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斬閃の刀狩者  作者: 華月建
第八章 堕ちた守護者
257/421

4-7


 襲撃犯たちが次々に拘束されて連行されていく様子を見やった雷牙は近くの柱に背中を預ける。


 人質も全員解放されており、今は犯人達とは別方向から外へ誘導されている。


 襲撃時の混乱などで多少怪我を負った人もいるようだが、命に関わるような怪我をしているものはいない。


「はぁ……どうにかなったな……」


 ようやく緊張の糸が緩み、ドッと疲れが襲ってきた。


 危機的な状況は多々あったものの、どうにかこうにか乗り越えられた。


 正直、尊幽の課題をちゃんとクリアしていなければ最後の行動は起せなかっただろう。


 仮にできていたとしても中途半端な制御では、子供に傷を負わせていたかもしれないし、人質にも被害が及んだかもしれない。


 改めて真面目に課題に取り組んできてよかったと思う。


「つーか、第二霊脈を解放したらどうなんだよ……。ビルでも真っ二つにできるようになんのかな」


 冗談交じりに呟いた雷牙は自分の腕に視線を落とした。


 何度か握ったり開いたりしてみるが、特にこれと言った痛みや違和感はない。


 力を上手く集束することができたため、筋肉繊維や神経まで切断していないようだ。


 満足げに笑みを浮かべていると「雷牙くん!」と名前を呼ぶ声が聞こえた。


 視線を向けると避難する人質を掻き分けるように刹綱がいた。


 大きく手を振りながらこちらにやってくる彼女に、雷牙は軽く手をあげて応える。


「無事だったか、刹綱」


「うん! ていうか私なんかのことより雷牙くんだよ! すごかったじゃん、アレだけの数を相手にして全員無事に助けちゃうなんて!」


「とは言ってもかなり危なかったけどな。最後のヤツもちょっとした賭けだったし……」


「それでもすごいものはすごいよ! 私や銀慈さんを助けてくれた時もすごかったけど、やっぱり生でああいうの見るとシビレちゃうね!」


 刹綱は興奮気味に語っている。


 それがどこか気恥ずかしくて雷牙は頬をかいた。


 すると、刹綱が騒いでいたこともあってか人質の誘導を行っていた刀狩者の一人がこちらにやってきた。


 生真面目な雰囲気のある女性隊士で、腕には部隊の腕章を着けている。


「君が綱源くんですね」


「あ、はい。そうっスけど」


 最初は彼女が部隊長の澪華なのかと思ったが声が少し違う。


 よく見ると腕章のデザインも部隊長のそれではなく、副部隊長が着けるもののようだ。


 雷牙の様子に気付いたのか、女性隊士は軽く腰を折った。


「申し遅れました。私は第二部隊に副部隊長を務めている冬野紗葵です。今回は君やそちらの大原さんのおかげで助かりました」


 紗葵は背筋を伸ばして敬礼した。


 それに応える形で雷牙と刹綱も見よう見真似で敬礼する。


「それでここからは非常に言いにくいことなんですが、今回の事件の解決に関して君達に功績を与えることはできません」


「手柄ナシってこと!?」


「端的に言えばそうなります」


「いやいやいやいや! それは流石にちょっとおかしくないですか!?」


 紗葵の言葉に刹綱が抗議した。


「私、っていうか雷牙くんが偵察をしなかったらハクロウや警察は上手く動けなかったじゃないですか。それに人質に危害が及びそうになったのを止めたのだって雷牙くんですよ。普通これだけのことを成し遂げたなら評価されるべきですよ!」


「刹綱、ちょっと声抑えろ」


「でも……!」


 刹綱は雷牙の静止も振り払おうとしたが、こちらを心配そうに見やる人質の様子を見て「……ごめん」と俯いた。


「謝ることじゃねぇよ。えっと、冬野副部隊長、俺達に功績がないってのはやっぱり学生だからですか?」


「はい。知っての通り、刀狩者の活動にはライセンスが必要になります。これがない状態でテロリストや斬鬼と交戦するのは扱いとしては規則違反にあたります」


「規則って……雷牙くんがいなきゃ人質が死んでたかもしれないのに……」


「もちろんそれはわかっています。ただ、世界はそこまで寛容にできていないんです。終わりよければ全てよしでは済みません。特に今の世間の風潮だとなおさらです。命をかけて戦ってくれたのに、このような扱い、大変申し訳なく思います」


