任はある。それよりも今は目の前の脅威を排除することの方が先だ」


「そうっスね。向こうはもうやる気マンマンって感じだし……」


 雷牙は纏っている霊力を跳ね上げ、快晴は腰を低くして構えなおす。


 彼らの視線の先には、距離をゆっくりと詰めてきた試験官が立っている。


 炎によって生まれた陽炎の中に佇んでいるのは、黒い髪に赤いメッシュの入ったショートボブの女性刀狩者。


 眼光は鋭く雷牙と快晴を見据えているものの、周囲に展開しているほかの受験生の配置もわかっているようで、時折視線を動かしている。


 隙など一切見せない様子からして実力上位者であることがわかるが、問題なのは彼女の服装だ。


 彼女が纏っているのは黒を基調とした戦闘服。


 それはハクロウの中でも選ばれた者しか纏うことができない特別な戦衣。


 斬鬼対策課において部隊入りを果たしている者のみが着用することを許されたものだ。


『ちょっ!? み、皆! あの人の左腕見て!!』


 インカムから聞こえてきた声はかなり焦った様子だった。


 それを疑問に思いながらも雷牙は言われたとおり彼女の左腕に視線を向ける。


「っ! あれは……!!」


 思わず息を呑んだ雷牙の瞳に飛び込んできたのは、龍が象れらた腕章。


 あの龍の腕章には見覚えがある。


「……伊達さんと、同じ……!!」


 そうだ。


 あの腕章は酒呑童子から雷牙を守るために戦死した狼一が着けていたものを同じもの。


「龍の紋獣ということは、第八部隊ですね。しかも腕章をつけているということは……」


 雷牙と快晴の下にやってきたアリスが呟くと、快晴は苦笑を浮かべながら頷いた。


「部隊長、ないしは副部隊長クラスのお出ましってわけだ……!!」


 どうにかして緊張を振り払おうと笑みを見せているものの、彼の額には大粒の汗が浮かんでいた。







 雷牙のいる試験場と同様に、全国に点在する試験場でも動きがあった。


 斬鬼役の試験官として現れたのは、斬鬼対策課の部隊長及び、副部隊長、そしてそれに近い実力を持つ者達。


 これこそがハクロウが仮免試験に新たに導入した措置。


 試験官を部隊長クラスにすることで試験全体の難度を引き上げたのだ。


 全ては対禍姫に備えより強い刀狩者を育成するためだ。


 受験生には過酷な試験となるが、これを乗り切れなくては禍姫はおろか、その配下である酒呑童子にも勝てはしない。


 苛烈で困難極まる試験がついに動き出す

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