 紗葵は頭こそ下げなかったものの、瞳には真摯に雷牙と向き合う光があった。


 罵声や侮蔑を向けられてもかまわないといった様子だ。


 刹綱はまだ少し腑に落ちていないようだったが、雷牙は静かに首を振った。


「別に気にしてないっすよ。俺は手柄や功績が欲しくて戦ったわけじゃないっスから。それに、協力するって言ったのは俺の方からですから気にしないでください。俺は俺で色々得るものがあったんで」


 ニッと口角を上げて見せると、紗葵は少しだけ驚いた様子を見せる。


 多少なり雷牙からも文句があるのではと思っていたのだろう。


 けれど、彼にとっては功績がどうのはどうでもいいのだ。


 どんな形であれ人を助けられたなら、それでいい。


「……君はその年齢で随分人が出来てますね」


「そうっすか?」


「少なくとも私が君の年頃なら、大原さんのような反応をしていたと思います。それと部隊長から言伝を預かっています。『本来であれば君達が称賛されるべきところを大人の勝手な事情で潰してしまい、申し訳ありません。ハクロウ所属後の部隊入りの際は、ぜひ第二部隊へ。共に戦える日を楽しみにしています。本当にありがとう』とのことです」


 薄く笑みを浮かべた紗葵。


 最初、雷牙は「どうも」と軽い返事しかしなかったが、後から内容に気付いた刹綱が「え、それってもしかして……!」と驚愕交じりの声を上げた。


「暗にっていうか、明確にスカウトされてない……!?」


「え、マジか」


「ですよね!? 今の言葉絶対スカウト入ってますよね!」


「さぁ、それはどうでしょう。では、二人もそろそろここを出ましょう。人質の避難もある程度完了したようですし」


 紗葵の後ろを見ると、人質の姿は殆どなくなっていた。


 けれどその中に二人、雷牙の方をじっと見やっている人影があった。


 襲撃犯に盾にされていた少年と彼の母親だ。


 紗葵もそれに気付いたようで、二人を軽く手招きしてから雷牙から少し離れた場所に立った。


 気を使ってくれたのだろう。


 紗葵が離れたことで少年は母親の手を引いて雷牙の下へ駆けてきた。


「あの、えっと……たすけてくれてありがとう! そーどていかーのおにいちゃん!」


 少年は涙の筋が出来た顔で雷牙に笑いかけた。


 すると、彼の母親も前に出て雷牙にハンカチで涙を拭いながら頭を下げた。


「本当にありがとうございました。息子を助けていただいてなんとお礼を言ったら良いか……」


「いえ、気にしないでください。助けを求めてる人がいたら助けるのが俺の信条なんで。むしろ、怖い思いをさせてすみませんでした。ボウヤも早く助けてあげられなくてわるかったな」


「ううん、だいじょうぶ。あのね、ぼくおおきくなったらおにいちゃんみたいにかっこいいそーどていかーになる! それでママとパパ、あとともだちもわるいひとたちからまもるんだ!」


 少年の宣言に母親は驚きを露にしつつ苦笑していた。


 雷牙も小さく笑みを浮かべると、少年と視線を合わせるように屈んで笑いかける。


「そっか、なら強くならないとな。そして今度はお前がママを守れ。がんばってな」


「うん!」


 少年と頷きあった雷牙は、一度紗葵を見やる。


 彼女は静かに頷いてから出口を指差す。


 それを確認してから少年や彼の母親と他愛ない話をしながら、刹綱と共に現場をあとにした。


 が、ふと雷牙は何かを忘れていることに気がついた。


「そういえば刹綱、あのおっさんどこいった?」


「あれ、突入部隊が来るときまでは一緒にいたはずなんだけど……」




 雷牙達が現場から離れていくのを紗葵が見やっていると、隊士の一人が神妙な面持ちで駆けてきた。


「副隊長、報告よろしいですか?」


「はい。なにかありましたか?」


「犯人達の拘束は終了しました。しかし、部隊長の読み通り上坂と名乗っていた主犯格の男の姿がありません」


「そうですか。大方綱源くんに倒された後、どさくさに紛れて逃亡したのでしょう」


 主犯に逃げられているというのに紗葵も隊士も随分と余裕があるようだった。


 普通ならば即座に捜索に出るべきなのだが、上坂が逃亡していることは澪華によってある程度予測されていた。


 情報の通りならば上坂はほぼ間違いなく刀狩者だ。


 雷牙に奇襲を受けたとはいえ、鬼哭刀ではない霊力の拳だけでは意識を奪えてもせいぜい数分。


 仲間が雷牙と戦っている隙に逃げ出してもなんら不思議ではない。


 それにこれだけ回りくどい襲撃を起した男だ。


 仲間に伝えていない脱出方法くらい準備しているだろう。


「そちらは部隊長が対処してくれるはずです。他にはありますか」


「はい。学生の二人と行動を共にしていたという男も姿が見えません。霊力の残滓は残っているようですが、追跡は難しいかと」


「わかりました。襲撃犯の護送準備ができ次第、貴方達は本部に帰還してください」


「はっ!」


 隊士は敬礼してから他の隊士と共に襲撃犯を連行していった。


 一人残った紗葵は別行動をとっている澪華のことを思い浮かべる。


「部隊長、無理はなさらないでください」


 上坂程度ならば澪華なら軽く圧倒できるだろう。


 けれど、もう一人の男は澪華にとっては相手にしにくいかもしれない。


 一抹の不安を覚えながらも、彼女はモールをあとにした。




「ハァ……ハァ……!!」


 襲撃事件のあったショッピングモールから少し離れた路地裏には必死の形相で走る上坂の姿があった。


 けれど足はどこか覚束無い様子で、時折ビルの壁にあたりながら走っているといった感じだ。


「クソ! あのガキのせいで計画が台無しだ……!!」


 雷牙に殴られた箇所を押さえながら上坂は恨みがましそうに声を漏らした。


 殴られる瞬間、ギリギリで霊力を固めてダメージを軽減した上坂だったが、ダメージは予想以上に大きく一瞬で意識を刈り取られた。


 次に目覚めた時は既に多くの仲間が無力化されてしまっており、彼はすぐさま逃げることを選択したのだ。


 仲間と言っても上坂にとっては所詮使い捨ての駒にすぎない。


 騙していた被害者親族達と同じだ。


「ハハ……! そうだ、俺さえ捕まらなければそれでいい。また別の連中を使うまでさ……!!」


 痛みに顔を引き攣らせながらも、口角は僅かに上がっていた。


 このまま路地を進めば緊急時の脱出ルートがある。


 しばらく新都、いや日本を離れてほとぼりが冷めたころにまたやってくればいい。


 上坂は足を速めたものの、進行方向に人影が現れた。


「っ!」


 思わず足を止めて銃に手をのばす。


 最初はハクロウの追っ手かと思ったが、現れたのは先ほどショッピングモールに現れた無精ひげの男だった。


「よう。そんなに急いでどうしたい? 上坂さんよ」


「お前……!」


 軽薄な雰囲気で問うてくる男に、上坂はギリッと音がしそうなほど歯をかみ締める。


 瞳には憎悪の念が宿っている。


 それもそうだ。


 この男と雷牙さえ現れなければ襲撃はある程度上手く進んでいたのだから。


 できることならすぐにでも殺してやりたいところだ。


「そう睨むなよ。別にお前さんをハクロウに突き出したりはしねぇさ」


「なに……?」


「俺はお前を処分しに来たのさ。元解放軍の上坂――いや、竹宮(たけみや)晃司(こうじ)をな」


 男は死角から鬼哭刀を取り出し、しゃらりとそれを抜きながら光の灯っていない瞳で向ける。


 瞬間、上坂改め竹宮は全身から汗が噴出すのを感じた。


 只者ではない。


 戦って勝てる相手ではないと本能が逃走を呼びかけるものの、完全に射竦められてしまい体が思うように動かない。


「逃げようなんて考えるなよ。おとなしくしてれば優しく処分してやる」


「処分……そうか、お前、()()()()()()()()()か……!」


 解放軍の組織の中には軍に所属していながら軍に反逆した者を抹殺する部隊が存在する。


 通称『ゴミ処理屋』。


 ようは反逆者の存在を抹消する者達だ。


 あまりの殺気にしばらく動けずにいた竹宮だったが、ふと我に帰って腕を前に突き出した。

 

「ま、待ってくれ! アンタ、俺の仲間にならないか!? 軍のゴミ処理屋なんてやってたってたいした儲けにはならないだろう!? 俺と組めば大金が手に入るぞ! 今回は失敗したが、次は絶対に成功する!! アンタほどの実力があれば間違いない!!」


 提案しているようだったが、それは殆ど命乞いに等しかった。


 どうにかしてこの場を切り抜けたい。


 生き残りたい。


 そういった感情からくる必死の懇願だ。


 けれど、男性は小さく笑みを浮かべると、抜き身の鬼哭刀を竹宮の首筋に押し当てた。


「ひ……っ!」


「残念だがそれは無理だな。俺は解放軍に拾われた身だ。さすがに恩を仇で返すような真似はできんよ。だから、お前はここで殺す。それが上の命令なんでね」


「待て、頼むからやめてくれ! そうだ、金……! まとまった金ならなんとか用意できる! それでなんとか見逃してくれ!」


「おいおい、ここまで来て随分と往生際が悪いな。もうお前さんは詰んでるんだよ。俺はいくら金を積まれようが、お前を見逃すことはしない」


 男の瞳に情けはなかった。


 完全に竹宮を殺す気だ。


「い、いやだ! こんなところで死ぬなんて、絶対に嫌だ……!!」


 言うが早いか竹宮は恐怖に怯えていた身体に喝を入れてその場から逃走を図った。


 脱出ルートまでの道順は頭に入っている。


 そうだ、こんなところで死んでたまるか。


 彼は必死に足を動かして曲がり角に飛び込もうとした。


 突然のことだったからか、男が追ってくる様子はない。


 逃げ切れる。


 そう確信した竹宮は思わず笑みを零したが、次の瞬間周囲の景色がグラついた。


「え……?」


 疑問符を浮かべると同時に見えたのは青空だった。


 一瞬転んだのかと思ったものの、実際はそうではない。


 青空が見えたのも束の間、次に視界に入ったのは、()()()()()()()()()だった。


「うそ、だ……」


 呟いたものの、次の瞬間には竹宮の視界は急速に狭まっていった。


 同時に音もなくなって行き、彼の視界は完全な闇へと染まった。




 どちゃっという水音を立てながら落下した竹宮の頭部と、力なく倒れる身体を確認した男性は静かに息をつきながら鬼哭刀を鞘に納めた。


「馬鹿なヤツだ。解放軍に逆らえばどうなるか、想像はできただろうに」


 呆れながら死体の処理を始めようとするものの、不意に背後に誰かが立ったのを感じ動きを止める。


 気配でわかる。


 背後に立っているのが誰かなど。


 自然と口元に笑みを浮かべながら男性は振り返る。


 そこにはハクロウの部隊長しか着用することを許されない戦闘服を纏った、美しい女性が立っていた。


「よう。久しぶりだな、真壁」


 軽く手をあげながら声をかけると、女性――澪華は鋭い眼光で男を睨みつけた。


「雅藤彰醐……!」


 澪華が呟くと、彰醐はどこかうれしげな笑みを浮かべるのだった。

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